深さは76メートル、70メートル、65メートル:ケープタウンの「ホテル・ヴェルデ」の地中熱と太陽光の数字を、資料の年代順に読む
南アフリカのケープタウン国際空港の近くに、「アフリカで最も緑のホテル」を名乗る「ホテル・ヴェルデ」がある。地下に掘った100本の穴で地中の熱を使い、冷暖房とお湯をまかなうことで知られる。
このホテルについて書かれた資料を集めると、同じ設備の数字が、資料によってちがうことに気づく。穴の深さは76メートル、70メートル、65メートル。客室の数は150室、145室、151室。太陽光パネルは220枚と440枚。
どれかがまちがいだと決めつける前に、資料を書かれた年の順に並べてみる。すると、数字のちがいの多くは、「計画の数字」「見込みの数字」「運用してからの数字」のちがいとして読めることが分かる。
2012年12月:建設中の計画
ホテルの運営を任されたホテルグループ「BONホテルズ」は、2012年12月、建設中のホテル・ヴェルデを紹介する記事を出した。記事によると、次の計画だった。
- 100本の穴を地中に約76メートル掘り、温度がいつも19度ほどの地中を熱の出し入れに使う
- 設備は、ドイツの会社「AGOエナジー」が手がける
- 浴室の排水を再生してトイレに使い、水道の水を37%減らす
- エレベーターは、動くときのエネルギーの約30%を回収して建物に戻す
- 開業は2013年5月の予定
すべて、建設中の「予定」として書かれている。
2013年8月:開業の直前
2013年8月、BONホテルズは、開業を前にした詳しい紹介の記事を出した。ここでは、数字がより細かくなっている。
- ホテルの事業費は1億7,000万ランド
- 地中熱は、100本の穴を約70メートル掘り、合わせて14.5キロメートルの樹脂の管をつなぐ。地下水の温度は約19.4度
- 地中熱の冷暖房で「少なくとも25%の節約」を見込む。一方、技術の担当者のアンドレ・ハームズ氏は、冷暖房の仕組みはふつうの仕組みより「少なくとも55〜65%効率がよい」と見積もった
- 太陽光パネルは、北向きの屋根に154枚、北側の外壁に66枚。出力は合わせて52.8キロワットで、年7万8,000キロワット時の発電を見込む
- 駐車場に、3キロワットの縦軸の風車を3基置く
- 再生可能エネルギーは、すべて動いたとき、ホテルが使うエネルギーの約14%になる見込み
この記事は、環境のための追加の費用(グリーン予算)も書いている。2,000万ランドで、建設の予算全体の12%にあたる。そのうちほぼ半分を地中熱と冷暖房が使い、再生可能エネルギーは約12.5%だった。電力会社からの補助はなく、電気を送電網に売って投資を取り戻す仕組みもなかったと、オーナーは不満を述べている。
「25%」と「55〜65%」は、どちらも見込みだが、何と何を比べた数字かがちがう可能性がある。記事からは、比べ方の詳しい説明は読み取れない。
開業の翌日の新聞
地元紙ケープ・タイムズは、2013年8月28日、ホテルが「昨日」正式に開業したと伝えた。記事は、次のように書いている。
- 3つ星のホテルで、150室
- 地中熱のヒートポンプは、深さ「最大70メートル」の100本の穴につながる
- ふつうのホテルより約2,000万ランド多くかかったが、オーナーは10〜15年で取り戻せると考えている
3つ星、150室という数字は、のちの資料とちがう。
2014〜2015年:運用が始まってから
2014年3月、米国の業界誌「グリーン・ロッジング・ニュース」の記事は、穴の深さを約76メートル、地中の温度を19度と書いた。2012年の計画の数字と同じだ。この記事は、太陽光パネルと風車の発電を、合わせて年約7,700キロワット時としている。2013年8月の見込み(太陽光だけで年7万8,000キロワット時)と比べると、桁が1つちがう。記事からは、このちがいの理由は分からない。
2015年6月、南アフリカのグリーンビルディング協議会は、ホテル・ヴェルデに「グリーンスター」の最高ランクの6つ星を与えた。使ったのは、すでに使われている建物の運用の成績を評価する仕組みで、ホテルはその試行に参加した。協議会の資料は、次のように書いている。
- 2013年から営業する4つ星のホテルで、145室と7つの会議室
- ケープタウンのふつうのホテルより約70%効率がよい
- 再生可能エネルギーの発電は、使うエネルギー全体の10%
- 得点は82点。延床面積は1万502平方メートル
この「70%」と「10%」は、計画や見込みではなく、運用の成績として示された数字だ。開業前の見込み(約14%)より、再生可能エネルギーの割合は小さい。
2015年8月、デザインの情報サイト「デザイン・インダバ」は、ホテルが2つめのLEEDのプラチナの認証を受けたと伝え、縦軸の風車3基と太陽光パネル220枚を挙げた。220枚は、2013年8月の計画(154枚と66枚)の合計と同じだ。
いまの公式サイト
ホテルの公式サイトは、いまは151室と紹介している。地中熱と発電の説明は、次のとおりだ。
- 100本の穴は、それぞれ約65メートル。管は合わせて約13キロメートル。地中の温度は一年中19.4度
- 冷暖房の仕組みで、ふつうの仕組みが使う電気の約50%を節約すると「見込む」。2024年7月のブログでは、「最大50%」節約できると書いている
- 太陽光パネルは440枚で、出力は約225キロワット。内訳は、240ワットのパネル154枚(屋根に88枚、外壁に66枚)と、590ワットの効率の高いパネル285枚。年約32万5,000キロワット時の発電を見込む
- 風車3基は、風速12メートルのとき1基で最大3キロワットを出し、合わせて年1万300キロワット時を発電する
太陽光パネルのページには、写真の説明として「220枚のうち66枚が屋根にある」という文も残っている。本文の「外壁に66枚」とは合わない。内訳の154枚と285枚を足すと439枚で、「440枚」はおおよその数とみられる。
数字のちがいを、どう読むか
並べてみると、次のことが分かる。
- 計画と見込みの数字:2012年の76メートル、2013年の70メートル・14.5キロメートル、「25%」「55〜65%」「14%」「年7万8,000キロワット時」は、開業前の数字だ
- 運用の成績の数字:2015年の「約70%効率がよい」「再生可能エネルギー10%」は、運用を評価した数字だ
- いまの説明の数字:65メートル・13キロメートル、151室、440枚は、いまの公式サイトの数字だ。太陽光パネルは、2015年の220枚から増えたように読めるが、いつ増えたかは資料に書かれていない
- 言葉の幅:「約」「最大」「見込む」という言葉がついた数字は、そのまま確かな値として使わない
深さや管の長さがなぜ変わったのか、工事の途中で設計が変わったのか、測り方がちがうのかは、手元の資料からは分からない。分からないことは、分からないままにしておくのが安全だ。
日本の宿に置き換えると
環境省は、2年ごとに日本の地中熱の利用を調べている。2025年3月に公表した調査によると、2024年3月末までに設置された地中熱の設備は合わせて9,188件で、そのうちヒートポンプの方式が3,436件(37.4%)だった。ヒートポンプのうち2,843件は、ホテル・ヴェルデと同じように、地中に通した管の中で液体を回す「クローズドループ」の方式だ。なお、この数は、調査票に答えた事業者や大学などの実績を集めたもので(回答率は約51.5%)、国内のすべての設備を数えたものではない。
同じ調査では、ヒートポンプの方式の設置容量を施設の種類ごとに見ると、宿泊施設は13.7メガワットで、全体の5.7%だった。いちばん多いのは庁舎などで、20.0%だった。
宿で地中熱を入れるときは、ホテル・ヴェルデの例が教えるように、数字を「設計の値」「見込み」「実際に測った値」に分け、いつの数字かをそえて記録しておきたい。あとで客や取引先に説明するときも、どの数字を使えばよいか迷わずにすむ。
InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)として、20室の宿で、冷暖房とお湯に使う電気が年8万キロワット時、電気が1キロワット時30円だとする。
- 地中熱で「25%」節約できるなら、年2万キロワット時、60万円
- 「50%」節約できるなら、年4万キロワット時、120万円
- 地中熱のための追加の費用を1,200万円とすると、取り戻すまでの年数は、25%なら20年、50%なら10年
どちらの「%」を使うかで、判断は大きく変わる。見込みの数字で決めたあとは、実際に測って確かめることが欠かせない。
一つの数字より、数字の並び
ホテル・ヴェルデの資料は、開業前から10年以上にわたって、数字を出し続けてきた。一つの資料の一つの数字だけを取り出すと、ちがう資料と食いちがって見える。年代順に並べると、計画が運用に変わり、設備が増えていった流れが見えてくる。
持ち帰れる知識
- 資料を年代順に並べると、数字のちがいの多くは計画・見込み・運用のちがいとして読める
- 開業前の見込みでは再生可能エネルギー約14%、2015年の運用の評価では10%
- 「約」「最大」「見込む」がつく数字は、確かな値として使わない
- 日本の地中熱の設備は2024年3月末で9,188件、うちヒートポンプ3,436件
宿で考えられること
- 設備の数字を、設計の値・見込み・測った値に分けて記録する
- 数字に「いつの数字か」をそえる
- 設備を増やしたら、公式サイトの古い説明も直す
- 見込みで決めたことを、運用してから測って確かめる
事業・予約への接続
設備の数字を、いつの、どんな数字かをそえて示すと、客や取引先が安心して引用できる。古い説明と新しい説明が混ざらないように、公式サイトの数字をそろえることも信頼につながる。
Sources / 参考情報
- BON Hotels(英文) - ホテル・ヴェルデ:土台からつくるアフリカで最も緑のホテル(2012年12月5日)
裏付け: 100本の穴を約76メートル・19度、AGOエナジー、浴室の排水の再生で水道37%減の見込み、エレベーターで約30%回収、2013年5月開業の予定 - BON Hotels(英文) - 予約なしで(2013年8月12日)
裏付け: 1億7,000万ランドのホテル、100本・約70メートル・14.5キロメートルの管・約19.4度、少なくとも25%の節約の見込み、ハームズ氏の55〜65%の見積もり、屋根154枚と外壁66枚・52.8キロワット・年7万8,000キロワット時の見込み、3キロワットの風車3基、再生可能エネルギー約14%、グリーン予算2,000万ランド(12%)・地中熱と冷暖房がほぼ半分・再生可能エネルギー約12.5%、補助や売電の仕組みがない - Cape Times・IOL(英文) - 新しい「緑」のホテルは名前どおり(2013年8月28日)
裏付け: 昨日正式に開業、3つ星・150室、深さ最大70メートルの100本の穴、AGOエナジー、約2,000万ランド多くかかり10〜15年で回収の見込み - Green Lodging News(英文) - ホテル・ヴェルデは風・太陽・地中熱で成果(2014年3月9日)
裏付け: 太陽光と風車で年約7,700キロワット時、水道37%減、エレベーター約30%、100本・約76メートル・19度 - Green Building Council South Africa(英文) - グリーンスター6つ星:ホテル・ヴェルデ(PDF)(2015年6月に取得)
裏付け: 既存建物の運用評価の試行、2013年から営業の4つ星、145室・7つの会議室、約70%効率がよい、再生可能エネルギー10%、82点、延床面積1万502平方メートル - Design Indaba(英文) - ホテル・ヴェルデが2つめのプラチナ(2015年8月7日)
裏付け: 2つめのLEEDプラチナ、縦軸の風車3基、太陽光パネル220枚 - ホテル・ヴェルデ(英文) - 効率的な冷暖房 / 太陽光パネル / 風車 / ホテルの紹介 / 地中熱のブログ(2024年7月16日)
裏付け: 100本・約65メートル・約13キロメートル・19.4度、約50%の節約を見込む(ブログでは最大50%)、440枚・約225キロワット・154枚(屋根88枚・外壁66枚)と285枚・年約32万5,000キロワット時の見込み、写真の説明「220枚のうち66枚が屋根」、風車は12メートルで1基最大3キロワット・合わせて年1万300キロワット時、151室 - 環境省 - 令和6年度地中熱利用状況調査の結果について(2025年3月28日) / 調査結果(PDF)
裏付け: 2年ごとの調査、依頼338・回答174(回収率約51.5%)、設置件数9,188件・ヒートポンプ3,436件(37.4%)、クローズドループ2,843件、2024年3月末時点、ヒートポンプの導入施設別の設置容量で庁舎等20.0%・宿泊施設13.7メガワット(5.7%)