「年9万8,000キロワット時」は見込みの数字:ロンドンの5つ星ホテルの140枚の太陽熱と、冬に足りない分を中国・武漢のホテルの研究で考える
英国の太陽熱の会社「ソーラーUK(SolarUK)」は、ロンドン中心部で建設中だった5つ星ホテルの屋根に、140枚の太陽熱の集熱器を設けた事例を公開していた。会社は事例を「タワー・ホテル」と呼び、施主を「グローバル・グランジ社」と書いている。
この記事では、事例のページに書かれた数字を割り算で読み、「見込み」の数字が何を意味するかを確かめる。そのうえで、太陽熱が弱い冬をどう補うかを、中国・武漢のホテルを対象にした2026年の研究で考える。
事例のページに書かれた数字
事例のページは、いまは会社のサイトから消えている。ウェブ・アーカイブに残る2022年8月の保存版によると、数字は次のとおりだ。
- 集熱器:「LaZer2」という真空管型を140枚
- 大きさ:140平方メートル
- 貯湯槽:1,000リットルの予熱用タンク4基
- 稼働:2011年9月
- 見込みの熱量:年9万8,000キロワット時
- 減らせる二酸化炭素:年19トン
- 1日に温める水:約7,200リットル。シャワー、手洗い、清掃に使う
ページによると、設計とエンジニアリングのコンサルタント会社と組んで、ソーラーUKが設計、納入、設置をした。建物には、49.4キロワットの太陽光発電も設けられると書かれている。
「予熱用」のタンクが意味すること
貯湯槽は「予熱用」と書かれている。太陽熱で水をある程度まで温めておき、そのあとをほかの熱源で必要な温度まで上げる使い方だ。太陽熱だけで、すべてのお湯をつくるわけではない。
見込みの熱量を、1日あたりに直す
年9万8,000キロワット時を365日で割ると、1日約268キロワット時になる。水1リットルを1℃上げるには約1.163ワット時が要るので、7,200リットルを1日に温めるとすると、平均で約32℃温める熱量にあたる。
仮に、入ってくる水を10℃、使うお湯を60℃とすると、50℃上げる必要がある。その場合、太陽熱でまかなうのは、1年の平均で約6割という計算になる。ただし、これは会社が示した見込みの熱量からの計算で、実際に測った数字ではない。
「140平方メートル」の数え方
集熱器の広さには、数え方がいくつかある。会社の「LaZer2」の製品ページ(2016年の保存版)によると、集熱器1枚の大きさは次のとおりだ。
- 外形の面積(総面積):1.346平方メートル
- 光を取り込む開口部の面積:0.932平方メートル
- 熱を吸収する部分の面積:0.796平方メートル
140枚なら、総面積で約188平方メートル、開口部の面積で約130平方メートルになる。事例の「140平方メートル」が、どの数え方なのかはページからはわからない。年9万8,000キロワット時を140で割ると、1平方メートルあたり年700キロワット時だ。総面積で割ると約520キロワット時になる。集熱器を比べるときは、どの面積で割った数字かを確かめたい。
冬は、太陽熱が足りなくなる
太陽熱は、季節で大きく変わる。中国の研究者たちが2026年に学術誌「エナジー・エンジニアリング」に発表した論文は、武漢の4つ星ホテルを対象に、太陽熱と空気熱源のヒートポンプを組み合わせた給湯を、コンピューターのシミュレーションで最適化した。
論文によると、ホテルは延べ床面積約7,000平方メートル、使える屋上は約500平方メートル、ベッドは204床だ。運営の記録では、お湯は年1万3,716トン、1床1日あたり約184リットル。お湯は60℃で、24時間供給する設計だ。
- 12月から2月は、年間の日照時間の15%しかない
- そのため、冬は集熱器の面積を65%、ヒートポンプの能力を92.5%増やす必要があった
- 夏は、余った熱をためるため、タンクを2倍以上にした
- いちばん良い組み合わせでは、ガスボイラーと比べてエネルギーを60.8%、二酸化炭素を年132.8トン減らせる。投資の回収は4.1年という計算だ
論文は、電気の価格を一定と仮定していること、製造時の二酸化炭素を含まないこと、ヒートポンプの霜取りの間のお湯の温度など、客の快適さは評価していないことを、限界として挙げている。測った数字との差は8%未満に合わせたとしているが、結果はシミュレーションだ。
日本の宿に置き換えると
国の新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が2009年12月にまとめた業務用の太陽熱の手引きによると、太陽熱の熱利用の効率は40〜60%で、太陽光発電の10〜15%の数倍になる。手引きは、集熱と蓄熱を組み合わせれば、給湯などの熱需要の30〜40%を太陽熱でまかなえるとしている。
InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)として、30室の宿で考える。
- 1日4,000リットルのお湯を、10℃から60℃に上げる。1日約232.6キロワット時、年約8万4,899キロワット時
- 太陽熱で1年の35%をまかなうと、年約2万9,715キロワット時。熱1キロワット時を15円とすると、年約44.6万円分
- 夏の日に太陽熱が60%をまかなうなら、1日約139.6キロワット時
- 冬の日に15%しかまかなえないなら、1日約34.9キロワット時。残りの約197.7キロワット時は、ほかの熱源でつくる
1年の平均が35%でも、冬の日は85%をほかの熱源に頼る。ボイラーやヒートポンプは、太陽熱がない日でもお湯をまかなえる大きさが必要になる。
見込みと季節を分けて読む
ソーラーUKの年9万8,000キロワット時は、稼働前の見込みの数字だ。1日あたりに直すと、何℃温める熱にあたるのかがわかる。そして、1年の平均の裏には、夏と冬の大きな差がある。
太陽熱を考えるときは、1年の数字と冬の数字を分けて見積もり、足りない分を何で補うかを先に決めておきたい。
持ち帰れる知識
- 見込みの熱量を1日あたりに直すと、何℃温める熱にあたるかがわかる
- 集熱器の面積には、総面積、開口部の面積、吸収する部分の面積がある
- 武漢のホテルの研究では、冬は集熱器を65%、ヒートポンプを92.5%増やす必要があった
- NEDOの手引きは、太陽熱で熱需要の30〜40%をまかなえるとしている
宿で考えられること
- 1日のお湯の量と温度から、必要な熱を計算する
- 太陽熱の見込みを、夏と冬に分けて聞く
- 冬に足りない分を補う熱源の大きさを確かめる
- 集熱器の面積が、どの数え方かを確かめる
事業・予約への接続
太陽熱の給湯を紹介するときは、「見込み」か「実績」かを分けて書くと正確に伝わる。1年の数字に加え、季節によって太陽熱の割合が変わることを書くと、理解が深まる。
Sources / 参考情報
- SolarUK(英文) - ロンドンのホテルの太陽熱の給湯(ウェブ・アーカイブの保存版)(2022年8月12日保存)
裏付け: 事例名「タワー・ホテル」、LaZer2の集熱器140枚、140平方メートル、ロンドン、二酸化炭素年19トン、1,000リットルの予熱用タンク4基、2011年9月、見込み年9万8,000キロワット時、グローバル・グランジ社の5つ星ホテル、コンサルタントと協力、49.4キロワットの太陽光発電、1日約7,200リットル(シャワー・手洗い・清掃) - SolarUK(英文) - LaZer2 太陽熱集熱器(ウェブ・アーカイブの保存版)(2016年3月22日保存)
裏付け: 総面積1.346平方メートル、開口部0.932平方メートル、吸収部0.796平方メートル - Energy Engineering(英文) - ホテル向けの全量給湯システムの性能の最適化(2026年、123巻5号)
裏付け: 武漢の4つ星ホテル、約7,000平方メートル・屋上約500平方メートル・204床、年1万3,716トン・1床1日約184リットル、60℃・24時間、12〜2月は年間日照時間の15%、冬に集熱器65%・ヒートポンプ92.5%増、夏にタンク2倍以上、60.8%・年132.8トン、回収4.1年、測定との差8%未満、限界(電気の価格一定・製造時の排出を含まない・快適さは評価外) - 資源エネルギー庁(NEDO) - 業務用太陽熱利用システムの導入検討ガイドライン(PDF)(2009年12月)
裏付け: 太陽熱の熱利用効率40〜60%・太陽光発電10〜15%、熱需要の30〜40%を太陽熱でまかなえる(太陽依存率) - ScienceDirect(英文) - 同じ論文の掲載ページ
裏付け: 表6(ガスボイラーの年45万3,220キロワット時、組み合わせ1-1の17万9,305キロワット時、初期投資41万7,200元)、ガスの年4万5,322立方メートル、1日約3万7,578リットル