「99%」はトイレと庭の水の99%、費用の半分以上は壁と床の工事:トルコ・アンタルヤで営業中のホテルに、シャワーと洗面の水を処理して使う仕組みをあとから入れる試算
トルコ南部の地中海に面したアンタルヤ県は、国内でもっとも観光客が多い地域のひとつだ。論文によると、2021年には国内外から909万4,051人の観光客が訪れた。市が送る水道の量は1人1日329リットルで、国の平均224リットルを上回る。
イスタンブール工科大学などの研究者は、この県で営業中の病院、ショッピングモール、ホテルの3つの建物を選び、雨水を集める仕組みと、使った水(グレーウォーター)を処理してもう一度使う仕組みの費用と効果を試算した。論文は2023年1月4日、学術誌「フロンティアーズ・イン・エンバイロメンタル・サイエンス」に載った。この記事では、ホテルのグレーウォーターの試算を読む。
3つの建物は、所有者との約束で名前を伏せている。また、いまはどれもこうした仕組みを使っていない。ここでの数字は、実際に動かした結果ではなく、配管の図面などをもとにした設計上の試算だ。
ホテルの前提
論文の表によると、ホテルの前提は次のとおりだ。
- 従業員320人、1日の来訪者1,200人
- 屋根は4,280平方メートル、庭は3,000平方メートル
- 水の値段は、水道1立方メートル1.124ユーロ。下水とごみの費用を含めると1.69ユーロ(2022年9月1日の時点)
シャワーと洗面台などの排水を集め、地下に置く膜処理の装置(MBR)で処理して、トイレと庭の水やりに使う。台所の排水やトイレの汚水、庭の排水、プールの水は集めない。
なお、論文の結果の表では、ホテルのグレーウォーターの欄だけ、従業員1,200人、来訪者320人と、前提の表とは逆の数字が書かれている。
99%は、トイレと庭の水に対する割合
結果は次のとおりだ。
- 集められる水:年2万7,837立方メートル
- トイレと庭に必要な水:年2万2,060立方メートル
- 実際に使う水:年2万1,802立方メートル
- 処理装置:1日40立方メートルの装置を2台
2万1,802を2万2,060で割ると約99%になる。内訳は、トイレの水の100%、庭の水の97%だ。
ここでの99%は、ホテル全体の水の使用量に対する割合ではない。トイレと庭の水を、どれだけ処理した水でまかなえるかという割合だ。
年3万6,752ユーロと2万7,816ユーロ
論文の補足資料の費用の表を見ると、ホテルの数字は次のようになる。
- 1年の効果(水の代金の節約):3万6,752ユーロ
- 1年の運転の費用:8,937ユーロ(保守と修理4,000、電気4,937)
- 差し引き:2万7,816ユーロ
2万1,802立方メートルに1.69ユーロをかけると約3万6,845ユーロで、効果の数字とほぼ一致する。本文の結果の表で「水の代金の節約」として書かれている2万7,816ユーロは、補足資料では運転の費用を引いたあとの金額にあたる。
費用の半分以上は、壁と床の工事
設備の費用は19万634ユーロで、補足資料の内訳は次のとおりだ。
- 壁や床をこわして直す工事:10万4,521ユーロ(約55%)
- 処理装置一式:6万9,815ユーロ(うち40立方メートルの装置2台で6万4,000)
- 配管:1万2,472ユーロ
- 配管の取り付け:3,827ユーロ
すでに建っているホテルに入れるため、排水を分けて集める配管を新しく通す工事が、いちばん大きな費用になっている。処理装置そのものより、建物の工事のほうが高い。
回収9年は、割引をした年数
論文は、割引率5%で将来のお金を今の価値に直し、投資を取り戻せる年を回収の年とした。ホテルのグレーウォーターの回収は9年だ。
割引をしない単純な計算なら、19万634÷2万7,816で約6.9年になる。割引率5%で、毎年2万7,816ユーロを今の価値に直して足していくと、8年目では投資に届かず、9年目で上回る。論文の9年は、この計算と合う。
スペインのホテルの実験との違い
論文が膜処理の例として引いているスペインの研究では、ロレート・デ・マルのホテルで6か月の実験をもとに、1日30立方メートルを処理するホテルなら回収は3年と試算している。アンタルヤの9年との違いには、水の値段や、あとから配管を通す工事の費用など、前提の違いが含まれる。
日本の決まり
日本では、建物の中で出た排水を処理した水や雨水を、トイレや散水に使う水を「雑用水」と呼ぶ。厚生労働省によると、大きな建物(特定建築物)で雑用水を使う場合は、7日以内ごとにpH、におい、見た目、残っている塩素を、2か月以内ごとに大腸菌を調べる。散水や清掃に使う場合は、し尿を含む水を使わないことや、濁りの基準も加わる。
また、トイレに送る水を手洗いや温水洗浄便座にも使う場合は、飲み水の扱いになる。日本の宿で考えるときは、温水洗浄便座への配管を分けられるかも確かめる必要がある。
日本の宿に置き換えると
InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)として、すでに営業している宿に、シャワーと洗面の水を処理してトイレと散水に年1,000立方メートル使う仕組みを入れる場合を考える。
- 水の代金を1立方メートル600円とすると、1年の効果は60万円
- 電気と保守に年25万円かかるとすると、差し引き年35万円
- 処理装置300万円、配管と壁・床の工事350万円で、合計650万円
効果の60万円で割ると約10.8年だが、運転の費用を引いた35万円で割ると約18.6年になる。どちらの金額で割ったかで、回収の年数は8年近く変わる。業者の提案を比べるときは、効果が運転の費用を引く前か後かを確かめたい。
試算を読むときに
アンタルヤのホテルの99%は、トイレと庭の水に対する割合で、回収9年は割引をした年数だった。そして費用の半分以上は、装置ではなく建物の工事だった。割合の分母、効果が差し引き前か後か、費用の内訳。この3つを確かめると、試算の意味がはっきりする。
持ち帰れる知識
- 99%は、ホテル全体ではなく、トイレと庭の水に対する割合
- 本文の2万7,816ユーロは、運転の費用を引いたあとの金額
- あとから入れると、配管を通す建物の工事が大きな費用になる
- 日本では、温水洗浄便座に使う水は飲み水の扱いになる
宿で考えられること
- 再利用の割合が、何に対する割合かを確かめる
- 効果が運転の費用を引く前か後かを確かめる
- 費用の内訳を、装置と建物の工事に分けて見積もってもらう
- トイレと温水洗浄便座の配管を分けられるかを確かめる
事業・予約への接続
使った水を処理してもう一度使う宿は、何の水をどれだけまかなっているかを具体的に示すと伝わりやすい。割合の分母を添えると、数字が誤解されにくい。
Sources / 参考情報
- Frontiers in Environmental Science(英文) - トルコ・アンタルヤでの代わりの水資源の利用による気候変動への適応(2023年1月4日)
裏付け: 2021年の観光客909万4,051人、1人1日329リットル(国平均224)、営業中の病院・モール・ホテル、名前は非公開、いまは使っていない、ホテルは従業員320・来訪者1,200・屋根4,280・庭3,000・1.124と1.69ユーロ(2022年9月1日)、シャワーと洗面の排水・MBR・台所や庭やプールの水は集めない、結果の表(GWR欄の1,200と320、27,837・22,060・21,802、40立方メートル×2、190,634・8,937・27,816・99%・9年)、トイレ100%・庭97%、割引率5%、ロレート・デ・マルの研究の引用 - Frontiers(英文) - 同じ論文の補足資料(Word)
裏付け: ホテルのグレーウォーターの費用(配管12,471.78・取り付け3,826.85・工事104,520.55・処理装置69,814.79・合計190,633.97)、40立方メートルの装置2台で64,000、運転は保守4,000・電気4,936.73・合計8,936.73、効果36,752・差し引き27,816、1日8時間の運転 - Journal of Environmental Management(英文) - ホテルのグレーウォーター再利用のための最適化した膜処理(2017年5月15日、193巻503〜511ページ)
裏付け: ホテルで6か月の実験、1日30立方メートル(300室)を処理するホテルなら回収3年、ロレート・デ・マル - 厚生労働省 - 建築物環境衛生管理基準について
裏付け: 雑用水の定義、遊離残留塩素とpH・臭気・外観は7日以内ごと、大腸菌は2か月以内ごと、散水・修景・清掃はし尿を含む水を使わない・濁度2度以下、手洗いや温水洗浄便座に併用する場合は飲料水の扱い - Istanbul Technical University(英文) - アンタルヤの研究の書誌のページ
裏付け: 同じ研究の書誌と要旨(回収年数と節水の幅)