「最良と最悪で47%の差」は何の差か:18軒のホテルを持つ会社が、空調にセンサーを付けて30%減らした事例を、数字の定義から読む
アメリカの設備管理ソフトの会社「オックスメイント」は、2026年3月28日、自社のウェブサイトにホテルの事例を載せた。客室が合わせて4,200室ある18軒のホテルを運営する会社が、空調の機器にセンサーを付け、13か月でエネルギー費を30%減らしたという内容だ。
この事例には、ホテル会社の名前が出てこない。書いたのは、製品を売る会社自身だ。だからといって中身が誤りだということにはならないが、読む側は、数字が何を指しているのかを、いつもより丁寧に確かめる必要がある。この記事では、事例に出てくる数字を1つずつ定義から読み、そのうえで、米国の省エネ基準と日本の手引きを並べる。
どんな会社の話か
事例によると、ホテル会社は、中級からやや高級までの18軒を運営している。客室は合わせて4,200室だ。事例は、この会社を「ホテル・マネジメント社」という仮の呼び方で書いている。
会社が困っていたのは、次のようなことだった。
- 同じ仕様の空調を使う3軒の間で、エネルギー費の差が年に最大18万ドルあった
- 客室のうち、いつも31%ほどが空いていたが、空室でも空調が動いていた
- 調子の悪くなった機器は、25〜40%多く電気を使う
- 機器の異常に気づくまで、平均で23日かかっていた
「47%」の定義
この事例でいちばん目を引く数字は、「47%」だ。これは、エネルギーを減らした割合ではない。
事例の説明では、「使われた客室1室あたりのエネルギー費」を18軒で比べると、いちばん悪いホテルは、いちばん良いホテルより47%高かった、という意味だ。つまり、取り組みを始める前の、ホテルどうしのばらつきを表す数字だ。
「30%」は、取り組みの結果、会社全体のエネルギー費が減った割合だ。どちらも「%」だが、指しているものがまったくちがう。
何をしたか
会社は、4つの製品を比べたうえで、オックスメイントの仕組みを選んだ。事例によると、別の会社からは、建物の管理システムを入れ替える案として280万ドルの見積もりが出ていた。
導入の中身は、次のとおりだ。
- 空調の機器340台に、電気の使い方を測るセンサーを6週間で取り付けた
- 空室の部屋は、冷房を華氏78度(約25.6度)、暖房を華氏65度(約18.3度)に設定した
- 機器ごとの「ふだんの使い方」を基準にして、基準より15%以上多く電気を使うと警告が出るようにした
5週目に見つかった11台
事例によると、5週目に、4軒のホテルの11台が、基準より28〜41%多く電気を使っていることがわかった。原因の内訳は次のとおりだ。
- 熱を交換する部分(コイル)の汚れ:6台
- 冷媒の漏れ:3台
- 外の空気を取り込む装置の故障:2台
この11台は、60日前の定期点検では合格していた。事例は、過去90日の余分な電気代を3万4,200ドル、修理費を8,800ドルとしている。
なお、副社長の言葉として紹介されている部分では、「最初の1週間」で見つかったと書かれており、5週目という時系列の記述と合わない。どちらが正しいかは、事例からはわからない。
30%と「回収4.1か月」の計算
事例によると、空室の設定を変えただけで、1か月目にエネルギー費が14%減った。13か月目には30%減り、年のエネルギー費は420万ドルから294万ドルになった。差は126万ドルだ。
このほかに、12台の故障を前もって防ぎ、推定29万ドルの出費を避けたとしている。手作業の修理の依頼は44%減り、対応は2時間以内になったという。
導入費は43万ドルで、そのうち取り付けの費用が14万8,000ドルだ。「回収4.1か月」は、次の計算で再現できる。
- 43万ドル ÷ 126万ドル × 12か月 = 約4.1か月
1年目の効果として事例が挙げる155万ドル(126万ドル+29万ドル)で割ると、約3.3か月になる。回収期間は、エネルギー費の節約だけで計算されていると読める。また、29万ドルは「避けられたと推定される費用」で、実際に支払いが減った金額とは性質がちがう。
数字を読むときの注意
この事例には、読む側が確かめたい点がいくつかある。
- ホテル会社の名前がなく、外の機関が数字を確かめたかどうかも書かれていない
- 4,200室に対してセンサーは340台で、空室の設定を部屋ごとにどの仕組みで変えたかまでは書かれていない
- 30%のうち、空室の設定、故障の早期発見、修理の早さが、それぞれどれだけ効いたかの内訳はない
オックスメイントのサイトには、ほかにも「420万ドル」という数字が出てくる別の事例がある。同じ会社の事例を読むときは、どの事例の数字かを取りちがえないようにしたい。
米国の基準は空室をどう決めているか
空室の空調を自動で弱める考え方は、米国の建物の省エネ基準「ASHRAE 90.1」にも入っている。米国エネルギー省の研究所(PNNL)の資料によると、2016年版から、客室が50室を超えるホテルには、次のような自動の制御が求められるようになった。
- 貸している部屋で客が全員出かけたら、30分以内に、冷房の設定を華氏4度(約2.2度)以上上げ、暖房の設定を4度以上下げる
- 貸していない空室は、冷房を華氏80度(約26.7度)以上、暖房を華氏60度(約15.6度)以下にする
- 空室の間は、換気と排気も止める
- 差し込むと電気がつくカードキーで条件を満たすこともできる
貸していない空室かどうかは、客室をネットワークで管理する仕組みで判断するか、16時間だれもいないことで判断する。2022年1月に承認された追補では、「20分以内」と書かれ、温度の制御を3つのモードに分けている。
事例の空室の設定(華氏78度と65度)は、基準が貸していない空室に求める値(80度以上と60度以下)より控えめだ。ただし、基準は主に新しく建てる建物や改修に向けたもので、事例のホテルが対象かどうかはわからない。
日本の宿に置き換えると
日本の省エネルギーセンターが、資源エネルギー庁の委託事業で作ったホテル向けのパンフレットは、まず「使わない部屋の照明と空調を止める」ことを挙げている。また、客室を掃除するときは、外の空気を送る空調が動いているので、部屋の中の空調機を止めても、働く環境は悪くならないと説明している。
同じパンフレットは、あるリゾートホテルの例を紹介している。館内のすべての照明と空調をリストにして、スイッチの場所、だれがいつ操作するか、どれだけ使うかを決めた。平成17年に始め、取り組む前の平成16年度と比べて、電気の使用量が平成17年度に15%、平成19年度に30%減ったという。センサーを使わなくても、ルールを決めて続けることで、大きく減らせた例だ。
InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)として、40室の宿で考えてみる。
- 客室の空調は、1室あたり年2,000キロワット時、40室で年8万キロワット時使っているとする
- 稼働率は70%で、空室の30%の部屋も、これまでは在室中と同じように空調が動いていたとする
- 空室の部屋の空調の電気は、年2万4,000キロワット時(8万×30%)になる
- 空室の設定を変えて、その半分を減らせれば、年1万2,000キロワット時。電気代1キロワット時30円なら、年36万円になる
- さらに、調子の悪い機器が4台あり、それぞれ25%多く電気を使っていたとする。1台あたり年500キロワット時(2,000×25%)、4台で年2,000キロワット時、年6万円の無駄になる
空室の設定は、お金をかけずに始められる。機器の不調は、月ごとの電気の使用量を部屋や系統ごとに見ていくと、気づきやすくなる。
「何の%か」を先に確かめる
この事例には、ホテルどうしの差の47%、1か月目の14%、13か月目の30%、機器ごとの28〜41%と、いくつもの「%」が出てくる。名前のない事例や、製品を売る会社が書いた事例を読むときは、それぞれの数字が何を何と比べたものかを先に確かめると、自分の宿に当てはめるときに迷わずにすむ。
持ち帰れる知識
- 「47%」は、取り組み前のホテルどうしのばらつきで、削減率ではない
- 回収4.1か月は、エネルギー費の節約126万ドルだけで計算されている
- 点検に合格した機器でも、電気の使い方を見ると不調がわかることがある
- 米国の基準は、50室を超えるホテルに空室の空調を自動で弱めることを求めている
宿で考えられること
- 空室の部屋の空調の設定を決め、清掃や点検の手順に入れる
- 照明と空調のスイッチを一覧にし、だれがいつ操作するかを決める
- 月ごとの電気の使用量を、建物や系統ごとに比べる
- 業者の事例を読むときは、%の分母と、推定の金額が含まれているかを確かめる
事業・予約への接続
省エネの取り組みを伝えるときは、「何を何と比べて何%か」を一緒に書くと、読む人に正しく伝わる。空室の空調を弱めることは、客の快適さを損なわずにできる取り組みとして説明しやすい。
Sources / 参考情報
- Oxmaint(英文) - ホテルの省エネの事例:IoTと設備管理ソフトで30%削減(2026年3月28日)
裏付け: 仮の名前のホテル運営会社、18軒・4,200室・中級からやや高級、使われた客室1室あたりのエネルギー費で最悪が最良より47%高い、同じ仕様の3軒で年最大18万ドルの差、31%が空室、不調の機器は25〜40%多く使う、異常の発見に平均23日、4製品を比較、建物の管理システムの入れ替えは280万ドルの見積もり、340台に6週間、空室は華氏78度・65度、基準より15%以上で警告、5週目に4軒の11台が28〜41%多い(コイル6・冷媒3・外気の装置2)、60日前の点検は合格、90日の超過3万4,200ドル・修理8,800ドル、1か月目14%、12台の故障を防ぎ推定29万ドル、13か月目30%・420万→294万ドル、修理の依頼44%減・2時間以内、導入費43万ドル(取り付け14万8,000ドル)、1年目155万ドル、回収4.1か月、副社長の言葉の「最初の1週間」 - PNNL・米国エネルギー省(英文) - ASHRAE 90.1-2016の全国の費用対効果(PDF)(2020年4月)
裏付け: 6.4.3.3.5の客室の制御、50室を超えるホテルが対象、貸している空室は暖房・冷房を4°F下げる・上げる、貸していない空室は60°F・80°F、空室の間は換気と排気を止める、貸していない期間はネットワークの仕組みか最大16時間の不在で判断 - PNNL・米国エネルギー省(英文) - ASHRAE 90.1-2016:空調(PDF)(2017年3月、オレゴン州のサイトに掲載)
裏付け: 50室を超えるホテル、客が全員出てから30分以内、冷房4°F以上上げ・暖房4°F以上下げ、換気と排気を止める、カードキーで条件を満たすことができる - ASHRAE(英文) - ASHRAE 90.1-2019の追補bk(PDF)(2022年1月21日承認)
裏付け: 50室を超えるホテル、3つのモードの温度制御、客が全員出てから20分以内に冷房4°F以上上げ・暖房4°F以上下げ、貸していない空室は80°F以上・60°F以下 - 省エネルギーセンター - ホテルの省エネルギー(PDF)(資源エネルギー庁の委託事業「業務用ビルの省エネルギー対策推進事業」)
裏付け: 不使用室の消灯と空調の停止、客室清掃時は外調機が動いているので室内の空調機を止めても作業環境は悪くならない、照明と空調の一覧とスイッチの場所・操作する人・時間を決めたリゾートホテル、平成16年度比で平成17年度15%・平成19年度30%の電力削減