GOAL 7 · TARGET 7.2 エネルギー・脱炭素 4分 / 2441文字 3つの宿の答えを並べる型 #341

同じ業者、3つの宿、3つの答え:インドのホテルのお湯は「太陽熱だけ」「太陽熱とヒートポンプ」「ヒートポンプだけ」

インドの給湯設備の会社「エナジェン・ハイブリッド・システムズ(Energen Hybrid Systems)」は、自社のウェブサイトに、ホテル向けの事例を並べている。そのうち3つの宿は、どれも客室や厨房に毎日たくさんのお湯を使う。それなのに、選んだ仕組みは3つともちがう。

この記事では、会社のページに書かれた部品の一覧を読み比べる。そのうえで、インドの建物の省エネ基準が太陽熱の給湯をどう求めているかを確かめ、日本の宿に置き換えて考える。

3つの宿が必要とするお湯

会社のホテル向けのページ(フッターの表示は2021年)によると、3つの宿が必要とするお湯は次のとおりだ。

  • バンガロールの5つ星ホテル(DANホスピタリティ社):1日5万リットル、65℃
  • チェンナイの4つ星ホテル「ル・パレス」:1日1万2,500リットル、55℃。客室、厨房、バー、レストランに使う
  • チェンナイの5つ星ホテル「ITCグランド・チョーラ」:1日1万リットル、55℃。客室、厨房、バー、レストランに使う

同じ会社の事例一覧のページには、バンガロールの「DANホスピタリティ」と「ザ・デン」が、どちらも1日5万リットル・65℃として載っている。

部品の一覧を読み比べる

ページは、3つの宿に入れた設備の部品を書いている。

  • ITCグランド・チョーラ:1,000リットルのタンク4基、2平方メートルの集熱器48枚、太陽熱の循環ポンプ2台(1台は予備)。ヒートポンプは書かれていない
  • ル・パレス:1,000リットルのタンク5基、2平方メートルの集熱器21枚、20キロワットのヒートポンプ2台
  • バンガロールのホテル:5,000リットルのタンク2基、84キロワットの高温用ヒートポンプ4台、熱交換器4基など。集熱器は書かれていない

ページは、バンガロールのホテルの設備を「ソーラー・ハイブリッド」の給湯システムと呼んでいる。ただ、部品の一覧に集熱器はない。設計を提案して設置したのは、コンサルタントのRSPインディアだと書かれている。

お湯の量から、必要な熱を計算する

水1リットルを1℃上げるには、約1.163ワット時の熱が要る。入ってくる水を25℃と仮定して、3つの宿が1日に必要な熱を計算すると、次のようになる。

  • ITCグランド・チョーラ:1万リットルを55℃に上げるので、1日約349キロワット時
  • ル・パレス:1万2,500リットルを55℃に上げるので、1日約436キロワット時
  • バンガロールのホテル:5万リットルを65℃に上げるので、1日約2,326キロワット時

バンガロールのホテルのヒートポンプは、4台合わせて336キロワットだ。2,326キロワット時をつくるには、4台が全力で約6.9時間動く計算になる。

1,000リットルあたりの集熱器の広さ

集熱器の広さを、お湯1,000リットルあたりで比べてみる。

  • ITCグランド・チョーラ:48枚×2平方メートル=96平方メートル。1,000リットルあたり9.6平方メートル
  • ル・パレス:21枚×2平方メートル=42平方メートル。1,000リットルあたり約3.4平方メートル

ITCグランド・チョーラは太陽熱だけでお湯をつくる設計なので、集熱器を広くとっている。ル・パレスは集熱器を少なくし、足りない分をヒートポンプで補う。屋根の広さ、天気、お湯の温度によって、組み合わせ方が変わることがわかる。

インドの基準は、ホテルに太陽熱を求めている

インドのエネルギー効率局(BEE)が2017年6月に出した建物の省エネ基準「ECBC 2017」は、宿泊と医療の建物に、すべての気候帯で太陽熱の給湯を設けることを求めている。

  • 地上の床面積が2万平方メートル未満なら、給湯の設計容量の20%以上
  • 2万平方メートル以上なら、40%以上
  • 熱回収でまかなう場合は、この限りではない

基準の対象は、契約電力が100キロワット以上か、120キロボルトアンペア以上の商業用の建物だ。

ただし、太陽熱の業界ニュースサイト「ソーラーサーマルワールド」の2017年7月の記事によると、ECBCは国の枠組みで、それだけでは強制力がない。各地の自治体が告示して、はじめて義務になる。記事は、より高い水準の「ECBCプラス」と「スーパーECBC」では、ホテルと病院に40%と60%を求めているとも書いている。

日本の宿に置き換えると

日本では、厚生労働省が、建物の給湯の衛生管理について説明している。中央式の給湯設備を設けている場合は、給湯の水の水質検査が必要だ。ただし、維持管理が適切で、末端の蛇口で水温が55度以上に保たれている場合は、遊離残留塩素の検査を省略してもよいとしている。お湯の温度は、使う量とともに、つくる熱を決める大事な数字だ。

InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)として、20室の宿で考える。

  • 稼働率70%、1室1.5人で、1日21人。1人120リットルのお湯を使うとすると、1日2,520リットル
  • 15℃の水を55℃に上げると、1日約117.2キロワット時、年約4万2,789キロワット時
  • 電気のヒーターでわかすと、電気代は1キロワット時30円で年約128.4万円
  • ヒートポンプ(効率3倍)なら、電気は年約1万4,263キロワット時、年約42.8万円
  • 太陽熱で熱の30%をまかない、残りをヒートポンプでつくると、電気は年約9,984キロワット時、年約30.0万円

まず、お湯の量と温度を書き出す

3つの宿は、同じ会社の設備を入れながら、太陽熱だけ、太陽熱とヒートポンプ、ヒートポンプだけと、ちがう答えを選んだ。どれが正しいかは、お湯の量、必要な温度、屋根の広さで変わる。

自分の宿で考えるときは、1日のお湯の量と温度を書き出し、必要な熱を計算するところから始めたい。そのうえで、屋根に置ける集熱器の広さと、ヒートポンプの大きさを比べると、組み合わせ方が見えてくる。

持ち帰れる知識

  • お湯の量と温度から、1日に必要な熱を計算できる(1リットルを1℃上げるのに約1.163ワット時)
  • 太陽熱だけでつくるなら、集熱器を広くとる必要がある
  • インドのECBC 2017は、ホテルに給湯の20〜40%を太陽熱でまかなうよう求めている(自治体の告示で義務になる)
  • 日本では、中央式の給湯で末端55度以上を保つと、検査の一部を省略できる

宿で考えられること

  • 1日のお湯の量と、必要な温度を書き出す
  • 屋根に置ける集熱器の広さを確かめる
  • 太陽熱、ヒートポンプ、その組み合わせで、電気やガスの量を比べる
  • お湯の温度の管理を、衛生の面からも確かめる

事業・予約への接続

お湯のつくり方を紹介するときは、「太陽熱で何割をまかなうか」と「残りを何でつくるか」を分けて書くと伝わりやすい。設備の名前だけでなく、仕組みを書くことが信頼につながる。

Sources / 参考情報

  • Energen Hybrid Systems(英文) - ホテル業向けの給湯システム(フッターの表示は2021年)
    裏付け: DANホスピタリティの5つ星ホテル(バンガロール)1日5万リットル・65℃、コンサルタントRSPインディア、「ソーラー・ハイブリッド」、5,000リットルのタンク2基・84キロワットの高温用ヒートポンプ4台・熱交換器4基、ル・パレス(4つ星)1万2,500リットル・55℃・1,000リットルのタンク5基・2平方メートルの集熱器21枚・20キロワットのヒートポンプ2台、ITCグランド・チョーラ(5つ星)1万リットル・55℃・1,000リットルのタンク4基・集熱器48枚・循環ポンプ2台(1台は予備)
  • Energen Hybrid Systems(英文) - 事例一覧
    裏付け: DANホスピタリティ(バンガロール)とザ・デン(バンガロール)がどちらも1日5万リットル・65℃、ル・パレス1万2,500リットル・55℃
  • Bureau of Energy Efficiency(英文) - 建物の省エネ基準 ECBC 2017(PDF)(2017年6月)
    裏付け: 5.2.7.1 宿泊と医療の建物はすべての気候帯で太陽熱の給湯、地上の床面積2万平方メートル未満は設計容量の20%以上・以上は40%以上、熱回収の例外、対象は契約電力100キロワット以上か120キロボルトアンペア以上の商業用の建物
  • solarthermalworld(英文) - インド:新しい建物のエネルギー基準が太陽熱の市場を後押し(2017年7月24日)
    裏付け: ECBCは国の枠組みでそれ自体は強制ではなく自治体の告示で義務になる、ECBCプラスとスーパーECBCではホテルと病院に40%・60%
  • 厚生労働省 - 建築物環境衛生管理基準について
    裏付け: 中央式の給湯設備は給水栓で水質検査が必要、維持管理が適切で末端の給水栓の水温が55度以上なら遊離残留塩素の検査を省略してよい

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