年4万8,500ポンドは「見つかった」節約:スコットランドの34室の「ボート・ホテル」が受けた無料の省エネ診断を、提案の中身から読む
スコットランドのハイランド地方、ケアンゴームズにある「ボート・ホテル」は、家族で営む34室のホテルだ。バーとビストロもある。
スコットランド政府の資金で中小企業の省エネを無料で手伝う「ビジネス・エナジー・スコットランド」は、2017年11月、このホテルの事例を公開した。見出しは「年4万8,000ポンドの節約が見つかった」。この記事では、その数字が「実現した節約」ではなく「診断で見つかった節約」であることに注意しながら、提案の中身と、いまの制度、日本の診断の仕組みを並べる。
診断のきっかけ
事例によると、ホテルは、お金を節約し、環境への配慮も高めたいと考えて連絡してきた。節約の余地はありそうだと思っていたが、世の中にある情報が多すぎて、何から手をつければよいかわからなかったという。
そこで、実施の支援を担当するアドバイザーがホテルを訪れ、暖房、照明、水の使い方を調べた。その結果、全部で年4万8,500ポンドを超える節約ができると計算した。
いちばん大きい提案:石油のボイラーをバイオマスへ
提案の中でいちばん大きかったのは、暖房とお湯のボイラーの交換だった。
- それまでの石油のボイラーは、費用がかかり、二酸化炭素も多く出していた
- 地元の木のチップかペレットを燃やすボイラーに替えれば、ホテルの暖房とお湯をすべてまかなえる
- 燃料費の節約は、年1万6,500ポンドと見積もられた
- さらに、国の「再生可能熱インセンティブ(RHI)」で、年2万4,000ポンドの収入が見込めるとした。RHIは、つくった再生可能な熱1キロワット時ごとに、20年間お金が支払われる制度だった
ここで、1万6,500ポンドは「燃料費が減る」お金で、2万4,000ポンドは「制度から受け取る」お金だ。性質のちがう2つのお金が並んでいる。
そのほかの提案
アドバイザーは、ほかにも数千ポンド単位の節約を見つけた。
- 別館の壁の中のすき間に断熱材を入れる
- 別館の屋根裏の断熱材を、推奨される厚さの270ミリまで増やす
- 太陽光パネルを付けて電気代を減らし、国の固定価格での買い取りで収入を得る
- 白熱電球を、LEDの照明に替える
- 厨房では、蛇口を流しっぱなしにせず、手で操作するスプレーのノズルを使う
- トイレのタンクの水の量を調整する器具を付ける
- 蛇口とシャワーに、空気を混ぜて水を減らす部品を付ける
- 男性用トイレの自動洗浄を制御する装置を付ける
4万8,500ポンドの内訳は書かれていない
事例のページは、4万8,500ポンドの内訳を示していない。ボイラーの燃料費の節約(1万6,500ポンド)とRHIの収入(2万4,000ポンド)を足すと4万500ポンドになる。もし4万8,500ポンドにRHIの収入が含まれているなら、断熱、照明、太陽光、節水などの合計は約8,000ポンドになる。ただし、これは足し算からの推測で、ページに書かれているわけではない。
また、事例は、ホテルが提案を実際にどこまで実行したかを書いていない。ページにあるのは、ディレクターのジョン・エラスムスさんの「無料の助言のおかげで、費用を減らし環境への配慮を高める改善を始める自信がついた」という言葉だ。見出しの「見つかった」という言い方は、そのとおりに読んでおきたい。
制度は変わった
この事例が書かれてから、英国の制度は大きく変わった。
- 英国政府のページによると、事業者向けのRHIは、新しい申し込みの受け付けを終えている
- 太陽光の固定価格での買い取りに代わって、いまは「スマート・エクスポート・ギャランティー(SEG)」がある。SEGは、送電網に送った電気にだけ支払われ、自分で使った電気には支払われない
つまり、2017年の提案にあった「収入」の部分は、いま同じ設備を入れても、同じ形では得られない。
いまのスコットランドの支援
ビジネス・エナジー・スコットランドは、いまも無料で中立の報告書を出している。その報告書をもとに、スコットランド政府の「中小企業ローン」に申し込める。2026年8月に更新された説明によると、仕組みは次のとおりだ。
- 借りられる額は1,000ポンドから13万ポンドで、利子はかからない。返済は8年以内
- 断熱、照明、空調の制御などの省エネには、費用の75%、最大2万ポンドの「キャッシュバック」がある
- バイオマスのボイラー、ヒートポンプ、太陽熱には、費用の75%、最大1万ポンドのキャッシュバックがある。1つの事業者の合計は最大3万ポンド
- 申し込むには、ビジネス・エナジー・スコットランドの報告書が必要で、正式な貸し付けの通知を受ける前に工事を始めてはいけない
- 設備の回収期間は、報告書の節約額とキャッシュバックを引いた費用で、20年以内である必要がある
日本の宿に置き換えると
日本にも、中小企業が安い費用で受けられる省エネの診断がある。省エネルギーセンターが、資源エネルギー庁の令和8年度の事業として運営する「省エネ最適化診断」だ。料金(税込)は次のとおりだ。
- 年のエネルギー使用量が原油に換算して100キロリットル未満なら「クイック診断」で9,460円(説明会なし)
- 300キロリットル未満なら「ベイシックA診断」で1万2,760円
- 300キロリットル以上1,500キロリットル未満なら「B診断」で2万240円
報告書は、診断から約1か月で届く。ボート・ホテルのように、専門家が施設を見て、どこにどれだけの節約があるかを一覧にしてくれる仕組みだ。
InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)として、ある宿が診断を受け、年120万円の節約が見つかったとする。
- ボイラーの更新:年70万円の節約、費用1,200万円。回収は約17.1年
- 断熱:年25万円の節約、費用300万円。回収は12年
- LEDへの交換:年15万円の節約、費用90万円。回収は6年
- 節水の部品:年10万円の節約、費用20万円。回収は2年
合計は年120万円(70+25+15+10)、費用は1,610万円だ。いちばん大きな節約はボイラーだが、すぐに回収できるのは節水やLEDになる。どの順に進めるかを決めるときに、節約の大きさと回収の早さを分けて見るとよい。
「見つかった」と「できた」を分ける
ボート・ホテルの事例の4万8,500ポンドは、診断で見つかった節約の見込みで、制度の収入も含まれていた可能性がある。診断の報告書を読むときは、燃料費の節約と制度の収入、見込みと実績を分けておくと、計画を立てやすくなる。
持ち帰れる知識
- 診断の事例の数字は、「見つかった節約」で、実現した節約とは限らない
- 燃料費の節約と、制度から受け取るお金は、性質がちがう
- 英国の事業者向けRHIは新しい申し込みを終え、太陽光の買い取りもSEGに変わった
- 日本にも、1万円前後から受けられる省エネの診断がある
宿で考えられること
- 1年分の電気、ガス、燃料の使用量をまとめ、診断の申し込みに備える
- 診断の提案を、節約の大きさと回収の早さで並べ直す
- 補助や制度の収入が、見積もりに含まれているかを確かめる
- すぐにできる節水や照明の交換から始める
事業・予約への接続
設備の更新を伝えるときは、「診断で見つかった」のか「実際に減った」のかを分けて書くと、読む人の信頼を得やすい。地元の木の燃料を使う計画は、地域とのつながりとして紹介できる。
Sources / 参考情報
- Business Energy Scotland(英文) - ハイランドのボート・ホテルで年4万8,000ポンドの節約が見つかる(2017年11月8日公開、2026年5月22日更新)
裏付け: ケアンゴームズ、家族経営、34室・バー・ビストロ、実施のアドバイザーが訪問、暖房・照明・水、年4万8,500ポンド超、石油のボイラーから地元のチップかペレットのボイラーへ、暖房とお湯をすべて、年1万6,500ポンド、RHIで年2万4,000ポンド・20年間・1キロワット時ごと、別館の壁の断熱と屋根裏の断熱270ミリ、太陽光と固定価格の買い取り、白熱電球からLED、厨房のスプレーのノズル・タンクの水量の調整・蛇口とシャワーの部品・男性用トイレの洗浄の制御、情報が多すぎた、ディレクターのジョン・エラスムスさんの言葉、スコットランド政府の資金 - Business Energy Scotland(英文) - 中小企業ローン:よくある質問(2026年8月14日更新)
裏付け: 1,000〜13万ポンド、利子なし、返済8年以内、省エネは75%・最大2万ポンド、バイオマスのボイラー・ヒートポンプ・太陽熱は75%・最大1万ポンド、合計最大3万ポンド、報告書が必要、正式な通知の前に工事を始めない、回収20年以内 - GOV.UK(英文) - 事業者向けの再生可能熱インセンティブ(RHI)
裏付け: 新しい申し込みの受け付けは終了、支払いは熱の量に応じて20年間 - GOV.UK(英文) - スマート・エクスポート・ギャランティー(SEG)(2020年1月1日公開)
裏付け: 送電網に送った電気1単位ごとに支払い、自分で使った電気には支払われない、固定価格の買い取りの旧ページ(feed-in-tariffs)はこのページに移っている - 省エネルギーセンター - 省エネ最適化診断:サービス内容(令和8年度)
裏付け: クイック診断9,460円(100キロリットル未満・説明会なし)、ベイシックA診断1万2,760円(300キロリットル未満)、B診断2万240円(300〜1,500キロリットル未満)、報告書は約1か月、中小企業者などが対象、資源エネルギー庁の令和8年度の事業