「10時を過ぎたら、器を小さく」:ロンドンの「マリオット・カナリー・ワーフ」の食品ロス67%減を、朝食の時刻と作り替えの料理で読む
ロンドンの金融街カナリー・ワーフにある「ロンドン・マリオット・ホテル・カナリー・ワーフ」は、捨てた食べ物を記録する仕組みを入れ、6か月で食品のごみを67%減らした。仕組みを提供する英国のウィノウが、2024年10月4日のブログと事例紹介のPDFで伝えている。
英国・アイルランド・北欧のマリオットの53軒の取り組みは #271 で取り上げ、このホテルにも1行だけ触れた。この記事では、カナリー・ワーフの1軒に絞り、朝食の時刻に合わせた器の替え方と、余りから生まれた料理を中心に読む。
いちばん忙しいのは朝食
ウィノウの資料によると、ホテルの厨房がいちばん忙しいのは朝食で、300カバー(客の食事の数)を超える。朝食はもともとビュッフェで出している。
料理長のサンジェイ・ジャダブ氏は、分析の画面と毎日届くメールのレポートで、捨てる物の傾向と、改善できるところが分かると話している。
レポートをもとに変えたことの一つが、器の大きさだ。朝10時を過ぎたら、ビュッフェに小さな器を使うようにした。PDFは、データを見て、盛る量と品ぞろえを細かく調整し、食べられずに残る料理を大きく減らしたとも書いている。
なぜ時刻で器を替えるのか
資料は理由を詳しく書いていないが、時刻で器を替える考え方は分かりやすい。
朝食の始めのほうは客が多く、大きな器でもすぐに減る。終わりに近づくと客が減り、大きな器に盛った料理は、食べられないまま終わりの時間を迎えやすい。小さな器にすれば、最後に残る量の上限が小さくなる。客にとっても、料理が足りなくなるわけではない。小さな器を何度か補充すればよいからだ。
これは、どの料理を減らすかだけでなく、いつ、どの大きさで出すかを変える手だ。
余りから生まれた料理
ウィノウの資料は、料理長のチームが、記録で目立った余りを料理に作り替えた例を挙げている。
- シャクシュカ:野菜の切りくずと、朝食で余ったポーチドエッグを使う。PDFによると、卵は衣をつけて揚げ、食感を加える
- ツァツィキ(ヨーグルトのソース):ふだんは捨てるきゅうりの皮と切りくずで作る
- ブレッド・アンド・バター・プディング:朝食で余った菓子パンを使う。カスタードは、次に回せない牛乳と卵で作る。PDFによると、余ったスムージーでアイスクリームも作る
- じゃがいもの皮:PDFによると、かりっとしたチップスにする
料理長は、捨てるはずの材料で新しい料理を考えるのは楽しく、チームをまとめる創造的な挑戦だと話している。
厨房の外にも広がった
ホテルのマーケティングの責任者は、ウィノウのいちばん大きな影響は「考え方」に与えたものだと話している。資料には、厨房の外の取り組みも並ぶ。
- 小麦若葉でできた、食べられる皿
- ラウンジのバーで、使い捨てのトニックを別の形に替えた
- カフェのコーヒーのかすを、体を洗うスクラブにした
- プラスチックの瓶をやめ、サトウキビ由来の瓶にした
PDFによると、ホテルは環境の認証「グリーン・キー」を取っている。マリオットの温室効果ガス削減の取り組み「ミッション・ゼロ」のリーダー、シーナ・ウィリアムズ氏は、最初の目標を予定より2か月早く上回ったと話している。
結果の数字を並べる
ブログが挙げる6か月の結果は、次のとおりだ。
- 食品のごみを67%削減
- 年に8トンの食品のごみを削減
- 二酸化炭素に換算して、年に33トン削減
- 年に2万食分
- 食材の費用を年に1万4,000ポンド削減
ここで、いくつか割り算をしてみる。8トンを2万食で割ると、1食400グラムになる。ウィノウは、ヒルトンとの別の発表で、平均的な1食を400グラムと推定していると説明しており、これと合う。1万4,000ポンドを8トンで割ると、1キログラムあたり1.75ポンドになる。33トンを8トンで割ると、約4.1倍だ。ヒルトンの2024年の発表は、二酸化炭素への換算を、減らした重さに4.3を掛けて計算したと説明している(国連食糧農業機関の4.6と、英国の団体WRAPの3.9を混ぜた値)。カナリー・ワーフの資料には、使った係数は書かれていない。
なお、同じPDFの中には、「2万食」とは別に「埋め立てから救った1万7,000食」という言葉も載っている。8トンを1万7,000で割ると、1食約470グラムになる。どちらの数字がどの計算によるのかは、資料からは分からない。引用するときは、どちらの数字かを添えておくとよい。
日本の宿に置き換えると
余った料理を別の料理に作り替えるときに、日本で前提になるのが衛生の管理だ。厚生労働省によると、2021年6月1日から、原則として、すべての食品等事業者にHACCP(ハサップ)に沿った衛生管理が求められている。事業者がすることは、次の4つだ。
- 衛生管理の計画を作り、従業員に周知する
- 必要に応じて、清掃、洗浄、消毒や、食品の扱い方の手順書を作る
- 衛生管理の実施の状況を記録し、保存する
- 計画と手順書の効果を定期的に振り返り、必要に応じて見直す
作り替えの料理を出すなら、どの余りを、どの温度と時間の範囲で使うかを、計画と手順書に入れておくことになる。「何時から器を小さくするか」も、手順書に書ける運営の手だ。
InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)で考えてみる。
- 朝食のビュッフェが6時半から10時まで、1日80食
- スクランブルエッグは、2キログラム入る大きな器で補充している。最後の1時間に出した器の残りが、平均1.5キログラム
- 9時を過ぎたら、0.7キログラム入る小さな器に替え、減ったら補充する
- 最後に残る量が平均0.5キログラムになれば、1日1キログラム、年に365キログラム減る
- 同じことを、ソーセージとベーコンでも試す
時刻と器の大きさを、記録に加える
ロンドン・マリオット・ホテル・カナリー・ワーフの67%は、捨てる物の記録を、朝食の時刻と器の大きさの判断に結びつけた結果だ。余った材料は、衛生の決まりの範囲で、新しい料理にもなった。宿で捨てる物を記録するときも、何を捨てたかと一緒に、何時に、どの器から捨てたかを書いておくと、次に打つ手が見えやすくなる。
持ち帰れる知識
- 器の大きさを時刻で替えると、最後に残る量の上限が小さくなる
- 8トン÷2万食=1食400グラムは、ウィノウの1食の推定と合う
- 同じ資料に「2万食」と「1万7,000食」が並んでいる
- 日本では、2021年6月から原則すべての食品等事業者にHACCPに沿った衛生管理が求められる
宿で考えられること
- 朝食の最後の1時間に、どの器からどれだけ残るかを記録する
- 終わりに近い時間帯は、小さな器で補充する
- 作り替えの料理は、衛生管理の計画と手順書に入れてから始める
- 成果の数字は、どの資料の、どの数字かを添えて伝える
事業・予約への接続
余りから生まれた料理は、宿の物語として客に伝えやすい。メニューに「朝食の材料を生かした一品」と添えれば、食品ロスへの取り組みを、食べる楽しみとして伝えられる。
Sources / 参考情報
- Winnow(英文) - ロンドン・マリオット・ホテル・カナリー・ワーフは、ウィノウで6か月のうちに食品のごみを67%減らした(2024年10月4日)
裏付け: 6か月で67%減・年8トン・年33トンの二酸化炭素換算・年2万食・年1万4,000ポンド、ミッション・ゼロのシーナ・ウィリアムズ氏「最初の目標を2か月早く上回った」、料理長サンジェイ・ジャダブ氏の言葉、朝食は300カバー超・ビュッフェ・10時以降は小さな器、シャクシュカ・ツァツィキ・ブレッド・アンド・バター・プディング、マーケティングの責任者の「考え方」、小麦若葉の食べられる皿・トニック・コーヒーのスクラブ・サトウキビ由来の瓶 - Winnow(英文) - ロンドン・マリオット・ホテル・カナリー・ワーフの事例紹介(PDF)
裏付け: グリーン・キーの認証、盛る量と品ぞろえの調整、卵に衣をつけて揚げる、余ったスムージーのアイスクリーム、じゃがいもの皮のチップス、「年に2万食」と「埋め立てから救った1万7,000食」 - Winnow(英文) - ホテルの総支配人向けのページ
裏付け: ロンドン・マリオット・ホテル・カナリー・ワーフは捨てる重さ67%減・年換算1万4,000ポンド・年33トンの二酸化炭素換算・年2万食 - Hospitality Net(英文) - ヒルトンのグリーン・ラマダンの取り組みは、食品のごみをさらに21%減らした(2024年6月11日)
裏付け: ウィノウは平均的な1食を400グラムと推定、二酸化炭素換算は減らした重さに4.3を掛ける・国連食糧農業機関の4.6とWRAPの3.9を混ぜた値 - 厚生労働省 - HACCP(ハサップ)
裏付け: 令和3年6月1日から原則すべての食品等事業者にHACCPに沿った衛生管理、衛生管理計画の作成と周知、必要に応じた手順書、実施状況の記録と保存、定期的な検証と見直し