「1人60リットル」は、何あたりか:アブダビの空港ホテル「プレミア・イン」の節水の数字を、割り算で確かめる
アブダビ国際空港の「プレミア・イン」は、客室のシャワーと浴槽の水を膜で濾して、トイレと植栽に使い直している。2016年1月の業界紙の記事は、この仕組みで水道の水を毎月平均73万5,000リットル減らし、それは使用量の24%にあたる、と伝えた。仕組みの成り立ちと、開業10年の歩みは #187 で取り上げた。
この記事では、同じ発表に並ぶ「客1人あたり60リットル」「1年で浴槽11万杯分」という言いかえの数字を、割り算で確かめる。言いかえは分かりやすいが、何で割ったかによって意味が変わる。数字のもとは、水の管理の会社「ウォータースキャン」が仕組みをつくった案件の発表で、各紙はそれを伝えている。
発表の中身
2016年1月の各紙の記事に共通するのは、次の点だ。
- ウォータースキャンが、300室のシャワーと入浴の水を集め、限外ろ過(UF)膜で処理してから、トイレの洗浄と植栽の散水に戻す仕組みをつくった
- 膜には通信の機能が組み込まれ、離れた場所から状態を診断し、故障の前に手入れができる
- アブダビの規制当局(RSB)が認めた、最初のグレーウォーターの再利用の仕組みだという
- 水道の水を毎月平均73万5,000リットル(24%)減らした
- ホテルのトイレを流す水は、100%が再生した水になった
「60リットル」に付いた言葉
同じ60リットルでも、記事によって添えられた言葉が違う。
- 「ウォーターワールド」(2016年1月4日):水道の水を毎月平均73万5,000リットル減らしており、客1人あたり約60リットル
- 「ホスピタリティ&ケータリング・ニュース」(2016年1月5日):毎月73万5,000リットル(24%)を減らしている。それは客1人あたり60リットル
- 「トリプルパンディット」(2016年1月5日):客1人あたり毎月60リットルを節約している
- 「グリーンキー」の2016年7月11日の記事:毎月73万5,000リットル(24%)、客1人あたり60リットル
ある記事は「毎月」を60リットルの側に付け、ほかの記事は73万5,000リットルの側に付けている。客1人が1か月泊まり続けることは、空港のホテルではふつう考えにくい。そこで、「1人1泊あたり」と読める可能性を頭に置きつつ、割り算で中身を確かめてみる。
割り算で確かめる
① 1か月に何人分か
73万5,000リットルを60リットルで割ると、1万2,250。1か月に1万2,250人分(または人泊分)の節約、という意味になる。30日で割ると、1日あたり約408人だ。
300室がすべて埋まっていたとしても、1室あたり約1.36人。発表に稼働率や客の数は書かれていないので、これ以上は分からない。
② もとの使用量はどれだけか
73万5,000リットルが24%なら、もとの使用量は73万5,000÷0.24で、毎月約306万リットルになる。これを1万2,250人で割ると、客1人あたり約250リットル。その約4分の1にあたる60リットルを、再生した水で置き換えた計算になる。
この約250リットルには、客室だけでなく、厨房、洗濯、プール、植栽、従業員の分などがすべて含まれていると考えられる。発表に内訳はない。
③ 浴槽1杯は何リットルか
73万5,000リットルを12か月分にすると、882万リットル。これを11万杯で割ると、1杯あたり約80リットルになる。発表の「浴槽11万杯分」は、1杯を約80リットルとした計算と合う。浴槽の大きさは国や設備で違うので、「何杯分」は、1杯の量を決めて初めて意味を持つ。
「最大40%」と「24%」
グリーンキーの記事は、雨水の利用は水道の水を最大30%、グレーウォーターの再利用は最大40%減らせる、と書いている。プレミア・インの実績は24%だった。「最大」は条件がそろったときの上限で、実際の数字は、建物の使い方や、再生した水を回す先の量で決まる。
同じ記事は、ウォータースキャンの新しい世代の装置について、次のように紹介している。
- 消費電力を抑えたい場合の「バッチ式」:低い圧力でゆっくり濾す。場所はとるが、エネルギーは少ない
- 場所と費用を抑えたい場合の「オンデマンド式」:高い圧力で速く濾す。タンクを小さくでき、設置の費用を抑えられる
- 1立方メートルの水を、約1.5キロワット時の電気でつくれる
これはメーカーの説明で、プレミア・インの装置の電気の使用量は、発表に書かれていない。
日本の宿に置き換えると
東京都水道局の「水の上手な使い方」のページには、日本の暮らしの水の量の目安が並んでいる。
- シャワーを3分間流しっぱなしにすると、約36リットル(1分間に約12リットル)
- 一般の家庭の、ふろの残り湯は約180リットル。その半分を洗濯、掃除、散水に使えば、約90リットルの節水になる
- 世帯の人数ごとの1か月の平均の使用量は、1人で8.1立方メートル、2人で14.4立方メートル、4人で22.4立方メートル
この目安で、プレミア・インの数字を読み直すと、こうなる。
- 60リットルは、1分間に12リットルのシャワーなら、5分間分
- 発表の浴槽1杯の約80リットルは、東京の残り湯の約180リットルの半分にも満たない。同じ882万リットルを180リットルで割ると、約4万9,000杯になる
- 1人で暮らす世帯の8.1立方メートルを30日で割ると、1日約270リットル。ホテルの客1人あたり約250リットルと近いが、ホテルの数字には建物全体の使用が入っているので、そのままは比べられない
東京都のページが勧める「残り湯を洗濯や掃除に回す」は、家の中でのグレーウォーターの使い直しとも言える。プレミア・インは、それを建物の規模で、膜と配管を使って行っている。
言いかえの物差しで、同じ節水がどう見えるかを、InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)で見てみる。
- 20室の宿が、大浴場のシャワーの水を濾してトイレに回し、水道の水を年に250立方メートル(25万リットル)減らしたとする
- 浴槽1杯を80リットルとすれば3,125杯分。180リットルとすれば約1,389杯分。同じ節水が、物差しによって2倍以上違って見える
- 3分間のシャワー(36リットル)なら、約6,944回分
- 装置が1立方メートルあたり1.5キロワット時の電気を使うとすると、年に375キロワット時。電気が1キロワット時30円なら、年に約1万1,250円の電気代がかかる
節水を客に伝えるときは、「何杯分」と言う前に、1杯を何リットルとしたかを書き添える。装置を入れるときは、減った水の量と一緒に、増える電気の量も見ておきたい。
言いかえの数字は、割り算で確かめる
73万5,000リットル、24%、60リットル、11万杯。どれも同じ節水を別の言葉で言いかえた数字だ。割ってみると、1か月に1万2,250人分、客1人あたりもとは約250リットル、浴槽1杯は約80リットル、という前提が見えてくる。言いかえの数字に出会ったら、何で割ったのかを確かめる。それだけで、数字は自分の宿で使える物差しに変わる。
持ち帰れる知識
- 「60リットル」に「毎月」を付けた記事と、付けていない記事がある
- 73万5,000リットルを60リットルで割ると、1か月に1万2,250人分
- 24%から逆算すると、もとの使用量は毎月約306万リットル、客1人あたり約250リットル
- 「11万杯」は、浴槽1杯を約80リットルとした計算と合う
宿で考えられること
- 節水の言いかえを使うときは、1杯や1回を何リットルとしたかを書き添える
- 「客1人あたり」が、1泊あたりか1か月あたりかをはっきり書く
- 装置を選ぶときは、減る水の量と、増える電気の量を両方見積もる
- メーカーの「最大何%」と、自分の宿の使い道の量を比べる
事業・予約への接続
「浴槽何杯分」は客に伝わりやすい言葉だ。1杯の量と、何で割ったかを一行添えるだけで、節水の数字は誤解されにくく、信頼される説明になる。
Sources / 参考情報
- WaterWorld(英文) - グレーウォーターの再利用で、アブダビの空港ホテルが水の使用を抑える(2016年1月4日)
裏付け: ウォータースキャンと組んだ仕組み、300室のシャワーと入浴の水、UF膜でトイレと散水へ、膜に通信の機能・遠隔診断と予防保全、アブダビのRSBが認めた最初のグレーウォーターの仕組み、毎月平均73万5,000リットル(24%)・客1人あたり約60リットル、トイレの洗浄は100%再生水 - Hospitality & Catering News(英文) - プレミア・イン・ホテルズが節水の新しい基準をつくる(2016年1月5日)
裏付け: 300室のシャワーと入浴の水をUF膜で処理しトイレと散水へ、毎月平均73万5,000リットル(24%)・それは客1人あたり60リットル、1年で浴槽11万杯分、トイレの洗浄は100%再生水、RSBが認めた最初の仕組み - TriplePundit(英文) - プレミア・インが水の再利用の仕組みで注目を集める(2016年1月5日)
裏付け: 客1人あたり毎月60リットルを節約、300室のシャワーと入浴の水をUF膜で処理、毎月平均73万5,000リットル(24%) - Green Key(英文) - ホテルのためのグレーウォーターの回収(2016年7月11日)
裏付け: 雨水の利用で最大30%・グレーウォーターの再利用で最大40%、ウォータースキャンの新しい世代の装置、バッチ式とオンデマンド式、1立方メートルを1.5キロワット時でつくる、プレミア・インで毎月73万5,000リットル(24%)・客1人あたり60リットル・1年で浴槽11万杯分・トイレの洗浄は100%再生水 - 東京都水道局 - 水の上手な使い方
裏付け: シャワー3分間で約36リットル、1分間に約12リットル、一般家庭のふろの残り湯は約180リットルで半分を洗濯・掃除・散水に使えば約90リットルの節水、世帯人員別の1か月の平均使用水量(1人8.1立方メートル、2人14.4立方メートル、4人22.4立方メートル)