541メガワット時は、どこで減った数字か:ヨルダンのシーダーズ・ホテルの太陽光の設計を、損失の階段と3つの節約額で読む
ヨルダンの首都アンマンで建設中だった「シーダーズ・ホテル」のために、ヨルダンの研究者3人が、電力網につなぐ太陽光発電を設計した。論文は2021年6月に学術誌に載った。
設計は、パネル912枚、出力301キロワット、インバーター12台。ホテルが使う電気を年444メガワット時と見積もり、太陽光で年541メガワット時をつくれるという結果だった。
この記事では、541という数字が、太陽の光からどのような段階を経て減ってきた数字なのかを、論文の損失の説明から確かめる。そのうえで、論文に出てくる3つの金額を見分け、日本の買い取りの仕組みと比べる。
太陽の光から541メガワット時まで
論文は、設計ソフト「PVsyst」が出した1年間の損失の図を説明している。数字を順に並べると、次のようになる。
- パネルの面が受ける光のエネルギー:3,232メガワット時
- パネルの標準の効率19.62%で電気に変えると:634メガワット時
- 温度、光の当たる角度、パネルどうしのばらつき、配線の抵抗などで13.7%減り:551メガワット時
- インバーターで直流を交流に変えるときに1.7%減り:541メガワット時
3,232に19.62%を掛けると約634になり、論文の数字と合う。551に、1.7%減を当てはめると約541.6で、これも合う。
一方、634から551への減り方を計算すると約13.1%で、論文の13.7%とは少しずれる。損失を項目ごとに掛け合わせて数えると、合計の割合と単純な引き算は一致しないことがある。ただ、論文からは、ずれの理由までは分からない。
光のエネルギーから見ると、電力網に送る電気になるのは約16.7%だ。論文によると、損失がいちばん大きいのは、パネルが電気をつくる段階だ。
1キロワットあたり約1,800キロワット時
541メガワット時を301キロワットで割ると、1キロワットあたり年約1,797キロワット時になる。1年の時間(8,760時間)で割ると、設備利用率は約20.5%だ。
論文によると、PVGISという公開の道具で計算した、パネルの面が受ける光は年2,197キロワット時/平方メートル。月ごとに見ると、1キロワットあたりの1日の発電は、6月の6.9キロワット時がいちばん多く、1月の2.8キロワット時がいちばん少ない。夏と冬で2倍以上の差がある。
論文は、パネルの性能が年0.7%ずつ落ちるとして、寿命を25年とした。1年目を541メガワット時とすると、25年目には約457メガワット時になる計算だ。
つくる電気は、使う電気より約97メガワット時多い
541メガワット時は、ホテルが使うと見積もった444メガワット時より、約97メガワット時多い。444の約22%にあたる。
論文は、ヨルダンには太陽光の電気を電力網に送る仕組み(論文は「フィードイン・タリフ」と呼ぶ)があり、ホテルにとって経済面で大切な要素だと書いている。ただ、余った電気をどう扱うか、いくらで評価するかは、論文の計算からははっきり読み取れない。
3つの金額を見分ける
論文には、1年あたりの金額が3つ出てくる。
- 年4万9,231ディナール:541メガワット時に、1キロワット時0.091ディナールを掛けた額。つくった電気をすべて電気料金で評価した数字
- 年3万6,560ディナール(5万1,493ドル):年あたりの生涯の節約額(ALCS)。25年の費用と節約を、金利4.63%で年あたりにならした数字
- 年2万7,528ディナール(3万8,718ドル):ホテルの実際の使用量(月37メガワット時)にもとづく、1年の節約額
論文の要旨は、5万1,493ドルを「生涯の節約額」とだけ書いている。本文と結論を読むと、年あたりにならした数字だと分かる。また、2万7,528ディナールの計算の内訳は、論文からは読み取れない。
発電単価の0.0141と0.028
電気1キロワット時をつくる費用(発電単価)も、論文の中で2つの値が出てくる。本文は0.0141ディナール(0.0199ドル)、結論は0.028ディナール(0.0199ドル)と書いている。
ドルの値はどちらも同じだ。論文は費用の18万600ディナールを25万4,366ドルと換算している(1ディナール約1.41ドル)。0.0141ディナールにこの換算を当てはめると約0.0199ドルになる。0.028ディナールでは約0.039ドルになり、ドルの値と合わない。本文の0.0141ディナールのほうが、計算の筋が通る。
日本の宿に置き換えると
日本では、太陽光の電気を電力会社が買い取る値段を、国が毎年決めている。経済産業省の2026年3月19日の発表によると、2026年度は次のとおりだ。
- 屋根に設ける事業用(10キロワット以上):最初の5年は1キロワット時19円、6〜20年目は8.3円
- 地上に設ける事業用(10キロワット以上50キロワット未満):9.9円。2027年度以降は支援の対象外
- 再生可能エネルギーの賦課金:1キロワット時4.18円
資源エネルギー庁の2026年7月の資料も、地上の事業用は2027年度から新しい支援の対象外とし、屋根に設けるものなど、地域と共生する形に支援を絞る方針を示している。シーダーズ・ホテルの設計のような駐車場の上の設置が、日本でどちらの区分になるかは、この発表からは分からない。
InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)として、25室の宿で考える。
- 屋根に35キロワットを設け、1キロワットあたり年1,100キロワット時つくる。年3万8,500キロワット時
- 買う電気は1キロワット時30円(賦課金を含む)とする
- 75%を宿で使えると、2万8,875キロワット時×30円で年86万6,250円分。余る9,625キロワット時は、最初の5年は19円で18万2,875円、6年目からは8.3円で約7万9,888円
- 合計は、最初の5年が年104万9,125円、6年目から約94万6,138円
- 宿で使えるのが50%だと、最初の5年は年94万3,250円、6年目から約73万7,275円
6年目からは、自分で使う割合が75%か50%かで、年に約21万円の差が出る。つくる量を、宿が昼に使う電気に合わせることが大切になる。
損失と金額を、一段ずつ確かめる
シーダーズ・ホテルの541メガワット時は、3,232メガワット時の光から、パネル、温度や配線、インバーターと、段階ごとに減ってきた数字だ。論文の金額も、何を、何年で、どの電気について数えたかで、3つに分かれる。
太陽光の見積もりを受け取ったときは、どこで何%減るのか、金額はどの電気をいくらで評価したものかを、一段ずつ確かめておきたい。
持ち帰れる知識
- 太陽光の損失は、パネル、温度・配線、インバーターの順に積み重なる
- 設備利用率は、年の発電量を出力と8,760時間で割って求める
- 「節約額」は、どの電気を、いくらで、何年で数えたかで変わる
- 日本の屋根の事業用の太陽光は、2026年度は最初の5年19円、6〜20年目8.3円
宿で考えられること
- 太陽光の見積もりで、損失の内訳を出してもらう
- 宿が昼間に使う電気の量を、季節ごとに確かめる
- 自分で使う電気と、余って売る電気を分けて試算する
- パネルの性能の落ち方を、何%で見ているか確かめる
事業・予約への接続
屋根の太陽光で宿の電気をまかなうことは、客に伝えやすい取り組みだ。数字を伝えるときは、見込みか実績か、何に対する割合かを添えると、信頼を損なわずに済む。
Sources / 参考情報
- PubMed Central(英文) - ホテルの電気を再エネにする系統連系型太陽光発電の設計と実現性の調査:ヨルダンのシーダーズ・ホテルの事例(Al-Zoubi, Al-Khasawneh, Omar、2021年6月22日)
裏付け: 建設中のホテル、年444メガワット時・912枚・インバーター12台・301キロワット・年541メガワット時、光3,232メガワット時→効率19.62%で634メガワット時→13.7%減で551メガワット時→インバーター1.7%減で541メガワット時、損失がいちばん大きいのはパネルの発電、面が受ける光は年2,197キロワット時/平方メートル、6月6.9・1月2.8キロワット時/キロワット/日、性能の低下は年0.7%・寿命25年、フィードイン・タリフ、541,000キロワット時×0.091ディナール=年4万9,231ディナール、ALCS 3万6,560ディナール(5万1,493ドル)・金利4.63%、年2万7,528ディナール(3万8,718ドル)、発電単価は本文0.0141ディナール・結論0.028ディナール(どちらも0.0199ドル)、費用18万600ディナール(25万4,366ドル)、回収4.1年 - International Journal of Energy and Environmental Engineering(英文) - 論文の掲載ページ(第12巻第4号)
裏付け: 掲載誌と巻号 - 経済産業省 - 再生可能エネルギーのFIT制度・FIP制度における2026年度以降の買取価格等と2026年度の賦課金単価を設定します(2026年3月19日)
裏付け: 屋根設置の事業用は19円(〜5年)・8.3円(6〜20年)、地上設置の10キロワット以上50キロワット未満は9.9円・2027年度以降は支援の対象外、2026年度の賦課金は1キロワット時4.18円 - 資源エネルギー庁 - 事業用太陽光発電におけるFIT/FIP制度の支援重点化について(PDF)(2026年7月28日)
裏付け: 事業用太陽光(地上設置)は2027年度以降、新規支援の対象外(2027年4月1日施行予定)、屋根設置など地域共生が図られた形に支援を重点化 - European Commission JRC(英文) - 太陽光発電の地理情報システム(PVGIS)
裏付け: 場所ごとの太陽光の発電量を計算できる公開の道具。論文はPVGISとPVsystで発電を計算した