GOAL 12 · TARGET 12.3 廃棄物・循環経済 4分 / 2423文字 実験の設計を読む型 #350

皿の直径を24センチから21センチに:北欧の「ノルディック・チョイス・ホテルズ」で確かめた、小さな皿と「何度でもどうぞ」の札の効果を、実験の設計から読む

ホテルの朝食のビュッフェで、皿を少し小さくする。あるいは、「何度でも取りに来てください」という札を置く。それだけで、食べ残しは減るのだろうか。

経済学の研究者2人が、ホテルチェーンの協力を得て、この問いをノルウェーの実際のホテルで確かめた。結果は、2013年6月、経済学の学術誌「エコノミクス・レターズ」に載った。論文の謝辞には、計画と実施を大きく助けた人として、「ノルディック・チョイス・ホテルズ」の担当者の名前が挙がっている。この記事では、「約20%減った」という結果を、実験の設計から読む。

2つの「後押し」

研究が試したのは、客に命令したり、選択肢を取り上げたりせずに、行動をそっと変える「ナッジ(後押し)」と呼ばれる方法だ。

1つめは、皿を小さくすることだ。実験では、ふつう24センチの皿を21センチにした。皿は朝食のビュッフェで使い、ホテルによっては昼食や夕食のビュッフェでも使った。

2つめは、ビュッフェに札を置くことだ。札には、7つの言葉で次のように書いた。

「おかえりなさい!また!さらにまた!ビュッフェには何度でもどうぞ。一度にたくさん取るより、そのほうがいいのです」

研究者は、何度も取りに行ってよいと目に見える形で示すことで、客が1回に皿にのせる量が減り、残す量も減ると考えた。

実験の組み立て

論文の説明によると、実験は次のように組み立てられた。

  • ホテルチェーンの中から、2つの方法を試すホテルを募った。残りのホテルは、比べるための「何もしない」グループになった
  • 最終的に分析に使えるデータを出したホテルは52軒だった。それぞれの方法を試したホテルは7軒ずつだった
  • 実験の期間は、2012年6月1日から8月15日まで
  • すべてのホテルのレストランが、食べ残しの量を毎日記録して報告した

52軒から7軒ずつ2つのグループを引くと、何もしないグループは38軒になる。米国の全米アカデミーズが2020年にまとめた報告書も、7軒の朝食のビュッフェと38軒の比較のホテルを比べた研究として紹介している。

結果:19.5%と20.5%

論文によると、皿を小さくすると食べ残しは19.5%減り、札を置くと20.5%減った。どちらも、統計の上で偶然とは考えにくい差だった。

論文は、さらに次の点を挙げている。

  • 食べ残しが減れば、レストランが買う食材も減らせる
  • 客の満足度は変わらなかった
  • そのため、ホテルの利益も増える見込みが高く、環境と経営の両方にとってよい方法だといえる

皿の結果がいちばん強い理由

研究は、実験とは別に、ホテルがもともと使っていた皿の大きさのちがいを利用した「観察の調査」も行った。観察の調査では、皿の大きさは15センチから28センチまであり、平均は24.0センチだった。

論文は、皿の大きさの効果について、実験の結果が観察の調査でも裏付けられたので、もっとも確かな結果だとしている。また、少なくとも皿の効果は、学校、病院、高齢者の施設、社員食堂など、ビュッフェ形式の食事を出す場所にも当てはまる可能性が高いと書いている。

「20%小さい皿」ではない

この研究は、「20%」という数字で紹介されることが多い。けれども、20%は食べ残しが減った割合で、皿が小さくなった割合ではない。

  • 直径で見ると、24センチから21センチは、12.5%小さくなった
  • 皿の面積は直径の2乗に比例するので、面積で見ると約23%小さくなった(21×21÷24÷24=約0.77)

「皿を20%小さくしたら、食べ残しも20%減った」と読むと、まちがいになる。

結果を読むときの注意

全米アカデミーズの報告書は、この研究を、比べるためのグループがあり、もっとも信頼できる段階の研究に分類している。そのうえで、介入の期間を6週間と整理し、長い期間の効果は確かめられていないことを限界として挙げている。

ほかにも、次の点を覚えておきたい。

  • 実験は、ノルウェーの1つのホテルチェーンの夏の時期に行われた
  • 研究の費用は、ナッジを広める非営利の団体「グリーナッジ」が出した
  • 食べ残しの量の記録は、ホテルの従業員が行った

日本の宿に置き換えると

日本の農林水産省は、外食での食べ残しを調べる「食品ロス統計調査」を行ってきた。宿泊施設も調査の対象で、平成21年度の調査では、宿泊客に出された夕食1コースの食べ残しの割合は、飲み物を含めて14.6%、飲み物を除いて14.8%だった。同じ調査で、食堂・レストランの昼食は3.2%だった。

ただし、この調査は、客の食べ残しだけを量っていて、厨房の中で捨てられる量は調べていない。また、対象は夕食のコースで、朝食のビュッフェではない。日本の旅館の夕食のように、決まった量を出すコースでは、皿の大きさより、量を選べるようにする工夫のほうが合うかもしれない。小さな皿と札は、朝食のビュッフェで試しやすい方法だ。

InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)として、朝食のビュッフェに1日120人が来るホテルで考えてみる。

  • 客の食べ残しが1人あたり45グラムなら、1日5.4キログラム、年約1,971キログラム
  • 小さな皿や札で20%減ると、年約394キログラム減る
  • ごみの処理の費用を1キログラム35円とすると、年約1万4,000円
  • 食べ残しの食材の値段を1キログラム700円と考えると、年約27.6万円分の食材になる

ただし、食材の費用が実際に減るのは、厨房が料理をつくる量を、減った食べ残しに合わせて見直したときだ。皿を替えるだけでなく、仕込みの量も一緒に見直したい。

小さな変化を、量って確かめる

この研究の強みは、皿や札を変えたホテルと、変えなかったホテルを比べ、毎日の食べ残しを量ったことにある。宿で試すときも、変える前の何週間かと、変えたあとの何週間かの食べ残しを同じ方法で量ると、効果を自分の目で確かめられる。

持ち帰れる知識

  • 20%は食べ残しの減った割合で、皿は直径で12.5%、面積で約23%小さくなった
  • 皿の効果は、観察の調査でも裏付けられた
  • 長い期間の効果は確かめられていない
  • 日本の宿泊施設の夕食の食べ残しは、平成21年度の調査で14.6%(飲み物を含む)

宿で考えられること

  • 朝食のビュッフェの皿の直径を測る
  • 「何度でもどうぞ」と伝える札を、いくつかの言葉でつくる
  • 変える前と後で、食べ残しの量を同じ方法で量る
  • 食べ残しが減ったら、仕込みの量も見直す

事業・予約への接続

小さな皿や札は、客に我慢を求めず、何度でも好きなだけ楽しめることを伝える方法として紹介できる。食べ残しを量っていることを伝えると、取り組みの本気さも伝わる。

Sources / 参考情報

  • Economics Letters・Elsevier(英文) - ホテルの客を「後押し」して食べ残しを減らす:環境と経営の両方によい方法(論文の要旨と抜粋)(2013年6月、119巻3号、325〜327ページ)
    裏付け: 著者2人(カルベッケン、セーレン)、2つのナッジで約20%減、統計的に有意、客の満足度は変わらず、食材の購入が減り利益が増える見込み、実験と観察の調査、24センチから21センチ(朝食のビュッフェ、昼食・夕食のビュッフェでも)、観察の調査は15〜28センチ・平均24.0センチ、7つの言葉の札の文言、ホテルチェーンから募集し残りが比較のグループ、52軒、各7軒、2012年6月1日〜8月15日、毎日記録、19.5%・20.5%(p<0.001)、皿の結果は観察の調査で裏付け、学校・病院などにも当てはまる可能性、謝辞にノルディック・チョイス・ホテルズの担当者、費用はグリーナッジ
  • EconPapers・RePEc(英文) - 論文の書誌情報
    裏付け: 著者はステッフェン・カルベッケンとホーコン・セーレン、エコノミクス・レターズ2013年119巻3号325〜327ページ、要旨
  • National Academies of Sciences, Engineering, and Medicine(英文) - 消費者の段階の食品ロスを減らす国の戦略(2020年)
    裏付け: ホテルチェーンと協力し、ノルウェーの7軒の朝食のビュッフェで皿を小さくし38軒の比較のホテルと比べた、約20%減、札で比較の場所より20%減、付録で最も信頼できる段階に分類・介入6週間・長い期間の効果は未確認
  • 農林水産省 - 食品ロス統計調査(世帯調査・外食産業調査)の概要
    裏付け: 宿泊施設は宿泊客に出された夕食を対象に1コースを選定、厨房内の調査の制約から食べ残しのみを調査し厨房内の廃棄は調べていない、10都市
  • e-Stat・農林水産省 - 平成21年度 食品ロス統計調査(外食産業調査)の統計表(2011年4月11日公開)
    裏付け: 主な食品別の食べ残し量の割合、宿泊施設14.6%(飲料類を含む)・14.8%(飲料類を除く)、食堂・レストラン3.2%

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