「欧州のホテルの1割で、年3.6テラワット時」はどう読めるか:ノルウェーの「スカンジック・ヘル」のCO2ヒートポンプから広げた試算を、割り算で確かめる
ノルウェー中部の「スカンジック・ヘル」というホテルに、2018年、二酸化炭素(CO2)を冷媒に使うヒートポンプが入った。1台で、暖房、お湯、冷房をまとめてまかなう仕組みだ。この設備のしくみと63%、44%という数字は、#272で取り上げた。
この記事では、その先の数字を読む。ノルウェーの研究機関SINTEFのブログは、同じ仕組みを欧州のホテルの1割が入れれば、1年に3.6テラワット時を超えるエネルギーを節約できると書いている。この数字を割り算で確かめ、日本の宿の冷媒の決まりにもつなげる。
2つのブログに書かれていること
SINTEFのブログに、2020年、ノルウェー科学技術大学(NTNU)の博士課程の研究者、シリエ・マリー・スミット氏の記事が載った。記事によると、ノルウェーのホテルに2018年に入った「オール・イン・ワン」のCO2ヒートポンプは、最初の2年で、冷暖房に使う電気を63%減らした。平均的なホテルなら、電気の使用量全体の44%にあたるという。
記事は、続けて次のように書く。
- 欧州には15万軒を超えるホテルがあり、毎年4,000〜5,000軒が新しく増えている
- そのうち1割がこの仕組みを入れれば、1年に3.6テラワット時を超えるエネルギーを節約できる
- これは、ノルウェーの23万世帯が1年に使う電気にあたり、50万人に少し届かない人数分になる
同じ年の5月11日に載った別の記事は、この仕組みはまだ既製品として買えないため、投資を回収する期間は今のところ3〜7年だと書いている。
割り算で確かめる
ブログの数字を割り算すると、次のようになる。
- 15万軒の1割:1万5,000軒
- 3.6テラワット時は36億キロワット時。36億 ÷ 1万5,000軒 = 1軒あたり1年に約24万キロワット時
- 36億 ÷ 23万世帯 = 1世帯あたり1年に約1万5,700キロワット時
つまり、この試算は、1軒のホテルが1年に約24万キロワット時を節約すると置いた計算と読める。ブログは、ホテルの大きさや、どの国のホテルを平均にしたかは書いていない。「15万軒を超える」「3.6テラワット時を超える」とあるので、どちらも下限の数字だ。
63%と44%から、冷暖房の割合を読む
63%と44%の2つの数字からも、割り算ができる。
- 電気全体の44% ÷ 冷暖房の電気の63% = 約0.70
冷暖房の電気を63%減らすと全体の44%にあたるなら、冷暖房は全体の電気の約7割を占めることになる。ブログは別の段落で、ホテルの電気の使用量の60〜70%が、お湯、暖房、冷房に使われると書いている。割り算の結果は、この幅の上の端と合う。
ホテルの電気は、朝と夜に集まる
ブログによると、お湯は、ホテルのエネルギーの使用量全体の40〜70%を占める。使う時間は、朝の6時から8時と、夜の7時から9時に集まる。
そこでブログは、大きなお湯のタンクを勧める。電気の需要が少ない時間にお湯をためておけば、使う時間の多い山を、タンクのお湯でまかなえる。ブログは、次の利点を挙げている。
- 電気の需要の山の時間の高い料金を避けられる
- 設備を小さく、安くできる
- 運転が安定し、お湯が切れにくくなる
CO2のヒートポンプは、1つの仕組みで、マイナス30度から90度くらいまでの幅の温度をまかなえる。ヒートポンプがつくる熱は、使う電気の3〜4倍になるのがふつうだという。
研究の数字
NTNUのブログには、2021年4月12日に、同じ研究者の記事が載った。このブログは今は表示されないが、インターネット・アーカイブの同じ日の保存によると、ノルウェーとスウェーデンの140軒のホテルの、2015年から2019年の5年間のエネルギーを調べた。ヒートポンプのあるホテルは、地域の熱の供給を使うホテルより、1平方メートルあたりの使用量が19.9%少なかった。CO2のヒートポンプは、熱のエネルギーを約60%減らせるという。140軒の研究は、#262でくわしく取り上げた。
日本の宿に置き換えると
日本の宿のエアコンや冷蔵庫の多くは、フロン類を冷媒に使っている。フロン排出抑制法の第2条は、「フロン類」を、オゾン層を壊すクロロフルオロカーボン(CFC)とハイドロクロロフルオロカーボン(HCFC)、それに地球温暖化対策推進法が定める物質と定義している。業務用のエアコンと冷蔵・冷凍の機器で、フロン類が冷媒として入っているものは「第一種特定製品」と呼ばれる。
長崎県が環境省の説明会の資料をもとにまとめたページによると、第一種特定製品の管理者には、次の点検の義務がある。
- 簡易点検:すべての機器で、3か月に1回以上
- 定期点検:冷蔵・冷凍の機器は定格出力7.5キロワット以上で1年に1回以上
- 定期点検:エアコンは50キロワット以上で1年に1回以上、7.5キロワット以上50キロワット未満で3年に1回以上
CO2は、法律が定めるフロン類には入らない。CO2を冷媒に使う機器は、この法律の第一種特定製品の定義の外にある。ただし、ほかの法令やメーカーの点検の決まりは、機器ごとに別に確かめる必要がある。
InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)で考える。ある宿に、フロン類を使う業務用のエアコンが3台(1台10キロワット)、冷凍冷蔵庫が2台(1台3キロワット)あるとする。
- 簡易点検:5台 × 1年に4回 = 1年に20回
- 定期点検:エアコン3台は3年に1回。冷凍冷蔵庫は7.5キロワット未満なので対象外
- 冷凍冷蔵庫2台をCO2の冷媒の機器に替えると、フロン排出抑制法の簡易点検は3台 × 4回 = 1年に12回になる
機器を替えるときは、冷媒の種類を一覧にしておくと、点検の予定を立てやすい。
試算に添えるもの
スカンジック・ヘルの63%は、1軒のホテルで2年間に測った結果だ。3.6テラワット時は、その結果をもとに欧州全体に広げた試算である。割り算をすると、1軒あたり約24万キロワット時を置いた計算だと分かる。数字を使うときは、測った結果か、広げた試算かを書き添えると、2つの数字の重みのちがいが伝わる。
持ち帰れる知識
- 3.6テラワット時 ÷ 1万5,000軒 = 1軒あたり1年に約24万キロワット時
- 44% ÷ 63% = 約0.70。冷暖房は電気全体の約7割(ブログの60〜70%と合う)
- お湯の使用は朝6〜8時と夜7〜9時に集まり、タンクで山をならせる
- CO2はフロン排出抑制法のフロン類に入らない
宿で考えられること
- 広げた試算の数字は、1軒あたりに割り戻して確かめる
- お湯を使う時間の山を、記録で確かめる
- 冷媒の種類を、機器ごとに一覧にする
- フロン類の機器は、3か月に1回以上の簡易点検を続ける
事業・予約への接続
設備の更新を紹介するときは、1軒で測った結果と、業界全体の試算を分けて書くと伝わりやすい。冷媒にCO2を使う機器を選んだことも、選んだ理由とともに紹介できる。
Sources / 参考情報
- SINTEF(英文) - ホテルの冷暖房を「オール・イン・ワン」で(2020年)
裏付け: 2018年にノルウェーのホテルに導入・最初の2年で63%・電気全体の44%、15万軒超・毎年4,000〜5,000軒、1割で3.6テラワット時超、ノルウェーの23万世帯・50万人弱、電気の60〜70%がお湯と冷暖房、お湯は40〜70%、朝6〜8時と夜7〜9時、タンクの利点、マイナス30〜90度、熱は電気の3〜4倍 - SINTEF(英文) - ホテルはどうすればエネルギーの費用を大きく減らせるか(2020年5月11日)
裏付け: ノルウェー中部のスカンジック・ヘルで最初の2年に63%、既製品ではないため回収は今のところ3〜7年 - NTNU(英文) - 寒い土地の暑いホテル:CO2ヒートポンプでエネルギーを減らす(以前の掲載・現在は表示されない。インターネット・アーカイブの2021年4月12日の保存)(2021年4月12日)
裏付け: ノルウェーとスウェーデンの140軒・2015〜2019年、ヒートポンプのあるホテルは地域の熱の供給より19.9%少ない、CO2のヒートポンプで熱のエネルギー約60%減 - e-Gov法令検索 - フロン類の使用の合理化及び管理の適正化に関する法律
裏付け: 第2条のフロン類の定義(CFC・HCFCと地球温暖化対策推進法の物質)、第一種特定製品は業務用のエアコンと冷蔵・冷凍の機器でフロン類が冷媒として入っているもの - 長崎県 - 第一種特定製品の簡易点検・定期点検は管理者の義務です(2026年2月27日更新)
裏付け: 簡易点検はすべての機器で3か月に1回以上、定期点検の対象と頻度、環境省の令和5年度の説明会の資料が出典