「客1人1泊1キロ」は、何を数えた数字か:EUの研究機関の報告書が示す、ホテルのごみの目安と「0.6キロ以下」の目標
ホテルのごみの話になると、「客1人が1泊すると、ごみが約1キログラム出る」という数字がよく使われる。この数字は、どこから来て、何を数えたものなのか。
もとをたどると、EUの研究機関である欧州委員会共同研究センター(JRC)が2013年9月に出した報告書「観光業における環境管理のベストプラクティス」に行き着く。この報告書は、EUの環境管理の制度(EMAS)で使う手引きのもとになった技術的な資料だ。ここでは、その第6章「宿泊施設のごみ」を読む。
「1キロ」は、分別していないごみ
第6章のリサイクルの節は、こう書き出している。
「平均すると、ホテルは客1人1泊あたり約1キログラムの分別されていないごみを出す(ITP、2008年)。これは英国では、1ホテルあたり年66トンにあたる(WRAP、2011年)」
ここでの1キログラムは、ごみの総量ではなく、「分別されていないごみ」の量だ。報告書は、分別がほとんどされていないホテルでは、ごみの大部分が「その他のごみ」に入ると説明している。分別が進めば、同じホテルでも「分別されていないごみ」は減っていく。
総量で見ると
報告書は、欧州の中価格帯のホテルチェーン135軒の2010年の月ごとのデータを、分別したごみと分別していないごみの合計(総量)で並べている。
- 総量の中央値:客1人1泊1.05キログラム
- 上位10%のホテル:0.59キログラム
この上位10%をもとに、報告書は「総量で客1人1泊0.6キログラム以下」を、優れたホテルの目安(ベンチマーク)として示した。中央値から上位10%の水準まで減らせば、ごみの製造と処分にともなう環境への負荷は44%減るとしている。
別の調査として、ドイツとオーストリアの2〜4つ星のホテル36軒では、総量の平均は客1人1泊1.98キログラム(6リットル)だった。調査によって、数字は2倍近く違う。
分別していないごみと、リサイクル率
同じチェーンのデータでは、分別していないごみ(最後に処分するごみ)の中央値は客1人1泊0.46キログラム、上位10%は0.16キログラム未満だった。リサイクル率の中央値は56%、上位10%は84%を超えていた。
報告書は、ここから次の2つの目安を示した。
- 重さで84%以上のごみをリサイクルに回す
- 分別していないごみを、客1人1泊0.16キログラム以下にする
100室のホテルなら年11〜31トン
報告書は、0.16キログラムの目安を守ったときの効果も試算している。
- このチェーン全体なら、分別していないごみは客1人1泊0.3キログラム減る
- 1キログラム出している平均的なホテルなら、0.84キログラム減る
前提は、100室、稼働率80%、泊まっている部屋の25%が2人使用。この条件で、1年の分別していないごみは11トンと31トン減ると計算している。前提から客の数を出すと、100×0.8×1.25×365=3万6,500人泊で、0.84キログラムをかけると約30.7トン、0.3キログラムなら約11トンになり、報告書の数字と合う。
同じ前提で200室を数えると
同じ前提を200室・稼働率70%のホテルに当てはめると、1か月(30日)の客は200×0.7×1.25×30=5,250人泊になる。1キログラムをかけると、分別していないごみは月約5.3トンだ。
「1キロ」は1泊あたりの小さな数字だが、部屋数、稼働率、1部屋の人数のどれを置くかで、月や年の量は大きく変わる。目安の数字を使うときは、前提をいっしょに書く必要がある。
ごみを分けると費用が変わる
報告書は、ロンドンのサヴォイ・ホテルを例に挙げている。268室と62のスイートがあり、2010年の大きな改装のあと、ごみのリサイクルの取り組みを始めた。報告書によると、食品以外のごみの95%超を埋め立てずにすませ、分別していないごみは客1人1泊約0.3キログラムになった(レストランだけを使う外の客の分も含む)。
費用の面では、混ざったごみの回収は1トン約110ユーロかかる一方、分別したごみの回収は無料だった。使い終わった食用油は月600リットル出て、バイオディーゼルをつくる会社から1リットル0.30ユーロを受け取っていた。
報告書は、100室のホテルが分別していないごみを年11〜31トン減らせば、回収の費用は年1,210〜4,030ユーロ減ると試算している。ごみを分けることは、環境のためだけでなく、処分の費用を変える手段にもなる。
日本のごみの数字
環境省によると、2023年度の日本のごみの総排出量は3,897万トン、1人1日あたり851グラムだった。このうち事業所から出る事業系ごみは1,185万トン。リサイクル率は19.5%だった。
851グラムは、家庭と事業所のごみの合計を人口で割った値で、ホテルの客1人1泊の量とは数え方が違う。並べて比べるときは、何を何で割ったかを確かめる必要がある。
日本の宿に置き換えると
InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)として、20室、稼働率70%、1部屋平均1.5人の宿を考える。1年の客は20×0.7×1.5×365=7,665人泊。
- 総量が客1人1泊1.05キログラムなら年約8.0トン、0.6キログラムなら年約4.6トン。差は約3.4トン
- 分別していないごみが0.46キログラムなら年約3.5トン、0.16キログラムなら年約1.2トン。差は約2.3トン
- 分別していないごみの処分費を1キログラム40円とすると、年約14万1,000円が約4万9,000円になり、約9万2,000円減る
まずは2〜4週間、ごみを種類ごとに量り、客1人1泊あたりの数字を出すと、自分の宿がどの位置にいるかがわかる。
目安の数字を読むときに
「客1人1泊1キロ」は、分別していないごみの、2008年の資料にもとづく平均だ。総量の目安は0.6キログラム以下、分別していないごみの目安は0.16キログラム以下。どのごみを、どの単位で数えた数字かを確かめてから使うと、自分の宿の数字と正しく比べられる。
持ち帰れる知識
- 「客1人1泊1キロ」は、分別していないごみの平均
- EUの報告書の目安は、総量0.6キログラム以下、分別していないごみ0.16キログラム以下、リサイクル84%以上
- 月や年の量は、部屋数・稼働率・1部屋の人数の前提で大きく変わる
- 日本の1人1日851グラムは、数え方が違う数字
宿で考えられること
- 2〜4週間、ごみを種類ごとに量って、客1人1泊あたりの数字を出す
- 総量と、分別していないごみを分けて記録する
- 混ざったごみと分別したごみの処分費を、業者に確かめる
- 使い終わった食用油の引き取り先を探す
事業・予約への接続
客1人1泊あたりのごみの量を測っている宿は、その数字と目安を並べて示せる。数え方を添えて伝えると、環境に関心のある客や団体に信頼されやすい。
Sources / 参考情報
- 欧州委員会共同研究センター(英文) - 観光業における環境管理のベストプラクティス 第6章(PDF)(2013年)
裏付け: 客1人1泊約1キログラムの分別されていないごみ(ITP、2008年)・英国で1ホテル年66トン(WRAP、2011年)、分別が少ないとその他のごみが大部分、135軒の2010年データで総量の中央値1.05・上位10%0.59、ベンチマーク総量0.6以下、44%、独墺36軒1.98キログラム(6リットル)、分別していないごみの中央値0.46・上位10%0.16未満、リサイクル率中央値56%・上位10%84%超、0.3と0.84キログラム減、100室・80%・25%が2人で年11トンと31トン、サヴォイ(268室・62スイート、2010年の改装後、食品以外の95%超、約0.3キログラム)の110ユーロ・無料・月600リットル・0.30ユーロ、100室で年1,210〜4,030ユーロ - 欧州委員会共同研究センター(英文) - 観光業における環境管理のベストプラクティス(報告書全体、PDF)(2013年9月)
裏付け: EMASの分野別の手引きのもとになる技術的な資料、著者、EUR 26022 EN - EU出版局(英文) - 観光業における環境管理のベストプラクティスの書誌
裏付け: 2013年の発行、宿泊施設のごみを扱う、環境の指標と優れた水準の目安を含む - 環境省 - 一般廃棄物の排出及び処理状況等(令和5年度)について(2025年3月27日)
裏付け: ごみ総排出量3,897万トン、1人1日851グラム - 環境省 - 同じ発表の資料(PDF)(2025年3月27日)
裏付け: 事業系ごみ1,185万トン、リサイクル率19.5%