GOAL 7 · TARGET 7.2 エネルギー・脱炭素 4分 / 2134文字 炭素とCO2を見分ける型 #384

「炭素19トン」は、炭素か二酸化炭素か:ロンドンの5つ星ホテルの140枚の太陽熱を、日本の都市ガスの係数で確かめる

英国の太陽熱の会社「ソーラーUK(SolarUK)」は、ロンドン中心部で建設中だった5つ星ホテルの屋根に、140枚の太陽熱の集熱器を設けた事例を公開していた。会社は事例を「タワー・ホテル」と呼び、施主を「グローバル・グランジ社」と書いている。

事例のページには「Carbon Saved 19 Tonnes per year」(年に19トンの炭素を減らす)とある。この記事では、この「炭素」が、炭素そのものの重さなのか、二酸化炭素(CO2)の重さなのかを、日本の国が定める都市ガスの係数を物差しにして確かめる。

事例のページに書かれた数字

事例のページは、いまは会社のサイトから消えている。ウェブ・アーカイブに残る2022年8月の保存版によると、数字は次のとおりだ。

  • 集熱器:「LaZer2」という真空管型を140枚、140平方メートル
  • 貯湯槽:1,000リットルの予熱用タンク4基
  • 稼働:2011年9月
  • 見込みの熱量:年9万8,000「kWt」
  • 減らせる炭素:年19トン
  • 1日に温める水:約7,200リットル。シャワー、手洗い、清掃に使う

建物には、別に49.4キロワットの太陽光発電も設けられると書かれている。19トンは、太陽熱の事例の欄に書かれた数字だ。

「kWt」は熱のキロワット時

見込みの熱量は「98,000kWt/a」と書かれている。「t」は熱(thermal)を表し、「a」は1年を表す。電気ではなく、お湯をつくる熱で年9万8,000キロワット時という意味だ。

熱のキロワット時と電気のキロワット時は、同じ単位でも中身が違う。二酸化炭素に換算するときも、熱が置き換えた燃料の係数を使うか、電気の係数を使うかで、結果が大きく変わる。

炭素と二酸化炭素は、3.67倍ちがう

二酸化炭素1分子の重さのうち、炭素が占める割合は、原子の重さで12対44だ。炭素1トンが燃えると、二酸化炭素は約3.67トン(44÷12)になる。

そのため、「炭素19トン」と「二酸化炭素19トン」は、同じ19でも約3.67倍違う。ページの「Carbon」という表記だけでは、どちらの意味かは分からない。数字から確かめるしかない。

日本の都市ガスの係数で確かめる

環境省の資料によると、日本の温室効果ガスの報告の制度では、都市ガスの二酸化炭素の係数を、熱量1ギガジュールあたり炭素0.0140トンに44/12を掛けて求める式を示している。

この係数を物差しにして、9万8,000キロワット時の熱を都市ガスでつくった場合を計算する。

  • 9万8,000キロワット時は、352.8ギガジュール(1キロワット時=0.0036ギガジュール)
  • 炭素で数えると、352.8×0.0140=約4.94トン
  • 二酸化炭素で数えると、4.94×44/12=約18.1トン

ページの19トンは、二酸化炭素の約18.1トンに近い。仮に19トンが炭素そのものの重さなら、二酸化炭素は約69.7トンになり、熱1キロワット時あたり約0.71キログラムになる。都市ガスの係数では、ボイラーの損失を考えなければ熱1キロワット時あたり約0.18キログラムなので、その4倍近い値になり、ガスを置き換えたとは考えにくい。

ただし、ページには、太陽熱がどの燃料を置き換えたのかは書かれていない。英国の係数は日本の係数と同じではなく、ボイラーの効率も分からない。ここでの計算は、19トンが二酸化炭素として読むと筋が通る、ということを確かめたものだ。

日本の都市ガスは、会社ごとの係数に

環境省の補足資料によると、日本では令和6年度の報告(令和5年度の実績)から、都市ガスに会社ごとの排出係数が使われるようになった。会社が係数を公表していれば、その係数を使う。公表していない会社と契約している場合は、実測などにもとづく係数か、国が示す代わりの値を使う。

環境省の算定方法の一覧でも、都市ガスは、ほかの燃料と分けて、ガス会社ごとの係数を使う扱いになっている。宿が二酸化炭素を数えるときは、契約しているガス会社の係数を確かめる必要がある。

日本の宿に置き換えると

InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)として、ガスでお湯を沸かす宿で考える。

  • 太陽熱で年3万キロワット時の熱をつくる
  • ガスのボイラーの効率を90%とすると、置き換えるガスの熱量は約3万3,333キロワット時。約120ギガジュールになる
  • 炭素で数えると、120×0.0140=1.68トン
  • 二酸化炭素で数えると、1.68×44/12=約6.16トン

この宿が「年6トンの炭素を減らした」と書けば、二酸化炭素の約6.16トンのことなのか、炭素の約1.68トンのことなのか、読む人には分からない。「二酸化炭素(CO2)で年約6.2トン」と、何の重さかを添えて書くと誤解がない。

何の重さかを、言葉で添える

ソーラーUKの「炭素19トン」は、都市ガスの係数で確かめると、二酸化炭素の重さとして読むと筋が通る。ただし、置き換えた燃料も、使った係数も、ページには書かれていない。

宿で成果を伝えるときは、熱か電気か、炭素か二酸化炭素か、どの係数を使ったかを、数字と一緒に書いておきたい。

持ち帰れる知識

  • 「kWt」は熱のキロワット時で、電気のキロワット時とは別に扱う
  • 炭素1トンは、二酸化炭素で約3.67トン
  • 日本の都市ガスの係数は、熱量1ギガジュールあたり炭素0.0140トン×44/12の式で示される
  • 令和6年度の報告から、都市ガスは会社ごとの係数を使う

宿で考えられること

  • 契約しているガス会社の排出係数を確かめる
  • 太陽熱の効果を、熱の量と置き換えた燃料の量に分けて記録する
  • 二酸化炭素の量を書くときは、使った係数を添える
  • 「炭素」と書かず、「二酸化炭素(CO2)」と書く

事業・予約への接続

お湯を太陽でつくる取り組みは、客に伝わりやすい。数字を出すときに、何の重さか、どの係数で計算したかを添えると、環境の取り組みを確かめる取引先や客の信頼を得やすい。

Sources / 参考情報

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