GOAL 7 · TARGET 7.2 エネルギー・脱炭素 4分 / 2489文字 物差しを確かめる型 #371

「922トン」「197台」「99.6世帯」「138軒」:ランカスターのコートヤードの太陽光を、換算の物差しから読み直す

米国ペンシルベニア州の「コートヤード・バイ・マリオット・ランカスター」(133室)は、2018年、電気の100%を太陽光でまかなう、米国で初めてのマリオットのブランドのホテルになった。半マイルほど離れた倉庫の屋根に2,700枚のパネルを並べた仕組みと、「100%」が1年の合計であることは #256 で取り上げた。

この記事では、発表に並んだ言いかえの数字を読み直す。二酸化炭素922トン、乗用車197台分、99.6世帯分、そして138軒分。どれも同じ発電を別の言葉に置き換えた数字だが、置き換えるための「物差し」はそれぞれ違う。

発表に並んだ数字

業界紙「ホテル・ビジネス」の2018年6月の記事と、業界誌「ホスピタリティ・テクノロジー」の2018年の記事によると、数字は次のとおりだ。

  • パネルは2,700枚あまり。発電は年に123万9,000キロワット時、ホテルの使用は117万7,000キロワット時
  • 二酸化炭素を922トン減らす。乗用車197台が1年に走る分、石炭100万8,846ポンドを燃やす分、99.6世帯の1年のエネルギーの使用分にあたる
  • ホスピタリティ・テクノロジーは、これに原油2,135バレル分を加え、数字は米国環境保護庁(EPA)の「温室効果ガス換算ツール」を使ってホテルが見積もったと書いている
  • 照明をLEDに替えて、電気の使用を約15%減らした

一方、ホテルを運営するハイ・ホテルズのページは、同じ発電を「138軒の家の1年分の電気」と説明している。

割ってみると、物差しが見える

922トンを、それぞれの数字で割ってみる。

  • 922トン÷123万9,000キロワット時=1キロワット時あたり約0.744キログラム
  • 922トン÷197台=1台あたり約4.68トン
  • 922トン÷99.6世帯=1世帯あたり約9.26トン
  • 922トン÷2,135バレル=1バレルあたり約0.43トン

つまり、2018年の見積もりは、太陽光の1キロワット時が、ほかの発電所の約0.744キログラムの二酸化炭素を減らす、という物差しを使っている。

138軒は、別の物差しだ。123万9,000キロワット時を138で割ると、1軒あたり約8,978キロワット時。こちらは二酸化炭素ではなく、電気の量で家に置き換えている。ハイ・ホテルズのページは、1軒をどれだけと見たかを書いていない。

「99.6世帯」と「138軒」は、数えているものが違う

EPAの換算ツールの説明のページを読むと、二つの数字の違いが分かる。

  • EPAの「世帯のエネルギーの使用」は、電気だけでなく、天然ガス、プロパン、灯油などを合わせた1年の排出だ。今のページでは1世帯あたり7.45トンで、そのうち電気は4.798トン
  • 電気の分は、1世帯あたり年1万2,194キロワット時の電気の使用から計算している

99.6世帯は、ガスや灯油まで含めた「家のエネルギー全体」の数字。138軒は、電気だけの数字。同じ発電でも、何に置き換えるかで、家の数は4割ほど違って見える。

物差しは、年ごとに変わる

EPAのページによると、換算ツールは2024年から、2022年のデータに基づく値を使っている。

  • 太陽光や省エネで「減らした」電気には、需要に合わせて動く発電所の排出の率を使う。全米の平均で1キロワット時あたり約0.672キログラム(送電の損失を含む)
  • 地域ごとの率もある。全米の平均は1メガワット時あたり1,405.3ポンドで、たとえば「RFCイースト」の地域は1,278.7ポンド
  • 乗用車1台は年4.29トン、石炭1ポンドは約0.000900トン、原油1バレルは0.43トン

今の全米の値で計算し直すと、123万9,000キロワット時は約833トンになる。2018年の922トンより1割ほど少ない。乗用車に直すと約194台、世帯に直すと約112世帯だ。発電の量は同じでも、電力網が変われば、減らせる二酸化炭素の量も変わる。

また、EPAは「使った」電気には、別の、平均の排出の率を使う。全米で1キロワット時あたり約0.394キログラム。これで計算すると、約488トンになる。減らした電気と使った電気で、物差しを分けているのだ。

日本の宿に置き換えると

日本では、環境省と経済産業省が、温室効果ガスの算定・報告・公表制度で使う電気の排出係数を電気事業者ごとに公表している。2025年度の排出量を計算するための一覧(2026年8月3日の更新版)では、次のとおりだ。

  • 全国の平均の係数は、1キロワット時あたり0.000423トン(0.423キログラム)
  • 一般送配電事業者の係数は、沖縄電力が0.000707トン。ほかの9社は、全国の平均の係数を使っている
  • 小売の電気事業者の係数は、会社ごと、料金のメニューごとに違う

ランカスターの123万9,000キロワット時に全国の平均の係数を当てると、約524トン。沖縄電力の係数なら約876トンになる。どちらも、電気を使ったときの排出の係数で、EPAの「減らした」電気の物差しとは考え方が違う。

InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)として、20室の宿が年12万キロワット時の電気を使うとする。

  • 全国の平均の係数なら、年約50.8トン
  • 係数が1キロワット時あたり0.000300トンのメニューに切り替えれば、年約36トン
  • 屋根の太陽光で2万キロワット時を自分でまかなえば、買う電気は10万キロワット時。全国の平均の係数で約42.3トン
  • 同じ12万キロワット時に、2018年のランカスターの物差し(0.744キログラム)を当てると、約89.3トン

同じ宿の同じ電気でも、物差しによって、二酸化炭素の量は2倍以上違って見える。

換算の数字には、物差しを添える

922トン、197台、99.6世帯、138軒。どれも間違いではなく、物差しが違うだけだ。宿が自分の取り組みを「何トン」「何世帯分」と伝えるときは、どの係数を、何年の値で使ったかを一行添える。それだけで、数字は比べられるものになる。

持ち帰れる知識

  • 922トン÷123万9,000キロワット時で、1キロワット時あたり約0.744キログラムの物差しが見える
  • 「99.6世帯」はガスや灯油を含む家のエネルギー全体、「138軒」は電気だけ
  • EPAの今の値で計算し直すと約833トン。物差しは年ごとに変わる
  • 日本の全国の平均の係数は1キロワット時あたり0.000423トン(2025年度の算定用)

宿で考えられること

  • 電気の請求書から、1年の使用量をキロワット時で集計する
  • 契約している電気のメニューの排出係数を、環境省の一覧で確かめる
  • 二酸化炭素の量を伝えるときは、係数とその年度を書き添える
  • 「何世帯分」と言うときは、電気だけか、エネルギー全体かを書く

事業・予約への接続

「何トン減らした」「何世帯分」という言葉は、客にも伝わりやすい。物差しを一行添えるだけで、ほかの宿とも比べられる、信頼される数字になる。

Sources / 参考情報

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