GOAL 7 · TARGET 7.2 水・衛生・循環 3分 / 2026文字 数字のない事例を読む型 #321

「給湯の費用を大きく減らした」に、数字はない:ロサンゼルスの「カワダ・ホテル」が屋根に36枚の太陽熱の集熱器を載せた事例と、35年の太陽のお湯

米国ロサンゼルスのダウンタウン、サウス・ヒル・ストリート200番地に「カワダ・ホテル」がある。ダウンタウンの地域団体のページによると、1923年に「アスター・ホテル」として建てられた4階建てで、客室は116室。手ごろな値段で泊まれるホテルとして、長く使われてきた。

太陽熱の集熱器をつくる米国のメーカー、サンアースは、2020年3月に、このホテルの事例を公開した。2019年に、屋根に36枚の集熱器を載せ、太陽の熱でお湯をつくる設備を入れたという内容だ。この記事では、事例に書かれていることと書かれていないこと、そして設備の仕組みを読む。

事例に書かれていること

サンアースの事例は、設備を次のように説明している。

  • 2019年に設置。工事はロサンゼルスの太陽光・太陽熱の工事会社、オール・バレー・ソーラーが行った
  • 集熱器は、サンアースの平板型「サーモレイ(TRB)」が36枚
  • 使い道は、建物で使うお湯
  • 方式は、閉じた回路の「ドレインバック」

そして、ホテルは給湯の費用を「大きく減らした」と書いている。

事例に書かれていないこと

一方で、事例には次のような数字がない。

  • 給湯の費用やガスの使用量が、どれだけ減ったか
  • お湯のうち、何割を太陽でまかなっているか
  • 設備の費用と、元がとれるまでの年数
  • 集熱器の面積や、お湯をためるタンクの大きさ

メーカーのホテル向けのページも、「給湯の費用を減らしながら、客の満足を保った」と書くだけで、数字はない。事例はメーカーの宣伝であり、効果は数字で確かめられない。

35年、太陽のお湯を使ってきた

一方、このホテルの太陽熱は、2019年に始まったわけではない。2018年9月、ロサンゼルスのテレビ局CBSのサイトに、南カリフォルニアのガス会社が提供する短い番組が載った。太陽熱の専門家と、ホテルのリチャード・カワダ氏が、「このホテルで35年、太陽熱を使ってきた成功」について話す内容だ。

つまり、ホテルは1980年代から太陽のお湯を使っていたことになる。2019年の36枚が、古い設備を置き換えたものなのか、新しく足したものなのかは、メーカーの事例には書かれていない。

「ドレインバック」の仕組み

サンアースの設計の手引きは、太陽熱でお湯をつくる方式を、いくつかに分けて説明している。

  • 直接の方式:ためたお湯をそのまま集熱器に回して温める。いちばん簡単で効率もよいが、凍ると壊れやすい。カリフォルニアの海沿いのように、ふだん凍らない地域に限られる
  • 不凍液の方式:集熱器には不凍液を回し、熱交換器で飲み水と分ける。凍らないが、費用は直接の方式より高い
  • ドレインバックの方式:集熱器の回路を熱交換器で飲み水と分けるのは同じだが、ポンプが止まると、集熱器の水がすべて回路のタンクに流れ落ちる。不凍液を使わずに凍結を防げる

ドレインバックでは、水が流れ落ちるように、すべての配管に1フィートあたり4分の1インチ以上の傾きをつける必要がある。そのぶん配管が複雑になり、高いところまで水を上げる力の強いポンプも要る。

なお、事例の「使い道」の欄にある「直接のお湯」は、建物で使うお湯をつくるという用途のことだ。手引きの「直接の方式」とは違い、ドレインバックは熱交換器を使う方式に入る。

暑い夏の過熱にも

同じ工事会社がロサンゼルスの11階建ての集合住宅に入れた設備の事例では、ドレインバックを選んだ理由を、「この地域の夏の高い気温に向いていて、過熱のおそれなく熱を運べる」と説明している。ポンプが止まれば集熱器は空になるので、熱くなりすぎた水が回路に残らない。

カワダ・ホテルの事例は方式の理由を書いていないが、同じ地域の同じ工事会社の設備として、参考になる。

日本の宿に置き換えると

InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)として、太陽熱の給湯を入れた宿が、自分で効果を確かめる方法を考える。

  • 入れる前の1年:ガスの使用は1万2,000立方メートル、客室の利用は5,110室泊。1室泊あたり約2.35立方メートル
  • 入れた後の1年:ガスの使用は9,000立方メートル、客室の利用は5,800室泊。1室泊あたり約1.55立方メートル

総量では25%減、1室泊あたりでは約34%減になる。客が増えた年は総量だけでは効果が小さく見え、客が減った年は大きく見える。メーカーの事例に数字がなくても、宿は検針票と客室の利用の記録から、自分の数字をつくることができる。

数字のない事例は、自分の数字で補う

カワダ・ホテルの事例で確かめられるのは、2019年に36枚の集熱器をドレインバックの方式で入れたこと、そしてホテルが1980年代から太陽のお湯を使ってきたことだ。メーカーの事例に「大きく減らした」とあっても、数字がなければ効果はわからない。宿が設備を入れるときは、入れる前の使用量を記録しておき、入れた後と同じ物差しで比べたい。

持ち帰れる知識

  • 太陽熱の給湯には、直接、不凍液、ドレインバックなどの方式がある
  • ドレインバックは、ポンプが止まると集熱器の水が流れ落ち、凍結と過熱を防ぐ
  • メーカーの事例の効果は、数字があるかを確かめる

宿で考えられること

  • 設備を入れる前に、ガスや電気の使用量を1年分記録する
  • 使用量を、1室泊あたりの量でも比べる
  • 冬に凍る地域では、凍結を防ぐ方式を選ぶ

事業・予約への接続

太陽のお湯は、客にも伝えやすい取り組みだ。「何年使ってきたか」「1室泊あたりどれだけ減ったか」のように、自分の宿の数字で伝えると説得力が増す。

Sources / 参考情報

  • SunEarth(英文) - カワダ・ホテルの太陽熱の給湯で、持続可能性を高める(2020年3月16日)
    裏付け: 2019年設置、オール・バレー・ソーラーの工事、サウス・ヒル・ストリート200番地、平板型サーモレイ(TRB)36枚、使い道は建物で使うお湯(Direct Hot Water)、閉じた回路のドレインバック、給湯の費用を大きく減らした(数字なし)、手ごろな値段で長く使われてきた
  • SunEarth(英文) - ホテルとモーテルの太陽熱の給湯
    裏付け: カワダ・ホテルは給湯の費用を減らしながら客の満足を保った(数字なし)
  • SunEarth(英文) - 太陽熱の給湯の方式の選び方
    裏付け: 直接の方式は簡単で効率がよいが凍りやすく、凍らない地域に限られる、不凍液の方式、ドレインバックはポンプが止まると集熱器の水が回路のタンクに流れ落ちる、配管は1フィートあたり4分の1インチ以上の傾き、配管が複雑になる、力の強いポンプが要る
  • SunEarth(英文) - ロサンゼルス・サンセット大通り1111番地の太陽熱の給湯(2018年6月)
    裏付け: オール・バレー・ソーラーが11階建て・97戸の集合住宅にドレインバックを選んだ、地域の夏の高い気温に向き、過熱のおそれがない
  • CBS Los Angeles(英文) - 専門家に聞く:カワダ・ホテルの太陽熱(2018年9月27日)
    裏付け: 太陽熱の専門家とリチャード・カワダ氏が、このホテルで35年太陽熱を使ってきた成功を話す、南カリフォルニアのガス会社の提供
  • DTLA Alliance(英文) - カワダ・ホテル
    裏付け: 1923年にアスター・ホテルとして建設、4階建て、116室、サウス・ヒル・ストリート200番地

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