GOAL 7 · TARGET 7.2 エネルギー・脱炭素 4分 / 2525文字 見込みの数字を割り算で確かめる型 #398

「3年で回収」は、実績ではなく提案の見込み:英国の中規模ホテルへの123.84キロワットの太陽光の数字を、割り算で確かめる

英国の太陽光の会社、ソーラー・ボルテイクス(Solar Voltaics)が、2026年2月に自社のサイトに記事を載せた。題名は「英国のホテルが、手元の資金を使わずに太陽光で3年の回収を実現した方法」だ。

ただし、記事の本文を読むと、書かれているのは実際に動いた結果ではない。本文は「宿泊業界向けの最近の提案で、英国の中規模のホテルが123.84キロワットの太陽光を付け、手元の資金を守りながら、見込みで3年の回収を実現できることが示された」と書く。ホテルの名前も場所も書かれていない。

この記事では、提案に並ぶ数字を割り算で確かめ、見込みの数字として読む。あわせて、日本で設備にお金をかけるときに出てくる「耐用年数」と、回収年数のちがいを整理する。

提案された設備

記事によると、提案された設備は次のとおりだ。

  • 屋根の太陽光:123.84キロワット
  • パネル:高効率のもの192枚
  • 1年の発電:11万4,176キロワット時
  • 発電した電気のうち、ホテルの中で使う割合:78.8%
  • ホテルが使う電気のうち、太陽光でまかなう割合:26.5%

記事は、ホテルは昼の厨房、洗濯、空調、照明などで電気を多く使い、太陽光の発電の時間帯と合いやすいと説明している。

お金の見込み

記事が「モデルの計算で示された」とする数字は、次のとおりだ。

  • 設備の総額:7万6,639ポンド
  • 内部収益率(IRR):31.77%
  • 回収の期間:3年3か月
  • 発電の原価(LCOE):1キロワット時あたり2.69ペンス
  • 25年間の利益の見込み:約68万ポンド

記事は、多くの設備の投資は12〜15%の収益率を超えるのに苦労する、という会社の見方も添えている。数字がよくなった理由としては、昼の電気の使用が多いこと、売る電気の値段に頼らないこと、電気の値段の上昇を年3%と控えめに見たこと、1キロワットあたりの値段が安いこと、長く安定して営業することを挙げている。

割り算で確かめる

記事の数字どうしを割り算すると、次のことが分かる。

  • 7万6,639ポンド ÷ 123.84キロワット = 1キロワットあたり約619ポンド
  • 11万4,176キロワット時 ÷ 123.84キロワット = 1キロワットあたり約922キロワット時
  • 12万3,840ワット ÷ 192枚 = 1枚あたり約645ワット
  • ホテルの中で使う電気:11万4,176 × 78.8% = 約8万9,971キロワット時
  • 外に送る電気:11万4,176 − 8万9,971 = 約2万4,205キロワット時
  • ホテルが1年に使う電気:8万9,971 ÷ 26.5% = 約34万キロワット時

発電の原価の2.69ペンスは、次の計算とほぼ一致する。

  • 7万6,639ポンド ÷(11万4,176キロワット時 × 25年)= 1キロワット時あたり約2.68ペンス

記事は原価の計算の方法を書いていない。この割り算は、25年間、発電量が毎年同じで、保守の費用や借入れの利息を入れない場合の数字だ。

回収の期間の3年3か月で設備の総額を単純に割ると、1年あたり約2万3,600ポンドになる。これも記事の計算の方法とは限らない。電気の値段の上昇や、売る電気の収入をどう入れたかは書かれていない。

分割で払う仕組み

記事によると、この提案はハイヤーパーチェス(分割で払い、払い終わると自分のものになる仕組み)を使う。

  • 最初の日に、手元の資金を出さない
  • 付加価値税(VAT)は全額を取り戻す
  • 毎月、決まった額を払う
  • 期間が終わると、設備はホテルのものになる

記事は、7万6,000ポンドの資金を手元に残し、電気代の節約で毎月の支払いを支えると説明する。ただし、分割の期間や利息は書かれていない。31.77%の収益率に、分割の利息が入っているかどうかも分からない。

英国歳入関税庁の案内(通知708/6)によると、省エネの設備の取り付けを0%にする決まりは住まいなどが対象で、ホテルや宿屋への取り付けには標準の税率がかかる。記事は、VATをどのように取り戻すかは詳しく書いていない。

記事自身も、「どの場所でもこれほどよいわけではない」と書く。電気の使い方の時間帯、屋根の向き、使う量で結果は変わる。

日本の宿に置き換えると

設備にお金をかけるとき、日本では「回収年数」とは別に「耐用年数」が出てくる。回収年数は、節約したお金で設備の代金を取り戻すまでの年数だ。耐用年数は、税の計算で、設備の代金を何年に分けて経費にするかを決める年数である。国税庁は、減価償却を、設備の取得にかかった金額を一定の方法で各年に配分していく手続と説明している。

太陽光の耐用年数は、何に使うかで変わる。国税庁の質疑応答の事例では、自動車をつくる会社が、工場で使う電気のために置いた太陽光は、「電気業用設備」の17年ではなく、「輸送用機械器具製造業用設備」の9年になると答えている。つくった電気で別の製品をつくる場合は、その製品の設備として種類を決めるという考え方だ。

減価償却資産の耐用年数等に関する省令の表には、「宿泊業用設備」の10年もある。宿が自分で使う太陽光がどの種類になるかは、事例が一般的な回答であることも踏まえ、税理士や税務署に確かめたい。

InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)で考える。ある宿が、自分で使うための太陽光に600万円をかけ、電気代が1年に90万円減るとする。

  • 回収年数:600万円 ÷ 90万円 = 約6.7年
  • 耐用年数10年・定額法:1年の償却費は 600万円 × 0.100 = 60万円
  • 耐用年数17年・定額法:1年の償却費は 600万円 × 0.059 = 約35万4,000円

償却率の0.100と0.059は、省令の定額法の表の数字だ。回収年数は手元のお金の話で、償却費は帳簿の上の経費の話である。2つを分けて見ると、銀行や税理士との相談がしやすくなる。

見込みと実績を分ける

この提案の数字は、割り算をすると互いにつじつまが合う。そのうえで、3年3か月や31.77%は、設置の前の見込みで、実際の結果ではない。紹介するときは、「提案の見込み」と書き添え、何年か動いた後の実績と分けておくと、読む人がまちがえない。

持ち帰れる知識

  • 題名は「実現した」だが、本文は「提案」と「見込み」
  • 1キロワットあたり約619ポンド、約922キロワット時
  • ホテルが1年に使う電気は、割り算で約34万キロワット時
  • 日本の太陽光の耐用年数は、何に使うかで変わる(国税庁の質疑応答)

宿で考えられること

  • 見積もりの数字を、1キロワットあたりに直して比べる
  • 見込みの数字には「見込み」と書き添える
  • 分割で払うときは、期間と利息を確かめる
  • 回収年数と耐用年数を分けて考える

事業・予約への接続

太陽光の計画を紹介するときは、見込みと実績を分けて書くと信頼につながる。動き始めた後に実績を足していけば、取り組みが続いていることも伝えられる。

Sources / 参考情報

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