1997年から使った水でトイレを流し、16万立方メートル超を節約。それでも客の多くは気づいていなかった:スペインの「ホテル・サンバ」
スペイン北東部のコスタ・ブラバにある海辺の町、ロレート・デ・マル。2018年の論文によると、町の面積は48.7平方キロメートル、人口は37,042人(2016年)。そこに120のホテルと約3万のベッドがある。2016年には、町のホテルに1,205,495人が泊まった。
この町の3つ星ホテル「ホテル・サンバ」は、節水の取り組みで知られている。1997年に、使った水をトイレのタンクに戻す仕組みを入れ、それ以来、16万立方メートルを超える水を節約してきた。
ホテル・サンバの取り組み
スペインのジローナ大学の研究者たちが2018年に発表した論文は、ホテルを次のように紹介している。
- ホテル・サンバ社が持つ3つ星ホテルで、ダブルルームが441室
- 環境管理の国際規格ISO 14001を1998年に、EUの環境管理・監査制度EMASを1999年に取得し、2つの国際的な環境認証を得た欧州で最初のホテルになった
- カタルーニャの環境の品質保証の認証も持っている。この認証は、水の管理と使用量を減らす具体的な行動を求めている
- 最大の成功例が、使った水をトイレのタンクに戻す仕組み。1997年に入れて以来、16万立方メートルを超える水を節約し、いまは1人1日100リットル未満の使用量だという
「欧州初」は何の初か
2021年のポーランドの研究者たちの論文は、「欧州の3つ星ホテルで最初のグレーウォーター(シャワーや洗面の排水)の再利用設備が1997年に入れられ、1997年から2013年までに16万立方メートル超を再利用した」と、別の論文を引いて書いている。
一方、ホテルを詳しく紹介した2018年の論文が「欧州で最初」と書いているのは、2つの国際的な環境認証を得たことについてだ。グレーウォーターの設備が欧州初だったかどうかは、この論文には書かれていない。
出典ごとに違う数字
このホテルの水の数字は、論文によって違う。
- 2017年の膜処理の論文:グレーウォーターの再利用で、1年に平均約1万立方メートルの水道水を節約(この論文はホテルの名前を出していないが、ロレート・デ・マルの441室の3つ星リゾートで、緑地や屋外プール、会議室をもつという説明は、2025年の論文がホテル・サンバについて書く内容と同じだ)
- 2025年の論文:ホテルの水の使用量は年25,000〜34,000立方メートル(1人1日100〜135リットル)。ごみを取り除いて塩素で消毒した排水をトイレに使い、年13,500〜15,000立方メートルを再利用
数えた時期や範囲が違う可能性があり、どれか1つに決めることはできない。2025年の論文によると、441室にベッドは882ある。
648人の客に聞いた
2018年の論文の本題は、客の意識と行動だ。研究者たちは、2015年9月から2016年8月まで、月に2日、ロビーで客に聞き取りをした。初めての夜の客は除き、648人が答えた。
客は、次の4つのグループに分かれた。
- 知らない・行動しない:351人(54.17%)
- 知らない・行動する:192人(29.63%)
- 知っている・行動しない:53人(8.18%)
- 知っている・行動する:52人(8.02%)
いちばん大きな「知らない・行動しない」グループでは、89.17%が、ホテルの節水の仕組みに1つも気づいていなかった。このグループには、節水の取り組みや環境の認証を、ホテルを選ぶ理由に挙げた人はいなかった。
知っていても、行動するとは限らない
論文は、環境への意識が高いことと、節水の行動をとることは、必ずしも結びつかないとしている。「知らない・行動する」グループでは、全員が、歯みがきやシャワー中に水を止め、トイレの大小のボタンを使い分け、お湯を控えめに使っていると答えた。このグループには、退職した人や65歳以上の人が多かった。
ただし、答えは自己申告で、実際の行動より多めに出やすい、と論文は限界も書いている。
客に伝える工夫
論文は、ホテルへの提案として、次のようなことを挙げている。
- 環境の目標を客に伝え、一緒に取り組む形をつくる
- 意識の低い客が使う予約の経路で、節水の取り組みを知らせる
- ロビーに図や映像を置き、地中海の水不足を伝える
- 節水の設備を案内するツアーを開く
- 罰ではなく、よい行動をほめる形で働きかける
日本の宿に置き換えると
InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)として、20室の宿で、稼働率70%、1室2人とする。1日の客は28人になる。
- 客室の案内で節水の仕組みを伝え、歯みがきやシャワー中に水を止める人が増えて、1人1日10リットル減ったとする
- 1日280リットル、1年で102.2立方メートル
- 水道を1立方メートル600円とすると、年61,320円
金額は大きくないが、設備の節水に、客の行動の節水が上乗せされる。仕組みを客に見せること自体が、取り組みの一部になる。
設備と客の両方で
ホテル・サンバの記録で大切なのは、1997年から続く設備の節水と、その仕組みに客の多くが気づいていなかったという調査が、同じホテルで示されたことだ。設備を入れたあとに、客にどう伝えるかが次の課題になる。
持ち帰れる知識
- 「欧州初」は、2018年の論文では2つの環境認証についての表現
- 同じホテルでも、出典ごとに水の数字が違う
- 意識が高いことと、行動することは別
宿で考えられること
- 節水の仕組みを、客室やロビーで目に見える形で伝える
- 予約の経路ごとに、取り組みの伝え方を考える
- よい行動をほめる形の働きかけを試す
事業・予約への接続
節水の仕組みを持っていても、客に伝わらなければ選ぶ理由にならない。予約の段階から取り組みを伝えると、関心のある客に届きやすい。
Sources / 参考情報
- Sustainability(英文) - 節水に取り組むホテルの客の環境意識と行動を探る(2018年4月23日)
裏付け: ジローナ大学、ロレート・デ・マルの面積48.7平方キロメートル・人口37,042人・120ホテル・約3万ベッド・2016年に1,205,495人、ホテル・サンバ社の3つ星・ダブル441室、ISO 14001(1998年)とEMAS(1999年)で欧州最初、カタルーニャの認証、1997年からの仕組みで16万立方メートル超、1人1日100リットル未満、2015年9月〜2016年8月・月2日・初日の客は除外・648人、4グループの人数と割合、89.17%、このグループで選ぶ理由に挙げた人なし、「知らない・行動する」は全員が行動・退職者や65歳以上が多い、自己申告の限界、伝え方の提案 - Science of the Total Environment(英文) - ホテルのグレーウォーターによる環境とエネルギーの節約の可能性(2021年3月20日)
裏付け: 欧州の3つ星ホテルで最初のグレーウォーター再利用設備が1997年、1997〜2013年に16万立方メートル超(別の論文を引用) - Water, Air, & Soil Pollution(英文) - 欧州・地中海のリゾートの水の循環の中の微量の有機汚染物質(2025年12月12日)
裏付け: ホテル・サンバ、441室・882ベッド、水の使用量は年25,000〜34,000立方メートル(1人1日100〜135リットル)、ごみの除去と塩素消毒のあとトイレに使う、年13,500〜15,000立方メートルを再利用 - Journal of Environmental Management(英文) - ホテルのグレーウォーターの再利用のための、最適化した膜分離活性汚泥法(2017年5月15日)
裏付け: ロレート・デ・マルの441室の3つ星リゾート(緑地・屋外プール・会議室・バー・レストラン)で、グレーウォーターの再利用により年平均約1万立方メートルを節約(全文の掲載ページで確認) - International Journal of Hospitality Management(英文) - 大衆観光とホテル業の水の効率:ロレート・デ・マルの事例(2017年2月)
裏付け: ロレート・デ・マルのホテルの水の効率を左右する要素を調べた研究(2018年・2025年の論文が引用)