GOAL 6 · TARGET 6.4 水・衛生・循環 4分 / 2130文字 何の35%かを分けて読む型 #328

「35.2%」は、膜を洗う空気の電気の話:スペインの海辺の町ロレート・デ・マルで、441室のホテルのシャワーの水を膜で処理した6か月の実験

スペイン北東部、地中海に面したコスタ・ブラバの町、ロレート・デ・マル。夏には観光客で人があふれる町だ。ここにある441室の3つ星リゾートホテルは、1990年代に受けた助言をきっかけに、客室のシャワーと洗面の排水(グレーウォーター)を分けて集め、トイレを流す水に使うようにした。

2017年、スペイン・カタルーニャの研究者たちは、このホテルで、排水を膜でこす処理装置を6か月動かした実験の結果を、学術誌「ジャーナル・オブ・エンバイロメンタル・マネジメント」に発表した。論文では、ホテルの名前は書かれていない。ただし、2025年の別の論文は、同じ説明(ロレート・デ・マルの441室の3つ星リゾートで、緑地や屋外プール、会議室、バー、レストランをもつ)のホテルを「ホテル・サンバ」としている。

トイレの水がいちばん多かった

論文によると、このホテルは、緑地や屋外のプール、会議室、バー、レストランをもつ大型のリゾートだ。かつては水の使用量がとても多く、節水に取り組むきっかけになった。

1990年代に、ホテルは「いちばん水を使っているのはトイレを流す水だ」と助言を受けた。そこで、客室のシャワーと洗面の排水を分けて集め、トイレに回すようにした。

  • いまの水の使用量:繁忙期は1日平均128立方メートル(前後35)、閑散期は67立方メートル(前後20)
  • シャワーと洗面の水を使い回すことで、1年に平均約1万立方メートルの水道水を節約している

膜でこす処理装置

実験で使ったのは、「膜分離活性汚泥法(MBR)」という方法だ。微生物に汚れを分解させ、とても細かい穴の膜で水をこす。装置が小さくてすみ、きれいな水が安定して得られるので、土地の値段が高い観光地に向いている、と論文は説明している。

一方で、膜の表面に汚れがたまると水が通りにくくなる。それを防ぐために、膜の下から空気の泡を吹きつけて表面を洗う。論文によると、この空気のための電気が、装置の電気の半分以上を占める。

35.2%は、空気の電気の割合

研究者たちは、膜の水の通りやすさを見ながら空気の量を自動で調整する仕組みを使った。その結果、膜を洗う空気のための電気を、メーカーが勧める運転と比べて最大35.2%減らせた。

ここでの35.2%は、膜を洗う空気の電気が減った割合だ。ホテルの水の使用量が35%減ったわけではない。また、論文は要旨で「最大35.2%」、要点の欄で「平均35.2%」と書いていて、表現がそろっていない。

水の質

6か月(180日)の間、集めた排水の汚れの濃さは大きく変わった。それでも、処理した水の質は安定していた。論文は、スペインの水の再利用の基準を十分に満たしたとしている(一部の項目にわずかな例外があった)。

いくつの部屋から元が取れるか

研究者たちは、実験の結果をもとに、グレーウォーターを分ける配管、処理装置、きれいな水のタンク、消毒までを含めた費用を、スペインの水と電気の値段、20年の計画期間で計算した。

  • 1日5立方メートル(約60人分、20〜30室のホテル)から採算がとれる。回収は7年
  • 1日30立方メートル(約300室)を処理するホテルなら、回収は3年
  • 計算の土台にした、カタルーニャのホテルの水の値段は、1立方メートルあたり2.1ユーロ

町全体で見ると、こうした仕組みで、ロレート・デ・マルの排水を30%減らせる、と論文は見込んでいる。

ドイツの教訓

論文は、ドイツでは1990年代から、簡単で安いグレーウォーターの仕組みが広がったと紹介している。電気や手入れが少なくてすむ反面、処理が足りず、においや不快さの問題が出て、多くが使われなくなったという。研究者たちは、水の質を安定させることが、長く使い続ける条件だと見ている。

日本の基準

日本では、建築物衛生法の対象になる大きな建物で、排水の再生水などをトイレの水に使う場合、厚生労働省の基準がある。

  • 蛇口の水に、決まった量以上の塩素が残っていること(7日以内ごとに1回検査)
  • pH、におい、見た目(ほとんど無色透明)を7日以内ごとに1回検査
  • 大腸菌が検出されないこと(2か月以内ごとに1回検査)

日本の宿に置き換えると

InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)として、シャワーと洗面の水を1日3立方メートル処理して、トイレに使う宿を考える。

  • 1年で1,095立方メートル
  • 水道600円と下水300円を合わせて、1立方メートル900円とすると、年98万5,500円
  • 電気と点検に年30万円かかるとすると、差し引き年68万5,500円
  • 設備に800万円かかるとすると、回収は約11.7年

スペインの研究では、規模が大きいほど回収が早くなった。小さな宿では、配管を新しくつくる費用が重くなるので、建て替えや大きな改修のときに検討するのが現実的だ。

何の35%かを分けて読む

このホテルの記録で大切なのは、1990年代の助言をきっかけに、トイレの水をシャワーと洗面の排水でまかない、年に約1万立方メートルを節約してきたことだ。そして、35.2%は、膜を洗う空気の電気についての数字で、水の節約の割合ではない。

持ち帰れる知識

  • 35.2%は空気の電気の割合で、水の節約の割合ではない
  • 1日5立方メートルから採算、30立方メートルなら回収3年(スペインの値段)
  • 水の質が安定しないと、仕組みは長続きしない

宿で考えられること

  • トイレの水がどれだけを占めるか、まず量ってみる
  • 改修や建て替えのときに、シャワーと洗面の排水を分ける配管を検討する
  • 日本の再生水の基準と検査の手間を、最初から計画に入れる

事業・予約への接続

シャワーの水をトイレに使い回していることは、水を大切にする宿として伝えやすい。安全の検査をしていることも合わせて伝えると、客は安心できる。

Sources / 参考情報

  • Journal of Environmental Management(英文) - ホテルのグレーウォーターの再利用のための、最適化した膜分離活性汚泥法(2017年5月15日、193巻503〜511ページ)
    裏付け: ロレート・デ・マル(コスタ・ブラバ)、441室の3つ星リゾート、緑地・屋外プール・会議室・バー・レストラン、かつて水の使用量が多かった、1990年代にトイレの水が最大と助言、シャワーの排水を分離、6か月(180日)の実験、空気の電気は装置の半分以上、最大35.2%(要点の欄では平均35.2%)、スペインの基準を満たす(わずかな例外)、分離・装置・タンク・消毒を含む費用、スペインの値段・20年、1日5立方メートル(60人)から採算、30立方メートル(300室)で回収3年、町の排水30%減、ドイツの簡単な仕組みとその問題
  • Academia.edu(英文) - 同じ論文の全文の掲載ページ
    裏付け: シャワーと洗面の排水を分離、使用量は繁忙期128(前後35)・閑散期67(前後20)立方メートル/日、年平均約1万立方メートルを節約、5立方メートル/日(20〜30室)で回収7年、カタルーニャのホテルの水の値段2.1ユーロ
  • Journal of Environmental Management(英文) - 観光リゾートでの持続可能な水の処理と再利用のための「垂直の生態系」の実現可能性(2021年9月15日)
    裏付け: グレーウォーターを分けている大型ホテルが、ロレート・デ・マルで年に最大1万立方メートルをトイレの水に再利用できるとして2017年の論文を引用
  • 厚生労働省 - 建築物環境衛生管理基準について
    裏付け: 雑用水を水洗便所に使う場合の基準、遊離残留塩素(7日以内ごと)、pH・臭気・外観(7日以内ごと)、大腸菌(2か月以内ごと)
  • Water, Air, & Soil Pollution(英文) - 欧州・地中海のリゾートの水の循環の中の微量の有機汚染物質(2025年12月12日)
    裏付け: ホテル・サンバは441室の3つ星リゾートで、緑地・屋外プール・会議室・バー・レストランをもつ
  • ICRA(カタルーニャ水研究所)(英文) - 研究者ジャンルイジ・ブッティリエーリの紹介ページ
    裏付け: 研究テーマに分散型処理とグレーウォーターの再利用、業績に2017年の論文

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