GOAL 7 · TARGET 7.3 エネルギー・脱炭素 4分 / 2631文字 比べる相手から読む型 #362

浴室の換気扇150台を、屋上と天井の7台に:オハイオ州の「ヒルトン・ガーデン・イン」の「34%」は、建てなかった換気と比べた数字

ホテルの客室では、浴室の換気扇が湿気やにおいを外へ出している。外へ出した分だけ、外の空気が入ってくる。冬は冷たい空気、夏は暑くて湿った空気だ。その空気を暖めたり冷やしたりするのにも、エネルギーがいる。

米国の換気装置メーカー「リニューエア」は、オハイオ州の「ヒルトン・ガーデン・イン・デイトン・サウス/オースティン・ランディング」の事例を紹介している。見出しは「冷暖房のエネルギーを年34%減らした」。この記事では、その34%が何と比べた数字なのかを中心に読む。

建てる前に、換気の方式を変えた

事例によると、ホテルは125室、5階建ての新築だ。持ち主は当初、ふつうの「換気扇だけ」の方式を考えていた。

そこへ、設備の技術者スティーブ・コポック氏(ハベガー社)と、工事会社のマイク・フリン氏(R.A.フリン・アンド・サン社)が、別の方式を持ちかけた。「エネルギー回収換気」だ。外へ捨てる空気の熱を使って、入ってくる外の空気を前もって暖めたり冷やしたりする。コポック氏は「出ていく空気のエネルギーを、大気に捨てる理由はない」と語っている。

ホテルは2013年3月に開業した。

7台で、150台の代わりをする

2人は、エネルギー回収換気の装置(ERV)を屋上に5台、天井の上の別々の場所に2台置いた。

  • 浴室の換気扇150台をやめ、天井のダクトにつないだ吸い込み口に替えた
  • ダクトで客室の空気を集めて外へ出し、前もって整えた外の空気を部屋に送る
  • 装置は24時間動き、屋上の空調機、外気を取り入れる装置、小型の空調機と組み合わせて使う

事例は、150台の換気扇を「故障しうる150か所」と呼び、それを数台の装置とダクトに置き換えたことを強調している。なお、125室に対して換気扇が150台だった理由は書かれていない。

天井の狭さという、もう一つの課題

事例は、もう一つの課題も挙げている。ダクトを通す天井の中は狭く、水道管、電気の設備、スプリンクラーと場所を分け合う必要があった。

フリン氏は、装置が小さく、全体の機器も少なくて済んだので、送る空気の量を減らし、機器を小さくして、狭い場所を通せたと語っている。建てる前に方式を決めたからこそ、天井の中の配置から考え直せたともいえる。

「34%」は、何と比べた数字か

事例の結果の部分には、「ふつうの設備と比べて、年の冷暖房のエネルギーを34%減らした。しかも24時間動かしながら」と書かれている。

ここで気をつけたいのは、比べる相手だ。ホテルは新築で、最初から新しい方式で建てられた。「ふつうの換気扇だけの方式」は、実際には建てられていない。したがって34%は、建てなかった方式の使用量を、何らかの方法で見積もって比べた数字のはずだ。けれども、事例には、その見積もりの方法も、もとの使用量も、測った期間も書かれていない。

また、この資料はメーカーの事例紹介で、販売のための資料でもある。「コアの故障を一度も見たことがない」「回転式の装置は詰まりやすく、壊れやすい」といった言葉は、設備の技術者や工事会社の経験として語られたもので、測った結果としては示されていない。

ほかにも、次のことは書かれていない。

  • 冷暖房のエネルギーの量そのもの(キロワット時やガスの量)
  • 電気代やガス代がいくら減ったか
  • 装置と工事の費用

事例には、持ち主が「LEED(米国の環境建築の認証)の取得を目指している」とあるが、取得したかどうかは書かれていない。

空気の質という目的

事例は、エネルギーと並んで、空気の質を強調している。建物の気密がよくなるほど、建材や家具、掃除の薬品などから出るものが室内にたまりやすくなる。新しいホテルほど、その心配が大きいという。

事例によると、開業後の室内の空気は、米国の空調の学会ASHRAEの換気の基準「62.1」が求める水準を満たしている。省エネと空気の質を、一つの装置で両立させようとした例として読むことができる。

日本の宿に置き換えると

日本では、建築物衛生法が、多くの人が使う建物の空気の管理を定めている。厚生労働省のページによると、旅館を含む特定の用途に使う部分の延べ面積が3,000平方メートル以上の建物は「特定建築物」になり、次の基準におおむね合うよう、空気を整える必要がある。

  • 二酸化炭素:1,000ppm以下
  • 温度:18℃以上28℃以下(2022年4月から。それまでは17℃以上)
  • 相対湿度:40%以上70%以下
  • 測定:2か月以内ごとに1回、各階の居室の中央、床から75〜150センチの高さで

温度と湿度を調節せず、機械で換気するだけの設備の場合は、温度と相対湿度を除いた項目が対象になる(建築物衛生法の施行令)。

特定建築物にあたらない建物でも、多くの人が使う建物は、この基準に沿って管理するよう努めることとされている。また、外の空気を取り入れる機能のない家庭用のルームエアコンは、法律でいう空調の設備にも、機械で換気する設備にもあたらないと、厚生労働省は説明している。小さな宿で客室にルームエアコンしかない場合、換気は別に考える必要がある。

換気で逃げる熱の大きさを、InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)で見てみる。

  • 20室の宿で、1室あたり1時間に30立方メートル、合わせて600立方メートルの外の空気を24時間入れる
  • 空気1立方メートルの温度を1℃上げるのに約0.34ワット時かかる
  • 外が0℃、室内が20℃なら、入ってくる空気を暖めるのに約4.1キロワット(0.34×600×20)
  • 冬の90日、室内と外の差を平均15℃とすると、暖める熱は約6,600キロワット時
  • 熱の6割を回収できれば約4,000キロワット時の熱が減る。暖房の効率(COP)を3とすると、電気で約1,300キロワット時、1キロワット時30円で年約4万円

この計算には、装置のファンが使う電気は入れていない。ファンの電気が多ければ、節約は小さくなり、なくなることもある。同じ装置でも、比べる相手と、何を計算に入れるかで、結果の数字は大きく変わる。

数字の前に、比べる相手を聞く

この事例から持ち帰れるのは、「150台を7台に」という発想と、建てる前に換気の方式を決める意味だ。そのうえで、「34%」のような数字を聞いたら、何と比べたのか、測ったのか見積もったのか、ファンの電気は入っているのかを、まず確かめたい。

持ち帰れる知識

  • 換気で外へ出す空気の熱を、入ってくる空気に移せば、冷暖房の負担を減らせる
  • 新築で「ふつうの方式と比べて何%」という数字は、建てなかった方式との比較で、見積もりを含む
  • 装置の数をまとめると、点検する場所は減るが、1台が止まったときの影響は大きくなる
  • メーカーの事例は販売の資料でもある。方法と費用が書かれているかを確かめる

宿で考えられること

  • 建て替えや大きな改装の前に、換気の方式を設計者と話し合う
  • 客室の換気が、浴室の換気扇だけに頼っていないかを確かめる
  • 省エネの提案を受けたら、比べる相手と、ファンの電気を含むかを尋ねる
  • 延べ面積が3,000平方メートル以上なら、建築物衛生法の空気の基準と測定を確かめる

事業・予約への接続

客室の空気の質は、客が体で感じる品質だ。においや結露が少ないことは、口コミにもつながる。設備の名前よりも、「24時間、外の新鮮な空気を整えて送っている」と、客に分かる言葉で伝えたい。

Sources / 参考情報

  • RenewAire(英文) - ホスピタリティ:ヒルトン・ガーデン・イン
    裏付け: 年の冷暖房のエネルギーを34%減(ふつうの換気設備と比べて)、デイトン、HE2XRT・HE4XRT・EV450IN、霜取り不要、浴室の換気扇150台を7台に、125室・5階建て、当初は換気扇だけの方式を検討、コポック氏とフリン氏の提案、屋上5台・天井の上2台、24時間運転、天井の狭さと機器の縮小
  • RenewAire(英文) - ERVの事例:ヒルトン・ガーデン・イン(PDF)
    裏付け: 2013年3月開業、天井は水道管・電気・スプリンクラーと共用、気密化と室内の汚れ、ASHRAE 62.1、24時間運転しながら34%減、「コアの故障を一度も見たことがない」、回転式の装置への評価、LEEDの取得を目指している、ハベガー社・R.A.フリン・アンド・サン社
  • 厚生労働省 - 建築物衛生のページ
    裏付け: 特定建築物の定義(特定用途に旅館を含む、延べ面積3,000平方メートル以上)
  • 厚生労働省 - 建築物環境衛生管理基準について
    裏付け: 二酸化炭素1,000ppm以下、温度18℃以上28℃以下(2022年4月1日以降)、相対湿度40%以上70%以下、2か月以内ごとに1回・各階・居室の中央部の床上75〜150センチで測定、特定建築物以外の多数の者が使う建物は努力義務、外気導入機能のない家庭用ルームエアコンは空気調和設備にも機械換気設備にも当たらない
  • 厚生労働省(法令等データベース) - 建築物における衛生的環境の確保に関する法律施行令
    裏付け: 第1条で特定建築物を旅館などの用途の延べ面積3,000平方メートル以上と定める、第2条で空気調和設備の場合の基準(二酸化炭素100万分の1,000以下・温度18度以上28度以下・相対湿度40〜70%など)、機械換気設備の場合は第1〜3号・第6号・第7号の項目

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