1室あたりの屋根は、階数が増えるほど小さくなる:ホテルの電気を屋根の太陽光でどこまでまかなえるかを、米国の統計と国立研究所の研究から考える
ホテルの屋根に太陽光パネルを載せたら、電気のどれだけをまかなえるのか。答えは、建物がどれだけ電気を使うかと、屋根がどれだけ広いかの釣り合いで決まる。
この記事では、米国エネルギー情報局(EIA)の商業ビルの統計で、ホテルが床面積あたりどれだけ電気を使うかを確かめる。次に、米国の国立再生可能エネルギー研究所(NREL)の研究で、屋根の太陽光がどれだけ発電できると見積もられているかを見る。そのうえで、階数によって屋根でまかなえる割合がどう変わるかを、仮定を置いて計算する。
ホテルは床面積あたりどれだけ電気を使うか
EIAの「商業ビルのエネルギー消費調査」の2018年の結果(2022年12月公表)によると、米国のホテルと、モーテル・インの電気の使い方は次のとおりだ。
- ホテル:約6万6,000棟。1棟あたりの床面積は平均5万4,000平方フィート(約5,000平方メートル)、1棟あたりの電気は年70万3,000キロワット時、床面積1平方フィートあたり13.0キロワット時
- モーテル・イン:約4万1,000棟。1棟あたりの床面積は平均1万4,500平方フィート(約1,350平方メートル)、1棟あたりの電気は年22万2,000キロワット時、1平方フィートあたり15.3キロワット時
1平方フィートあたり13.0キロワット時は、1平方メートルあたりに直すと約140キロワット時になる。
同じホテルでも、使う電気は大きく違う
同じ統計は、建物ごとの電気の使い方のばらつきも示している。ホテルでは、床面積1平方フィートあたりの電気が、少ない方から4分の1の建物で8.7キロワット時以下、真ん中が12.8キロワット時、多い方から4分の1の建物で18.4キロワット時以上だった。
いちばん多いグループと少ないグループで、2倍以上の差がある。平均の数字で自分の宿を見積もるより、電気の請求書から1年の使用量を出すほうが確かだ。
屋根の太陽光は、どれだけ発電できると見積もられているか
NRELの研究者たちは、2016年の報告書と2018年の論文で、米国の建物の屋根に太陽光を載せたらどれだけ発電できるかを見積もった。航空機からのレーザー測量のデータで、128の都市の屋根の形、向き、影を調べ、全国に広げた計算だ。
- 太陽光に向いた屋根は81億3,000万平方メートル、載せられる太陽光は1,118ギガワット、発電は年1兆4,320億キロワット時
- これは、2013年に米国本土で売られた電気の38.6%にあたる
- 床面積5,000平方フィートを超える建物では、99%以上で、少なくとも一部の屋根が太陽光に向いている
- 小さな建物では、83%の建物に向いた場所があるが、向いているのは屋根全体の面積の26%だけ
2018年の論文の計算では、パネル1平方メートルあたりの出力を160ワットとし、向いた屋根の面積に対するパネルの面積の割合を、平らな屋根で0.70、傾いた屋根で0.98とした。設備の性能は、2015年に設置された太陽光の平均を前提にしている。パネルの性能が上がれば、同じ屋根でも発電は増える。
階数が増えると、屋根の割合は下がる
太陽光が使えるのは屋根だけだが、電気を使うのは各階の床すべてだ。同じ床面積でも、平屋なら屋根は床と同じ広さになり、5階建てなら床の5分の1になる。
客室を上に積み重ねる都市のホテルほど、1室あたりの屋根は小さくなる。#256で読んだ米国ペンシルベニア州の「コートヤード・ランカスター」は、必要なパネルがホテルの屋根に収まらず、近くの倉庫の屋根に置いていた。
日本の宿に置き換えると
InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)として、屋根の太陽光で電気の何割をまかなえるかを、階数ごとに計算する。
- 宿が使う電気を、床面積1平方メートルあたり年140キロワット時とする
- 屋根の60%にパネルを置け、そのパネルを置いた部分1平方メートルあたり年150キロワット時を発電するとする。屋根1平方メートルあたりにならすと年90キロワット時
- 屋根でまかなえる割合は、90÷(140×階数)で求められる
結果は次のようになる。
- 平屋:約64%
- 2階建て:約32%
- 3階建て:約21%
- 5階建て:約13%
- 10階建て:約6%
5階建て・延べ3,000平方メートル・40室の宿で考えると、屋根は600平方メートル、1室あたり15平方メートル。電気は年42万キロワット時で、屋根の太陽光は年5万4,000キロワット時、約12.9%をまかなう。電気代を1キロワット時30円とすると、年162万円分だ。
照明や空調の見直しで電気を10%減らすと、使う電気は年37万8,000キロワット時になり、同じ屋根で約14.3%をまかなえる。先に電気を減らすほど、屋根の太陽光の割合は上がる。
屋根で足りない分をどうするか
屋根で足りない分を、離れた場所の再生可能エネルギーで補う方法もある。環境省の資料(2021年3月作成、2022年3月更新)によると、「オフサイトコーポレートPPA」は、発電事業者と電気を買う側が、あらかじめ決めた価格と期間で再生可能エネルギーの電気の売買契約を結び、離れた場所の発電所の電気を、電力網を通して届ける契約の方式だ。
資料は、日本では、発電事業者と電気を買う側が直接契約する方法と、小売電気事業者を間に入れる方法の2つが考えられるとしている。また、2021年11月から、自己託送の定義が広がり、発電事業者と電気を買う側が「密接な関係」になくても、共同の組合をつくれば直接契約できるようになったと説明している。
屋根の広さから考える
屋根の太陽光でまかなえる割合は、パネルの性能よりも、建物の階数と、使う電気の量で大きく変わる。まず1年の電気の量と屋根の広さを並べ、屋根でまかなえる上限を知る。そのうえで、電気を減らす工夫と、屋根の外から補う方法を組み合わせて考えると、目標を立てやすい。
持ち帰れる知識
- 屋根でまかなえる割合は、階数が増えるほど下がる
- 同じホテルでも電気の使い方は大きく違うので、自分の宿の請求書から見積もる
- NRELの計算では、平らな屋根のパネルの面積は、太陽光に向いた屋根の70%としている
- 屋根で足りない分は、離れた発電所の電気を契約で買う方法もある
宿で考えられること
- 電気の請求書から、1年の電気の量を出す
- 屋根の広さと、パネルを置ける部分を図面で確かめる
- 照明や空調の見直しで、先に電気を減らす
- 屋根で足りない分を、契約で補う方法も比べる
事業・予約への接続
屋根の太陽光を入れた宿は、電気の何割をまかなっているかを、1年の発電量と使用量で示すと伝わりやすい。屋根の外から補っている分があれば、分けて書くと正確に伝わる。
Sources / 参考情報
- U.S. Energy Information Administration(英文) - 商業ビルのエネルギー消費調査2018 表C22 建物の用途別の電気の消費(PDF)(2022年12月)
裏付け: ホテル6万6,000棟・1棟5万4,000平方フィート・70万3,000キロワット時・13.0キロワット時(25%点8.7・中央12.8・75%点18.4)、モーテル・イン4万1,000棟・1万4,500平方フィート・22万2,000キロワット時・15.3キロワット時 - U.S. Energy Information Administration(英文) - 商業ビルのエネルギー消費調査2018 表C14 電気の消費と支出の強度(PDF)
裏付け: 宿泊の建物全体で1平方フィートあたり14.4キロワット時(参考) - OSTI(英文) - 米国の屋根の太陽光の技術的な可能性:詳しい評価(NRELの報告書)(2016年1月)
裏付け: 128都市・レーザー測量、小さな建物の83%に向いた場所・屋根全体の26%、1,118ギガワット・1兆4,320億キロワット時・電気の販売量の39% - Environmental Research Letters(英文) - GIS、レーザー測量、統計モデルを組み合わせた米国の屋根の太陽光の技術的な可能性の見積もり(2018年2月13日)
裏付け: 向いた屋根81億3,000万平方メートル・1,118ギガワット・1兆4,320億キロワット時・2013年の販売量の38.6%、5,000平方フィートを超える建物の99%以上、パネル1平方メートル160ワット、パネルの面積の割合(平らな屋根0.70・傾いた屋根0.98)、2015年の平均的な設備の性能を前提 - 環境省 - オフサイトコーポレートPPAについて(PDF)(2021年3月作成、2022年3月更新)
裏付け: オフサイトコーポレートPPAの定義、日本では直接型と間接型、2021年11月からの自己託送の定義の拡大と組合