「炭素19トン」は、炭素か二酸化炭素か:ロンドンの5つ星ホテルの140枚の太陽熱を、日本の都市ガスの係数で確かめる
英国の太陽熱の会社「ソーラーUK(SolarUK)」は、ロンドン中心部で建設中だった5つ星ホテルの屋根に、140枚の太陽熱の集熱器を設けた事例を公開していた。会社は事例を「タワー・ホテル」と呼び、施主を「グローバル・グランジ社」と書いている。
事例のページには「Carbon Saved 19 Tonnes per year」(年に19トンの炭素を減らす)とある。この記事では、この「炭素」が、炭素そのものの重さなのか、二酸化炭素(CO2)の重さなのかを、日本の国が定める都市ガスの係数を物差しにして確かめる。
事例のページに書かれた数字
事例のページは、いまは会社のサイトから消えている。ウェブ・アーカイブに残る2022年8月の保存版によると、数字は次のとおりだ。
- 集熱器:「LaZer2」という真空管型を140枚、140平方メートル
- 貯湯槽:1,000リットルの予熱用タンク4基
- 稼働:2011年9月
- 見込みの熱量:年9万8,000「kWt」
- 減らせる炭素:年19トン
- 1日に温める水:約7,200リットル。シャワー、手洗い、清掃に使う
建物には、別に49.4キロワットの太陽光発電も設けられると書かれている。19トンは、太陽熱の事例の欄に書かれた数字だ。
「kWt」は熱のキロワット時
見込みの熱量は「98,000kWt/a」と書かれている。「t」は熱(thermal)を表し、「a」は1年を表す。電気ではなく、お湯をつくる熱で年9万8,000キロワット時という意味だ。
熱のキロワット時と電気のキロワット時は、同じ単位でも中身が違う。二酸化炭素に換算するときも、熱が置き換えた燃料の係数を使うか、電気の係数を使うかで、結果が大きく変わる。
炭素と二酸化炭素は、3.67倍ちがう
二酸化炭素1分子の重さのうち、炭素が占める割合は、原子の重さで12対44だ。炭素1トンが燃えると、二酸化炭素は約3.67トン(44÷12)になる。
そのため、「炭素19トン」と「二酸化炭素19トン」は、同じ19でも約3.67倍違う。ページの「Carbon」という表記だけでは、どちらの意味かは分からない。数字から確かめるしかない。
日本の都市ガスの係数で確かめる
環境省の資料によると、日本の温室効果ガスの報告の制度では、都市ガスの二酸化炭素の係数を、熱量1ギガジュールあたり炭素0.0140トンに44/12を掛けて求める式を示している。
この係数を物差しにして、9万8,000キロワット時の熱を都市ガスでつくった場合を計算する。
- 9万8,000キロワット時は、352.8ギガジュール(1キロワット時=0.0036ギガジュール)
- 炭素で数えると、352.8×0.0140=約4.94トン
- 二酸化炭素で数えると、4.94×44/12=約18.1トン
ページの19トンは、二酸化炭素の約18.1トンに近い。仮に19トンが炭素そのものの重さなら、二酸化炭素は約69.7トンになり、熱1キロワット時あたり約0.71キログラムになる。都市ガスの係数では、ボイラーの損失を考えなければ熱1キロワット時あたり約0.18キログラムなので、その4倍近い値になり、ガスを置き換えたとは考えにくい。
ただし、ページには、太陽熱がどの燃料を置き換えたのかは書かれていない。英国の係数は日本の係数と同じではなく、ボイラーの効率も分からない。ここでの計算は、19トンが二酸化炭素として読むと筋が通る、ということを確かめたものだ。
日本の都市ガスは、会社ごとの係数に
環境省の補足資料によると、日本では令和6年度の報告(令和5年度の実績)から、都市ガスに会社ごとの排出係数が使われるようになった。会社が係数を公表していれば、その係数を使う。公表していない会社と契約している場合は、実測などにもとづく係数か、国が示す代わりの値を使う。
環境省の算定方法の一覧でも、都市ガスは、ほかの燃料と分けて、ガス会社ごとの係数を使う扱いになっている。宿が二酸化炭素を数えるときは、契約しているガス会社の係数を確かめる必要がある。
日本の宿に置き換えると
InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)として、ガスでお湯を沸かす宿で考える。
- 太陽熱で年3万キロワット時の熱をつくる
- ガスのボイラーの効率を90%とすると、置き換えるガスの熱量は約3万3,333キロワット時。約120ギガジュールになる
- 炭素で数えると、120×0.0140=1.68トン
- 二酸化炭素で数えると、1.68×44/12=約6.16トン
この宿が「年6トンの炭素を減らした」と書けば、二酸化炭素の約6.16トンのことなのか、炭素の約1.68トンのことなのか、読む人には分からない。「二酸化炭素(CO2)で年約6.2トン」と、何の重さかを添えて書くと誤解がない。
何の重さかを、言葉で添える
ソーラーUKの「炭素19トン」は、都市ガスの係数で確かめると、二酸化炭素の重さとして読むと筋が通る。ただし、置き換えた燃料も、使った係数も、ページには書かれていない。
宿で成果を伝えるときは、熱か電気か、炭素か二酸化炭素か、どの係数を使ったかを、数字と一緒に書いておきたい。
持ち帰れる知識
- 「kWt」は熱のキロワット時で、電気のキロワット時とは別に扱う
- 炭素1トンは、二酸化炭素で約3.67トン
- 日本の都市ガスの係数は、熱量1ギガジュールあたり炭素0.0140トン×44/12の式で示される
- 令和6年度の報告から、都市ガスは会社ごとの係数を使う
宿で考えられること
- 契約しているガス会社の排出係数を確かめる
- 太陽熱の効果を、熱の量と置き換えた燃料の量に分けて記録する
- 二酸化炭素の量を書くときは、使った係数を添える
- 「炭素」と書かず、「二酸化炭素(CO2)」と書く
事業・予約への接続
お湯を太陽でつくる取り組みは、客に伝わりやすい。数字を出すときに、何の重さか、どの係数で計算したかを添えると、環境の取り組みを確かめる取引先や客の信頼を得やすい。
Sources / 参考情報
- SolarUK(英文) - ロンドンのホテルの太陽熱の給湯(ウェブ・アーカイブの保存版)(2022年8月12日保存)
裏付け: 事例名「タワー・ホテル」、LaZer2の集熱器140枚・140平方メートル、ロンドン、「Carbon Saved 19 Tonnes per year」、1,000リットルの予熱用タンク4基、2011年9月、「ESTIMATED PRODUCTION 98,000kWt/a」、グローバル・グランジ社の5つ星ホテル、49.4キロワットの太陽光発電、1日約7,200リットル(シャワー・手洗い・清掃) - SolarUK(英文) - LaZer2 太陽熱集熱器(ウェブ・アーカイブの保存版)(2016年3月22日保存)
裏付け: 事例で使われた真空管型の集熱器「LaZer2」の製品ページ - 環境省 - 都市ガスの使用に伴う排出量の算定について(PDF)
裏付け: 令和6年度の報告(令和5年度実績)から都市ガスの事業者別排出係数を導入、公表していない事業者の場合は実測等にもとづく係数か代替値、排出係数=事業者別換算係数×0.904×0.0140[tC/GJ]×44/12 - 環境省 - 算定方法・排出係数一覧(令和7年度報告以降、PDF)
裏付け: 燃料(都市ガスを除く)は燃料使用量×発熱量×炭素排出量×44/12、都市ガスはガス事業者ごとの係数 - 環境省 - 算定方法・排出係数一覧(「温室効果ガス排出量 算定・報告・公表制度」ウェブサイト)
裏付け: ガス事業者別排出係数の一覧が公表されている