「最大45%」と「前年比25%」は別の数字:テネシー州ノックスビルの118室のホテルが、2010年に客室・洗濯・プールで入れた対策を分けて読む
省エネの事例には、いくつもの割合が並ぶことが多い。どの割合が、どの対策の、誰の言葉なのかを分けないと、実際より大きな効果を思い描いてしまう。
米国テネシー州ノックスビルの118室のホテル「ヒルトン・ガーデン・イン・ノックスビル・ウエスト」は、2010年の初めから、省エネと環境に配慮した技術で毎日の運営の費用を下げる取り組みを始めた。その内容は、2011年1月11日、省エネのコンサルティング会社「エコグリーンホテル」の発表として、ホテル業界のニュースサイトに載った。この記事では、発表に出てくる割合を、一つずつ持ち主に戻して読む。
誰が提案し、何を入れたか
発表によると、対策はエコグリーンホテルが提案し、ホテルを運営する投資・運営会社「M.ギブソン・ホテルズ・グループ」が承認した。入れたものは次のとおりだ。
- 客室の空調を管理する「エナジー・パトロール」と、ボイラーの管理システム(どちらも US エナジー・ソリューションズの製品)
- 洗濯機のオゾンの装置
- 屋内プールを塩水のプールに変える工事
- プールの水面に浮かべる「液体のプールの覆い」
エコグリーンホテルが工事を管理し、毎日の営業を乱さない日程で取り付けたという。発表は、提案した会社自身のものだ。
「最大45%」は、機器メーカーの社長の言葉
エナジー・パトロールは、客室の人感センサーを部屋の温度調節器につなぎ、客室ごとの一体型の空調機(PTAC)を細かく制御する仕組みだ。
発表の中で、「占有中の客室1室あたりの空調のむだを、最大45%減らした」「投資の回収は約2年」と話しているのは、US エナジー・ソリューションズの社長だ。ホテルの電気の計測の結果として示された数字ではなく、機器の会社の言葉として載っている。「最大」なので、平均ではない。
洗濯は、お湯の温度を下げた
ホテルは、75ポンド(約34キログラム)の洗濯機2台に、小型のオゾンの装置を組み合わせた。発表によると、オゾンが洗剤の働きを強めるため、洗う水の温度を、従来の華氏140〜160度(摂氏約60〜71度)から、華氏95〜115度(摂氏約35〜46度)に下げられたという。洗剤の量も減り、エネルギーの節約は「すばらしい」と書かれている。ただし、節約の量を示す数字はない。
プールの2つの対策は、性格が違う
1つ目は、液体のプールの覆いだ。生分解性の液体を自動で水面に流し、目に見えない薄い膜をつくって、水の蒸発を遅らせる。蒸発は水から熱を奪うので、蒸発が減れば、温め直すエネルギーも減る。発表は、プールのエネルギーの請求額が15〜30%減っていると書く。「1ドルの支出で3ドルの節約」という言葉もあるが、どの期間の計算かは書かれていない。
2つ目は、塩水のプールへの転換だ。発表自身が、これは「エネルギーの使用を減らさない」対策だと書いている。プールの配管に装置をつなぐ簡単な工事で、取り付けは1時間もかからなかった。プールの薬剤の費用は、乾燥した塩素の錠剤などで月150ドルかかっていたのが、25ポンド入りの塩の袋で月10ドル未満になった。単純に計算すると、年に1,680ドル以上の差になる。
塩水のプールは、塩素を使わないプールではない。米国インディアナ州の保健局は2009年の資料で、塩は消毒剤ではなく、装置が塩から電気でつくる塩素が消毒をすると説明している。決まった遊離残留塩素の濃さを保てていれば塩素を買い足す必要はないが、保てなければ買う必要がある、とも書いている。
「前年比25%」は、すべての対策を合わせた結果
発表の最後には、すべての対策を合わせて、電気と天然ガスの使用量が前年に比べて25%減ったとある。対策全体の費用は、節約で24か月以内に回収できる見込みだという。
まとめると、割合は次のように分かれる。
- 最大45%:客室の空調のむだ、占有中の1室あたり、機器の会社の社長の言葉
- 15〜30%:プールのエネルギーの請求額
- 25%:電気と天然ガスの使用量、全体、前年との比較
- 24か月:全体の回収の見込み
前年との比較には、天候や稼働率の違いも入る。対策ごとに25%のうちどれだけを占めたかは、発表には書かれていない。
国の研究所が測った客室の空調の制御
客室の人感センサーで空調を制御する仕組みについては、米国エネルギー省の依頼で、パシフィック・ノースウエスト国立研究所(PNNL)が2012年9月に報告書をまとめている。ヒルトン・ガーデン・インの機器が試験の対象だったわけではないが、同じ種類の技術の実測として参考になる。
- 3つの都市の6つのホテルで、各ホテル8室(4組)を測った。1組は、制御ありの部屋と、ふつうの温度調節器の部屋
- メーカーが試験の前に示していた節約の幅は10〜30%
- 実測の節約は、ホテルごとに10.8〜26.5%、平均は18.4%
- 1室あたりの年間の節約は167〜589キロワット時、金額は20.96〜79.03ドル
- 取り付け費用をもとにした単純な回収期間は5.3〜15.7年
報告書は、測ったのは各ホテルの客室の約3%にあたる8室だけなので、結果を広く当てはめるときは注意が必要だとも書いている。「最大45%・回収約2年」と、「平均18.4%・回収5.3〜15.7年」の間には、大きな開きがある。
日本の宿に置き換えると
割合の違いが、回収の年数をどれだけ変えるかを、InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)で見てみる。
- 20室の宿。客室の空調の電気は、1室あたり年1,500キロワット時、電気代は1キロワット時30円
- 人感センサーの制御の費用は、全室で100万円
- 45%減れば、年1万3,500キロワット時、40万5,000円の節約。回収は約2.5年
- 18.4%減なら、年5,520キロワット時、約16万6,000円の節約。回収は約6年
同じ機器でも、どの割合を前提にするかで、回収の年数は2倍以上違う。見積もりを受け取ったら、その割合が最大か平均か、どこで測ったものかを確かめたい。
プールの対策にも、日本の決まりが関わる。厚生労働省の「遊泳用プールの衛生基準」(2007年)は、遊離残留塩素の濃さを1リットルあたり0.4ミリグラム以上とし、1.0ミリグラム以下が望ましいとしている。測定は毎日、午前に1回以上、午後に2回以上。水の温度は原則22度以上だ。塩水のプールに変えても、この濃さを保ち、測る必要があることに変わりはない。
宿の大浴場はどうか。2026年1月に改正された「旅館業における衛生等管理要領」は、浴槽の湯を常に満杯にし、ろ過した湯などを供給してあふれさせて清浄に保つよう求めている。遊離残留塩素は1リットルあたり0.4ミリグラム程度を保ち、最大1ミリグラムを超えないよう努める。オゾンなど塩素以外の方法を使う場合は、塩素消毒を併用するなどの措置を求めている。
湯をあふれさせる前提の浴槽に、水面に浮かべる膜の製品がそのまま合うかは分からない。大浴場で湯の熱の逃げを減らしたいときは、製品を選ぶ前に、保健所に相談するのが確実だ。
割合を、持ち主に戻す
この事例から持ち帰れるのは、45%という数字よりも、一つの発表の中に、性格の違う割合がいくつも並ぶという事実だ。誰が言った数字か、何に対する割合か、最大か平均か、何と比べたのかを分けて読めば、自分の宿で期待できる効果を、より落ち着いて見積もれる。
持ち帰れる知識
- 一つの発表に、対象も持ち主も違う割合が並ぶことがある
- 「最大」の割合と、実測の平均は大きく違うことがある
- 塩水のプールは、塩からつくる塩素で消毒する。塩素の濃さの管理は続く
- 前年との比較には、天候や稼働率の違いも入る
宿で考えられること
- 見積もりの割合が、最大か平均か、どこで測ったものかを業者に確かめる
- 回収の年数を、低めの割合でも計算しておく
- 客室の空調の制御は、数室で試してから全室に広げる
- 大浴場やプールの対策は、保健所に相談してから選ぶ
事業・予約への接続
客室の空調の制御や洗濯の温度の見直しは、客の目に触れにくい。それでも、快適さを保ったまま無駄を減らす工夫として説明できれば、運営の丁寧さを伝える材料になる。
Sources / 参考情報
- Hotel News Resource(英文) - ヒルトン・ガーデン・イン・ノックスビル・ウエストが、環境技術でエネルギーの使用を減らす(2011年1月11日、エコグリーン・エナジー・ソリューションズの発表)
裏付け: 2010年の初めから、118室、エコグリーンホテルが提案しM.ギブソン・ホテルズ・グループが承認、エナジー・パトロールとボイラー管理、オゾンの洗濯、塩水のプール、液体のプールの覆い、営業を乱さない工事、US エナジー・ソリューションズの社長の「占有中の1室あたり空調のむだを最大45%」「回収約2年」、75ポンドの洗濯機2台、華氏140〜160度から95〜115度、プールのエネルギーの請求額15〜30%減、1ドルで3ドル、塩水はエネルギーを減らさない、1時間未満の取り付け、月150ドルから月10ドル未満、電気と天然ガスの使用量が前年比25%減、24か月以内の回収の見込み - Pacific Northwest National Laboratory(英文) - 客室の空調の在室連動制御の技術実証(PDF)(2012年9月、米国エネルギー省のために作成)
裏付け: 3都市6ホテル、各ホテル8室を4組で測定、メーカーの示した幅10〜30%、ホテルごとの節約10.8〜26.5%、平均18.4%、1室あたり年167〜589キロワット時・20.96〜79.03ドル、単純回収5.3〜15.7年、8室は客室の約3%で一般化に注意 - Indiana State Department of Health(英文) - 公共と準公共のプールの塩素発生装置(PDF)(2009年5月11日)
裏付け: 塩から電気で塩素をつくる、塩は消毒剤ではなく発生した塩素が消毒する、塩素の濃さを保てれば塩素の購入は不要・保てなければ必要 - 厚生労働省(法令等データベース) - 遊泳用プールの衛生基準について(2007年5月28日)
裏付け: 遊離残留塩素0.4mg/L以上・1.0mg/L以下が望ましい、毎日午前1回以上と午後2回以上の測定、水温は原則22度以上 - 厚生労働省 - 旅館業における衛生等管理要領の一部改正について(PDF)(2026年1月20日)
裏付け: 旅館業の浴室の管理、浴槽水は常に満杯でろ過した湯水などを供給してあふれさせる、遊離残留塩素0.4mg/L程度・最大1mg/Lを超えないよう努める、オゾン殺菌などの場合は塩素消毒を併用するなど適切な衛生措置