GOAL 7 · TARGET 7.3 エネルギー・脱炭素 5分 / 3025文字 止まりにくさを読む型 #355

ボイラーが1台なら、止まれば暖房はない。ヒートポンプが5台なら:米国の49室の宿「イン・オン・ボルトウッド」が地中熱に替えて得た“止まりにくさ”

地中熱の冷暖房というと、「どれだけ省エネになるか」が話題になりやすい。けれども、米国エネルギー省が2024年に公開した事例の報告で、ある歴史ある宿の担当者が挙げた理由は、省エネだけではなかった。「より信頼でき、手入れや修理がしやすい」ことだった。

米国北東部、マサチューセッツ州アマーストの「イン・オン・ボルトウッド」は、49室の宿だ。2009年に、古いガスのボイラーをやめて、地中熱のヒートポンプに替えた。この記事では、エネルギー省の報告をもとに、設備を1台から複数台に分けることで得られる「止まりにくさ」を読む。

1926年の建物、2009年の改修

イン・オン・ボルトウッドは、アマーストの町の中心にある広場「タウン・コモン」に面した、歴史ある宿だ。建てられたのは1926年。まわりには18世紀の終わりにさかのぼる建物もあり、それに比べれば新しいが、2009年には築80年を超え、設備の更新が必要になっていた。

宿は2009年から2011年にかけて大きく改修し、その中で、ボイラーによる暖房を、地中に管を通して液体を回す「クローズドループ」の地中熱ヒートポンプに替えた。エネルギー省の報告は、ねらいを「ニューイングランドの寒い冬に、より効率よく建物を暖めるだけでなく、手入れや修理をしやすくすること」と書いている。

改修を担当したのは、近くのアマースト大学の技術者のアーロン・ヘイデン氏だ。ヘイデン氏は、こう話している。

「改修を始めたとき、地中熱ヒートポンプは、すでに成熟した技術でした。選択肢を検討するうちに、いくつかの理由でうまくいくと分かりました。より信頼でき、手入れや修理がしやすく、エネルギーの効率もよいと分かっていたのです」

地下500フィートの47本

宿は、敷地の中に、深さ500フィート(約152メートル)の井戸を47本掘った。単純に足すと、合わせて2万3,500フィート(約7.2キロメートル)になる。

エネルギー省の報告によると、この場所の地中の温度は、一年中およそ華氏57度(約13.9度)だ。井戸の中を流れる水が地中より温かいときは、地中が熱を吸い取り、冷たいときは、地中が熱を与える。冬は暖房の熱を、夏は冷房のための熱の捨て場を、地中が引き受ける。

建物の広さは4万6,000平方フィート(約4,270平方メートル)。地中熱は、49の客室とスイートの冷暖房とお湯、そして8,000平方フィート(約740平方メートル)の会議や宴会の場所の冷暖房をまかなう。暖炉とガスの灯りをのぞけば、宿の冷暖房は、すべて地中熱になった。

5台のヒートポンプの役割

宿にはヒートポンプが5台あり、使い道によって役割を分けている。

  • 一部のヒートポンプは、入浴や掃除に使うお湯をつくる
  • 別のヒートポンプは、冷媒を使って、客室ごとのファンコイル(送風機の付いた冷暖房の装置)で、部屋を暖めたり冷やしたりする
  • 残りのヒートポンプは、温水や冷水をつくり、空調機に送って、宴会場などの広い場所を暖めたり冷やしたりする

報告は、空調機の熱交換器の仕組みが、改修した当時の新しいやり方だったことも、この事例の特徴として挙げている。

1台止まっても、ほかが動き続ける

エネルギー省の報告は、改修の前と後を、次のように比べている。

  • 改修の前は、古いガスのボイラーが故障すると、宿には暖房がなかった
  • いまは、ヒートポンプが並列に動いている。修理のために1台を止めても、ほかのヒートポンプは動き続ける

報告は、ヒートポンプが宿の冷暖房を「より強く、より信頼できる」ものにしたとまとめている。寒さの厳しい地域の宿にとって、真冬に暖房が止まることは、客の安全にもかかわる。設備を複数台に分けることは、効率とは別の価値を持つ。

InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)として、同じ能力のヒートポンプ5台で暖房をまかなう宿を考えてみる。

  • 1台が止まっても、残りの4台で、能力全体の80%が残る
  • 真冬の夜に必要な暖房が、能力全体の70%なら、1台止まっても足りる
  • 2台止まると60%になり、足りなくなる
  • 同じ量の暖房を、1台の大きなボイラーでまかなっていれば、1台止まると0%になる

実際のイン・オン・ボルトウッドでは、5台が使い道ごとに役割を分けているので、1台が止まったときの影響は、どの1台かによってちがう。このシミュレーションは、台数を分ける考え方を示すためのものだ。

「132Btu」という数字の読み方

エネルギー省の報告は、宿のエネルギーの使用量を「2023年に1平方フィートあたり132Btu」としている。Btuは、英国式の熱量の単位だ。

ただ、米国エネルギー情報局が2018年に行った商業用の建物の調査では、宿泊の建物のエネルギーの使用量は、平均で1平方フィートあたり8万5,700Btu(85.7千Btu)だった。報告の「132Btu」をそのまま1年の使用量として読むと、この平均の約650分の1になり、小さすぎる。千Btuの意味かもしれないが、報告からは確かめられない。また、どの範囲のエネルギーを数えたのかも書かれていない。

なお、エネルギー情報局の「宿泊の建物」には、ホテルのほかに、高齢者の施設なども含まれる。宿泊の建物のエネルギーのうち、ホテルが46%、高齢者の施設などが30%を占めている。用途別では、お湯と暖房が、それぞれ約20%だった。

単位や範囲がはっきりしない数字は、ほかの宿と比べる材料にはしないほうが安全だ。

宿から大学へ

イン・オン・ボルトウッドは、所有する「アマースト・イン・カンパニー」を通じて、近くのアマースト大学とつながりがある。エネルギー省の報告によると、宿の切り替えは、地中熱を試す場として成功した。そして2023年、アマースト大学は、宿の例にならい、キャンパスの冷暖房を、蒸気から地中熱へ切り替える改修を始めた。

エネルギー省の地熱の担当部署は、全米の19の地中熱ヒートポンプの事例をまとめて公開しており、イン・オン・ボルトウッドはその一つだ。国立研究所のニュースは、2024年10月、これらの事例を「地中熱ヒートポンプの実例」として紹介している。

日本の宿に置き換えると

日本の省エネルギーセンターが資源エネルギー庁の委託で作ったホテルの省エネの冊子は、延床面積7万平方メートルのホテルのエネルギーの使い方を分析し、推計している。それによると、お湯の負荷のピークは夜22時前後にあり、夜と朝の2つの山になる。

宿のお湯は、夜と朝に集中して使われる。イン・オン・ボルトウッドのように、お湯をつくる設備と冷暖房の設備を分けておけば、お湯の山の時間帯に冷暖房の設備を止めて点検する、といった組み合わせも考えやすくなる。

宿で設備を入れ替えるときは、効率の数字だけでなく、次のような点も比べておきたい。

  • 1台が止まったとき、どれだけの能力が残るか
  • 止まったとき、客室、お湯、宴会場のどこに影響が出るか
  • 修理の間、残りの設備で足りるのは、どの季節のどの時間帯か

効率と、止まりにくさ

イン・オン・ボルトウッドの事例が示すのは、地中熱の価値が、エネルギーの効率だけではないということだ。古いボイラーが1台で宿を暖めていたころは、その1台が止まれば暖房はなかった。5台のヒートポンプに分けたいまは、1台を止めても、宿は動き続ける。

持ち帰れる知識

  • 設備を複数台に分けると、1台止まっても冷暖房が止まりにくい
  • 改修の前は、ボイラーが故障すると暖房がなかった
  • 「132Btu」は、単位や範囲が確かめられないので比べる材料にしない
  • ホテルのお湯の負荷は夜22時前後がピークで、夜と朝の2つの山(省エネルギーセンター)

宿で考えられること

  • 設備の入れ替えで、1台止まったときに残る能力を確かめる
  • お湯と冷暖房の設備を分けるかどうかを考える
  • 点検や修理の時間帯を、お湯の山を避けて決める
  • 効率の数字は、単位と範囲をそえて記録する

事業・予約への接続

真冬や真夏に冷暖房やお湯が止まりにくいことは、客の安心につながる。設備の説明では、省エネだけでなく、止まりにくい仕組みにしていることも伝えられる。

Sources / 参考情報

  • U.S. Department of Energy(英文) - 地中熱ヒートポンプの事例:イン・オン・ボルトウッド(2024年9月10日)
    裏付け: 2009年に設置、4万6,000平方フィート、500フィートの井戸47本、ヒートポンプ5台、空調機の熱交換器が当時の新しいやり方、2023年に1平方フィートあたり132Btu、1926年築・2009〜2011年の改修・18世紀の終わりの建物、ボイラーからクローズドループへ、49室と8,000平方フィート、ヒートポンプの3つの使い道、地中は約華氏57度、暖炉とガスの灯り以外はすべて地中熱、ボイラーの故障で暖房がなかった・並列で1台止めてもほかが動く、アマースト・イン・カンパニー、2023年にアマースト大学が改修を開始、ヘイデン氏の言葉
  • U.S. Department of Energy(英文) - 地中熱ヒートポンプの事例:イン・オン・ボルトウッド(PDF)(2025年7月)
    裏付け: ウェブ版と同じ数字、設置年2009年、2023年に132Btu、DOE/GO-102025-6442
  • National Laboratory of the Rockies(英文) - 地中熱ヒートポンプの19の実例(2024年10月15日)
    裏付け: エネルギー省の地熱技術室が19の事例を公開、イン・オン・ボルトウッドは2009年に冷暖房とお湯の地中熱を設置・49室と8,000平方フィート
  • U.S. Energy Information Administration(英文) - 2018年商業用建物エネルギー消費調査:宿泊
    裏付け: 宿泊の建物の平均は1平方フィートあたり85.7千Btu、ホテル46%・高齢者の施設など30%、お湯と暖房がそれぞれ約20%
  • 省エネルギーセンター - ホテルの省エネルギー(PDF)(2009年3月、資源エネルギー庁の委託事業「業務用ビルの省エネルギー対策推進事業」)
    裏付け: 延床面積7万平方メートル規模のホテルのエネルギー消費構造を分析・推計、給湯負荷のピークは22時前後で夜と朝の2こぶ型

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