「化石燃料ゼロ」は、どこまでを数えるのか:パラグアイの「ホリデイ・イン・エクスプレス・アスンシオン・アビアドレス」と、IHGの「ローカーボン・パイオニア」の5つの条件
南米パラグアイの首都アスンシオンに、「ホリデイ・イン・エクスプレス・アスンシオン・アビアドレス」というホテルがある。英国に本社を置くホテルグループ、IHGのブランドの一つだ。IHGのホテルのページによると、11階建てで、客室は116室ある。
IHGは2025年3月20日、このホテルが「ローカーボン・パイオニア(Low Carbon Pioneers)」という仕組みに加わったと発表した。南北アメリカで初めて、欧州の外でも初めての参加だという。
この仕組みは、「エネルギーの効率がよく、敷地内で化石燃料を燃やさず、再生可能エネルギーに支えられたホテル」を集めたものだ。この記事では、「化石燃料ゼロ」がどこまでを数えているのかを、IHGが公開している条件から読む。日本の「ZEB(ゼブ)」の定義とも比べる。
仕組みの始まりと、参加するホテル
IHGの発表によると、ローカーボン・パイオニアは2024年7月に欧州の3軒で始まった。2025年3月には、欧州で4軒が新たに加わった。
- 2024年7月からの3軒:ハンガリーの「キンプトン・BEM・ブダペスト」、スペインの「ホリデイ・イン・エクスプレス・マドリード・エアポート」、提携先のスペインの「イベロスター・クリスティーナ・ウェーブス」
- 2025年3月の4軒:英国の「ヴォコ・メリルボーン」、イタリアの「ヴォコ・ミラノ」、オランダの「ホリデイ・イン・エクスプレス・アルメーレ」、スペインの「ステイブリッジ・スイーツ・マラガ」
この発表の時点で、欧州の7軒にアスンシオンのホテルが加わり、8軒になった。発表によると、どのホテルも、暖房とお湯に高効率のヒートポンプを使い、厨房はすべて電気で、運営についての環境の認証を持っている。
5つの条件
IHGのページは、参加の条件を5つに分けて書いている。
1. 省エネ:信頼できる水準の効率を示す。たとえば、米国の暖房・冷凍・空調の学会の基準(ASHRAE 90.1-2016)と比べて20%以上よい。建物の認証のLEEDの第4版なら、2010年版の基準と比べて34%以上よい
2. 敷地内で化石燃料を燃やさない:例外は、1年の総エネルギーの5%未満におさまる非常用の発電機。炭のコンロや焚き火台のような小さなものには、バイオエネルギーを使ってよい
3. 再生可能エネルギーの裏付け:できる場合は、屋根を再生可能エネルギーに合わせて使うか、20キロワット以上の太陽光を置く。残りは、再生可能エネルギーの電気の料金プラン、電力の購入の契約、エネルギーの属性の証書など、敷地の外の再生可能エネルギーでまかなう。敷地の外で調達できない国では、屋根を最大限に使う
4. 認証:世界持続可能観光協議会(GSTC)が認めた運営の認証か、LEED、BREEAM、EDGEのような建物の認証を持つ。新しく開業したホテルは12か月以内に取る。客室と会議・宴会の場所に、使い捨てのプラスチックの水のボトルを置かない
5. エネルギーの記録:すべてのエネルギーの使用量を、毎月、請求書の裏付けとともにIHGの環境の記録の仕組み「グリーン・エンゲージ」に入れる。IHGが条件を満たしているかを確かめ続ける
1つ目の省エネの条件は、どの物差しで示してもよい。ページには、たとえば次の水準が並ぶ。
- LEEDの第4.1版:2016年版の基準と比べて20%以上
- EDGE:国ごとの決まりをもとにした基準と比べて20%以上
- サウジアラビアのMostadam(2019年版):省エネの項目で12点以上、または2013年版の基準と比べて25%以上
- オーストラリアのNABERS:4.5つ星
- 英国のBREEAM:省エネの項目で1点以上
国によって使われる認証がちがうため、物差しごとに数字が決められている。
「化石燃料ゼロ」は、2つ目の条件のことだ。数えるのは、敷地の中で燃やすかどうかで、非常用の発電機には5%未満という例外がある。電気は、3つ目の条件で、敷地の外の再生可能エネルギーで裏付ける。
アスンシオンのホテルの対策
IHGが公開している、このホテルの事例の資料(PDF)には、次の対策が並ぶ。
- 太陽熱のパネルで、ホテルで使うお湯をつくる
- 高効率のシャワーと水栓で、エネルギーと水を減らす
- お湯をつくるヒートポンプ
- 客がいないときに、客室の空調と照明を切る制御
- ヒートポンプによる、高効率の冷暖房
- 壁、屋根、床の断熱
- 寒いときは熱を逃がさず、暑いときは日差しの熱を入れにくいガラス
- 冷暖房の熱をホテルの中で回して使う、熱の回収
- 設備の効率と快適さを両立させる、建物の管理のシステム
- すべて電気の厨房
- 再生可能エネルギーの電気の契約
資料は、このホテルがLEEDの最上位の「プラチナ」の認証を受けていると書く。IHGのホテルのページは、「国内で唯一、LEEDプラチナの環境の認証を持つホテル」で、エネルギーの効率、水の使用の削減、ごみのリサイクルなど、7つの分野で環境の方針を持つと紹介している。
2つのページの書き方のちがい
事例の資料は、太陽「熱」のパネルでお湯をつくると書く。ホテルのページは、「このホテルには、再生可能エネルギーをつくる太陽光(PV)パネルがある」と書く。両方の設備があるのか、どちらかの書き方がちがうのかは、2つのページからは分からない。
どちらのページにも、このホテルのエネルギーの使用量や、どれだけ減ったかの数字は書かれていない。分かるのは、条件を満たしたという事実と、入れた対策の一覧だ。
日本の宿に置き換えると
日本には、建物のエネルギーについて「ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)」という考え方がある。環境省の「ZEB PORTAL」は、ZEBを、年間の一次エネルギーの収支をゼロにすることを目指した建物と説明し、4つの段階を定義している。
- 『ZEB』:再生可能エネルギーを除いて基準から50%以上減らし、再生可能エネルギーを含めて100%以上減らす
- Nearly ZEB:再生可能エネルギーを除いて50%以上、含めて75%以上100%未満減らす
- ZEB Ready:再生可能エネルギーを除いて50%以上減らす
- ZEB Oriented:延べ面積1万平方メートル以上の建物が対象。ホテルなどは30%以上減らし、まだ評価されていない省エネの技術を入れる
ZEBで数える再生可能エネルギーは、敷地の中でつくったものだけで、売った分も含む。計算の対象は、空調、換気、照明、給湯、昇降機で、家電やOA機器などは入らない。
ローカーボン・パイオニアとZEBは、数え方がちがう。
- 再生可能エネルギー:パイオニアは敷地の外の電気の契約も使う。ZEBは敷地の中だけ
- 確かめ方:パイオニアは毎月の請求書の記録。ZEBは基準と比べた計算
InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)で考える。ある宿の基準の一次エネルギーの量が、1年に1,000ギガジュールだとする。
- ZEB Ready:再生可能エネルギーを除いて、500ギガジュール以下にする
- Nearly ZEB:さらに敷地の中の太陽光などを差し引いて、250ギガジュール以下にする
- 『ZEB』:差し引いて、0ギガジュール以下にする
同じ宿でも、どの物差しで「ゼロ」と言うかで、必要な対策が変わる。
「ゼロ」に添えるもの
アスンシオンのホテルは、断熱からお湯、厨房、電気の契約まで、11の対策を重ねて条件を満たした。そのうえで、「ゼロ」という言葉を使うときは、何を数えたゼロかを書き添えると伝わりやすい。敷地の中で燃やさないゼロなのか、一次エネルギーの収支のゼロなのか。範囲を書けば、宿の取り組みを正しく比べられる。
持ち帰れる知識
- 「化石燃料ゼロ」は敷地の中で燃やさないこと。非常用の発電機は1年の総エネルギーの5%未満なら例外
- 電気は、敷地の外の再生可能エネルギーの契約や証書でも裏付けられる
- 条件には、毎月の請求書にもとづく記録と、使い捨てのプラスチックの水のボトルを置かないことも入る
- 日本のZEBは、敷地の中の再生可能エネルギーだけを数え、4つの段階がある
宿で考えられること
- 「ゼロ」と書くときは、何を数えたゼロかを添える
- 燃料を使う設備を、敷地の中で一覧にしておく
- 毎月の請求書から、エネルギーの記録を続ける
- ZEBのどの段階を目指すかを、改修の前に決める
事業・予約への接続
認証や仕組みへの参加を紹介するときは、条件の中身を短く添えると、企業の出張の担当者などにも伝わりやすい。IHGの発表も、持続可能な出張の目標を持つ企業の客に選ばれやすくなることを、参加の利点に挙げている。
Sources / 参考情報
- IHG(英文) - ローカーボン・パイオニア
裏付け: 5つの条件(省エネの水準、敷地内で化石燃料を燃やさない・非常用の発電機は5%未満・小さなものはバイオエネルギー可、屋根の活用か20キロワット以上の太陽光・残りは敷地の外の再生可能エネルギー、GSTCが認めた認証か建物の認証・開業から12か月・使い捨てのプラスチックの水のボトルなし、グリーン・エンゲージに毎月請求書とともに記録) - IHG(英文) - ローカーボン・パイオニアが欧州で倍に(2025年3月20日)
裏付け: 2024年7月に欧州の3軒で開始、欧州の4軒の追加、アスンシオンのホテルが南北アメリカで初・欧州の外で初、ヒートポンプとすべて電気の厨房と運営の認証、企業の客に選ばれる利点 - IHG(英文) - 事例:ローカーボン・パイオニア ホリデイ・イン・エクスプレス・アスンシオン(PDF)
裏付け: 太陽熱のパネル・高効率のシャワーと水栓・給湯のヒートポンプ・客室の制御・ヒートポンプの冷暖房・断熱・ガラス・熱の回収・建物の管理のシステム・すべて電気の厨房・再生可能エネルギーの電気の契約、LEEDプラチナ - IHG(英文) - ホリデイ・イン・エクスプレス・アスンシオン・アビアドレス 設備とサービス
裏付け: 国内で唯一のLEEDプラチナ、7つの分野の環境の方針、太陽光(PV)パネル・すべて電気の厨房・お湯と暖房のヒートポンプ、11階建て・116室 - 環境省 - ZEB PORTAL:ZEBの定義
裏付け: 4段階の定義(『ZEB』・Nearly ZEB・ZEB Ready・ZEB Oriented)、ホテルなどは30%以上、再生可能エネルギーは敷地内に限り売電分も含む、評価の対象は空調・換気・照明・給湯・昇降機で家電やOA機器などは対象外