同じ6台のボイラー、2つの会社の2つの数字:英国の「ダーウェント・マナー」の木質ペレットの暖房を、「年2万9,000ポンド超」と「年5万8,000ポンド」から読む
英国イングランド北東部のノーサンバーランドにある「ダーウェント・マナー・ホテル」は、暖房とお湯を、木質ペレットを燃やすボイラーでまかなっている。60キロワットのボイラーが6台で、合わせて360キロワットだ。
この設備について、2つの会社が事例を公開している。どちらも同じ6台のボイラーを書いているが、それまでの燃料と燃料費の数字がちがう。この記事では、2つの説明を並べて読み、そのうえで英国の制度の変化と、日本の木質バイオマスのボイラーの課題を考える。
ボイラーの会社の説明(2015年)
オーストリアのボイラーの会社ウィンドハーガーの英国法人の発表は、2015年7月に業界誌に、2016年3月に建築の情報サイトに載った。それによると、ホテルは次のような宿だ。
- 20エーカーの敷地にある3つ星のスパとレジャーのホテルで、ダブルの客室48室、バー6つ、会議室6つがある
- それまでの古い石油と電気の暖房を、木質ペレットのボイラーに替えた
- 施工はグリーングル・ノースイースト社。60キロワットのボイラー3台を1組にした180キロワットの設備を2組つくった
- ペレットは、石油より約30%安く、電気の半分以下の値段だと書いている
支配人は、古い石油と電気のボイラーに年2万9,000ポンド以上かかっていたと話している。また、ボイラーの効率は92%になったという。発表は、国の「再生可能熱インセンティブ(RHI)」の支払いを、20年間、年3万9,000ポンド以上受け取れる見込みだとしている。コテージは電気のボイラーを使っていたので、それぞれに温水の配管を新しく入れた。
エネルギーの会社の説明(2026年)
英国のエネルギーの会社「プラクティカル・エナジー・ソリューションズ(PES)」は、2026年7月に公開した事例のページで、同じホテルの設備を説明している。
- 本館は延べ約9,000平方メートル。別の建物に6つの独立した客室がある。14メートルの温水プール、サウナ、スパがある
- それまでは、本館はLPガス、レジャー施設は暖房用の石油、独立した客室は電気と、3つの燃料で3つの暖房を動かしていた。都市ガスは引けなかった
- 暖房の燃料費は、年約5万8,000ポンドだった
- 60キロワットのボイラー6台のうち、3台を暖房に、3台をお湯に使う
ページは、燃料費が年3万2,000ポンドになり、年2万6,000ポンド減ったと書いている。そのほかの数字は次のとおりだ。
- 投資の回収:4年
- 内部収益率:21.14%
- 温室効果ガス:78%減、二酸化炭素:年65%減
- 均等化したエネルギーの費用:25年以上、1キロワット時7.6ペンス
2つの説明を並べる
並べると、ちがいがわかる。
- それまでの燃料:2015年の発表は「石油と電気」、2026年のページは「LPガス、石油、電気」
- それまでの燃料費:2015年は支配人の話で「年2万9,000ポンド以上」、2026年は「年約5万8,000ポンド」
- 工事の会社:2015年は施工をグリーングル・ノースイースト社と書き、2026年は、PESのチームが熱の損失を調べ、敷地に熱を配る設備を設計・設置したと書いている
2026年のページの見出しは「暖房費を50%減らした」だが、表の数字では、5万8,000ポンドから2万6,000ポンド減ったので、約44.8%になる。どちらの数字が、いつの、どの範囲の燃料費なのかは、ページからはわからない。年2万6,000ポンドの節約と、2015年の発表にある年3万9,000ポンド以上のRHIの見込みが、回収4年の計算にどう入っているかも書かれていない。
6台に分ける理由
2026年のページは、6台をつなぐ「カスケード」の運転を説明している。1台が基本の負荷を受け持ち、需要が能力の90%に近づくと、2台目が自動で動き出す。先に動かすボイラーは、順番に入れ替えて、すり減り方をそろえる。1台が止まっても、ほかのボイラーが補う。ペレットは吸い込み式の装置で、ボイラーに送られる。
英国の制度は変わった
英国政府のページによると、事業者向けのRHIは、新しい申し込みの受け付けを終えている。支払いは、設備がつくった熱の量に応じて、20年にわたって行われる仕組みだった。
いまのイングランドとウェールズには、化石燃料の暖房を替える「ボイラー・アップグレード・スキーム」がある。木質バイオマスのボイラーには5,000ポンドの補助が出るが、次の条件がある。
- 建物がガスの配管網につながっていない
- 建物が農村部にある
- ボイラーが、汚染物質の排出が少ないことを示す証明を持っている
- 1つの設備の能力は45キロワットまで
ダーウェント・マナーのような大きな設備は、いまの補助の上限をこえる。2015年の数字は、当時の制度の中で計算されたものだと読んでおきたい。
日本の宿に置き換えると
林野庁の事業でまとめられた「木質バイオマスボイラー導入・運用にかかわる実務テキスト」(平成24年度の事業)は、日本でボイラーを入れるときの注意点を挙げている。
- 木質バイオマスのボイラーは出力の調整が苦手で、ピークの需要に合わせて大きさを決めると、効率よく使えない。場合によっては、ピークは化石燃料でまかない、ボイラーを小さめにして、稼働時間を長くする
- 当時の調査では、300キロワットのボイラーの設備費は7,000万〜1億2,000万円で、ドイツや英国の同じ規模の4〜8倍だった
- ペレットの値段は、小口の配送で1トン4万5,000円、やや大口で4万円弱が一般的だった。灯油と同じ燃料の単価になるのは、1トン約3万7,000円としている
InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)として、ガスが引けない山あいの30室の宿で、暖房とお湯に年30万キロワット時の熱を使うとする。
- ペレット(1キログラム3.24キロワット時、ボイラーの効率85%)なら、年約108.9トン。1トン4万5,000円なら年約490万円、3万円なら年約327万円
- 灯油(1リットル10.2キロワット時、効率85%)なら、年約3万4,602リットル。1リットル110円なら年約381万円
- 50キロワットのボイラーを3台にして、需要に合わせて台数を変える
燃料の値段によって、ペレットが安くも高くもなる。地域でペレットをいくらで、どれだけ安定して買えるかを、最初に確かめたい。
数字の「いつ」と「どこまで」を確かめる
ダーウェント・マナーの2つの説明は、同じ6台のボイラーを書きながら、燃料費の数字がちがった。燃料費や節約の数字を読むときは、いつの数字か、どの建物と燃料を含むか、補助の収入を含むかを確かめると、正しく比べられる。
持ち帰れる知識
- 複数の小さなボイラーを順番に動かすと、需要の変化に合わせやすく、1台が止まっても補える
- 同じ設備でも、説明する会社や時期で数字がちがうことがある
- 英国の事業者向けRHIは新しい申し込みを終え、いまの補助は1つの設備45キロワットまで
- 日本の手引きは、ボイラーをピークに合わせず小さめにすることを勧めている
宿で考えられること
- 暖房とお湯の、1年と1日の熱の使い方を書き出す
- ボイラーを1台の大きなものにするか、小さなものを複数台にするかを比べる
- 地域のペレットやチップの値段と、届けてもらえる量を確かめる
- 節約の見積もりに、補助の収入が含まれているかを確かめる
事業・予約への接続
木質バイオマスの暖房を紹介するときは、燃料をどこから買っているかを書くと、地域とのつながりが伝わる。節約の数字を出すときは、いつの、どの範囲の数字かを添えると正確だ。
Sources / 参考情報
- Practical Energy Solutions(英文) - バイオマスの設備:ダーウェント・マナー・ホテル(2026年7月13日公開、8月3日更新)
裏付け: アレンズフォード近く、本館約9,000平方メートル、独立した客室6つ、14メートルの温水プール・サウナ・スパ、LPガス(本館)・暖房用の石油(レジャー施設)・電気(客室)、都市ガスなし、年約5万8,000ポンド、熱損失の調査、60キロワット6台(暖房3台・お湯3台)、カスケード(90%で2台目)、先に動かすボイラーの入れ替え、吸い込み式の燃料供給、年2万6,000ポンド(5万8,000→3万2,000)、回収4年、内部収益率21.14%、温室効果ガス78%減、二酸化炭素65%減、25年以上7.6ペンス、見出しの50% - HPM(英文) - ウィンドハーガーの製品が理想的な選択とされる(2015年7月20日)
裏付け: 古い石油と電気の暖房から転換、グリーングル・ノースイースト社、180キロワット2組(60キロワット3台ずつ、カスケード)、ペレットは石油より約30%安く電気の半分以下、支配人「年2万9,000ポンド以上」、RHIは20年間年3万9,000ポンド以上の見込み、コテージに温水の配管、効率92% - Specification Online(英文) - ウィンドハーガーのバイオマスボイラーがベスト・ウェスタンのダーウェント・マナーの理想的な選択に(2016年3月23日)
裏付け: 20エーカー、3つ星のスパとレジャーのホテル、ダブルの客室48室・バー6つ・会議室6つ、そのほかは上と同じ内容 - GOV.UK(英文) - 事業者向けの再生可能熱インセンティブ(RHI)
裏付け: 新しい申し込みの受け付けは終了、支払いは熱の量に応じて20年間 - GOV.UK(英文) - ボイラー・アップグレード・スキーム:受け取れるもの
裏付け: バイオマスボイラーに5,000ポンド、1つの設備の上限45キロワット、イングランドとウェールズ。条件のページ(check-if-youre-eligible)で、ガスの配管網につながっていない・農村部・排出の証明 - 林野庁 - 木質バイオマスボイラー導入・運用にかかわる実務テキスト(PDF)(平成24年度の林野庁事業)
裏付け: 出力の調整が苦手でピークに合わせると効率が悪い・ピークは化石燃料で補いボイラーを小さめに、300キロワットの設備費7,000万〜1億2,000万円・欧州の4〜8倍、ペレットは小口4万5,000円/t・やや大口4万円弱/t・灯油と同等は約3万7,000円/t、ペレット3.24キロワット時/kg・灯油10.2キロワット時/L