イフタールの大皿から始まった:ドバイの「フェアモント・ザ・パーム」の食品ロス61%減を、3つの資料で読み比べる
ドバイの人工島パーム・ジュメイラにあるリゾート「フェアモント・ザ・パーム」は、2017年4月から、捨てた食べ物を記録する仕組みを使っている。仕組みを提供する英国のウィノウによると、ビュッフェのレストランで食品のごみを61%減らし、年に50万ディルハム、14万ドルを節約したという。
同じ事例は、ウィノウの資料に何度も出てくる。ただ、資料によって数字の書き方が少しずつ違う。この記事では、3つの資料を並べて、どの数字がどこから来ているかを確かめる。
1つ目:2019年のブログ
ウィノウのブログは、2019年7月16日にこの事例を紹介した。書かれていることは次のとおりだ。
- 2017年4月から仕組みを使い、2年間で、ホテルのビュッフェのレストランの食品のごみを61%減らした
- 年に推定50万ディルハム、14万ドルの節約にあたる
- よく捨てられていた料理を入れ替え、料理を盛る器を小さくした
- 料理長のチームが、毎日レポートを読んだ
- 年に7万食分と、50万ディルハムの節約になる
最後の金額は、ブログの本文では「AED 500,00」と書かれている。桁の区切りがずれた誤記で、同じ記事の冒頭には「AED 500,000」とある。
料理長のトレバー・マクラウド氏は、レポートのデータで、どこで、なぜ食べ物が捨てられているかが分かり、そこから減らす方法を考えられると話している。今は捨てる量が落ち着いてきたので、できるだけ減らし続けるよう自分たちを励ましている、とも述べている。
2つ目:事例紹介のPDF
ウィノウの事例紹介のPDFは、食品と飲料の部門の責任者、アラン・ゴベイユ氏の言葉を中心にまとめている。ゴベイユ氏は、この仕組みを、厨房にとって「簡単で、効率がよく、迷う必要のない」解決策だと表している。
PDFによると、取り組みのきっかけは、ラマダンのイフタールの豪華なビュッフェだった。イフタールは、ラマダンの月に日没後にとる食事だ。豪華な品ぞろえを見せることと、責任ある料理の出し方のあいだで、釣り合いをとる必要があった。毎日と毎週のレポートで、それまでの方法では得にくかった、捨てる物の細かい情報が得られたという。
数字は、次のように並んでいる。
- 大きな見出しは「食品のごみを60%削減」
- ゴベイユ氏の言葉の中では「61%」
- 年換算の結果として、約50万ディルハム(14万ドル)と、年7万食
PDFは最後に、ホテルがこの仕組みを、食品のごみを減らすだけでなく、客の満足、持続可能性、オーナーへのよい利益にもつながる道具と見ている、と書いている。
3つ目:中東のガイドの案内
ウィノウには、中東のホテルの食品ロスの取り組みをまとめたガイドもある。そのページは、ガイドの中身を「フェアモント・ザ・パームはどのように22万5,000ドルを節約したか」と案内している。
22万5,000ドルは、ブログやPDFの14万ドルとは違う数字だ。ページには、期間も、計算の方法も書かれていない。ガイドは、ダウンロードしないと中身を読めない。だから、この記事では、22万5,000ドルが何年分の、どの範囲の数字なのかは判断しない。数字が違うという事実だけを記しておく。
3つの資料を並べると
並べて分かるのは、次のことだ。
- 61%と60%:同じPDFの中に両方ある。見出しは丸めた数字、言葉の中は細かい数字と読める
- 14万ドルと22万5,000ドル:期間や範囲が違う可能性がある。案内のページだけでは確かめられない
- 範囲:ブログは「ビュッフェのレストランで」と書き、PDFは「業務全体で」記録を始めたと書く。61%がどの範囲の数字かは、ブログの書き方がいちばん具体的だ
- 期間:61%は、2年間の取り組みの結果だ
数字を引用するときは、どの資料の、どの段落の数字かを添えると、あとで読む人が確かめやすい。
7万食は、何キログラムか
7万食を重さに直す手がかりは、事例の資料には書かれていない。参考になるのは、ヒルトンが2025年5月30日に出した、ラマダンの食品ロスの取り組みの発表だ。そこには、「1食400グラムというウィノウの推定に基づく」という注がある。
もし同じ400グラムで計算されているとすれば、7万食は約28トンになる。これは条件つきの計算で、フェアモント・ザ・パームの資料に28トンと書かれているわけではない。
金額のほうでは、50万ディルハムを7万食で割ると、1食あたり約7.1ディルハム、14万ドルなら1食あたり2ドルになる。
日本の宿に置き換えると
日本で、大勢で食べる場の食べ残しを減らす取り組みに、「3010(さんまるいちまる)運動」がある。環境省の広報誌によると、乾杯からの30分間とお開き前の10分間は自分の席で料理を楽しみ、食べ残しを減らそうと呼びかける運動だ。
- 消費者庁は、宴会のポイントとして、乾杯後30分はできたての料理を楽しみ、お開き前の10分はもう一度料理を楽しむこと、幹事が「食べきり」を呼びかけることを挙げている
- 環境省の広報誌は、佐賀市が、運動に参加する飲食店、宴会場、宿泊施設にロゴマーク入りのコースターを配っている例を紹介している
3010運動は、客の側の工夫だ。フェアモント・ザ・パームの2つの手、料理の入れ替えと器の大きさは、出す側の工夫だ。宴会のビュッフェでは、両方を組み合わせられる。
InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)で考えてみる。
- 40人の宴会のビュッフェで、10品を合わせて40キログラム用意し、6キログラムが残る
- 残りの多い2品で、合わせて3キログラム残っていた。1品を別の料理に替え、もう1品は用意を半分にして、この2品の残りを1キログラムにする
- ほかの8品の残り3キログラムは、大皿をやめて小さな器で足していく出し方にして、2キログラムにする
- 残りは6キログラムから3キログラムになり、半分になる
- このような宴会が月に4回、年に48回あれば、年に144キログラム減る
- 乾杯のあとと、お開きの前に、3010運動の案内を入れる
どの版の数字かを添える
フェアモント・ザ・パームの事例は、イフタールの大皿をどう出すかという問いから始まった。答えは、よく残る料理を替え、器を小さくし、毎日レポートを読むことだった。その結果を伝える数字は、資料によって60%にも61%にもなり、金額にも別の値がある。宿で自分たちの数字を伝えるときも、期間、範囲、出どころを一緒に書いておきたい。
持ち帰れる知識
- 同じ事例でも、資料によって60%と61%、14万ドルと22万5,000ドルのように数字が違うことがある
- 61%は、ビュッフェのレストランでの2年間の結果
- 「何食分」を重さに直す係数は、事例の資料には書かれていないことが多い
- 3010運動は、宴会の乾杯後30分とお開き前10分に席で料理を楽しむよう呼びかける
宿で考えられること
- 宴会やビュッフェで、どの料理がよく残るかを記録する
- 残りの多い料理は、入れ替えるか、用意を減らす
- 大皿をやめ、小さな器で足していく出し方を試す
- 宴会の始めと終わりに、3010運動の案内を入れる
事業・予約への接続
宴会の幹事との打ち合わせで、料理の量の決め方と、食べきりの案内の入れ方を提案できる。「残さない宴会」を一緒に設計することは、幹事にとっても安心材料になる。
Sources / 参考情報
- Winnow(英文) - フェアモント・ザ・パーム・ドバイは、食品のごみを減らし、年に14万ドルを節約している(2019年7月16日)
裏付け: 2017年4月から使用、2年間でビュッフェのレストランの食品のごみを61%削減、年に推定50万ディルハム・14万ドル、よく捨てられる料理の入れ替えと盛る器の縮小、料理長のチームが毎日レポートを読んだ、年7万食、本文の「AED 500,00」の表記、料理長トレバー・マクラウド氏の言葉 - Winnow(英文) - フェアモント・ザ・パームは、どのように年に約14万ドルを節約しているか(PDF)
裏付け: 食品と飲料の部門の責任者アラン・ゴベイユ氏の言葉「簡単で効率がよく迷う必要のない解決策」、2017年4月に提携、業務全体で記録、ラマダンのイフタールの豪華なビュッフェがきっかけ、毎日と毎週のレポート、見出しの「60%削減」と言葉の中の「61%」、年換算で約50万ディルハム(14万ドル)・7万食、客の満足・持続可能性・オーナーへの利益 - Winnow(英文) - フェアモント・ザ・パームは、どのようにビュッフェを調整し、食品のごみを60%超減らしているか
裏付け: ラマダンのイフタールの豪華なビュッフェ、豪華な品ぞろえと責任ある提供の釣り合い、毎日と毎週のレポート、年7万食 - Winnow(英文) - 中東のホテルは、どのように食品ロスとの闘いを先導しているか
裏付け: ガイドの案内に「フェアモント・ザ・パームはどのように22万5,000ドルを節約したか」、中身はダウンロード制 - Hilton(英文) - ヒルトンは2025年にグリーン・ラマダンの取り組みを広げ、ラマダンの月に皿の食べ残しを26%減らした(2025年5月30日)
裏付け: 注に「1食400グラムというウィノウの推定に基づく」、イフタールとスフールの食事 - 環境省 - エコジン 2018年12月・2019年1月号 ECO KNOWLEDGE 3010運動って?
裏付け: 乾杯からの30分間とお開き前の10分間は自分の席で料理を楽しみ食べ残しを減らす、佐賀市が参加する飲食店・宴会場・宿泊施設にロゴマーク付きのコースターを配布 - 消費者庁 - 外食時の食べきり(めざせ!食品ロス・ゼロ)
裏付け: 宴会時は3010運動、乾杯後30分はできたての料理を楽しむ、お開き前の10分はもう一度料理を楽しむ、幹事は「食べきり」を呼びかける