実験室のろ過が示したことと、まだ示していないこと:インド・マイソールの大学の男子寮で、シャワーや台所の排水を砂と砂利でろ過した研究
シャワーや洗面、洗濯、台所から出る排水は、トイレの排水とは別に「グレーウォーター」と呼ばれる。比較的汚れが少ないため、処理してトイレの洗浄などに使い直す方法が研究されている。
インド南部カルナータカ州マイソールにある、JSS科学技術大学のSJCE男子寮で、寮のグレーウォーターを砂と砂利のろ過で処理する研究が行われた。研究者のヘマラタ D. S. とサダシヴァ・ムルティ B. M. の論文は、インドの水の業界サイト「EverythingAboutWater」に事例研究として掲載されている。
この研究は、実験室の小さなろ過装置で水がどれだけきれいになるかを調べ、寮で使った場合の見込みを計算したものだ。実際に寮に装置を置いて使った結果ではない。この違いを分けて読むと、宿で応用するときに何を確かめればよいかが見えてくる。
寮で集めた4種類の排水
寮には台所と食堂、学生約650人が住む3つの大きな棟、大学院生55人の棟、約120人が住むゲストハウスの6つの棟がある。1号棟の裏には洗濯機が3台あり、入浴用のお湯は太陽熱温水器とボイラーでつくっている。
研究では、浴室、手洗いの洗面台、洗濯機、台所の4か所から、排水をそれぞれ別の容器に集めた。実験室に持ち帰って4度で保管し、種類ごとに水質を調べた。
実験室のろ過装置で調べたこと
ろ過装置は、厚いアクリル製の、四角い縦型の装置だ。4種類の排水を別々にろ過し、濁り、固形物、塩化物、生物化学的酸素要求量(BOD)、化学的酸素要求量(COD)、リン酸、大腸菌群の数(MPN)がどれだけ減るかを調べた。
論文によると、砂と砂利のろ過で、次のように減った。
- 濁り:約90%
- 固形物の総量:約63%
- BOD:約55%
- リン酸:約87%
- 大腸菌群の数:約61%
研究者たちは、砂と砂利のろ過は電気などの外からのエネルギーがいらず、運転や手入れが簡単で、その土地で手に入る材料を使えると説明している。また、寮全体で1か所にまとめて処理する案と、棟ごとに処理する案の設計も示した。
トイレの水をどれだけ減らせるかの見込み
研究者たちは、処理した水を1号棟のトイレの洗浄に使うことを提案した。論文の見込みの計算は次のとおりだ。
- トイレのタンクの数:28
- タンク1つの容量:10リットル
- 住んでいる人:170人
- 1人がトイレを使う回数:1日2回
- 必要な水:28×10×170×2=1日9万5,200リットル(95.2キロリットル)
- 1日に出るグレーウォーター:77.96キロリットル
論文はこの計算から、処理した水を1号棟のトイレに使えば、きれいな水の使用を約60〜75%減らせると結論づけている。
ただ、この式はタンクの数28も掛け合わせている。170人が1日2回、1回10リットルを流すとして計算すると、1日3,400リットルになる。また、77.96キロリットルがどの範囲の建物から出る量なのか、60〜75%が何に対する割合なのかは、論文の中では説明されていない。
似た研究でも、結果は大きく違う
マレーシアのペルリス大学の研究者たちは、大学の寮から集めたグレーウォーターを、6つの砂のろ過装置で処理する研究を2021年に発表した。3つは砂と砂利だけ、残りの3つはヤシ殻の活性炭を加えたものだ。
最も減った場合で、浮いている固形物が94%、BODが96%、CODが93%、リン酸が57%、アンモニア性窒素が37%減った。活性炭を加えたほうが、汚れをよく取り除いた。
SJCE男子寮の研究では、BODは約55%、リン酸は約87%の減少だった。同じ寮のグレーウォーターを砂でろ過する研究でも、何がどれだけ減るかは違っている。
排水の種類と、ろ過の前の工程が結果を左右する
インドの研究者による、砂などの粒のろ材でグレーウォーターを処理した研究のレビュー(2022年)は、洗面台、浴室、シャワーの排水を汚れの少ない「ライトグレーウォーター」、台所、食器洗い機、洗濯の排水を汚れの多い「ダークグレーウォーター」に分けている。
レビューは、処理していないグレーウォーターを、庭の水やりや、トイレの洗浄などに使うのは安全ではないと書いている。また、ろ過の結果は、ろ材の性質や運転の条件だけでなく、もとの排水の水質にも大きく左右されるとまとめている。ろ過の前の処理は、ろ過の性能と、使い続けられる期間に影響する。
世界保健機関(WHO)は2006年に、排水、し尿、グレーウォーターを農業と養殖で安全に使うための指針の第3版を、4巻で出した。指針は、その土地の条件で現実的に達成できる健康の目標を決め、それに合わせて危険を評価し管理する、柔軟な考え方を示している。SJCE男子寮の論文も、この指針を参考文献に挙げている。
日本の宿に置き換えると
日本では、建物の中で出た排水を処理してトイレなどに使う水を「雑用水」と呼ぶ。厚生労働省によると、大きな建物(特定建築物)でトイレの洗浄に雑用水を使う場合、蛇口の水に塩素が一定以上残るようにし、7日以内ごとに残っている塩素、pH、におい、見た目を、2か月以内ごとに大腸菌を調べる。大腸菌は「検出されないこと」が基準だ。トイレの水を手洗いや温水洗浄便座にも使う場合は、飲み水と同じ扱いになる。
InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)として、小さな宿のトイレの水を考える。
- 20室、稼働率70%、1室1.8人として、1日に泊まる人は約25人
- 1人がトイレを1日4回、1回6リットル流すとすると、トイレの水は1日600リットル。1年で219立方メートル、水道代を1立方メートル600円とすると約13万1,400円
- 1人がシャワーと洗面で1日70リットル使うとすると、グレーウォーターは1日1,750リットル。トイレに必要な水の約2.9倍あり、量は足りる
- 宿全体で1人1日200リットル使うとすると、全体は1日5,000リットル。トイレの600リットルは、その12%にあたる
トイレの水を全部置き換えても、トイレの水から見れば100%の削減、宿全体の水から見れば12%の削減になる。何に対する割合かで、同じ取り組みの数字は大きく変わる。
また、式に便器の数(たとえば20)まで掛けると、トイレの水は1日1万2,000リットルになり、実際の20倍の量を見込むことになる。
見込みの数字は、計算の式から確かめる
SJCE男子寮の研究は、身近な材料でグレーウォーターの濁りやリン酸を減らせることを、実験室で示した。一方で、寮でどれだけ水を減らせるかは、実際に使って測った結果ではなく、見込みの計算だ。宿で同じような数字を見たときは、式と分母、そして実験か実際の運転かを確かめると、正しく判断できる。
持ち帰れる知識
- 実験室の結果と、建物で使った結果は分けて読む
- ろ過の結果は、排水の種類やろ材によって大きく違う
- 「何%減る」は、何に対する割合かを確かめる
- 日本でトイレに使う場合は、塩素と大腸菌などの基準がある
宿で考えられること
- トイレの水を、泊まる人の数と回数、1回の量から計算する
- シャワーと洗面の排水と、台所や洗濯の排水を分けて考える
- 削減の割合を、トイレの水と宿全体の水の両方で出す
- 塩素による消毒と水質の検査の手間も、計画に入れる
事業・予約への接続
グレーウォーターを使う宿は、何の水を何に使っているか、宿全体の水のうちどれだけを置き換えているかを書くと伝わりやすい。水質をどう管理しているかも合わせて示すと、安心につながる。
Sources / 参考情報
- EverythingAboutWater(英文) - グレーウォーターの再生と再利用:事例研究(ヘマラタ D. S.、サダシヴァ・ムルティ B. M.)(2022年)
裏付け: SJCE男子寮・JSS科学技術大学・マイソール、寮の構成(約650人・55人・約120人・洗濯機3台・太陽熱温水器)、4か所の排水・4度で保管、アクリルの縦型装置、濁り90・固形物63・BOD55・リン酸87・MPN61%、エネルギー不要、2つの設計案、タンク28・10リットル・170人・1日2回・9万5,200リットル、77.96キロリットル、60〜75% - IOP Conference Series: Earth and Environmental Science(英文) - グレーウォーターの処理に砂のろ過を使う研究(ペルリス大学)(2021年)
裏付け: 大学の寮のグレーウォーター、6つの装置(3つは砂と砂利、3つはヤシ殻活性炭入り)、アンモニア性窒素37・浮遊物94・BOD96・COD93・リン酸57%、活性炭入りのほうがよい - Water Science & Technology(英文) - 粒状のろ材によるグレーウォーターの現地処理:レビュー(2022年8月27日)
裏付け: ライトとダークのグレーウォーターの分け方、処理していない水の再利用は安全でない、もとの水質がろ過の性能を左右する、前処理が性能と運転期間に影響 - 厚生労働省 - 建築物環境衛生管理基準について
裏付け: 雑用水の定義、水洗便所用水のpH・臭気・外観・大腸菌(検出されないこと)、遊離残留塩素0.1mg/L以上・7日以内ごと、大腸菌は2か月以内ごと、手洗いや温水洗浄便座に併用する場合は飲料水の扱い - World Health Organization(英文) - 排水、グレーウォーター、し尿の安全な利用の指針
裏付け: 2006年の第3版(農業と養殖での利用)・4巻、その土地の条件で現実的な健康の目標と結びついた、危険の評価と管理の柔軟な考え方