GOAL 7 · TARGET 7.2 エネルギー・脱炭素 5分 / 2902文字 発電量を割り戻す型 #387

「年2万3,500ポンド」は何キロワット時の電気か:スコットランドの「カールトン・ホテル」の屋根に載せた56キロワットの太陽光を、日射量と排出係数から割り戻す

スコットランドの西の海沿いに、プレストウィックという町がある。ここに建つ「カールトン・ホテル」の平らな屋根に、56キロワット(kWp)の太陽光パネルが載せられた。

工事をした英国の再生可能エネルギーの会社イナソル(Innasol)の事例紹介は、年に11トンの温室効果ガス(CO2換算)を減らし、電気代を年2万3,500ポンド節約し、2年で費用を回収すると書く。

けれど、事例紹介には、1年に何キロワット時(kWh)発電するかが書かれていない。この記事では、公的な日射量の計算ツールと、英国政府の排出係数、電気の平均単価を使って、この3つの数字を割り戻してみる。

事例紹介が書いていること

イナソルの事例紹介(ページの日付は2025年10月21日)は、要点を次のようにまとめている。

  • 場所:プレストウィックのカールトン・ホテル
  • 設備:平らな屋根の56キロワットの太陽光
  • 減らす温室効果ガス:年11トン(CO2換算)
  • 電気代の節約:年2万3,500ポンド
  • 回収の期間:2年

事例紹介によると、施主のRADグループは、スコットランドで9軒の高級ホテルを持ち、運営している(事例紹介の時点)。暖房に木質バイオマスのボイラーを使い、客と従業員のための電気自動車の充電設備や、太陽光パネルも備える。イナソルは屋根を調べ、ホテルの電気の使い方を聞いたうえで、56キロワットの設計を提案した。

「56キロワット」は発電量ではない

「kWp」は、決まった条件の強い日差しのもとで出せる、パネルの最大の出力を表す。1年にどれだけ発電するかは、その場所の日射量、パネルの傾きと向き、影、機器の損失で変わる。

スコットランドは日本より北にあり、同じ56キロワットでも、1年の発電量は日本の多くの地域より少なくなりやすい。年の発電量が分からないと、節約額や減らした排出量が妥当かどうかを確かめられない。

公的なツールで発電量を見積もる

欧州委員会の共同研究センター(JRC)は、太陽光の発電量を見積もる無料のツール「PVGIS」を公開している。北極と南極を除く世界のどこでも、日射量と発電量を計算できる。

プレストウィックの位置で、56キロワット、損失14%、真南向きとして計算すると、次のようになった(以下は記事の計算。パネルの実際の傾きと向きは、事例紹介に書かれていない)。

  • 傾き10度(平らな屋根の架台を想定):年約4万6,100キロワット時。1キロワットあたり約820キロワット時
  • 傾き35度:年約5万1,100キロワット時。1キロワットあたり約910キロワット時

排出量から割り戻す

英国政府(エネルギー安全保障・ネットゼロ省)は、企業が排出量を計算するための係数を毎年出している。系統の電気1キロワット時あたりのCO2換算の係数は、次のとおりだ。

  • 2024年版(2022年のデータ):0.20705キログラム
  • 2025年版(2023年のデータ):0.17700キログラム

年11トンを、この係数で割り戻すと(以下は記事の計算)、

  • 2024年版なら、年約5万3,100キロワット時。1キロワットあたり約950キロワット時
  • 2025年版なら、年約6万2,100キロワット時。1キロワットあたり約1,110キロワット時

PVGISの見積もり(約4万6,100〜5万1,100キロワット時)は、どちらよりも少ない。反対に、PVGISの4万6,100キロワット時に2025年版の係数を掛けると、年約8.2トンになる。事例紹介が、どの係数と、どれだけの発電量で11トンとしたのかは分からない。

同じ1キロワット時でも、系統の電気が年々きれいになると、係数は下がる。太陽光で減らせる排出量の値も、どの年の係数を使うかで変わる。

金額から割り戻す

年2万3,500ポンドを、発電量で割ると、1キロワット時あたりの単価が出る(以下は記事の計算)。

  • PVGISの傾き10度の値(約4万6,100キロワット時)で割ると、約51ペンス
  • 傾き35度の値(約5万1,100キロワット時)で割ると、約46ペンス
  • 2024年版の係数から割り戻した値(約5万3,100キロワット時)で割ると、約44ペンス

英国政府の四半期のエネルギー価格の統計によると、家庭以外の電気の平均単価(気候変動税を含む)は、2026年4〜6月期で1キロワット時24.51ペンスだった。統計は、平均単価が2021年から上がり、2023年10〜12月期に最も高くなったと書く。

事例紹介の節約額から割り戻した単価は、2026年の平均の約2倍にあたる。契約した時期の単価が高かった、基本料金などの節約も含めた、発電量がもっと多い、といった可能性が考えられるが、事例紹介はその前提を書いていない。

「2年で回収」の読み方

事例紹介は設備の費用を書いていない。年2万3,500ポンドの節約が続いて2年で回収するなら、費用はおよそ4万7,000ポンド、1キロワットあたり約840ポンドと読める(記事の計算)。

ただし、回収の年数は、節約額の前提で大きく変わる。もし同じ発電量で、単価が平均並みの24.51ペンスなら、節約額は年1万1,300ポンド前後(傾き10度の見積もりの場合)になり、回収には倍の時間がかかる計算だ。事例紹介の「2年」は、イナソルが示した見込みで、運転の実績ではない。

営業を止めない工事

事例紹介は、工事の難しさにも触れている。ホテルは営業中だったため、足場は営業を妨げない形で組む必要があり、工事の担当者は、客と従業員の行き来を避けながら作業した。事前の話し合いと計画で、ホテルや客に迷惑をかけずに工事を終えたという。

日本の宿に置き換えると

日本で発電量を見積もるときは、国立研究開発法人の新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が公開している日射量のデータベースが使える。月平均の日射量のデータ(MONSOLA-20)と、時刻別のデータ(METPV-20)を、ウェブで閲覧できる。

InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)として、ある宿の屋根に18キロワットの太陽光を載せた場合を考える。

  • 1キロワットあたり年1,100キロワット時発電するとすると、年1万9,800キロワット時
  • すべてを宿で使い、電気代が1キロワット時30円なら、節約は年59万4,000円
  • 7割を宿で使い、3割を1キロワット時10円で売るなら、41万5,800円+5万9,400円で、年47万5,200円

同じ屋根、同じ発電量でも、どれだけ自分で使えるかと、どの単価で計算するかで、節約額は2割ほど変わる。業者の見積もりを受け取ったら、年の発電量、使った単価、自分で使う割合の3つを確かめたい。

3つの数字は、1本の線でつながる

カールトン・ホテルの事例は、発電量という1つの数字が書かれていないため、排出量と節約額がどこから来たのかを確かめにくい。年の発電量が分かれば、係数を掛けて排出量が、単価を掛けて節約額が出る。数字を受け取る側は、その線を自分でたどれるかを見ればよい。

持ち帰れる知識

  • kWpは最大の出力で、年の発電量ではない
  • PVGISで見積もると、プレストウィックの56キロワットは年約4万6,100〜5万1,100キロワット時
  • 英国の電気の係数は、2024年版0.20705、2025年版0.17700キログラム
  • 英国の家庭以外の電気の平均単価は、2026年4〜6月期で24.51ペンス

宿で考えられること

  • 太陽光の見積もりでは、年の発電量を必ず書いてもらう
  • 節約額に使った単価と、自分で使う割合を確かめる
  • 減らす排出量は、どの年の係数で計算したかを確かめる
  • NEDOの日射量のデータで、自分の地域の日射量を見ておく

事業・予約への接続

屋根の太陽光は、客の目に見える取り組みだ。発電量の実績を年ごとに示せば、「どれだけ発電し、どれだけ使ったか」を客に具体的に伝えられる。

Sources / 参考情報

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