「回収14年」は、1年に7か月だけ動かした計算:スペイン・マヨルカ島の「パルマ・ビーチ・ホテル」が、洗面とシャワーの水でトイレを流した記録
スペインの地中海の島、マヨルカ島に、「パルマ・ビーチ・ホテル」という3つ星のホテルがある。客室は81室で、そのうち63室には台所がついている。建物は9階建て。客の多くはスカンジナビアから夏の休暇に来る人たちで、1〜2週間泊まっていく。
2004年、研究者たちは、このホテルで、洗面やシャワーの水をきれいにしてトイレを流す仕組みの記録を、学術誌「デサリネーション」に発表した。論文は、これを「ホテルでトイレに使った水の再利用のデータを報告する、初めての論文」と書いている。この記事では、論文の要旨と、論文を詳しく紹介した南アフリカの水研究委員会の報告書(2009年)をもとに、仕組みと数字を読む。
1日5.2立方メートル、全体の23%
論文の要旨によると、結果は次のとおりだ。
- 1日平均5.2立方メートルの水を再利用した
- これは、ホテルの水の使用全体の23%にあたる
南アフリカの報告書の要約では、トイレのタンクは平均6リットルで、調査の間のトイレの水の使用は、1人1日平均36リットルだった。
簡単な仕組み
仕組みは、飲める水を節約するための、簡単なものだった。
- ナイロンの靴下のような形のフィルターでこす。網の目は0.3ミリ、こす面は1平方メートル
- 沈殿させる
- 次亜塩素酸ナトリウム(塩素の消毒剤)で消毒する
- 地上の4.5立方メートルのタンクにためる
- 自動のポンプで、屋上のタンクに上げる。屋上のタンクには、必要なら水道の水も入れられる
- 屋上のタンクから、重力で客室のトイレのタンクに流す
塩素の量と、ためる時間
この論文で大切なのは、塩素の量とためる時間の組み合わせだ。
- 塩素は、1リットルあたり75ミリグラムという、ほどほどの量を加えた
- 水をためる時間は、48時間未満に抑えた
- その結果、トイレのタンクの水にも、1リットルあたり1ミリグラムを超える塩素が残った
- この条件では、すべての試料で、大腸菌群は見つからなかった
ためる時間が長くなると、塩素が減り、菌が増えやすくなる。量と時間を一緒に管理したことが、結果につながった。
客の受け止め方
南アフリカの報告書によると、研究では、すべての客室に説明のパンフレットを置いた。
- 水の管理の大切さ、再利用の仕組み、関わった機関を説明した
- 客に、国籍や年齢、泊まる期間と、仕組みやトイレの水の質についての意見を尋ねた
客の答えは、おおむね満足だった。1人の客がいやなにおいを挙げたが、ホテルの事務所には苦情はなかった。仕組みは、1年間、大きな問題なく動いた。論文の要旨も、「客の受け入れは、はっきり満足のいくものだった」と書いている。
ほかの研究での引用
この記録は、のちの研究でも比べる材料として使われている。2015年、スロバキアのコシツェ工科大学の研究者たちは、ホテルの建物で洗面やシャワーの水をトイレに回す計画を試算した論文の中で、このスペインの3つ星ホテルの測定を紹介した。
- 客1人1日145リットルの水を使い、そのうち36リットルをトイレに回した
- トイレだけに使い、1日5.2立方メートルの水道の水を節約した
スロバキアの論文は、自分たちの試算が満室を前提にしていて大きめになりがちだと説明するために、この実測の数字と並べている。
「14年」の前提
南アフリカの報告書によると、論文は、元がとれるまでの年数を14年と計算した。ただし、この計算には前提がある。
- 観光の季節に合わせて、仕組みが動くのは1年に平均7か月
- その間のホテルの稼働率は、平均85%
つまり、14年は、1年のうち5か月は動かないホテルでの数字だ。1年じゅう営業する宿なら、同じ設備でも年数は短くなりうる。
日本の基準と比べる
日本では、建築物衛生法の基準で、一定の規模以上の建物(特定建築物)がトイレに使う雑用水について、次のように決めている。
- 給水栓の水に、遊離残留塩素を1リットルあたり0.1ミリグラム以上保つ。7日以内ごとに1回検査する
- pH、におい、見た目を7日以内ごとに1回、大腸菌を2か月以内ごとに1回検査する
パルマ・ビーチ・ホテルのトイレのタンクの1ミリグラム超は、この基準の値を大きく上回っている。ただし、測り方や対象は同じではないので、目安として並べた。
日本の宿に置き換えると
InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)として、トイレに使った水を再利用する設備を300万円で入れた宿を考える。
- 1日5立方メートルの水道の水を減らす。1立方メートル600円とする
- 保守と薬の費用が、1立方メートルあたり120円かかるとする
- 1日の差し引きの節約は、5×(600−120)で2,400円
1年じゅう営業する宿なら、2,400円×365日で約87.6万円。回収は約3.4年だ。一方、1年に7か月(213日)だけ営業し、その間の稼働率が85%なら、2,400円×213日×0.85で約43.5万円。回収は約6.9年になる。同じ設備でも、営業の日数で回収の年数は倍ほど変わる。
回収の年数は、営業のしかたで読む
パルマ・ビーチ・ホテルの記録で大切なのは、簡単な仕組みでも、塩素の量とためる時間を管理すれば、トイレの水を安全に再利用できると示したことだ。そして、客に説明し、意見を聞いたことだ。「回収14年」のような数字を見たら、1年に何か月動かした計算なのかを確かめたい。
持ち帰れる知識
- 塩素の量とためる時間を一緒に管理すると、トイレのタンクまで塩素が残る
- 客室に説明を置き、意見を聞くと、受け入れを確かめられる
- 回収の年数は、1年に何か月動くかで大きく変わる
宿で考えられること
- 再利用の設備を考えるときは、営業する日数で回収を計算する
- ためる時間が長くならないよう、タンクの大きさを使う量に合わせる
- 客室に、トイレの水の仕組みを伝える説明を置く
事業・予約への接続
トイレの水が再利用の水だと伝えると、客の中には驚く人もいる。仕組みと安全の管理を短く説明しておくと、取り組みとして受け止めてもらいやすい。
Sources / 参考情報
- Desalination(英文) - ホテルでの、トイレに使う水の再利用の経験(スペイン・マヨルカ島)(2004年4月15日)
裏付け: 要旨:ろ過・沈殿・次亜塩素酸の消毒、1日平均5.2立方メートル、水の使用全体の23%、塩素1リットルあたり75ミリグラム、ためる時間48時間未満、トイレのタンクで1ミリグラム超、すべての試料で大腸菌群なし、保守の計画と経済の評価、客の受け入れは満足、ホテルでの初めての報告 - Water Research Commission(英文) - 南アフリカの高密度の都市の建物で、トイレに使った水を再利用する:試験研究(2009年)
裏付け: 3.1.1節:パルマ・ビーチ・ホテル、3つ星・81室(63室に台所)・9階、スカンジナビアからの夏の客が1〜2週間、0.3ミリ・1平方メートルのナイロンのフィルター、沈殿、次亜塩素酸ナトリウム、地上4.5立方メートル、自動ポンプで屋上のタンク、水道の水も入れられる、重力でトイレへ、タンク平均6リットル、1人1日36リットル、回収14年は年平均7か月・稼働率85%が前提、パンフレット、おおむね満足、におい1件、苦情なし、1年大きな問題なし - WSEAS Transactions on Environment and Development(英文) - ホテルの建物での、水の再利用による節水計画(2015年)
裏付け: 5.2節:スペインの3つ星ホテルで客1人1日145リットル、うち36リットルをトイレに、1日5.2立方メートル、文献10はMarch・Gual・Orozcoの論文、5.3節:満室の計算は大きめになりがち - 厚生労働省 - 建築物環境衛生管理基準について
裏付け: 雑用水は遊離残留塩素0.1mg/L以上(7日以内ごとに検査)、水洗便所用水はpH・臭気・外観を7日以内ごと、大腸菌を2か月以内ごとに検査、雑用水には建物の排水の再生水を含む - 千代田区 - 雑用水の水質管理(2025年1月8日更新)
裏付け: 水洗便所の用に供する雑用水の検査項目と頻度 - 東京都健康安全研究センター - 特定建築物の衛生管理基準
裏付け: 雑用水の水質検査の項目と頻度(遊離残留塩素0.1mg/L以上、大腸菌は検出されないこと)