「年2万3,500ポンド」は何キロワット時の電気か:スコットランドの「カールトン・ホテル」の屋根に載せた56キロワットの太陽光を、日射量と排出係数から割り戻す
スコットランドの西の海沿いに、プレストウィックという町がある。ここに建つ「カールトン・ホテル」の平らな屋根に、56キロワット(kWp)の太陽光パネルが載せられた。
工事をした英国の再生可能エネルギーの会社イナソル(Innasol)の事例紹介は、年に11トンの温室効果ガス(CO2換算)を減らし、電気代を年2万3,500ポンド節約し、2年で費用を回収すると書く。
けれど、事例紹介には、1年に何キロワット時(kWh)発電するかが書かれていない。この記事では、公的な日射量の計算ツールと、英国政府の排出係数、電気の平均単価を使って、この3つの数字を割り戻してみる。
事例紹介が書いていること
イナソルの事例紹介(ページの日付は2025年10月21日)は、要点を次のようにまとめている。
- 場所:プレストウィックのカールトン・ホテル
- 設備:平らな屋根の56キロワットの太陽光
- 減らす温室効果ガス:年11トン(CO2換算)
- 電気代の節約:年2万3,500ポンド
- 回収の期間:2年
事例紹介によると、施主のRADグループは、スコットランドで9軒の高級ホテルを持ち、運営している(事例紹介の時点)。暖房に木質バイオマスのボイラーを使い、客と従業員のための電気自動車の充電設備や、太陽光パネルも備える。イナソルは屋根を調べ、ホテルの電気の使い方を聞いたうえで、56キロワットの設計を提案した。
「56キロワット」は発電量ではない
「kWp」は、決まった条件の強い日差しのもとで出せる、パネルの最大の出力を表す。1年にどれだけ発電するかは、その場所の日射量、パネルの傾きと向き、影、機器の損失で変わる。
スコットランドは日本より北にあり、同じ56キロワットでも、1年の発電量は日本の多くの地域より少なくなりやすい。年の発電量が分からないと、節約額や減らした排出量が妥当かどうかを確かめられない。
公的なツールで発電量を見積もる
欧州委員会の共同研究センター(JRC)は、太陽光の発電量を見積もる無料のツール「PVGIS」を公開している。北極と南極を除く世界のどこでも、日射量と発電量を計算できる。
プレストウィックの位置で、56キロワット、損失14%、真南向きとして計算すると、次のようになった(以下は記事の計算。パネルの実際の傾きと向きは、事例紹介に書かれていない)。
- 傾き10度(平らな屋根の架台を想定):年約4万6,100キロワット時。1キロワットあたり約820キロワット時
- 傾き35度:年約5万1,100キロワット時。1キロワットあたり約910キロワット時
排出量から割り戻す
英国政府(エネルギー安全保障・ネットゼロ省)は、企業が排出量を計算するための係数を毎年出している。系統の電気1キロワット時あたりのCO2換算の係数は、次のとおりだ。
- 2024年版(2022年のデータ):0.20705キログラム
- 2025年版(2023年のデータ):0.17700キログラム
年11トンを、この係数で割り戻すと(以下は記事の計算)、
- 2024年版なら、年約5万3,100キロワット時。1キロワットあたり約950キロワット時
- 2025年版なら、年約6万2,100キロワット時。1キロワットあたり約1,110キロワット時
PVGISの見積もり(約4万6,100〜5万1,100キロワット時)は、どちらよりも少ない。反対に、PVGISの4万6,100キロワット時に2025年版の係数を掛けると、年約8.2トンになる。事例紹介が、どの係数と、どれだけの発電量で11トンとしたのかは分からない。
同じ1キロワット時でも、系統の電気が年々きれいになると、係数は下がる。太陽光で減らせる排出量の値も、どの年の係数を使うかで変わる。
金額から割り戻す
年2万3,500ポンドを、発電量で割ると、1キロワット時あたりの単価が出る(以下は記事の計算)。
- PVGISの傾き10度の値(約4万6,100キロワット時)で割ると、約51ペンス
- 傾き35度の値(約5万1,100キロワット時)で割ると、約46ペンス
- 2024年版の係数から割り戻した値(約5万3,100キロワット時)で割ると、約44ペンス
英国政府の四半期のエネルギー価格の統計によると、家庭以外の電気の平均単価(気候変動税を含む)は、2026年4〜6月期で1キロワット時24.51ペンスだった。統計は、平均単価が2021年から上がり、2023年10〜12月期に最も高くなったと書く。
事例紹介の節約額から割り戻した単価は、2026年の平均の約2倍にあたる。契約した時期の単価が高かった、基本料金などの節約も含めた、発電量がもっと多い、といった可能性が考えられるが、事例紹介はその前提を書いていない。
「2年で回収」の読み方
事例紹介は設備の費用を書いていない。年2万3,500ポンドの節約が続いて2年で回収するなら、費用はおよそ4万7,000ポンド、1キロワットあたり約840ポンドと読める(記事の計算)。
ただし、回収の年数は、節約額の前提で大きく変わる。もし同じ発電量で、単価が平均並みの24.51ペンスなら、節約額は年1万1,300ポンド前後(傾き10度の見積もりの場合)になり、回収には倍の時間がかかる計算だ。事例紹介の「2年」は、イナソルが示した見込みで、運転の実績ではない。
営業を止めない工事
事例紹介は、工事の難しさにも触れている。ホテルは営業中だったため、足場は営業を妨げない形で組む必要があり、工事の担当者は、客と従業員の行き来を避けながら作業した。事前の話し合いと計画で、ホテルや客に迷惑をかけずに工事を終えたという。
日本の宿に置き換えると
日本で発電量を見積もるときは、国立研究開発法人の新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が公開している日射量のデータベースが使える。月平均の日射量のデータ(MONSOLA-20)と、時刻別のデータ(METPV-20)を、ウェブで閲覧できる。
InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)として、ある宿の屋根に18キロワットの太陽光を載せた場合を考える。
- 1キロワットあたり年1,100キロワット時発電するとすると、年1万9,800キロワット時
- すべてを宿で使い、電気代が1キロワット時30円なら、節約は年59万4,000円
- 7割を宿で使い、3割を1キロワット時10円で売るなら、41万5,800円+5万9,400円で、年47万5,200円
同じ屋根、同じ発電量でも、どれだけ自分で使えるかと、どの単価で計算するかで、節約額は2割ほど変わる。業者の見積もりを受け取ったら、年の発電量、使った単価、自分で使う割合の3つを確かめたい。
3つの数字は、1本の線でつながる
カールトン・ホテルの事例は、発電量という1つの数字が書かれていないため、排出量と節約額がどこから来たのかを確かめにくい。年の発電量が分かれば、係数を掛けて排出量が、単価を掛けて節約額が出る。数字を受け取る側は、その線を自分でたどれるかを見ればよい。
持ち帰れる知識
- kWpは最大の出力で、年の発電量ではない
- PVGISで見積もると、プレストウィックの56キロワットは年約4万6,100〜5万1,100キロワット時
- 英国の電気の係数は、2024年版0.20705、2025年版0.17700キログラム
- 英国の家庭以外の電気の平均単価は、2026年4〜6月期で24.51ペンス
宿で考えられること
- 太陽光の見積もりでは、年の発電量を必ず書いてもらう
- 節約額に使った単価と、自分で使う割合を確かめる
- 減らす排出量は、どの年の係数で計算したかを確かめる
- NEDOの日射量のデータで、自分の地域の日射量を見ておく
事業・予約への接続
屋根の太陽光は、客の目に見える取り組みだ。発電量の実績を年ごとに示せば、「どれだけ発電し、どれだけ使ったか」を客に具体的に伝えられる。
Sources / 参考情報
- Innasol(英文) - プレストウィックの持続可能なもてなし:カールトン・ホテルの太陽光(ページの日付は2025年10月21日)
裏付け: 56kWpの平らな屋根、年11トンCO2e、年2万3,500ポンド、回収2年、RADグループはスコットランドで9軒の高級ホテル、バイオマス・EV充電・太陽光、屋根の調査と電気の使い方の聞き取り、営業中のホテルでの足場と工事 - European Commission JRC(英文) - 太陽光の地理情報システム(PVGIS)
裏付け: 北極・南極を除く世界のどこでも日射量と太陽光の発電量を無料で計算できる(記事の見積もりはPVGIS 5.3、プレストウィックの位置、56kWp、損失14%、真南、傾き10度・35度で計算) - GOV.UK(英文) - 2025年版 企業の温室効果ガス報告のための政府の換算係数(方法論の文書、PDF)(2025年6月)
裏付け: 英国の電気の係数の推移、2022年のデータ0.20705、2023年のデータ0.17700キログラムCO2e/kWh - GOV.UK(英文) - 四半期のエネルギー価格 2026年9月(PDF)
裏付け: 家庭以外の電気の平均単価(気候変動税を含む)は2026年4〜6月期で24.51ペンス/kWh、2021年から上昇し2023年10〜12月期に最も高い - NEDO - 日射に関するデータベース:日射量データベース
裏付け: ウェブ版の日本国内日射量データベース(月平均データMONSOLA-20、時刻別データMETPV-20)