回収5年の病院は義務の外、200床を超える宿は義務に:トルコ・アンタルヤの病院・モール・ホテルの水の試算と、その後トルコが決めたルール
トルコ南部のアンタルヤ県で営業中の病院、ショッピングモール、ホテルを選び、雨水を集める仕組みと、シャワーや洗面で使った水(グレーウォーター)を処理してもう一度使う仕組みの費用と効果を比べた論文がある。イスタンブール工科大学などの研究者がまとめ、2023年1月4日に学術誌「フロンティアーズ・イン・エンバイロメンタル・サイエンス」に載った。
この論文のホテルの試算は、#334(グレーウォーター)と#335(雨水)で読んだ。この記事では、3つの建物を並べて、どこで差がついたのかを見る。そのうえで、論文のあとの2025年3月に、トルコが建物の水の再利用について決めたルールを読む。
建物の名前は、所有者との約束で伏せられている。どの建物も、いまはこうした仕組みを使っておらず、数字は図面などをもとにした設計上の試算だ。
3つの建物
論文の表によると、3つの建物の前提は次のとおりだ。
- 病院:従業員800人、1日の来訪者・患者1,000人、屋根1万70平方メートル
- ショッピングモール:従業員300人、1日の来訪者1,000人、屋根1万8,500平方メートル、庭2,000平方メートル
- ホテル:従業員320人、1日の来訪者1,200人、屋根4,280平方メートル、庭3,000平方メートル
水の値段は、下水などの費用を含めて、病院とモールが1立方メートル1.86ユーロ、ホテルが1.69ユーロ(2022年9月1日時点)。計算では、インフレによる値上がりと税は入れず、実質の割引率を5%としている。
回収の年数と節水の割合
論文が示した結果は次のとおりだ。
- 雨水:病院は回収6年・節水23%、モールは2年・50%、ホテルは9年・20%
- グレーウォーター:病院は5年・88%、モールは6年・48%、ホテルは9年・99%
同じ仕組みでも、建物によって回収の年数は2年から9年まで開いた。論文は、ほかの研究をもとに、回収が10年より短ければ十分に受け入れられるとし、3つの建物はどれもその範囲に入ったとまとめている。
雨水は、屋根の広さで差がつく
雨水で差がついたのは、屋根の広さだ。モールの屋根はホテルの4倍以上ある。
1日に集まる雨水の最大は、モールが91立方メートルで、1日に必要な水の最大51立方メートルを上回る。ホテルは集まる雨水の最大21立方メートルに対し、必要な水は46立方メートルだった。モールは雨水をトイレのほか、水やり、床の掃除、洗車にも使う前提で、1年に8,247立方メートルを集める計算になった。
論文は、雨水は入れるのも動かすのも比較的かんたんで、高い技術や高価な設備がいらないと説明する。一方で、集まる量は屋根の広さと雨の量で決まり、場所と季節によって変わる。
グレーウォーターは、出る量と使う量の差で決まる
グレーウォーターでは、建物から出る量と、トイレなどで使う量のどちらが多いかで結果が変わった。
- 病院:使える量は年2万1,170立方メートル、トイレに必要な水は年2万4,090立方メートル。出た分をすべて使っても足りず、節水は88%
- モール:使える量は年7,665立方メートルあるが、トイレに必要な水は年3,833立方メートル。実際に使うのは年3,650立方メートルで、節水は48%
モールでは、グレーウォーターがトイレの必要量の倍ほど出るのに、使い道がトイレに限られるため、半分は使い切れない計算だ。論文は、グレーウォーターは処理の設備が必要だが、建物から毎日出るので、量の心配はないとしている。処理には、メーカーがまとめて納める膜を使った処理装置(MBR)を想定した。
モールで2つを組み合わせると72%
論文は、モールでだけ、雨水とグレーウォーターを組み合わせた場合も計算した。
- 1年に必要な水:1万6,449立方メートル
- 雨水8,247立方メートルとグレーウォーター3,650立方メートルで、合わせて1万1,897立方メートル
- 節水は72%、1年の節約は2万2,110ユーロ、設備は3万3,918ユーロ、回収は5年
雨水は季節で量が変わり、グレーウォーターは毎日出るが使い道が限られる。2つを組み合わせると、それぞれの弱いところを補い合える。
論文の時点のトルコのルール
論文によると、トルコには当時、雨水やグレーウォーターの水質について、国の規則や基準はなかった。
- 2017年6月23日の官報で、雨水を集め、ため、流す仕組みについての規則が施行された
- 環境都市化省は、計画地域の都市計画の規則を改め、2021年1月23日から、新しく建てる建物に雨水を集めるタンクの設置を義務にした
論文は、多くの先進国のように、税の軽減や免除などの優遇を設けること、市民に水の再利用の利点を知ってもらうことで、普及が進むとしている。
2025年3月に決まったこと
トルコの官報によると、2025年3月11日に計画地域の都市計画の規則が改められた。建物の水の効率を高めるために、次の仕組みの設置が義務になった。
- 雨水を集める仕組み:必要なタンクが7立方メートルを超える場合で、敷地が2,000平方メートルより広い建物、または屋根の広さが合わせて1,000平方メートルより広い建物など
- グレーウォーターを集める仕組み:ベッド数が200を超える宿泊用の建物、建築面積が1万平方メートルを超えるショッピングモール、3万平方メートルを超える公共の建物
保健と教育の建物では、グレーウォーターの仕組みは義務ではないとされた。この部分は、公布の日から施行された。
使い方の決まりもある。
- 雨水は屋根からだけ集め、庭の水やりかトイレに使う。タンクは、1年に集められる雨水の6%以上をためられる大きさにする
- グレーウォーターは、シャワーや浴槽、洗面台から出る汚れの少ない水だけを集め、トイレにだけ使う。タンクは、トイレで1日に使う水の半分以上をためられる大きさにする
- それぞれ欧州の規格(EN 16941-1、EN 16941-2)のトルコ版に従い、建築許可に添える機械設備の図面に示す
論文とルールを並べると
論文のグレーウォーターで回収がいちばん早かった病院(5年)は、新しいルールではグレーウォーターの義務から外れた。一方、ベッド数が200を超える宿は義務の対象に入った。
また、論文のホテルの試算は、グレーウォーターをトイレと庭の水やりに使う前提だった。新しいルールでは、グレーウォーターの使い道はトイレに限られる。論文の数字をそのまま新しいルールに当てはめることはできない。
日本の例:福岡市の節水推進条例
日本では、福岡市が2003年12月に「福岡市節水推進条例」を施行した。水資源に恵まれない市の事情から、一定の大きさの建物を新しく建てたり増築したりする建築主に、トイレを流す水を、水道水以外の水を送る「雑用水道」にすることを義務づけている。
- 対象:延べ面積5,000平方メートル以上(促進区域では3,000平方メートル以上)の建物。共同住宅、寄宿舎、倉庫、駐車場などの部分は除く
- 手続き:建築確認の申請の30日前までに、節水計画書を市に出す
- 建物の排水を処理してその建物で使う方式(個別循環型)には、条件に応じて補助金がある
トイレの水から決まりを作る考え方は、トルコの新しいルールと共通している。
日本の宿に置き換えると
InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)として、30室の宿で、雨水とグレーウォーターのどちらから考えるかを比べる。
- 稼働率70%、1室1.8人とすると、1日の宿泊客は約38人
- トイレの水を1人1日40リットルとすると、1日約1.5立方メートル、年約555立方メートル
- 水の代金を1立方メートル600円とすると、トイレの水は年約33万円。どの仕組みでも、トイレだけに使うなら、浮く金額はこれが上限になる
- シャワーと洗面の水を1人1日100リットルとすると、1日約3.8立方メートル出る。トイレに必要な量の2倍以上で、モールと同じく使い切れない
- 屋根350平方メートル、年の雨1,600ミリメートル、流れ出る割合0.8とすると、集まる雨は年448立方メートル。あふれる分を引いて年380立方メートル使えるなら、トイレの水の約68%、年22万8,000円
先にトイレの水の量と金額を出すと、どちらの仕組みでも浮く金額の上限が分かる。そのうえで、設備の見積もりと比べると判断しやすい。
試算を読むときに
アンタルヤの3つの建物では、雨水は屋根の広さで、グレーウォーターは出る量と使う量の差で、回収の年数が変わった。その後、トルコはグレーウォーターの義務を宿やモールに広げ、使い道をトイレに限った。建物の種類、使い道、ルールの3つを並べると、試算の意味が読み取りやすくなる。
持ち帰れる知識
- 雨水の差は屋根の広さ、グレーウォーターの差は出る量と使う量の差から生まれた
- グレーウォーターは量が安定する一方、使い道が限られると余る
- トルコの新しいルールでは、グレーウォーターはトイレにだけ使い、保健と教育の建物は義務の外
- 福岡市は2003年から、大きな建物のトイレに雑用水道を義務づけている
宿で考えられること
- トイレの水の量と金額を先に出し、浮く金額の上限を知る
- シャワーと洗面から出る水の量と、トイレで使う量を並べる
- 屋根の広さと地域の雨の量から、集まる雨水を見積もる
- 新築や増築のときは、その地域の条例で雑用水道の決まりがないか確かめる
事業・予約への接続
雨水やグレーウォーターを使う宿は、何に使い、トイレの水のどれだけをまかなっているかを示すと伝わりやすい。地域のルールに沿った設備であることも、あわせて説明できる。
Sources / 参考情報
- Frontiers in Environmental Science(英文) - トルコ・アンタルヤでの代わりの水資源の利用による気候変動への適応(2023年1月4日)
裏付け: 営業中の3つの建物・名前は非公開・いまは使っていない、表3(従業員・来訪者・屋根・庭・水の値段1.86と1.69・2022年9月1日)、前提(インフレと税は入れない・実質割引率5%・MBR)、表7(1日の最大の雨91と51、21と46)、表8(病院21,170・24,090・88%・5年、モール7,665・3,833・3,650・48%・6年、雨水8,247・50%・2年、組み合わせ16,449・11,897・33,918・22,110・72%・5年)、回収6・2・9年と5・6・9年、10年未満なら受け入れられる、雨水とグレーウォーターの長所と短所、トルコに水質の規則がない、2017年6月23日の規則、2021年1月23日からの新築のタンクの義務、税の優遇と市民の認知 - Frontiers(英文) - 同じ論文の補足資料(Word)
裏付け: 3つの建物の雨水とグレーウォーターの費用と効果の表 - トルコ官報 Resmî Gazete(トルコ語) - 計画地域の都市計画の規則を改める規則(2025年3月11日)
裏付け: 第57/A条第5項(雨水は7立方メートル超かつ敷地2,000平方メートル超または屋根1,000平方メートル超など、グレーウォーターはベッド200超の宿泊用の建物・1万平方メートル超のモール・3万平方メートル超の公共の建物、保健と教育は義務ではない)、第57条第7項(a)(建築許可の機械設備の図面、TS EN 16941-1・-2、雨水は屋根からだけ・庭とトイレ・6%以上、グレーウォーターはシャワー・浴槽・洗面台・トイレだけ・1日の半分以上)、第10条(第6項以外は公布の日に施行) - トルコ法令情報システム Mevzuat(トルコ語) - 計画地域の都市計画の規則(改正を反映した条文)
裏付け: 第57/A条第5項が2025年3月11日の改正で加わったこと、条文の内容 - 福岡市 - 福岡市節水推進条例
裏付け: 水資源に恵まれない本市の状況、大型建築物と基準面積(5,000平方メートル、促進区域は3,000平方メートル)、共同住宅・寄宿舎・倉庫・駐車場の除外、水洗便所の設備を雑用水道に、節水計画書は建築確認申請の30日前まで、個別循環型への補助金、2003年12月1日施行 - 福岡市 - 節水計画書の提出について
裏付け: 対象建築物の水洗トイレに雑用水道の設置を義務化、補助金、施行日2003年12月1日、申請は建築確認申請の30日前まで