「1日350〜400立方メートル」は装置の能力:名前の出ない海辺のリゾートの、井戸水の淡水化と使った水の再利用を、業者の事例として読む
海辺のリゾートでは、庭の水やり、冷房の冷却塔、洗濯に、たくさんの水を使う。その多くは、飲める水である必要がない。
2015年、米国の水処理の業界誌「インダストリアル・ウォーター・アンド・ウェイスツ・ダイジェスト」の5・6月号に、ある海辺のリゾートの事例が載った。書いたのは、水処理会社「ジェネシス・ウォーター・テクノロジーズ」の技術営業の責任者だ。同じ文章は2019年1月、環境業界のサイト「エンバイロメンタル・エキスパート」にも同社の提供として載っている。
事例には、リゾートの名前も国も書かれていない。この記事では、書かれていることと書かれていないことを分けて、業者の事例を読むときの物差しを考える。
リゾートが抱えていた2つの課題
事例によると、中規模の海辺のリゾートの運営者には、2つの望みがあった。
- シャワーや流し、食器洗い、洗濯で使った水(「グレーウォーター」と呼ぶ。トイレの水は含まない)を再利用し、庭の水やり、冷却塔、洗濯など、飲まない用途に使っている水道の水を減らしたい
- 浜辺の井戸から水をくみ、塩分を除いている既存の装置から出る排水も使えないか調べたい。いま手に入る水を、まとめてうまく使いたい
そこで、2つの新しい装置を入れた。1日350〜400立方メートルを処理できる淡水化の装置と、同じく1日350〜400立方メートルを処理できるグレーウォーターの再利用の装置だ。どちらも「処理できる」量で、実際に毎日つくった水の量ではない。
最初にしたのは、2つの水を調べること
業者はまず、浜辺の井戸の水と、リゾートのグレーウォーターの、2つの成分を調べた。井戸の水は次のとおりだった。
- 水に溶けているものの総量(TDS):1リットルあたり4,680ミリグラム
- 硬度:1リットルあたり2,100ミリグラム
- シリカ:1リットルあたり200ミリグラム
- にごり:25NTU
- 硫酸イオン:1リットルあたり200ミリグラム
米国地質調査所(USGS)の分け方では、溶けた塩分が1,000〜3,000ppmなら「やや塩辛い水」、3,000〜1万ppmなら「中くらいに塩辛い水」で、海水は約3万5,000ppmだ。4,680ミリグラムは、海水ほどではないが、そのままでは使えない水といえる。
日本の水道の基準では、硬度は1リットルあたり300ミリグラム以下、水を蒸発させたあとに残るもの(蒸発残留物)は500ミリグラム以下と決まっている。測り方は同じではないが、目安として並べると、この井戸の水を飲み水にするには、大きく手を加える必要があったことがわかる。
装置の中身
事例が挙げる装置の組み合わせは次のとおりだ。
- グレーウォーターは、1次・2次・3次の段階に分けて消毒する
- 淡水化は2段にする。2段目は、1段目から出る排水の一部をもう一度処理して、水を取り戻す
- 井戸の水には、配管に石のような固まりがつくのを防ぐ薬を、量を調整して入れ、ろ過する
- 取り付けと試運転は地元の工事会社が行い、業者は技術面で手伝った
書かれている結果
結果として、事例は次のように書いている。
- 処理した水は、飲む用途と飲まない用途の両方で、リゾートが決めた水質の条件を満たした
- 処理した水は、微生物の面で安全だった
- 1段目の淡水化から出る塩分の濃い排水は活用し、2段目の排水は地元の規則に従って処分した
- 装置はリゾートが決めた運転の範囲で動き、効率が上がり、運転の費用が下がった
書かれていないこと
一方で、次のことは書かれていない。
- リゾートの名前、国、部屋の数、装置を入れた年
- 実際に毎日つくった水の量と、減った水道の量
- 装置の値段、運転の費用、下がった費用の額
- 塩分の濃い排水を、何にどう活用したのか
また、冒頭の「グレーウォーターは、ホテルやリゾートの生活排水の50〜80%を占める」という数字は、業者の一般的な説明で、このリゾートで測った値とは書かれていない。
日本の宿に置き換えると
InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)として、20室、稼働率70%の宿を考える。1日の宿泊は14室になる。
- 1室泊あたり、シャワーと洗面で150リットル使うとすると、グレーウォーターは1日約2.1立方メートル
- そのうち、トイレの洗浄に1室泊あたり40リットル使うとすると、必要なのは1日約0.56立方メートル。グレーウォーターの約4分の1で足りる
- 水道代を1立方メートル600円とすると、トイレに回した分で1年に約12万円分の水道を減らせる(0.56×365日×600円)
この計算には、装置の値段、電気代、消毒の薬、掃除の手間は入っていない。業者の見積もりを読むときは、この4つが入っているかを確かめたい。
業者の事例を読むときの物差し
この事例から持ち帰れるのは、350〜400という数字よりも、手順だ。最初に2つの水を調べ、その結果から装置の組み合わせを決め、飲む水と飲まない水で求める水質を分けた。業者の事例を読むときは、装置の能力と実際の量、一般論とその施設の測定値、書かれていることと書かれていないことを分けて読みたい。
持ち帰れる知識
- 「処理できる量」は装置の能力で、実際につくった水の量ではない
- 装置を選ぶ前に、使う水の成分を調べる
- 業者の一般的な説明と、その施設の測定値は分けて読む
宿で考えられること
- シャワーと洗面の水の量と、トイレや水やりに使う水の量を、それぞれ調べる
- 井戸の水を使う場合は、まず水質の検査をする
- 再利用の見積もりに、装置の値段、電気代、薬、掃除の手間が入っているかを確かめる
事業・予約への接続
水を再利用している宿は、使い道と量を具体的に示すと伝わりやすい。測った量がない段階では、「処理できる量」を「節約した量」として書かないようにしたい。
Sources / 参考情報
- Industrial Water & Wastes Digest(英文) - 海辺の水:ホテルのリゾートが、新しい処理でグレーウォーターを再利用(2015年5・6月号、ジェネシス・ウォーター・テクノロジーズのサイトに掲載)
裏付け: 筆者はジェネシス・ウォーター・テクノロジーズの技術営業の責任者、中規模の海辺のリゾート、水やり・冷却塔・洗濯など飲まない用途の水道を減らしたい、浜辺の井戸を使う既存の淡水化の排水の再利用、1日350〜400立方メートルの淡水化と再利用の装置、井戸の水のTDS 4,680・硬度2,100・シリカ200・にごり25NTU・硫酸イオン200、2つの水の分析、1次・2次・3次の消毒、2段の淡水化、薬の注入とろ過、地元の工事会社が取り付け、水質の条件を満たし微生物の面で安全、塩分の濃い排水の活用と2段目の排水の処分、効率が上がり運転の費用が下がった、グレーウォーターは生活排水の50〜80% - Environmental Expert(英文) - 海辺の水:ホテルのリゾートが、新しい処理でグレーウォーターを再利用(事例)(2019年1月28日)
裏付け: 同じ文章を、ジェネシス・ウォーター・テクノロジーズの提供として掲載 - USGS(英文) - 塩分を含む水と塩分の濃さ
裏付け: 1,000ppm未満は淡水、1,000〜3,000ppmはやや塩辛い水、3,000〜1万ppmは中くらいに塩辛い水、1万〜3万5,000ppmは強く塩辛い水、海水は約3万5,000ppm - 香川県 - 水道法に定める水道水質基準
裏付け: 水質基準に関する省令、硬度は300mg/L以下、蒸発残留物は500mg/L以下 - Genesis Water Technologies(英文) - 会社のサイト
裏付け: 事例を書いた水処理会社