1キロあたり何リットルか:ロンドン・ヒースロー・マリオットの洗濯を、EUの物差しで読む
英国ロンドンのヒースロー空港の近くにある「ロンドン・ヒースロー・マリオット」は、洗濯をホテルの中で行うようにし、年に170万リットルの水を節約したと紹介されてきた。外の業者に頼んでいた洗濯を館内に移したのに、なぜ「節約」なのか。その問いは #358 で取り上げた。
この記事では、もう一つの数字「最大80%少ない水」を、洗濯物1キログラムあたりの水の量という物差しにそろえて読む。物差しには、欧州連合(EU)が観光の分野に示した、洗濯の水とエネルギーの目安を使う。
2つの紹介
国際的な環境認証「グリーンキー」の2019年9月の記事と、洗濯の業界誌の2019年4月の記事によると、次のとおりだ。
- 館内の洗濯に切り替え、年に170万リットルの水を節約した。ヒースロー空港の旅客340万人が水筒を満たせる量
- ハイドロフィニティの洗濯機を館内に入れ、8か月以内に投資を回収した
- その洗濯機は、ふつうの機械より水を最大80%、エネルギーを50%、薬剤を50%少なく使う(グリーンキー)
- ハイドロフィニティを使うホテルは、標準的な業務用の洗濯機より水を最大80%少なく使っている。機械1台で、ふつうの機械より年に最大100万リットル少ない(業界誌の記事での、メーカーの営業の責任者の話)
どちらの「80%」も、何リットルから何リットルに減ったのかは書かれていない。
EUの物差し
EUの欧州委員会は、2016年4月、観光の分野の環境の管理の「最善の方法」をまとめた文書を決定した。環境の管理の仕組み(EMAS)を使う事業者などが参考にする文書で、守らなければならない基準ではない。宿の洗濯については、次の目安を示している。
- 小さな規模の館内の洗濯:業務用の洗濯機は、1年の平均で洗濯物1キログラムあたり7リットル以下。乾かして仕上げるまでのエネルギーは、1キログラムあたり2.0キロワット時以下
- 大きな規模の洗濯や外注:宿の洗濯物で、1回の洗いの全体を通して1キログラムあたり5リットル以下。エネルギーは0.90キロワット時以下
- 外注する場合:外に出す洗濯は、すべてエコラベルの認証を受けた業者か、その基準を満たす業者に頼む
- 客室:タオルとシーツの再利用で、洗濯物を30%以上減らす
何リットルが「ふつう」なのか
この文書のもとになった、EUの共同研究センターの2013年の報告書は、洗濯の水について次のように書いている。
- 宿では、1室あたり2.5〜6キログラムのシーツやタオルを毎日洗うことがあり、最大100リットルの水を使う
- 家庭用の洗濯機の平均は、1997年の1キログラムあたり13.9リットルから、2005年には9.6リットルに下がった
- 業務用の洗濯脱水機の最新の水準は、2005〜2010年に1キログラムあたり8リットルだった
- 10室の小さなホテルが、9.6リットルの代わりに7リットルの機械を買い、主に60度でなく40度で洗えば、年に水を14立方メートル、エネルギーを383キロワット時減らせる
- 大きな規模の連続式の洗濯機は、1時間に250キログラムを超える量に向く。目安は500室を超える大きなホテルや外注先
- 費用の比較の図では、約6リットルと約20リットルの洗い方を並べている
「80%少ない」を、1キログラムあたりに直すと
ここからは、条件つきの計算だ。「80%少ない」の比べる相手が、1キログラムあたり何リットルかで、結果は変わる。
- 比べる相手が20リットルなら、80%少ないのは4リットル。EUの大きな規模の目安(5リットル)より少ない
- 比べる相手が8リットルなら、1.6リットル
- 比べる相手が7リットルなら、1.4リットル
同じように、170万リットルが「1キログラムあたり何リットル減った結果か」によって、洗った量の見積もりも変わる。仮に20リットルが4リットルになった(1キログラムあたり16リットル減)とすると、170万リットルは約106トンの洗濯物にあたる。8リットルが1.6リットルになった(6.4リットル減)とすると、約266トンになる。紹介の記事には洗った量が書かれていないので、どちらとも決められない。
日本の宿に置き換えると
日本の宿の環境の認証「エコマーク」には、ホテル・旅館の認定の基準(No.503、Version2.3、2024年8月1日改定)がある。必ず満たす項目と、選んで点を集める項目があり、食事を出す宿は、必須の9項目と、選ぶ項目で25点以上が要る。節水の部分は、次のとおりだ。
- 必須:水の使用量を把握して前の年と比べ、減らす努力をしている
- 必須:洗い物や掃除の節水を、従業員に掲示物やマニュアルで示して実行している
- 選択:連泊の客が、寝具やタオルの交換の有無を選べる仕組みがある
- 選択:排水をきれいにして使い直している(中水)、雨水を使っている
- 選択:外注するクリーニングなどのサービスにも、環境に配慮したものを使う
洗濯物1キログラムあたりの水やエネルギーの数値の目安は、この基準には見当たらない。EUの文書は、それを数値で示している点が違う。
InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)として、30室の宿が稼働率70%で、1室泊あたり2.5キログラムの洗濯物を館内で洗うとする。
- 1年の室泊は7,665、洗濯物は年約1万9,163キログラム
- 1キログラムあたり20リットルなら年約383立方メートル、9.6リットルなら約184立方メートル、7リットルなら約134立方メートル、5リットルなら約96立方メートル
- 20リットルから7リットルにすると、年約249立方メートルの差。水道を1立方メートル600円とすると、年約15万円
- エネルギーをEUの小さな規模の目安の2.0キロワット時で見ると、年約3万8,325キロワット時
まず、1か月の洗濯物の重さと、洗濯に使った水を量ってみる。割り算をすれば、自分の宿の「1キログラムあたり何リットル」が分かる。
割合より、1キログラムあたりで
「最大80%少ない」は、比べる相手によって、4リットルにも1.4リットルにもなる。洗濯の水は、1キログラムあたりのリットルで比べると、宿どうしでも、EUの目安とも比べられる。宿で機械を選ぶときも、割合の宣伝より、1キログラムあたりの数字を確かめたい。
持ち帰れる知識
- EUの文書は、小さな規模の館内の洗濯を1キログラムあたり7リットル以下・2.0キロワット時以下、大きな規模を5リットル以下・0.90キロワット時以下とする
- EUの報告書では、家庭用の洗濯機の平均は2005年に9.6リットル、業務用の最新の水準は8リットル
- 「80%少ない」は、比べる相手が20リットルなら4リットル、7リットルなら1.4リットル
- エコマークのホテル・旅館の基準には、1キログラムあたりの数値の目安は見当たらない
宿で考えられること
- 1か月の洗濯物の重さと、洗濯に使った水を量る
- 洗濯機を選ぶときは、1キログラムあたりの水とエネルギーを確かめる
- 外注する場合は、業者に1キログラムあたりの水を聞いてみる
- 連泊の客がタオルやシーツの交換を選べる仕組みを、洗濯の量を減らす手として使う
事業・予約への接続
「洗濯物1キログラムあたり何リットル」は、宿の工夫を数字で伝える言葉になる。割合だけの宣伝より、客にも取引先にも信頼される。
Sources / 参考情報
- Green Key(英文) - マリオットのホテルが、洗濯を館内に移して水とエネルギーを節約(2019年9月)
裏付け: 館内の洗濯で年170万リットルを節約、ハイドロフィニティの洗濯機を入れて8か月以内に回収、ふつうの機械より水を最大80%・エネルギー50%・薬剤50%少ない、旅客340万人の水筒 - Laundry and Cleaning News(英文) - 次の段階の技術(2019年4月)
裏付け: ロンドン・ヒースロー・マリオットはハイドロフィニティの新しい顧客の一つ、標準的な業務用の洗濯機より水を最大80%少ない、機械1台でふつうの機械より年に最大100万リットル少ない(メーカーの営業の責任者) - EUR-Lex(英文) - 観光の分野の環境の管理の最善の方法などに関する欧州委員会の決定(EU)2016/611
裏付け: 小さな規模の館内の洗濯は業務用の洗濯機で1キログラムあたり7リットル以下(b36)・2.0キロワット時以下(b37)、外注はすべてエコラベルの業者(b39)、大きな規模は宿の洗濯物で5リットル以下(b40)・0.90キロワット時以下(b41)、再利用で洗濯物を30%以上減らす(b34) - EU共同研究センター(JRC、英文) - 観光の分野の環境の管理の最善の方法(2013年)第5章(PDF)
裏付け: 1室あたり2.5〜6キログラムを毎日洗い最大100リットル、家庭用の洗濯機の平均13.9リットル(1997年)→9.6リットル(2005年)、業務用の洗濯脱水機の最新の水準8リットル(2005〜2010年)、10室のホテルで9.6→7リットル・40度で年14立方メートル・383キロワット時、連続式の洗濯機は1時間250キログラム超・500室超、約6リットルと約20リットルの比較の図 - エコマーク事務局(日本環境協会) - エコマーク商品類型No.503「ホテル・旅館Version2.3」認定基準書(PDF)
裏付け: 2024年8月1日改定、食事を出す施設は必須9項目+選択項目25p以上、(47)水の使用量の把握と前年度比較、(48)従業員への節水の掲示、(49)連泊の交換の選択、(52)中水利用、(53)雨水利用、(61)外注するクリーニングなどのサービスにも環境配慮型