止めても、すぐに動かせる処理:英国ケント州フェイバーシャムの「プレミア・イン」が、シャワーと洗面の水を1日最大3立方メートル、すべてのトイレに回す仕組み
英国南東部ケント州の町フェイバーシャムに、ホテルチェーン「プレミア・イン」の新しいホテルができた。3階建てで、床面積は3,000平方メートル。もとは農地だった土地に建てられた。
このホテルでは、シャワー、洗面台、浴槽で使った水(グレーウォーター)を集めて処理し、ホテルのすべてのトイレを流す水に使っている。仕組みを納めたのは、英国の水の設備の会社SDSだ。
この記事では、SDSの事例紹介と、業界誌の記事から、小さな建物でグレーウォーターを使うための工夫を読む。
何のための仕組みか
SDSの事例紹介によると、SDSは、新しいホテルが水を使い、流すことで、地域の環境と既存の水道や下水の設備にかける負担を小さくするために呼ばれた。
- シャワー、洗面台、浴槽の水を集め、すべてのトイレを流すのに使う
- ホテルの水道の水と、流す排水を、1日最大3立方メートル減らす
- 建物の中の機械室が狭かったため、集めた水と処理した水のタンクを地下に置く、従来より小さな仕組みを選んだ
1日3立方メートルは「最大」の値で、毎日の実績ではない。
設備の中身
事例紹介に書かれている設備は次のとおりだ。
- 集めたグレーウォーターは、地下の4.4立方メートルのタンクにためる。タンクの中のポンプが、1時間に最大2立方メートルを処理の装置に送る
- 地上にあるのは、処理した水をためる1,000リットルのタンクと、トイレに送るポンプなどだけで、場所は約5平方メートル
- 消毒には、液体ではなく固形の塩素を使う。英国の有害物質の管理の規則のうえで安全で、補充、保管、手入れもしやすいという
- 仕組みは工場で組み立ててから運び、現場の作業は主に配管と排水、電気、薬の注入の接続だった
点検や修理のとき、仕組みを止めたときは、水道の水を処理水のタンクに送るように切り替えられる。トイレの水が止まらないようにする工夫だ。
小さな建物向けの処理装置
業界誌「ウォーター・マガジン」(2022年4月12日)によると、フェイバーシャムのホテルは、SDSが小さな建物向けに出した処理装置の最初の導入先だ。記事は、このホテルを「84ベッドの新しいプレミア・イン」と書いている。
- 50〜150室のホテルのように、水の使用量が少ない建物に向いている
- 装置は幅800ミリ、奥行き600ミリ、高さ1,800ミリで、ドアを通る大きさ
- 処理の能力は、1時間に最大1立方メートル。主にトイレを流す水に使う
- 処理は2段階で、カートリッジのフィルターのあとに、ナノろ過という細かい膜でこす。どちらも自動で逆に水を流して掃除する
記事は、英国の規格(BS 8525)の要件に合っているとも書いている。
なぜ「止めても動かせる」が大事か
グレーウォーターの処理には、微生物と膜を組み合わせた装置(MBR)がよく使われてきた。#328では、スペインのホテルでのMBRの実験を読んだ。
同じ記事でSDSは、MBRの弱みを次のように説明している。
- MBRは、効果を保つためにグレーウォーターが絶えず入ってくる必要がある
- 止めたあと、元の性能に戻るまで時間がかかる
SDSの担当者は、手洗いやシャワーから十分なグレーウォーターが出ない小さな建物でも使える技術を作りたかったと話す。また、MBRの手入れの手間に不満をもつ運営者がいて、新型コロナの時期に動かしたり止めたりを繰り返したあと、MBRを止めたままにしたところもあったという。
SDSの装置は、必要なときに速く処理する方式で、休みの時期に止めても、また動かしやすいとしている。担当者は、よく設計された装置なら10年以内に投資を回収でき、装置の寿命はその3倍以上と見込んでいる。いずれもメーカーの説明だ。
英国の水の事情
英国の環境庁の長官は、2019年3月19日の講演で、水道会社の計画では、多くの場合20〜25年後に、水の需要が供給を上回ると話した。この交わる点を「死のあご」と呼び、手を打たなければ必要な水が足りなくなると警告した。
建物の水の決まりでは、イングランドの建築規則の36条が、新しい住宅で1人1日に使う水を125リットル以下(計画の条件で求められた場合は110リットル以下)にするよう定めている。この条文の題は「新しい住宅の水の効率」で、住宅についての決まりだ。
SDSの担当者は、2022年9月14日の業界誌への寄稿で、グレーウォーターの仕組みは、建物全体に別の配管が必要なので、新しい建物に入れるのがいちばん向いていると書いている。
日本の宿に置き換えると
InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)として、50室のビジネスホテルを新しく建てるときに、グレーウォーターをトイレに使う場合を考える。
- 稼働率80%、1室1.2人とすると、1日の宿泊客は48人
- トイレの水を1人1日30リットルとすると、1日約1.44立方メートル
- シャワーと洗面の水を1人1日80リットルとすると、1日約3.84立方メートル出る。トイレに必要な量の約2.7倍
- 水道と下水を合わせて1立方メートル600円とすると、トイレの水を置き換えて浮くのは、1年で約525立方メートル、約31万5,000円
グレーウォーターの量は足りる。決め手になるのは、処理の装置を置く場所、休館や閑散期に止めたときの扱い、点検中に水道へ切り替える配管だ。フェイバーシャムのホテルのように、タンクを地下に置き、地上の設備を小さくまとめる方法もある。
小さな建物で続けるために
フェイバーシャムのプレミア・インは、地下のタンクと約5平方メートルの地上の設備で、すべてのトイレにグレーウォーターを回している。止めても動かしやすい処理、水道への切り替え、扱いやすい消毒という工夫は、水の量が少ない小さな宿で仕組みを続けるための条件でもある。
持ち帰れる知識
- 1日3立方メートルは最大の値で、毎日の実績ではない
- MBRは絶えず水が入る必要があり、止めると元に戻るまで時間がかかる(メーカーの説明)
- 点検や停止のときは、水道の水に切り替えられるようにしてある
- イングランドの建築規則の水の上限(1人1日125リットル)は、新しい住宅についての決まり
宿で考えられること
- シャワーと洗面から出る水と、トイレで使う水の量を比べる
- 休館や閑散期に処理の装置を止めるかどうかを、方式を選ぶ前に決めておく
- 点検中に水道の水へ切り替えられる配管にする
- 機械室が狭ければ、タンクを地下や屋外に置けるか検討する
事業・予約への接続
トイレの水にグレーウォーターを使う宿は、どの水をどこに使っているかを客室の案内で短く伝えられる。設備を止めたときも水道に切り替わることを添えると、安心して使ってもらえる。
Sources / 参考情報
- SDS Infrastructure(英文) - プレミア・イン フェイバーシャムの事例
裏付け: 3階建て・床面積3,000平方メートル・元の農地、地域の環境と既存の設備への負担を小さくする、シャワー・洗面台・浴槽の水をすべてのトイレに、水の供給と排水を1日最大3立方メートル減らす、機械室が狭く地下にタンク、工場で組み立て、4.4立方メートルのタンク・ポンプ1時間2立方メートル、地上は約5平方メートル・1,000リットルのタンク・送水ポンプ、固形の塩素(COSHHの規則)、点検や停止のときは水道に切り替え - Water Magazine(英文) - SDSが小さな建物向けのグレーウォーター処理装置を発売(2022年4月12日)
裏付け: 50〜150室のホテルに向く、最初の導入は84ベッドの新しいプレミア・イン フェイバーシャム、MBRは絶えず水が必要で止めると戻るのに時間がかかる、担当者の話(小さな建物・コロナの時期にMBRを止めた運営者・10年以内の回収と3倍以上の寿命)、800×600×1,800ミリ、1時間最大1立方メートル、カートリッジのフィルターとナノろ過・自動の逆洗、固形の次亜塩素酸カルシウム、BS 8525 - Modern Building Services(英文) - グレーウォーターの再利用は「死のあご」から救えるか(SDSの担当者の寄稿)(2022年9月14日)
裏付け: フェイバーシャムが最初の導入先、MBRとの比較、グレーウォーターは別の配管が必要で新しい建物に最も向く - GOV.UK(英文) - 「死のあご」から逃れる:2050年に十分な水を確保する(環境庁長官の講演)(2019年3月19日)
裏付け: 水道会社の計画では20〜25年後に需要と供給の線が交わる、それを「死のあご」と呼ぶ - legislation.gov.uk(英文) - 建築規則2010 第36条 新しい住宅の水の効率
裏付け: イングランドでは新しい住宅で1人1日125リットル、計画の条件があれば110リットル