業者の「60%」と、研究の「23〜51%」:クロアチアの島のホテル「TUI BLUE カラモタ・アイランド」の食品ロスの数字を、第三者の調査と並べて読む
クロアチアの港町ドブロブニクの沖に、車の走らない小さな島コロチェプがある。ここに、TUIグループのホテルブランド「TUI BLUE」の「カラモタ・アイランド」が建つ。
このホテルは2024年から、スイスの会社キトロ(KITRO)の、捨てた食べ物を自動で量って写真に撮る機器を1台使っている。キトロの料金のページによると、測り始めて最初の12か月で食品ロスが60%減り、3万6,201ユーロを節約した。
60%は、キトロが自社のサイトで示す数字だ。では、業者ではない研究者が、同じキトロの機器を使ったホテルや食堂を調べると、どんな結果になるのか。2025年に学術誌に載った論文と並べて読む。
キトロのサイトが示す数字
キトロの料金のページは、「測り始めて最初の12か月」の結果として、いくつかのホテルの数字を並べている。
- カラモタ・アイランド:機器1台、2024年から。食品ロス60%減、3万6,201ユーロ節約、投資利益率572%
- チューリッヒ・マリオット・ホテル:機器5台、2022年から。26%減、4万6,278ユーロ節約
キトロの製品のページは、よくある質問の答えとして、利用者は食べられる部分の廃棄を最大60%減らし、測り始めて6か月で平均約30%減らしていると書く。年間の食材費の2〜8%の節約と、手で記録すれば必要だった1年平均263時間の作業が浮くという。
また、キトロのTUI BLUEの事例のページは、12か月を超えて測った12軒の平均として、1軒あたり1年で22%減、2万7,572ユーロの節約を示している。60%は最も大きい例で、平均ではない。
第三者の研究:5つの施設で調べた
2025年5月発行の学術誌『ウェイスト・マネジメント』に、キトロの機器の効果を調べた論文が載った。欧州連合の研究資金の計画「ホライズン2020」の事業「LOWINFOOD」の一部で、著者たちは、利益相反はないと書いている。
調べたのは次の5つの施設だ。
- ドイツの休暇用リゾートのレストラン
- ドイツの会社の社員食堂
- スイスのホテル
- ギリシャ・コス島の4つ星のオールインクルーシブのホテル(機器5台)
- ギリシャ・サントリーニ島の5つ星のホテル(機器4台)
まず約1か月、機器で測るだけで、施設の人にはデータを見せなかった。これが比べるもとになる。その後の217〜314日(ギリシャの2軒は2つの夏の営業期にまたがる)は、データの画面を見せ、キトロの担当者と施設の責任者が定期的に話し合って、目標と対策を決めた。比べた物差しは、捨てた量を出した食事の数で割った「1食あたりの量」だ。
研究の結果
最初の1か月の1食あたりの食品ロスは、ホテルで76.2〜121.0グラム、社員食堂で99.4グラム、リゾートのレストランで151.9グラムだった。その後の期間の変化は次のとおりだ。
- ドイツのリゾートのレストラン:33%減
- ドイツの社員食堂:23%減
- スイスのホテル:13%増
- コス島のホテル:29%減
- サントリーニ島のホテル:51%減
スイスのホテルを除く4か所で、23〜51%減った。最も大きく減ったサントリーニ島のホテルは、対策の数も最も多かった。作りすぎを減らす、厨房で余った料理を従業員に回す社内の決まりをつくる、1人分の量を見直す、ビュッフェで卵料理などを注文を受けてからつくる、従業員を教育する、といった対策だ。
スイスのホテルで増えた理由について、論文は、新型コロナの影響で客の数を読みにくかったこと、従業員の入れ替わりが多く教育の機会が少なかったこと、意欲が弱かったことなどを挙げる。ただし、一つの理由には決められないとしている。
重さと金額は、別々に動く
論文は、重さとは別に、食べられたはずの食べ物の金額も1食あたりで比べている。
- サントリーニ島のホテル:重さで51%減、金額で34%減
- コス島のホテル:重さで29%減、金額で1%減
コス島のホテルでは、重さは3割近く減ったのに、金額はほとんど減っていない。論文の表を見ると、減ったのは主に、下ごしらえで出る皮などのごみ(1食あたり19.8グラムから3.0グラム)だった。論文は、下ごしらえのごみをすべて「避けられないもの」として数えている。一方、客の皿に残った食べられる部分は、27.1グラムから32.1グラムに増えている。避けられないものは、金額の計算に入っていない。
論文は、この方法は、下ごしらえと作りすぎを減らすのには効くが、客の食べ残しにはあまり効かなかったとまとめている。客に向けた働きかけと組み合わせる必要があるという。
研究自身が書く限界
論文は、結果の読み方について、いくつかの注意を書いている。
- 機器の記録は、研究者や第三者がごみの中身を調べて確かめたものではない。研究チームは、画面に上がった写真を無作為に選んで確かめた
- 自分たちが測られていると意識して行動が変わる効果を、完全には否定できない
- 導入は研究の事業の一部だったため、初めにかかる費用を評価できず、投資に見合うかは確かめられなかった
- 研究に使ったデータは、キトロの協力で提供された
論文はまた、全自動の記録の機器の効果について、これまでは業者が自分で発表した、査読を経ていない数字しかなく、ホテルでは25〜70%と幅が大きかったと書いている。
減らしたあとの食べ物の行き先
TUIグループは、2030年までに食品ロスを25%減らす目標を掲げている。グループのマガジンの記事は、減らす取り組みとあわせて、残った食べ物の行き先の例を紹介している。
- スペイン・テネリフェ島の「TUI BLUE ロス・ヒガンテス」:ビュッフェで残った料理を、営業のあとに従業員に出し、余分な分は安全に保管して翌日の従業員の食事に回す
- インドネシア・バリ島の「TUI BLUE ベラワ」:1日最大150リットルの生ごみを処理できる機械を試している。約7時間で堆肥になって乾いた粉になり、約4か月ごとに敷地の庭にまく。余った堆肥は、地元の施設や学校にも渡している
日本の宿に置き換えると
宿で生ごみから堆肥をつくり、ほかの人に渡す場合は、日本では肥料の法律(肥料の品質の確保等に関する法律)に気をつける必要がある。
- 特殊肥料の生産業者は、事業を始める1週間前までに、都道府県知事に届け出る(第22条)
- 農林水産消費安全技術センター(FAMIC)の解説によると、全部を自分で使うなら、この制度の対象にならない
- ほかの人に渡すなら、お金を取らず無償で渡す場合でも、制度に従う義務が生じる。繰り返し渡すつもりがあれば対象になり、催しで1回だけ配る場合は対象にならない
庭にまくだけなら届け出はいらないが、学校や農家に配るなら届け出が必要になる。つくった物がどの肥料の区分に当たるかは、都道府県の肥料の担当に確かめたい。
重さと金額のちがいも、InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)で確かめる。ある宿の厨房で、1日に次の量を捨てていたとする。
- 下ごしらえの皮など(食べられない部分):4キログラム
- 作りすぎ:3キログラム(1キログラム1,000円)
- 客の食べ残し:3キログラム(1キログラム600円)
合計は10キログラム、食べられた部分の金額は4,800円だ。
- 皮を2キログラム減らした場合:合計は8キログラムで20%減。金額は4,800円のままで0%
- 作りすぎを1.5キログラム減らした場合:合計は8.5キログラムで15%減。金額は3,300円で約31%減
重さで減った割合が大きくても、金額が減るとは限らない。何を減らしたかを、重さと金額の両方で見ると、次の手が見えてくる。
平均と、研究と、自分の宿
カラモタ・アイランドの60%は、業者が示す最も大きな成功例だ。同じブランドの平均は22%、第三者の研究では23〜51%、増えた例もあった。導入を考えるときは、いちばん大きな数字だけでなく、平均と研究の結果も並べ、重さと金額の両方で自分の宿を測ることが出発点になる。
持ち帰れる知識
- 業者の示す最大の値と、平均や第三者の研究の値は分けて読む
- 2025年の論文では、5施設のうち4施設で1食あたり23〜51%減、1施設は13%増
- 重さで29%減っても、食べられた部分の金額は1%しか減らなかった例がある
- 日本では、つくった堆肥を無償でも繰り返し人に渡すなら、肥料の法律の届け出が要る
宿で考えられること
- 捨てた量を、出した食事の数で割り、1食あたりで比べる
- 食べられない部分と、食べられた部分を分けて記録する
- 作りすぎと客の食べ残しで、対策を分けて考える
- 余った料理を従業員の食事に回す決まりを、衛生の管理と合わせて考える
事業・予約への接続
厨房で減らした分と、客の皿に残った分を分けて示せば、客に協力を頼む理由がはっきりする。食べ残しを減らすお願いは、厨房の取り組みの数字と一緒に伝えると受け入れられやすい。
Sources / 参考情報
- KITRO(英文) - 料金
裏付け: 測り始めて最初の12か月、カラモタ・アイランドは機器1台・2024年から・60%減・3万6,201ユーロ・投資利益率572%、チューリッヒ・マリオットは機器5台・2022年から・26%減・4万6,278ユーロ - KITRO(英文) - 食品ロスの解決策(製品のページ)
裏付け: 最大60%、測り始めて6か月で平均約30%、年間の食材費の2〜8%、1年平均263時間、捨てた瞬間に写真と重さを記録 - KITRO(英文) - TUI BLUE の事例
裏付け: 12か月を超えて測った12軒の平均で22%減・2万7,572ユーロ・214時間・投資利益率250%、2023年から、14軒・37台、2030年までに25% - ScienceDirect(英文) - 人工知能を使った記録の機器で、ホテル・飲食業の食品ロスを減らす(Waste Management 198巻、77〜86ページ)(2025年5月1日)
裏付け: 5施設(ドイツのリゾートのレストラン・社員食堂、スイスのホテル、コス島・サントリーニ島のホテル)、最初の約1か月はデータを見せずに測定、1食あたり76.2〜151.9グラム、33%減・23%減・13%増・29%減・51%減、金額は−39%・−21%・+1%・−1%・−34%、表3の下ごしらえと食べ残しの値、サントリーニ島の対策、スイスの増加の理由、第三者の確認なし・写真の無作為の確認・ホーソン効果、費用は評価できない、業者の発表は査読なしで25〜70%、LOWINFOOD(ホライズン2020)、利益相反なし、キトロからのデータ提供 - TUI Group(英文) - ごみを価値に変える(グループのマガジン)
裏付け: 2030年までに25%、TUI BLUE ベラワの1日最大150リットル・約7時間で粉の堆肥・約4か月ごとに庭へ・学校などにも、TUI BLUE ロス・ヒガンテスの残った料理を従業員の食事に - e-Gov法令検索 - 肥料の品質の確保等に関する法律
裏付け: 第22条 特殊肥料の生産業者は事業を開始する1週間前までに都道府県知事に届け出る - 農林水産消費安全技術センター(FAMIC) - 肥料の品質の確保等に関する法律に基づく肥料制度について(PDF)(令和3年12月1日更新版)
裏付け: 全量を自家消費する場合は対象外、無償で渡す場合も対象、反復継続の意図がある場合に対象、催しで1回だけ配る場合は対象外