GOAL 12 · TARGET 12.5 廃棄物・循環経済 4分 / 2438文字 伝える順番を読む型 #308

チェックインで、水の話をする:カリフォルニアの78室「ホテル・サンルイスオビスポ」の使い捨てゼロと、街のすべての宿で木を植えるしくみ

米国カリフォルニア州の中部、サンフランシスコとロサンゼルスのあいだに、サンルイスオビスポという町がある。2019年10月、ここに78室のホテル「ホテル・サンルイスオビスポ(ホテルSLO)」が開業した。開業のときから、使い捨てのプラスチックを一切使わないホテルとして紹介されている。

この記事では、ホテルSLOが使い捨てをなくした方法と、それを客にどう伝えたかを見る。あわせて、ホテルの紹介に出てくる植樹のしくみ「キーズ・フォー・ツリーズ」が、実はホテル1軒ではなく、街のすべての宿でつくるしくみであることも読む。

のどが渇いた客に、フロントが話したこと

2020年1月の米CNNの記事は、ある客の体験から始まる。

  • 23歳の営業職の男性が、出張でホテルSLOに泊まった。飛行機を降りたばかりでのどが渇き、ふだんは避けている使い捨てのペットボトルの水を、旅先ではいつものように飲むつもりだった
  • チェックインで、フロントの担当者は、運転免許証を確かめてクレジットカードを通したあと、ホテルの環境への取り組みを話した
  • 客室の冷蔵庫に、ろ過した水のガラス瓶が冷えていること。4つの階のそれぞれに、みんなで使う給水所があること。そして、給水所を好きなだけ使ってほしいと伝えた

男性は、この誘いにたいへん驚き、喜んだという。記事の中で男性は、「ふだんは使い捨てのプラスチックを避けているが、旅先ではむずかしいことが多い。毎日、何度でも、ろ過した水を飲めたのはうれしかった」と話している。

開業のときから、使い捨てを置かない

同じ記事によると、ホテルSLOは2019年10月、どんな種類の使い捨てのプラスチックも使わずに開業した。

サンルイスオビスポ郡の観光団体「ビジット・SLO CAL」の2025年の紹介では、ホテルの取り組みは次のとおりだ。

  • 屋上の菜園で雨水を集め、野菜とハーブを育てて、館内のレストランで使う
  • 特製のバス用品と、くり返し使えるガラスの水差しで、使い捨てのプラスチックをなくす
  • 水の量を調整する器具で、水の無駄を減らす
  • 電気自動車の充電を無料で提供する
  • 宿泊のたびに、キーズ・フォー・ツリーズを通じて地域に還元する

開業のときから置かなければ、あとから「やめる」説明はいらない。最初の設計に、ガラス瓶と給水所を組み込んだことになる。

伝えるのは、チェックインのいちばん最後

CNNの記事で目を引くのは、伝えた順番だ。身分証と支払いの手続きが終わったあと、客が部屋に向かう前に、水の話をしている。

同じ記事で、持続可能な旅を広める米国の非営利団体の代表、ケリー・ルイーズ氏は、ホテルは新しく来た客に、何をしているのか、なぜしているのかを、くり返し説明しつづける必要があると話している。

ガラス瓶を部屋に置くだけでは、客は「ペットボトルがない」と感じるかもしれない。チェックインで給水所の場所と「好きなだけどうぞ」を伝えれば、不便が、迎え入れの言葉に変わる。

「宿泊のたびに木を植える」の中身

ホテルの紹介には、キーズ・フォー・ツリーズという植樹のしくみが出てくる。しかし、これはホテルSLOだけの寄付ではない。

市の観光部門の2021年11月9日の発表によると、しくみは次のとおりだ。

  • 市の気候行動計画の一部として始まった
  • 市内の宿でつくる「観光事業改善地区」が、年間の収入の1%を植樹に充てる
  • 2035年までに、地域に1万本の木を植えることを目指す
  • 植樹は地元の環境団体と組んで進める
  • 地元のホテルの資金で、街に木を植えるしくみは、米国で初めてだという

市の観光の担当者は、「追加の手間はなく、泊まるだけで地域の美しさを守ることにつながる」と話している。

地区の収入は、宿泊料金の2%

観光事業改善地区の2022〜2023年度の報告書によると、この地区は2008年に、市内の宿の求めで市議会がつくったもので、宿の総収入の2%を負担金として集める。2022〜2023年度の負担金は約220万ドルだった。

報告書は、この年度も、見込みの収入の1%を植樹に回したと書く。そして、それまでにこのしくみで植えた木は60本を超えたとしている。

計算すると、宿泊料金の2%のさらに1%、つまり宿泊料金の0.02%が木に回ることになる。宿泊料金1万円なら2円だ。1回の宿泊で木が1本植わるわけではない。街のすべての宿の小さな額を集めて、何年もかけて木を植えるしくみだ。

なお、市の発表は、1万本の木が1年に吸収する二酸化炭素を「車40台あまりの1年分」と書いている。木は、排出を打ち消す手段としては小さい。市の担当者も、「これは始まりにすぎない。木を植えることは、目に見える一つの行動で、ほかの多くの行動につながる」と話している。

日本の宿に置き換えると

InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)として、20室、稼働率70%、1日14室が埋まる宿を考える。

  • 1室1泊に500ミリリットルのペットボトルを2本置くと、1年で約1万220本。1本30円なら約30万7,000円
  • ペットボトルをやめて、各階に給水所を置き、部屋にガラス瓶を置く。チェックインで「給水所は廊下の奥です。好きなだけどうぞ」と伝える
  • 年間の宿泊売上を、1室1泊1万5,000円として約7,665万円とする。その0.02%を植樹に回すと、約1万5,000円

ペットボトルの削減は宿1軒の工夫で大きく動く。植樹は、1軒では小さな額でも、地域の宿が集まれば続けられる。

1軒でできることと、街でできること

ホテルSLOの例は、2つのことを教えてくれる。使い捨てをなくすのは、設備だけでなく、チェックインの最後の一言で完成すること。そして、植樹のような取り組みは、街の宿が集まってはじめて形になることだ。宿の紹介で地域のしくみを伝えるときは、「宿が単独でしていること」と「街ぐるみのしくみ」を分けて書くと、客にも正しく伝わる。

持ち帰れる知識

  • 使い捨てをなくすときは、代わりの設備と、それを伝える一言をセットにする
  • 開業や改装のときに組み込めば、あとから「やめる」説明はいらない
  • 宿の紹介に出てくる地域の取り組みは、宿単独か、街ぐるみかを分けて読む

宿で考えられること

  • チェックインの最後に、給水所の場所を伝える
  • 客室に置く使い捨ての品を数え、1年の本数を出してみる
  • 地域の観光団体や近くの宿と、一緒にできる取り組みを話し合う

事業・予約への接続

使い捨てを置かないことは、予約のページで写真とともに伝えられる。「給水所は各階に」「好きなだけどうぞ」と書いておけば、到着前から客の不安を減らせる。

Sources / 参考情報

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