GOAL 12 · TARGET 12.3 廃棄物・循環経済 4分 / 2639文字 たとえの換算を確かめる型 #388

「車700台を1日、道路から外すのと同じ」はどう計算したか:ラッフルズ・シンガポールの食品ロスの数字を、CO2のたとえと記録の手間から読む

シンガポールの「ラッフルズ・シンガポール」は、世界に知られた歴史ある高級ホテルだ。このホテルの厨房は、オランダの会社オービスク(Orbisk)の機械で、捨てる食べ物を記録した。

オービスクの2024年10月2日の事例の記事によると、6週間で食品ロスを29%減らし、1,097キログラムの食べ物、2,437食分を捨てずにすんだ。9,000ユーロを超える費用を節約し、CO2を3,220キログラム減らした。記事は、この3,220キログラムを「車700台を1日、道路から外すのと同じ」とたとえている。

身近なものにたとえると、数字は伝わりやすくなる。けれど、たとえにも計算の前提がある。この記事では、このたとえを割り戻し、あわせて、記録にかかる手間についての業者の説明を読む。

事例の記事の数字

オービスクの事例の記事が挙げる数字は、次のとおりだ。

  • 6週間で、食品ロスを29%減らした
  • 1,097キログラムの食べ物を捨てずにすんだ。2,437食分にあたる
  • 6週間で、9,000ユーロを超える食品の費用を節約した
  • CO2を3,220キログラム減らした。車700台を1日、道路から外すのと同じ

記事によると、機械が集めたデータを、厨房のチームが、オービスクの「食品ロスのコーチ」の助けを借りて分析した。どこで、いつ、どんな食べ物が捨てられているかを突き止め、つくる量をより正確に見込めるようにしたという。

「車700台を1日」を割ってみる

3,220キログラムを700台で割ると、1台が1日に出すCO2は約4.6キログラムになる(記事の計算)。この「1日4.6キログラム」は、どこから来た値なのか。事例の記事は、たとえの計算の前提を書いていない。

米国環境保護庁の目安

米国環境保護庁(EPA)は、乗用車の排出量の目安を2つ示している。

  • 「典型的な乗用車」のページ:1台が1年に出すCO2は約4.6トン。燃費を1ガロンあたり約22.2マイル、1年の走行を約1万1,500マイルとし、ガソリン1ガロンで8,887グラムのCO2が出るとして計算している
  • 温室効果ガスの換算ツールの計算の説明:ガソリン車1台は1年に4.29トン(CO2換算)。2022年の平均の燃費22.8マイル、平均の走行1万917マイルを使っている

これを1日あたりに直すと(以下は記事の計算)、

  • 年4.6トンなら、1日約12.6キログラム。3,220キログラムは、約256台の1日分
  • 年4.29トンなら、1日約11.8キログラム。3,220キログラムは、約274台の1日分

どちらで計算しても、「700台」の半分以下になる。

事例の記事の「1日4.6キログラム」は、EPAの「年4.6トン」と、数字の並びが同じだ。単位が入れ替わった可能性も考えられるが、記事は換算の根拠を書いていないので、確かなことは言えない。別の国の車の値を使った可能性もある。

たとえは、前提ごと伝える

車の台数のたとえは、CO2の量を想像しやすくする。けれど、車の燃費や走る距離は国や年でちがい、どの値を使うかで台数は大きく変わる。

食品ロスのCO2は、もともと、食べ物1キログラムあたりの係数を掛けて出した推計だ。そこに車の係数を重ねると、推計の上に推計が積み重なる。たとえを使うときは、どの係数で計算したかを一緒に書いておくと、読む人が確かめられる。

記録にかかる手間

オービスクは、ホテル向けのページで、ほかの記録の方法と自社の機械を比べている。

  • 1回の記録にかかる時間:ほかの方法は平均19秒、オービスクの機械は0.5秒
  • 食べ物の見分け方:ほかの方法は半自動、オービスクは人工知能で全自動
  • 機械の設置:ほかの方法は24時間以上、オービスクは差し込むだけ

使い方は、捨てる食べ物を明かりの前にかざし、0.5秒待つだけだという。機械が写真を撮って記録し、データは専用の画面に表示される。

同じページは、効果の上限として「食品ロスを最大70%減らす」「年に最大6万ポンドの節約」と書く。一方、ラッフルズの事例の記事は「年に最大7万ユーロの節約」と書いている。上限の数字は、ページによって通貨も額もちがう。いずれも業者自身の説明だ。

ページには、利用するホテルの言葉も載っている。ホテルグループ、アコーの「ノボテル」のF&Bマネジャーは、オービスクとともに食品ロスを47%減らし、従業員に良いやり方を教えられたと話している。

最もよいのは、捨てる前に減らすこと

ラッフルズの事例の記事は、オランダで使われる「モールマンのはしご」という図を紹介している。食品ロスへの対策を、望ましい順に並べたもので、いちばん上は、捨てる前に出さないようにする「予防」だ。

オービスクは、自社の仕組みを、この予防のための道具だと位置づけている。捨てた物を記録し、つくる量を見直すことで、そもそも余らせないようにする考え方だ。

日本の宿に置き換えると

日本で、減らしたCO2を移動にたとえるなら、国土交通省の数字が使える。国土交通省は、1人を1キロメートル運ぶときのCO2の平均的な排出量を、輸送の手段ごとに試算している。2024年度の値は次のとおりだ。

  • 自家用乗用車:125グラム
  • 航空:91グラム
  • バス:57グラム
  • 鉄道:17グラム

ラッフルズの3,220キログラムを、この値で割ると(記事の計算)、自家用乗用車なら約2万5,800人キロ、鉄道なら約18万9,000人キロにあたる。同じ3,220キログラムでも、何にたとえるかで、見える大きさはまったくちがう。

記録の手間も、InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)で考えてみる。ある宿の厨房で、1日に60回、食べ物を捨てるとする。

  • 1回19秒かかる記録なら、1日19分、1年で約116時間
  • 1回0.5秒なら、1日30秒、1年で約3時間

19秒はオービスクが示した「ほかの方法」の平均で、すべての手作業の記録に当てはまるわけではない。ただ、記録の手間が小さいほど、忙しい時間でも記録が続きやすい。手で記録する宿は、1回の記録にかかる時間を一度測ってみるとよい。

数字の「たとえ」にも出典を

ラッフルズ・シンガポールの「車700台を1日」は、事例の記事が示した換算だが、その前提は書かれていない。宿が自分の取り組みを数字で伝えるときも、元の数字と、たとえに使った係数の両方を書いておけば、読む人が自分で確かめられる。

持ち帰れる知識

  • 3,220キログラム÷700台で、1台1日約4.6キログラム
  • EPAの目安では、乗用車1台は年4.6トン、または年4.29トン(CO2換算)
  • 日本の自家用乗用車は、1人キロあたり125グラム(2024年度)
  • オービスクの説明では、記録はほかの方法の平均19秒に対し0.5秒

宿で考えられること

  • CO2を何かにたとえるときは、使った係数を書き添える
  • 手で記録しているなら、1回の記録にかかる時間を測る
  • 捨てた物の記録を、つくる量の見直しにつなげる
  • 業者の「最大」の数字は、平均とは分けて受け取る

事業・予約への接続

減らしたCO2を客に伝えるときは、日本の数字でたとえると伝わりやすい。たとえに使った国土交通省の値も一緒に示せば、数字に信頼が生まれる。

Sources / 参考情報

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