「総合効率80.2%」は、熱の使い道があってこそ:大阪の「ホテルプラザ」で1989年から試された200kWの燃料電池
燃料電池は、都市ガスなどからとり出した水素と、空気中の酸素を反応させて電気をつくる装置だ。電気をつくるとき、熱も出る。この熱を捨てずに使えば、燃料のエネルギーを無駄なく使える。
1980年代の終わりから1990年代の初めにかけて、大阪の「ホテルプラザ」で、出力200kWの燃料電池を実際に動かす試験が行われた。国の研究開発の記録には、「総合効率80.2%」という数字が残っている。この記事では、この数字が、ホテルの熱の使い方とどう結びついていたのかを読む。
国の計画の一つとして、ホテルに置かれた
記録によると、経緯は次のとおりだ。
- 1986年、国の「ムーンライト計画」の一部として、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託で、建物の敷地に置く業務用の燃料電池の開発が始まった
- 種類は「リン酸形」。出力は200kWの級
- 1989年7月、燃料電池と、排熱を使う設備をホテルに置いた
- 関西電力は、1989〜1991年度に、大阪市内のホテルで、200kWの装置を電力網につないで動かす仕事をNEDOから受けた
- 試験は1991年10月に終わった
研究の報告には、大阪ガス、関西電力、三菱電機の担当者の名前が並んでいる。
電気の10%、熱の5%
報告によると、装置はホテルの電力需要の10%を、つくった電気でまかない、排熱で熱の需要の約5%をまかなうように組まれた。熱は、客室の冷暖房と給湯に使った。
NEDOの別の報告は、業務用の200kWの装置を置いたホテルを「客室550室、契約電力2,200kW、冷凍機の能力1,360冷凍トン」と書いている。200kWは、2,200kWの約9%にあたる。装置はホテルの電気の一部を受け持つもので、ホテル全体をまかなうものではなかった。
170℃の蒸気で、夏の冷房を動かす
この試験で大事にされたのは、熱をどう使うかだった。1991年4月の発表によると、排熱は2つの温度に分けて使われた。
- 高い温度の排熱(170℃)は、蒸気としてとり出し、「二重効用吸収式」の冷温水機を動かした。熱で冷たい水をつくるしくみで、36冷凍トン分の冷水を、客室の冷房に使った
- 低い温度の排熱(70℃)は、温水として使った。別の報告によると、厨房と客室への給湯だ
熱は、冬なら給湯や暖房に使える。けれども夏は、お湯の需要が減り、熱が余りやすい。NEDOの報告は、夏に170℃の蒸気で冷房を動かし、電気と熱を合わせて使うデータを集めたと書いている。
36%と44.2%で、80.2%
1991年4月の発表によると、出力100%のときの効率は次のとおりだった。
- 発電の効率:36%
- 熱の効率:44.2%
- 合わせた総合効率:80.2%
燃料のエネルギーを100とすると、36が電気に、44.2が使える熱になったことになる。電気だけなら36%だが、熱の使い道があったから、80.2%と言える。
静かで、きれいで、手がかからない
同じ発表は、ホテルで使うときに大切な点も記録している。
- 運転を5,000時間続けたあとの電圧の下がり方は、1,000時間あたり0.3%と小さい
- 起動と停止がかんたんで、ふだんは人がつかなくても運転できる。保守もかんたん
- 騒音は60デシベル以下、窒素酸化物は4ppm以下
- 電力網の保護装置は一度も働かず、電力網への影響も見られなかった
1992年の報告は、設置から約2年の運転で安全上の問題はなく、異常を検知すると自動で止まることを確かめたと書いている。また、硫黄酸化物は検出できる量より少なかった。
運転の時間と、つくった電気の量
NEDOの報告には、運転の記録もある。
- 1990年3月の時点:連続1,439時間の運転、累計の発電量21万5,895kWh、運転時間の利用率75%
- 1990年2〜5月:最長1,555時間の連続運転
- 1991年3月末の時点:累計の運転8,832時間(起動と停止51回を含む)、送電量1,203MWh
1,203MWhを8,832時間で割ると、平均で約136kWになる。定格の200kWでいつも動いていたわけではないことも、この数字から読みとれる。
今の資料から見ると
米国環境保護庁(EPA)が2015年にまとめた熱電併給の技術の資料は、燃料電池の熱は温水や低い圧力の蒸気としてとり出すのがふつうで、電気とお湯や暖房の需要が同時に大きい建物として、病院や大学とともに宿泊施設を挙げている。熱で冷やす技術が進めば、燃料電池を使える建物が広がるとも書く。ホテルプラザの試験は、その組み合わせを早い時期に試した例と言える。
日本の宿に置き換えると
InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)として、小さな熱電併給の装置を考える。燃料のエネルギーを100とすると、電気が30、回収できる熱が45出るとする。
- 冬:熱45をすべて給湯と暖房に使える。電気30と合わせて、使えたエネルギーは75
- 夏:お湯の需要が減り、熱は15しか使えない。使えたエネルギーは45
- 夏に、熱で冷房を補えば、熱を35まで使えるとする。使えたエネルギーは65
同じ装置でも、熱の使い道があるかどうかで、使えたエネルギーは45から75まで変わる。装置を選ぶ前に、季節ごとの電気と熱の需要を並べることが先になる。
効率の数字は、建物の使い方の数字でもある
ホテルプラザの80.2%は、燃料電池の性能だけで決まった数字ではない。170℃の蒸気で夏の冷房を動かし、70℃の温水を厨房と客室に回すという、ホテルの熱の使い道があってはじめて出た数字だ。宿で設備の効率を聞いたら、「その熱を、うちでは何に使えるか」を一緒に考えたい。
持ち帰れる知識
- 熱電併給の総合効率は、熱の使い道があってはじめて出る
- 夏は熱が余りやすい。熱で冷やすしくみは、夏の使い道になる
- 定格の出力と、平均の出力はちがう
宿で考えられること
- 季節ごとの電気とお湯の使用量を、月ごとに並べてみる
- 設備の効率を聞くときは、熱を何に使う前提かを確かめる
- 給湯や厨房など、熱を一年中使う場所を探す
事業・予約への接続
設備の話は、宿泊客には見えにくい。けれども、電気と熱を無駄なく使っていることは、企業の出張や研修の担当者に、環境への取り組みとして伝えられる。
Sources / 参考情報
- OSTI(英文) - ホテルプラザにおける業務用200kW燃料電池の運転研究(2)(1991年4月24日)
裏付け: 1.5年の実証運転、電力需要の10%、170℃の飽和蒸気で二重効用吸収式の冷温水機・36冷凍トンの冷水で客室の冷房、70℃の温水、熱の需要の5%、出力100%で発電36%・熱44.2%・総合80.2%、5,000時間後に1,000時間あたり0.3%、無人運転、60デシベル以下、窒素酸化物4ppm以下、保護装置の作動なし、大阪ガス・関西電力・三菱電機 - OSTI(英文) - ムーンライト計画の業務用燃料電池の運転研究:ホテルプラザの200kWリン酸形燃料電池(1992年7月5日)
裏付け: 1986年にNEDOの委託で開始、1989年7月に燃料電池と排熱の設備を設置、1991年10月に試験終了、電力の10%・熱の約5%、客室の冷暖房と給湯、約2年の運転で安全上の問題なし、異常時の自動停止 - OSTI(英文) - リン酸形燃料電池の総合的な技術開発:業務用燃料電池の発電システム(1994年2月1日)
裏付け: 客室550室・契約電力2,200kW・冷凍機1,360冷凍トンのホテル、1990年2〜5月に最長1,555時間の連続運転、夏に170℃の蒸気で二重効用吸収式の冷温水機を動かし冷房、1991年3月末に累計8,832時間・起動停止51回・送電量1,203MWh - OSTI(英文) - リン酸形燃料電池の総合的な技術開発:業務用燃料電池の発電システムの試作と運転研究(1994年2月1日)
裏付け: 1990年3月の時点で連続1,439時間、累計21万5,895kWh、運転時間の利用率75%、70℃の温水を厨房と客室の給湯に使う設備の調整 - OSTI(英文) - ホテルプラザへの導入のねらいと実績(1992年11月20日)
裏付け: 発電端の定格200kW、都市ガスが燃料、定格負荷で総合80.2%、窒素酸化物4ppm・硫黄酸化物は検出限界未満 - OSTI(英文) - 関西電力の燃料電池の開発(1994年4月1日)
裏付け: 1989〜1991年度にNEDOの委託で、大阪市内のホテルの200kWの装置を電力網につないで運転 - U.S. EPA(英文) - 熱電併給の技術カタログ 第6章 燃料電池(2015年3月)
裏付け: 熱は温水か低圧の蒸気で回収、電気とお湯・暖房の需要が同時に大きい建物として大学・病院・介護施設・宿泊施設、熱で冷やす技術が使える建物を広げる