累計の数字は、待つだけで増えていく:ドイツの「MHPホテルAG」の食品ロスの成績を、同じページの3つの時点で読み比べる
ドイツのホテル運営会社「MHPホテルAG」は、ヨーロッパで高級ホテルを運営している。2023年から、スイスの会社キトロ(KITRO)の、捨てた食べ物を量って写真に撮る機器「TARE(テア)」で、厨房の食品ロスを測って減らしている。
キトロのサイトには、MHPホテルAGの事例のページがある。このページの数字は、時期によって入れ替わってきた。インターネット・アーカイブに残る保存と、今のページを並べると、成績の見せ方が「累計」から「1年あたり」に変わったことが分かる。
この記事では、3つの時点の数字を並べ、累計の数字の読み方を考える。日本の食品ロスの「換算」の物差しも確かめる。
時点1:2025年10月の保存
インターネット・アーカイブの2025年10月6日の保存では、ページの成績は、2023年8月から2025年7月までの4つのホテルの累計だった。
- 節約した食材費:20万5,300ユーロ
- 減らした食べられる部分のごみ:2万7,100キログラム
- 救った食事:6万100食
4軒が測った月数は、ベルリンの「ホテル・ルック」が23か月、「ル・メリディアン・ミュンヘン」が18か月、「ル・メリディアン・ハンブルク」が15か月、「マリオット・バーゼル」が12か月だった。数字は「客の数をもとに計算した」と書かれている。
同じページには、ホテル・ルック1軒の23か月の数字もあった。13万8,500ユーロ、1万8,200キログラム、4万500食だ。
時点2:2026年5月の保存
2026年5月16日の保存では、数字の範囲が8つのホテル、18台の機器に広がっていた。先の4軒に、「ケーニヒスホーフ・ミュンヘン」(6か月)、「ル・メリディアン・ウィーン」(6か月)、「コンラッド・ハンブルク」(5か月)、「JWマリオット・フランクフルト」(5か月)が加わった。
- 節約した食材費:34万5,700ユーロ
- 減らした食べられる部分のごみ:4万3,900キログラム
- 救った食事:9万7,500食
ホテル・ルックは31か月になり、18万4,000ユーロ、2万4,000キログラム、5万3,700食だった。なお、この保存では、ページの上の欄は「機器10台(4軒)」のままで、下の成績の欄の「8軒・18台」と食いちがっている。
時点3:今のページ
2026年10月に見た今のページでは、累計の数字はなくなっている。代わりに、9軒で18台を使っていると書き、成績を「1軒あたりの1年の結果」で示している。12か月より長く測った3軒の平均で、食べられる部分のごみが29%減り、4万2,690ユーロを節約した。ホテル・ルック1軒では、49%減、7万2,892ユーロだ。
累計は、軒数と月数で増える
時点1から時点2までに、累計の重さは2万7,100キログラムから4万3,900キログラムへ、約1.6倍になった。けれども、この間に、ホテルの数は4軒から8軒に、測った月数の合計は68か月から121か月に増えている。
そこで、測った月数の合計で割ってみる(どれも記事の計算)。
- 時点1:1軒1か月あたり約399キログラム、約3,019ユーロ
- 時点2:1軒1か月あたり約363キログラム、約2,857ユーロ
ホテル・ルックだけで見ると、1か月あたりは時点1で約791キログラム、時点2で約774キログラムだった。2つの時点の間の8か月だけを取り出すと、1か月あたり725キログラムになる。累計は増え続けても、1か月あたりの量は少しずつ小さくなっている。
もう一つ、累計の中でのホテル・ルックの重さの割合は、時点1で約67%、時点2で約55%だった。累計の大きな部分を、最も長く測っている1軒が占めている。
「食事」と「金額」は、重さからの換算
3つの数字の関係も見ておく(記事の計算)。
- 重さを食事の数で割ると、時点1も時点2も1食あたり約0.45キログラム
- 金額を重さで割ると、1キログラムあたり約7.6〜7.9ユーロ
どの時点でも1食あたり約0.45キログラムになるので、食事の数は、重さを決まった値で割って出していると読める。ページには、換算に使った値は書かれていない。
日本の宿に置き換えると
日本では、2026年6月30日に、2024年度の食品ロスの量の推計が公表された。消費者庁の発表によると、食品ロスは461万トンで、このうち事業者から出たものが237万トン、家庭から出たものが224万トンだった。
消費者庁が同時に出した資料によると、食品ロスによる経済の損失は3.8兆円、国民1人あたり年3万1,097円だった。国民1人あたりの食品ロスは年37キログラムで、温室効果ガスは978万トン(1人あたり年79キログラム)とされる。資料は、経済の損失は事業と家庭にまたがる合計で、減らした分がすべて家計の得になるわけではないと注意している。
37キログラムを365日で割ると、1人1日約101グラムになる(記事の計算)。キトロの換算の「1食約0.45キログラム」とは、測るものも数え方もちがう。「何食分」「何円分」という換算は、出典ごとに物差しがちがうので、そのまま比べないようにしたい。
InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)で、累計と1か月あたりのちがいを確かめる。ある宿で、1年目は食品ロスを1か月に60キログラム、2年目は1か月に40キログラム減らしたとする。
- 1年目の終わりの累計:60キログラム×12か月で720キログラム
- 2年目の終わりの累計:720キログラム+40キログラム×12か月で1,200キログラム
累計は約1.7倍に増えたが、1か月あたりの減らした量は、60キログラムから40キログラムへ3分の1減った。累計だけを見ていると、ペースが落ちたことに気づきにくい。
割ってから比べる
MHPホテルAGの事例のページは、時点ごとに、軒数も、月数も、見せ方も変わってきた。累計の数字は、軒数と月数が増えるだけで大きくなる。比べるときは、軒数と月数で割ってから比べる。そうすると、1軒1か月あたりの量や、1軒が占める割合など、累計の数字の中身が見えてくる。
持ち帰れる知識
- 累計の数字は、軒数と月数が増えるだけで大きくなる
- 測った月数の合計で割ると、1軒1か月あたり約399キログラムから約363キログラム(記事の計算)
- 食事の数は、重さを1食約0.45キログラムで割った値と読める
- 日本の2024年度の食品ロスは461万トン、国民1人あたり年37キログラム
宿で考えられること
- 減らした量は、累計と1か月あたりの両方で記録する
- 複数の施設の数字は、施設の数と期間で割ってから比べる
- 「何食分」と書くときは、換算に使った値を添える
- 1か月あたりのペースが落ちたら、対策を見直す合図にする
事業・予約への接続
取り組みの成果を伝えるときは、累計の大きな数字と一緒に、1か月あたりの数字も示すと、続けていることの重みが伝わる。
Sources / 参考情報
- KITRO(英文) - MHPホテルAGの事例
裏付け: 2023年から、9軒で18台、2025年の目標(全体で40%・カテゴリーごとに50%)、12か月より長く測った3軒の平均で29%減・4万2,690ユーロ・732時間・投資利益率214%、ホテル・ルックの49%減・7万2,892ユーロ - KITRO(英文) - MHPホテルAGの事例(インターネット・アーカイブの2025年10月6日の保存)
裏付け: 2023年8月〜2025年7月・4軒(ホテル・ルック23か月、ル・メリディアン・ミュンヘン18か月、ル・メリディアン・ハンブルク15か月、マリオット・バーゼル12か月)で20万5,300ユーロ・2万7,100キログラム・6万100食、客の数をもとに計算、機器10台・4軒、ホテル・ルックの23か月で13万8,500ユーロ・1万8,200キログラム・4万500食 - KITRO(英文) - MHPホテルAGの事例(インターネット・アーカイブの2026年5月16日の保存)
裏付け: 8軒・18台(ホテル・ルック31か月、ル・メリディアン・ミュンヘン25か月、ル・メリディアン・ハンブルク23か月、マリオット・バーゼル20か月、ケーニヒスホーフ・ミュンヘン6か月、ル・メリディアン・ウィーン6か月、コンラッド・ハンブルク5か月、JWマリオット・フランクフルト5か月)で34万5,700ユーロ・4万3,900キログラム・9万7,500食、上の欄は機器10台・4軒、ホテル・ルックの31か月で18万4,000ユーロ・2万4,000キログラム・5万3,700食 - 消費者庁 - 2024(令和6)年度食品ロス量推計値の公表について(2026年6月30日)
裏付け: 2024年度の食品ロスは461万トン、うち事業系237万トン、家庭系224万トン - 消費者庁 - 食品ロスによる経済損失及び温室効果ガス排出量の推計結果(PDF)
裏付け: 経済損失3.8兆円・国民1人あたり年3万1,097円、温室効果ガス978万トン・1人あたり年79キログラム、1人あたり年37キログラム、経済損失は各部門にまたがる合計で、すべてが家計に裨益するものではない