満室なら1日1万リットル超、実際の稼働なら年1,586立方メートル:スロバキアの研究者が、128人が泊まるホテルの建物で試算した、洗面とシャワーの水をトイレに回す計画
洗面やシャワーで使った水を、きれいにしてトイレに回す仕組みを入れたら、どれだけ水道の水を減らせるのか。2015年、スロバキアのコシツェ工科大学の研究者4人が、ホテルの建物を例に、この試算を学術誌「WSEAS トランザクションズ・オン・エンバイロメント・アンド・ディベロップメント」に発表した。
論文によると、こうした仕組みは世界では多く動いているが、スロバキアではまだ遅れていて、使われた例もなかった。そこで研究者たちは、設計の手順と、節約できる量を示そうとした。これは、実際に入れた仕組みの記録ではなく、設計の段階の試算だ。
例にしたホテルの建物
論文が例にしたのは、4階建てのホテルの建物だ。
- 1階には、受付、フィットネス、レストラン、厨房、機械室がある
- 定員は128人
- 洗面台、台所の流し、シャワー、浴槽の排水を集める
- きれいにした水は、トイレと小便器を流すこと、掃除、5〜9月の庭の水やりに使う
2つの案
研究者たちは、2つの案を比べた。
案1:2〜4階の排水だけを集める。機械室を1階に置き、ポンプを使わず重力で流れるようにする。
- 集まる水は、1日14,148リットル
- 必要な水は、水やりのある月で1日7,391リットル、ない月で6,160リットル
案2:1階の排水も加える。機械を地下に置く。
- 集まる水は、1日19,798リットル
- 必要な水は、水やりのある月で1日11,969リットル、ない月で10,739リットル
どちらの案でも、集まる水が必要な水を上回る。論文は、余った水は予想外に水を使う時の備えになり、使わなければ排水として流せると書いている。
満室は「まれなこと」
ただし、この計算は満室を前提にしている。論文は、満室は「まれなこと」と書き、スロバキアの山あいの町、リプトフスキー・ミクラーシュにあるホテルの2014年の実際の稼働率をあてはめた。
- 2月は96.1%、8月は83.33%、7月は77.88%
- 4月は13.42%、11月は8.4%
論文は、リプトフ地方を、夏と冬の休暇で知られる地域と紹介している。表を見ると、2月と7〜8月に客が集まり、春と秋の月は大きく落ちる。
年間の節約
論文は、実際の稼働率で計算した節約を、次のように示している。
- 案1:水道の水を年948立方メートル節約。水道料金で1,035ユーロ、下水の料金で1,259.10ユーロ。論文は合計を2,294.5ユーロとしている(2つを足すと約2,294.1ユーロ)
- 案2:水道の水を年1,586立方メートル節約。水道料金で1,732ユーロ、下水の料金で2,107ユーロ
案2について、論文は合計を3,693ユーロと書いている。ただし、示された2つの金額を足すと約3,839ユーロになる。
この記事で表の数字から計算すると、案2の必要な水は、満室なら年に約4,100立方メートルになる。実際の稼働での1,586立方メートルは、その約4割だ。
大きめの設計は、ふつうのこと
論文は、ほかの資料の数字とも比べている。
- 2〜3つ星のホテルでは、客1人1日160リットルの水を使い、そのうち52リットルが洗面やシャワーの水という資料
- スペインの3つ星ホテルでは、客1人1日145リットルのうち36リットルの水をトイレに回し、1日5.2立方メートルの水道の水を節約したという測定
論文は、満室と設備の最大の使用で計算する設計は大きめになりがちで、それはふつうのことだと書いている。実際の運転では、使う量は少なくなる。一方で、大きめの設計は、水が思ったより多く出た時や、多く必要な時に役立つこともあるとしている。
日本の基準と仕組み
日本では、東京都が「水の有効利用促進要綱」で、延べ床面積1万平方メートル以上の建物などに、雑用水の利用や雨水の浸透に協力するよう求めている。建物ごとや地区で排水をきれいにして使う方式(個別循環方式・地区循環方式)は、延べ床面積3万平方メートル以上の建物が対象だ。また、建築物衛生法の基準では、トイレに使う雑用水に、遊離残留塩素を1リットルあたり0.1ミリグラム以上保つことなどを求めている。
日本の宿に置き換えると
InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)として、スキー場の近くにある、定員40人の宿を考える。
- トイレに使う水は、客1人1日30リットルとする。満室なら1日1.2立方メートル
- 満室が1年続く計算なら、年438立方メートル。1立方メートル600円で約26.3万円
- 実際の年間の稼働率が40%なら、年約175立方メートル。約10.5万円
設備の大きさは満室で決めても、節約の見込みは実際の稼働率で計算しないと、2.5倍の差が出る。冬と夏に客が集まる宿なら、月ごとの稼働率で計算すると、どの月に水が余り、どの月に足りないかも見えてくる。
設備は満室で、見込みは実際の稼働で
この論文で大切なのは、設計の段階で、満室の計算と実際の稼働の計算を並べて示したことだ。設備の大きさは満室で決め、節約の見込みは実際の稼働率で見る。2つを分けて考えると、期待しすぎずに導入を判断できる。
持ち帰れる知識
- 満室の計算は、設備の大きさを決めるためのもの
- 節約の見込みは、月ごとの実際の稼働率で計算する
- 季節で稼働率が大きく動く宿ほど、2つの計算の差は大きい
宿で考えられること
- 設備を考えるときは、月ごとの稼働率の表を用意する
- 水を集める場所と使う場所を、重力で流せる配置にできるか確かめる
- 余った水をどうするか(備えにするか、流すか)を決めておく
事業・予約への接続
水を再利用する設備は、客には見えにくい。導入したら、仕組みと安全の管理を短く説明すると、取り組みとして伝わる。
Sources / 参考情報
- WSEAS Transactions on Environment and Development(英文) - ホテルの建物での、水の再利用による節水計画(2015年)
裏付け: コシツェ工科大学の4人、スロバキアでは遅れていて使われた例がない、4階建て・1階の用途・定員128人、集める排水と使い道(5〜9月の水やり)、案1は1日14,148リットル・必要7,391/6,160リットル、案2は19,798リットル・11,969/10,739リットル、余りは備えか排水、満室はまれ、リプトフスキー・ミクラーシュのホテルの2014年の稼働率(表4・9)、案1は948立方メートル・1,035ユーロ・1,259.10ユーロ・2,294.5ユーロ、案2は1,586立方メートル・1,732ユーロ・2,107ユーロ・合計3,693ユーロと記載、160リットル・52リットル、145リットル・36リットル・5.2立方メートル、大きめの設計はふつう、標準化が必要 - WSEAS(英文) - WSEAS トランザクションズ・オン・エンバイロメント・アンド・ディベロップメント 第11巻(2015年)の目次
裏付け: 論文の題名、著者4人、第11巻(2015年) - Desalination(英文) - ホテルでの、トイレに使う水の再利用の経験(スペイン・マヨルカ島)(2004年4月15日)
裏付け: 論文が引くスペインのホテルの元の論文、1日平均5.2立方メートルの再利用 - 東京都都市整備局 - 水の有効利用のすすめ(2020年4月24日更新)
裏付け: 水の有効利用促進要綱、延べ床面積1万平方メートル以上の建物、個別循環方式・地区循環方式は3万平方メートル以上 - 厚生労働省 - 建築物環境衛生管理基準について
裏付け: 雑用水の遊離残留塩素0.1mg/L以上、水洗便所用水の検査項目