「30〜50%」は組み合わせたときの見込み、水の循環を閉じきることはできなかった:スペインの「ホテル・サンバ」を実証の場にしたEUの研究「DemEAUmed」
水の専門誌「スマート・ウォーター・マガジン」に2024年10月31日に載った寄稿は、ホテルの節水の例として、スペイン・ロレート・デ・マルの「ホテル・サンバ」とEUの研究「DemEAUmed(デモーメッド)」を紹介している。
ホテル・サンバについては、#328で膜を使った処理の実験を、#329で1997年から続くグレーウォーター(シャワーや洗面の排水)の再利用と客の調査を読んだ。この記事では、寄稿に出てくる数字を、EUの研究の報告書と照らし合わせる。
寄稿が書いていること
寄稿の内容は次のとおりだ。
- ホテルは1人1日最大1,500リットルの水を使うことがあり、地元の住民の8倍にあたる
- EUが資金を出したDemEAUmedは、技術を取り入れることでホテルが淡水の使用を最大30〜50%減らせることを示した
- そのプロジェクトの一環として、ホテル・サンバは400を超える客室のグレーウォーターを集めて処理し、トイレに使う仕組みを入れた。これまでに2億6,000万リットル、オリンピックのプール80杯分を節約した
1,500リットルと8倍という数字について、寄稿は出典を示していない。また「最大」の数字で、ホテルの平均ではない。#329で見た2025年の論文によると、ホテル・サンバの水の使用量は1人1日100〜135リットルだった。
DemEAUmedとは
EUの研究成果をまとめるサイト「CORDIS」の最終報告によると、DemEAUmedは、EUの第7次研究枠組み計画の資金で行われた研究だ。
- 期間:2014年1月1日から2017年6月30日までの42か月
- 参加国:オーストリア、ベルギー、フランス、ドイツ、イタリア、オランダ、スペインの7か国
- 目的:地中海の観光施設で、水を最適かつ安全に循環させる技術を実際の場所で示し、市場に広げること
背景には、地中海の沿岸の地域が観光に頼っていること、そして夏の水不足がある。プールやスパ、庭の水やりなど、観光施設は多くの淡水を使う。
ホテル・サンバでの実証
実証の場に選ばれたのが、ロレート・デ・マルにある441室の3つ星ホテル、ホテル・サンバだ。最終報告によると、ホテルの水道水の使用量は、季節によって1か月1,500〜5,000立方メートルの幅があると見積もられた。多く使っていたのは、客室、厨房、プール、地下の設備だった。
研究では、8つの技術を組み合わせて、3つの処理の流れを試した。
- グレーウォーター:4つの技術で処理(植物を使う垂直の装置、膜を使う処理装置など)
- 排水:電気で汚れを浮かせる装置と膜の処理装置を共通にし、仕上げの処理を3通り試した
- プールの水:紫外線とオゾンを組み合わせた消毒
プロジェクトの発表によると、グレーウォーターの処理の流れ全体で、電気伝導度95%、浮いている汚れ97%、有機物89%、窒素71%を取り除き、いくつかの医薬品の成分なども取り除いた。
客から見える処理装置
技術のひとつは、植物を使ってグレーウォーターを処理する垂直の装置で、ホテルのプールバーのそばに置かれた。最終報告によると、木の柵で直接さわれないようにしてあるが、プールバーに来た客からはよく見える。
- 1日に最大2立方メートルのグレーウォーターを、水の質を落とさずに処理できた
- 処理する水1立方メートルあたりの電気は約1.5キロワット時。報告は、約0.25ユーロの電気代で、2〜3ユーロ分の水を節約できると説明している
- 寿命までの費用を含めた処理の費用は、1立方メートルあたり約0.6〜0.65ユーロと見積もられた
ほかの技術は地下のような部屋に置かれて客から見えないが、この装置は見せることで、ホテルの環境への取り組みを伝える役も期待された。
「30〜50%」は何の数字か
CORDISの成果のまとめ(2017年11月16日)によると、研究の科学責任者でカタルーニャ水研究所のジャンルイジ・ブッティリエーリ氏は、DemEAUmedの技術を組み合わせれば、ホテルは水道水を最大30〜50%節約できると話している。
同じまとめは、技術的な理由と、ある種の水の再利用についてのEUでの制限から、ホテル・サンバで水の循環を完全に閉じることはできなかったとも書いている。プロジェクトの発表では、実際の場面で、ホテルの排水の少なくとも30%は安全に再利用できると計算した。
つまり「30〜50%」は、技術を組み合わせた場合の見込みの数字だ。ホテル・サンバで30〜50%の節水を測ったという意味ではない。また寄稿は、ホテルの仕組みをプロジェクトの一環として入れたと書いているが、#329で見たとおり、ホテルのグレーウォーターの再利用は、プロジェクトより前の1997年に始まっている。
ルールの壁
最終報告は、水の再利用の水質の基準はEUの段階では決まっておらず、国ごとの規則に任されていたと書いている。スペインの規則(2007年の王令1620号)では、再生した水を個人の庭の水やりやトイレに使う許可は、使う場所までの配管が、印をつけた別の系統になっている場合にだけ出る。水が霧状に飛ぶおそれがある使い方は、保健当局が個別に決めた条件に従う必要がある。
報告は、厳しい再利用の規則が、こうした処理の仕組みが広く普及するうえでの大きな壁だとしている。一方で、分散型の水の再利用の規則がいちばん整っている点から、スペインは最初の市場に向いているとも見ている。
地中海のホテルの調査
研究では、地中海のホテルの水の使い方も調べた。最終報告によると、73の施設から、水の出どころ、使用量、節水の取り組みなどのデータが集まった。
- 水の主な出どころは水道で、73%のホテル。次が自前の井戸で17%
- 水の使用量の把握は、施設全体でまとめて見るだけのところが多く、65%
- いちばん多い節水の工夫は節水型のシャワーで34%。一方で、30%は節水の取り組みをしていなかった
- グレーウォーターとトイレの排水を分けて流す配管は、ほとんどのホテルで入っていなかった
CORDISの成果のまとめは、地域の6,000のホテルから情報を集めたと書いており、最終報告の73施設とは数え方が違う。
日本の宿に置き換えると
InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)として、季節で客の数が大きく変わる40室の宿が、グレーウォーターをトイレに使う場合を考える。
- トイレに必要な水は、繁忙期120日が1日9立方メートル、それ以外の245日が1日3立方メートル
- 処理の能力を1日6立方メートルにすると、繁忙期は6立方メートル、それ以外は3立方メートルを使える。1年で720+735=1,455立方メートル
- 能力を1日9立方メートルに増やすと、繁忙期に9立方メートル使えて、1年で1,080+735=1,815立方メートル
- 水の代金を1立方メートル600円とすると、年87万3,000円と108万9,000円。能力を1.5倍にしても、増えるのは繁忙期の360立方メートル(21万6,000円)だけ
ホテル・サンバのように季節で水の量が3倍以上変わる宿では、月ごとの水の量を見てから処理の能力を決めると、設備を大きくしすぎずにすむ。
数字の元をたどる
「30〜50%」はホテル・サンバで測った値ではなく、技術を組み合わせたときの見込みだった。研究の報告書は、循環を閉じきれなかったことや、規則が壁になったことも書いている。よく引かれる数字は、元の報告書の言葉で確かめると、意味がはっきりする。
持ち帰れる知識
- 「30〜50%」は組み合わせたときの見込みで、ホテルで測った値ではない
- 「1人1日最大1,500リットル・住民の8倍」は寄稿の数字で、出典は示されていない
- ホテル・サンバの水道水は、季節で1か月1,500〜5,000立方メートルの幅があった
- スペインでは、再生した水をトイレに使うには、印をつけた別の配管が条件になる
宿で考えられること
- 月ごとの水の量を並べ、繁忙期とそれ以外の差を知る
- 処理の能力は、トイレに必要な水の量の季節の差を見て決める
- 処理装置を客から見える場所に置けるか、安全の面とあわせて考える
- よく引かれる節水の割合は、元の報告書の言葉で確かめる
事業・予約への接続
水の再利用を伝えるときは、何の水を何に使い、どれだけ減ったかを、測った値か見込みかを分けて書くと伝わりやすい。客から見える設備があれば、説明の札を添えることもできる。
Sources / 参考情報
- Smart Water Magazine(英文) - 水の節約で先を行くホテルが一歩進んでいる理由(寄稿)(2024年10月31日)
裏付け: 1人1日最大1,500リットル・住民の8倍(出典の記載なし)、DemEAUmedで最大30〜50%、プロジェクトの一環としてホテル・サンバが400室超のグレーウォーターをトイレに、2億6,000万リットル・オリンピックのプール80杯分 - CORDIS(英文) - DemEAUmedの最終報告の要約
裏付け: 第7次研究枠組み計画、2014年1月1日〜2017年6月30日の42か月、7か国、地中海の観光と水不足、水道水1か月1,500〜5,000立方メートル、客室・厨房・プール・地下、3つの処理の流れと8つの技術、グレーウォーターの4つの技術、垂直の装置(プールバー・木の柵・1日2立方メートル・1.5キロワット時・0.25ユーロで2〜3ユーロ・0.6〜0.65ユーロ)、EUに水質の基準がない、王令1620/2007(印をつけた別の配管・霧状の水)、規則が普及の壁、スペインが最初の市場、73施設の調査(水道73%・井戸17%・全体での把握65%・節水シャワー34%・取り組みなし30%・分けた配管はほとんどない) - CORDIS(英文) - 技術を組み合わせてホテルの水を節約する(2017年11月16日)
裏付け: ブッティリエーリ氏(カタルーニャ水研究所・科学責任者)、6,000のホテルから情報、441室の3つ星、8つの技術、組み合わせで最大30〜50%、技術的な理由とEUの制限で循環を完全には閉じられなかった - demEAUmed(英文) - 8つの技術の実証の結果(2017年10月10日)
裏付け: グレーウォーターの処理の流れで95・97・89・71%と医薬品の成分など、排水の処理の流れの構成、排水の少なくとも30%を安全に再利用できるという計算 - Water, Air, & Soil Pollution(英文) - 欧州・地中海のリゾートの水の循環の中の微量の有機汚染物質(2025年12月12日)
裏付け: ホテル・サンバの水の使用量は1人1日100〜135リットル