GOAL 6 · TARGET 6.4 水・衛生・循環 6分 / 3533文字 3つの資料を読み比べる型 #356

525台か470台か、11万ドルか17万ドルか:サンアントニオ最古のホテル「ヒルトン・パラシオ・デル・リオ」の節水を、3つの資料で読み比べる

米国テキサス州サンアントニオの「ヒルトン・パラシオ・デル・リオ」は、1968年に建った、ダウンタウンでいちばん古いホテルだ。このホテルは、市の水道事業体「サンアントニオ水道システム(SAWS)」と組んで、客室のトイレや蛇口、シャワーを替え、1室あたりの水をほぼ半分にした。

この改修については、少なくとも3つの資料がある。米国環境保護庁(EPA)の事例集、施設管理の専門誌「FacilitiesNet」の記事、そしてトイレのメーカーの事例紹介だ。3つを並べると、台数や費用の数字が少しずつちがう。この記事では、どの資料が何を書いているかを分けて読み、数字の違いがどこから来るのかを考える。

EPAの事例:1室209ガロンから107ガロンへ

EPAが2014年7月に出した事例によると、サンアントニオの観光業は10年で85%伸び、年に2,100万人が訪れる。SAWSは、ホテルの節水を優先課題と考え、ホテル向けの節水プログラムをつくった。補助金を出したり、節水型の器具を提供したりする仕組みだ。

ヒルトン・パラシオ・デル・リオは470室。改修は2つの時期に分かれている。

  • 2004年:水で冷やす製氷機をやめ、空気で冷やす製氷機に替えた。水で冷やす型は、空気で冷やす型の最大6倍の水を使う。SAWSが補助金を出した
  • 2007年から:プログラムが付帯の費用を負担し、客室のトイレ、蛇口、シャワーを替えた

EPAの表では、替えた器具は次のとおりだ。

  • トイレ:1回5.0ガロン(約19リットル)を、大1.28ガロン・小0.8ガロンの2段式に。525台
  • 蛇口の泡沫器:毎分2.2ガロンを1.5ガロンに。616台
  • シャワーヘッド:毎分2.5ガロンを1.5ガロンに。479台
  • 水で冷やす製氷機:空気で冷やす効率の良い型に。22台

その結果、1室あたりの水は、2004年から2011年の間に209ガロンから107ガロンに減った。減り方は49%。102を209で割ると約48.8%で、計算は合う。

節約の内訳は、年に水2,600万ガロン(80エーカーフィート)、水道と下水の料金8万ドル、電気48万キロワット時、エネルギーの費用8万ドル。合わせて年16万ドルになる。SAWSが改修に使った費用は11万ドルで、EPAは「ホテルが払っていたら、回収は2年未満だった」と書いている。

専門誌の記事:製氷機は15台、費用は17万ドル

FacilitiesNetの2010年2月の記事は、SAWSの広報担当者の話として、この改修を紹介している。

  • SAWSの補助は、機器の代金の50%。設置から5年間、毎年の水の使用量を報告することが条件
  • 改修したのは、数百台のトイレ、蛇口、シャワーと、水で冷やす製氷機15台
  • 1室1日の水は、ほぼ半分の107ガロンになった
  • 改修の費用17万ドルのほぼ全額をSAWSが出し、SAWSにとっての回収は13か月未満だった

この記事には、もう一つ209という数字が出てくる。米国ホテル・ロッジング協会の調査として、平均的なホテルは1室1日約209ガロンの水を使い、米国の一般的な家庭の243ガロンに近い、という部分だ。EPAの事例の改修前の値と同じ209だが、記事はこれを業界の平均として書いている。2つの209の関係は、資料からは分からない。

メーカーの事例:トイレは470台

トイレのメーカーのカロマ(Caroma)も、事例を出している。メーカーの販促資料なので、その前提で読む必要がある。

  • SAWSは2006年に、このホテルを最初のホテルの試行先に選んだ
  • 入れたトイレは470台。大1.6ガロン・小0.8ガロンの2段式で、平均1回0.96ガロン
  • 2007年3月に設置した。工事のために客室の販売を止めることはなかった
  • 設置から8か月で、前の年の同じ月より約600万ガロン少なかった。毎月約35%少なく、繁忙期は45%を超えた

この資料は、ホテルの室数を「480室超」と書いている。

数字の違いを並べる

3つの資料の違いをまとめると、次のようになる。

  • トイレの台数と水の量:EPAは525台・大1.28ガロン、メーカーは470台・大1.6ガロン
  • 製氷機:EPAは22台、専門誌は15台
  • 費用:EPAは11万ドル、専門誌は17万ドル
  • 回収:EPAは「ホテルが払っていたら2年未満」、専門誌は「SAWSにとって13か月未満」

トイレの大の量については、参考になる事情がある。EPAによると、節水型トイレの印「WaterSense」の今の基準は、1回1.28ガロン以下で、連邦の基準の1.6ガロンより20%少ない。基準の版2.0では、2段式のトイレについて、平均の量で判断する計算をやめ、大の量にも1.28ガロン以下を求めるようにした。つまり、以前は、大1.6ガロンの2段式でも、平均の量で印を受けられた。メーカーの資料も、このトイレが印を受けていると書いている。ただし、EPAの事例がなぜ1.28と書いたのかは、資料からは分からない。

回収の数字は、矛盾というより、だれの回収かが違う。ホテルの節約で費用を割るか、水道事業体の側の効果で割るかで、意味が変わる。台数や費用の違いは、数えた範囲や時期の違いかもしれないが、資料はその理由を書いていない。ここでは、どれか一つが正しいとは決めず、資料ごとの数字として扱う。

どの工事の効果か

もう一つ気をつけたいのは、効果を測った期間だ。EPAの「209から107へ」は、2004年から2011年まで。この期間には、2004年の製氷機と、2007年からの客室の器具の両方が入っている。メーカーの「毎月約35%」は、トイレを替えた後の8か月を、前の年と比べた数字だ。ただし、比べているのはホテル全体の水なので、トイレ以外の変化も入りうる。

EPAの図は、1993年から2009年までのホテルの水を示している。長い期間で見ると、1つの工事の効果を切り出すのは簡単ではないことが分かる。

詰まりとあふれも減った

メーカーの資料は、水以外の変化も書いている。施設の担当者によると、2006年には詰まりが66件、あふれが173件あった。新しいトイレにしてからの10か月では、詰まりが5件、あふれが36件だった。詰まりは、ペンや携帯電話、くしなど、異物を落としたことが原因だったという。

資料は、修理の呼び出しが80%以上減り、トイレについての客の苦情が90%以上減ったとも書いている。12か月と10か月の比較なので、期間はそろっていない。それでも、修理に使っていた時間をほかの仕事に回せたという担当者の話は、節水の効果が水道代だけではないことを示している。

日本の宿に置き換えると

日本の水道料金は、使う量が多いほど1立方メートルあたりの単価が上がる仕組みが多い。東京都水道局が示す多摩地区の水道料金表(1か月分、一般用、消費税を含まない)では、口径13〜25ミリの場合、1か月の使用量ごとに次の単価がかかる。

  • 21〜30立方メートル:1立方メートル163円
  • 101〜200立方メートル:298円
  • 201〜1,000立方メートル:372円
  • 1,001立方メートル以上:404円

口径が大きいほど基本料金も高い。50ミリでは、最初の1立方メートルから372円がかかる。下水道料金は別にかかり、多摩地区では市町ごとに違う。

この仕組みでは、水を減らすと、いちばん高い段の分から減っていく。だから、使う量の多い宿ほど、1立方メートルを減らしたときの節約が大きい。

InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)として、口径25ミリで1か月300立方メートルを使う20室の宿が、器具を替えて水を20%減らすとする。

  • 減る量:1か月60立方メートル(300から240へ)
  • 減る60立方メートルはすべて201〜1,000立方メートルの段なので、60×372円=2万2,320円。年に約26万8,000円(水道料金だけ。下水道料金は別)
  • 比べるために、1か月30立方メートルを使う家庭が20%(6立方メートル)減らすと、6×163円=978円

同じ20%でも、1立方メートルあたりの節約は372円と163円で、2倍以上ちがう。宿の水道代の明細で、自分の宿がどの段まで使っているかを見ておくと、節水の効果を見積もりやすい。

資料の数字は、資料ごとに書く

ヒルトン・パラシオ・デル・リオの例は、同じ改修でも、資料によって数字が違うことを示している。数字を人に伝えるときは、どの資料の、どの期間の、だれにとっての数字かを添えたい。それが、数字を正しく使う近道になる。

持ち帰れる知識

  • 同じ改修でも、資料によって台数や費用の数字が違うことがある
  • 「回収○年」は、ホテルの回収か、水道事業体の回収かで意味が変わる
  • 長い期間の削減には、いくつもの工事の効果が重なっている
  • 使う量で単価が上がる料金では、使う量の多い宿ほど1立方メートルの節約が大きい

宿で考えられること

  • 水道料金の明細で、1か月の使用量がどの単価の段まで届いているかを確かめる
  • 器具を替えるときは、工事の時期を記録し、前後の使用量を比べられるようにする
  • トイレの詰まりやあふれの件数を、修理の記録から数えておく
  • 数字を伝えるときは、出典と期間を添える

事業・予約への接続

客室の器具を替えて水を減らした取り組みは、客に不便をかけない節水として伝えやすい。伝えるときは、どの期間の、何と比べた数字かを添えると、信頼につながる。

Sources / 参考情報

  • U.S. EPA WaterSense(英文) - テキサスのホテルが水の効率を4つ星に(PDF)(2014年7月)
    裏付け: 観光業が10年で85%成長・年2,100万人、ホテル向けの節水プログラム、1968年築でダウンタウン最古、470室、衛生器具の水はホテルの30%、2007年からプログラムが付帯費用を負担、トイレ525台(5.0→1.28/0.8)・泡沫器616台(2.2→1.5)・シャワー479台(2.5→1.5)・製氷機22台、2004年に水冷製氷機を廃止・最大6倍・補助金、209→107ガロン(2004〜2011年)・49%、2,600万ガロン・80エーカーフィート・水道と下水8万ドル・48万キロワット時・エネルギー8万ドル・計16万ドル、SAWSが11万ドル・ホテルが払っていれば回収2年未満、図は1993〜2009年
  • FacilitiesNet(英文) - 節水の事例(2010年2月)
    裏付け: 補助は機器代の50%・5年間の年次報告が条件、米国ホテル・ロッジング協会の調査で1室1日約209ガロン・家庭は243ガロン、数百台のトイレ・蛇口・シャワーと製氷機15台、ほぼ半分の107ガロン、17万ドルのほぼ全額をSAWSが負担・SAWSの回収は13か月未満
  • Caroma(Alterna)(英文) - ヒルトン・パラシオの事例(PDF、メーカーの資料)
    裏付け: 2006年に最初のホテルの試行先、470台のSydney 305・1.6/0.8ガロン・平均0.96ガロン、2007年3月に設置・客室の販売を止めず、8か月で約600万ガロン・毎月約35%・繁忙期は45%超、2006年は詰まり66件・あふれ173件、10か月で詰まり5件・あふれ36件(詰まりは異物)、修理の呼び出し80%超減・苦情90%超減、480室超
  • 東京都水道局 - 水道料金の計算方法(多摩地区)
    裏付け: 1か月分・平成17年1月1日から適用、一般用の口径別基本料金、従量料金は21〜30立方メートル163円・101〜200立方メートル298円・201〜1,000立方メートル372円・1,001立方メートル以上404円、50ミリは1立方メートルから372円、計算は税抜きの額に税を掛ける、多摩地区の下水道料金は市町ごとに異なる
  • U.S. EPA WaterSense(英文) - 家庭用トイレ
    裏付け: 1回1.28ガロン以下で連邦の基準1.6ガロンより20%少ない、第三者の認証、版2.0で2段式の平均の量の計算をやめ大の量にも1.28ガロン以下を求めた

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