「922トン」「197台」「99.6世帯」「138軒」:ランカスターのコートヤードの太陽光を、換算の物差しから読み直す
米国ペンシルベニア州の「コートヤード・バイ・マリオット・ランカスター」(133室)は、2018年、電気の100%を太陽光でまかなう、米国で初めてのマリオットのブランドのホテルになった。半マイルほど離れた倉庫の屋根に2,700枚のパネルを並べた仕組みと、「100%」が1年の合計であることは #256 で取り上げた。
この記事では、発表に並んだ言いかえの数字を読み直す。二酸化炭素922トン、乗用車197台分、99.6世帯分、そして138軒分。どれも同じ発電を別の言葉に置き換えた数字だが、置き換えるための「物差し」はそれぞれ違う。
発表に並んだ数字
業界紙「ホテル・ビジネス」の2018年6月の記事と、業界誌「ホスピタリティ・テクノロジー」の2018年の記事によると、数字は次のとおりだ。
- パネルは2,700枚あまり。発電は年に123万9,000キロワット時、ホテルの使用は117万7,000キロワット時
- 二酸化炭素を922トン減らす。乗用車197台が1年に走る分、石炭100万8,846ポンドを燃やす分、99.6世帯の1年のエネルギーの使用分にあたる
- ホスピタリティ・テクノロジーは、これに原油2,135バレル分を加え、数字は米国環境保護庁(EPA)の「温室効果ガス換算ツール」を使ってホテルが見積もったと書いている
- 照明をLEDに替えて、電気の使用を約15%減らした
一方、ホテルを運営するハイ・ホテルズのページは、同じ発電を「138軒の家の1年分の電気」と説明している。
割ってみると、物差しが見える
922トンを、それぞれの数字で割ってみる。
- 922トン÷123万9,000キロワット時=1キロワット時あたり約0.744キログラム
- 922トン÷197台=1台あたり約4.68トン
- 922トン÷99.6世帯=1世帯あたり約9.26トン
- 922トン÷2,135バレル=1バレルあたり約0.43トン
つまり、2018年の見積もりは、太陽光の1キロワット時が、ほかの発電所の約0.744キログラムの二酸化炭素を減らす、という物差しを使っている。
138軒は、別の物差しだ。123万9,000キロワット時を138で割ると、1軒あたり約8,978キロワット時。こちらは二酸化炭素ではなく、電気の量で家に置き換えている。ハイ・ホテルズのページは、1軒をどれだけと見たかを書いていない。
「99.6世帯」と「138軒」は、数えているものが違う
EPAの換算ツールの説明のページを読むと、二つの数字の違いが分かる。
- EPAの「世帯のエネルギーの使用」は、電気だけでなく、天然ガス、プロパン、灯油などを合わせた1年の排出だ。今のページでは1世帯あたり7.45トンで、そのうち電気は4.798トン
- 電気の分は、1世帯あたり年1万2,194キロワット時の電気の使用から計算している
99.6世帯は、ガスや灯油まで含めた「家のエネルギー全体」の数字。138軒は、電気だけの数字。同じ発電でも、何に置き換えるかで、家の数は4割ほど違って見える。
物差しは、年ごとに変わる
EPAのページによると、換算ツールは2024年から、2022年のデータに基づく値を使っている。
- 太陽光や省エネで「減らした」電気には、需要に合わせて動く発電所の排出の率を使う。全米の平均で1キロワット時あたり約0.672キログラム(送電の損失を含む)
- 地域ごとの率もある。全米の平均は1メガワット時あたり1,405.3ポンドで、たとえば「RFCイースト」の地域は1,278.7ポンド
- 乗用車1台は年4.29トン、石炭1ポンドは約0.000900トン、原油1バレルは0.43トン
今の全米の値で計算し直すと、123万9,000キロワット時は約833トンになる。2018年の922トンより1割ほど少ない。乗用車に直すと約194台、世帯に直すと約112世帯だ。発電の量は同じでも、電力網が変われば、減らせる二酸化炭素の量も変わる。
また、EPAは「使った」電気には、別の、平均の排出の率を使う。全米で1キロワット時あたり約0.394キログラム。これで計算すると、約488トンになる。減らした電気と使った電気で、物差しを分けているのだ。
日本の宿に置き換えると
日本では、環境省と経済産業省が、温室効果ガスの算定・報告・公表制度で使う電気の排出係数を電気事業者ごとに公表している。2025年度の排出量を計算するための一覧(2026年8月3日の更新版)では、次のとおりだ。
- 全国の平均の係数は、1キロワット時あたり0.000423トン(0.423キログラム)
- 一般送配電事業者の係数は、沖縄電力が0.000707トン。ほかの9社は、全国の平均の係数を使っている
- 小売の電気事業者の係数は、会社ごと、料金のメニューごとに違う
ランカスターの123万9,000キロワット時に全国の平均の係数を当てると、約524トン。沖縄電力の係数なら約876トンになる。どちらも、電気を使ったときの排出の係数で、EPAの「減らした」電気の物差しとは考え方が違う。
InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)として、20室の宿が年12万キロワット時の電気を使うとする。
- 全国の平均の係数なら、年約50.8トン
- 係数が1キロワット時あたり0.000300トンのメニューに切り替えれば、年約36トン
- 屋根の太陽光で2万キロワット時を自分でまかなえば、買う電気は10万キロワット時。全国の平均の係数で約42.3トン
- 同じ12万キロワット時に、2018年のランカスターの物差し(0.744キログラム)を当てると、約89.3トン
同じ宿の同じ電気でも、物差しによって、二酸化炭素の量は2倍以上違って見える。
換算の数字には、物差しを添える
922トン、197台、99.6世帯、138軒。どれも間違いではなく、物差しが違うだけだ。宿が自分の取り組みを「何トン」「何世帯分」と伝えるときは、どの係数を、何年の値で使ったかを一行添える。それだけで、数字は比べられるものになる。
持ち帰れる知識
- 922トン÷123万9,000キロワット時で、1キロワット時あたり約0.744キログラムの物差しが見える
- 「99.6世帯」はガスや灯油を含む家のエネルギー全体、「138軒」は電気だけ
- EPAの今の値で計算し直すと約833トン。物差しは年ごとに変わる
- 日本の全国の平均の係数は1キロワット時あたり0.000423トン(2025年度の算定用)
宿で考えられること
- 電気の請求書から、1年の使用量をキロワット時で集計する
- 契約している電気のメニューの排出係数を、環境省の一覧で確かめる
- 二酸化炭素の量を伝えるときは、係数とその年度を書き添える
- 「何世帯分」と言うときは、電気だけか、エネルギー全体かを書く
事業・予約への接続
「何トン減らした」「何世帯分」という言葉は、客にも伝わりやすい。物差しを一行添えるだけで、ほかの宿とも比べられる、信頼される数字になる。
Sources / 参考情報
- Hotel Business(英文) - 米国で初めての100%太陽光のマリオットのホテルが、まもなく(2018年6月)
裏付け: 150万ドルの太陽光、LEDで電気の需要を15%減らす、2,700枚あまりのパネル、922トン・乗用車197台・石炭100万8,846ポンド・99.6世帯のエネルギーの使用 - Hospitality Technology(英文) - 100%太陽光のマリオットの初めてのホテルが稼働(2018年)
裏付け: 133室、2,700枚、発電123万9,000キロワット時・使用117万7,000キロワット時、LEDで電気の使用を約15%減、EPAの換算ツールで922トン・197台・100万8,846ポンド・99.6世帯・原油2,135バレルと見積もった - High Hotels(英文) - 100%太陽光で動く米国で初めてのマリオットのホテル
裏付け: 133室、年約123万9,000キロワット時を発電し約117万7,000キロワット時を使う、138軒の家の1年分の電気 - 米国環境保護庁(EPA、英文) - 温室効果ガス換算ツールの計算と参考文献
裏付け: 2024年から地域ごとの値を使用(2022年のデータ)、減らした電気は需要に合わせて動く発電所の率で1キロワット時あたり0.000672トン、全米1,405.3ポンド・RFCイースト1,278.7ポンド、使った電気は0.000394トン、世帯のエネルギーの使用7.45トン(電気4.798トン・1万2,194キロワット時)、乗用車4.29トン、石炭1ポンド0.000900トン、原油1バレル0.43トン - 環境省・経済産業省 - 電気事業者別排出係数一覧(令和8年提出用、2026年8月3日一部追加・更新)(PDF)
裏付け: 令和7年度の排出量の算定に用いる係数、全国平均係数0.000423トン/キロワット時、沖縄電力0.000707、ほかの一般送配電事業者は全国平均係数を代用、小売の事業者はメニューごとの係数