「年595立方メートル」は、ホテルにとって多いのか:バルセロナのグレーウォーターの条例の線引きを、マヨルカ島のホテルの「1日5.2立方メートル」とベルギーのイビスの「年1,500立方メートル」で測る
シャワーや浴槽で使ったあとの水を「グレーウォーター」という。これを集めてきれいにし、トイレを流す水などに使い直す仕組みは、これまで、やる気のある建物が自分から選ぶものだった。
スペインのバルセロナ市は、それを決まりにした。2025年6月27日、市の本会議は、グレーウォーターの使い直しを定める市の条例を最終的に承認した。新しく建てる建物や大きく建て直す建物のうち、条件に当たるものは、シャワーと浴槽の水を使い直す仕組みを備えることになる。
市は、この条例が「ホテルの100%」に当たると見込んでいる。では、ホテルにとって線はどこに引かれているのか。この記事では、条例の数字を、これまでに記録のある2つのホテルの数字と並べて測ってみる。
条例が求めること
市の英語のニュースと、カタルーニャの建築技術者の団体「Cateb」のまとめによると、仕組みが必要になるのは次の建物だ。
- 住宅:新しく建てる住宅が16戸以上の建物。大きな建て直しでも、建物を建て替えるなら、外壁や構造の一部を残しても対象になる
- 住宅以外:トイレのタンク、点滴かんがい、水をまいての清掃に使う水が、年595立方メートル以上の建物。新築か、建物全体の大きな建て直し(建物の容積や事業所の数を増やす、主な使い方を変える、間取りを全体に変えるなど。外壁や構造の一部を残しても対象)のとき
対象から外れるのは、病院、医療の施設、福祉の住まいや施設、保育所、特別な処理が要る水が出る施設などだ。すでに再生水(下水を処理し直した水)を使える建物も、仕組みを付けなくてよい。
Catebのまとめでは、ほかにも次のことが決まっている。
- 仕組みの保守の記録を「保守の帳面」に残す
- 基本の設計と実施の設計を作り、許可の申請に付ける
- 飲み水の配管と、飲み水ではない水の配管を分ける
- 定期の点検と水質の検査を行う。違反には、軽い・重い・とても重いの3段階の罰則がある
- 設備は、グレーウォーターの処理の欧州規格「UNE-EN 16941-2:2021」と、水の再利用についてのスペインの王令1085/2024に合わせる
市が見込む効果
市の発表では、条例の効果は次のように見込まれている。
- 新しく建てる住宅と大きな建て直しの70%、ホテルの100%、スポーツ施設の90%近くが対象になる
- 市全体で、飲み水を年に約13万6,000立方メートル減らせる
- 住宅では、水の使用全体の33%を減らせ、1年で最大185ユーロ安くなる
市の当初の承認の発表には、元になる暮らしの数字もある。4人の家庭は1日に約200リットルのグレーウォーターを出す。1人がトイレを流すのに使う水は、平均で1日約35リットルだという。
条例の案は、2024年3月から5月の参加の手続きで練られた。570人が加わって155の提案を出し、その85%が文に取り入れられた。市内のグラシア地区と、再開発の地区「22@」では、すでに新しい建物にこの仕組みを求めている。
日付を分けて読む
条例の話には日付がいくつも出てくる。混ぜずに並べる。
- 2025年2月18日:市議会の委員会が当初の承認をした。市の政府の会派、バルセロナ・アン・コムー、ERCが賛成し、ジュンツとPPが棄権した
- 2025年6月27日:本会議が最終的に承認した
- 2025年7月18日:条例の全文がバルセロナ県の公報(BOPB)に載った
- 施行:Catebのまとめでは、公報に載った翌日から1年たつと施行される
公報の日付から計算すると、施行は2026年7月になる。承認された日と、守らなければならなくなる日は、1年以上離れている。
マヨルカ島のホテルの「1日5.2立方メートル」で測る
スペインのマヨルカ島のホテルでは、早くからグレーウォーターがトイレに使われてきた。2004年に学術誌「Desalination」に載った論文の要旨によると、仕組みは次のとおりだ。
- ろ過と沈殿のあと、次亜塩素酸で消毒する
- 1日に平均5.2立方メートルを使い直した。ホテルの水の使用全体の23%にあたる
- 塩素は1リットルあたり75ミリグラム。水をためる時間を48時間未満に抑えた
- トイレのタンクでの残りの塩素は1リットルあたり1ミリグラムを超え、試料はすべて大腸菌群が陰性だった
この5.2立方メートルを、条例の線と比べる。
- 南アフリカの水研究委員会の報告書によると、このホテル(パルマ・ビーチ・ホテル、81室)の仕組みは、観光の季節に合わせて1年に平均7か月動いた。7か月を213日とすると、5.2 × 213 = 約1,108立方メートル。595立方メートルの約1.9倍
- 1年じゅう毎日5.2立方メートルなら、5.2 × 365 = 1,898立方メートルで、約3.2倍
- 595 ÷ 5.2 = 約115日。4か月足らず同じ量を使えば、線を超える
5.2立方メートルは使い直した量で、トイレに使う水の全部とは限らない。それでも、トイレの水がこれ以上あったことは確かで、このホテルの規模なら、条例の線は軽く超える。
ベルギーのイビスの「年1,500立方メートル」で測る
北海の周りの国々が組む欧州の事業「Interreg North Sea」の「ANCHOR」は、2024年12月16日の記事で、ベルギーのゲントにある「イビス・ゲント・ダンプールト」を取り上げている。
- 281室で、週末には600人が泊まれる。水の使用は年に1万350立方メートルを超える
- シャワーの水を処理してトイレに使う仕組みを付ける計画。多くの客が同時にシャワーを浴びると処理が追いつかないため、処理した水をためておく「賢いバッファータンク」で対応する
- 見込みは、1棟あたり年に1,500立方メートルの飲み水の節約。回収の期間は7〜8年
- トイレの案内板で、使い直した水がときどき少し色づくことを客に伝える
1,500立方メートルは、条例の595立方メートルの約2.5倍だ。年の使用の1万350立方メートルに対しては、1,500 ÷ 10,350 = 約14.5%にあたる。
記事は、次の段階にも触れている。ホテルが大きな住宅の塔の中にあれば、ホテルと住宅の建物全体のグレーウォーターをトイレに使い直し、余った水を住宅に売るという、新しい商売の形を探っているという。条例が住宅にもホテルにも同じ仕組みを求めるバルセロナでは、こうした建物全体の考え方とつながりやすい。
線の下にいるのは、どんな宿か
595立方メートルを1日に直すと、595 ÷ 365 = 約1.63立方メートルになる。
- マヨルカ島の論文を引いた2015年の研究では、客1人1日のトイレの水が36リットルとされる。これで割ると、595,000 ÷ 36 = 約1万6,500人泊。1日平均で約45人
- バルセロナ市の1人1日35リットルで割ると、約1万7,000人泊。1日平均で約47人
ただし、これは客のトイレだけを数えた計算だ。条例の数字には、点滴かんがいや清掃の水も入る。庭や外の床を水で洗う宿は、泊まる人がもっと少なくても線に近づく。
日本の宿に置き換えると
日本の宿に、バルセロナの線をそのまま当てはめる決まりはない。ここでは、595立方メートルを物差しとして借りる。
InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)で考える。稼働率70%、1室に平均1.5人、客1人1日のトイレの水を36リットルとする。庭の水や清掃の水は入れない。
- 20室の宿:泊まる人は1日21人。21 × 36 = 756リットル。1年で約276立方メートル。595の半分に届かない
- 40室の宿:1日42人。1年で約552立方メートル。線のすぐ下
- 50室の宿:1日52.5人。1年で約690立方メートル。線を超える
20室の宿で、トイレの水をすべてグレーウォーターに換えられたとしても、水道の単価を1立方メートル600円とすれば、年に 276 × 600 = 約16万6,000円だ。ここから、処理の電気、消毒の薬、点検の手間が引かれる。
小さな宿にとって大切なのは、金額より順番だ。仕組みを後から付けるには、シャワーの排水とトイレの給水を、ほかの配管と分けて通す必要がある。建て替えや大きな改修のときに配管の通り道だけ決めておけば、宿が大きくなったときや、まわりの建物と水を分け合うときの選択肢が残る。
線引きが教えること
バルセロナの条例は、「ホテルは100%対象」という見込みと、「年595立方メートル」という線を同時に示した。マヨルカ島のホテルの1日5.2立方メートルも、イビスの年1,500立方メートルも、その線を大きく超える。
線の上か下かは、宿の大きさだけでなく、トイレ、庭、清掃にどれだけ水を使うかで決まる。自分の宿の「飲み水でなくてもよい水」の量を一度数えてみると、グレーウォーターがどのくらい現実的かが見えてくる。
持ち帰れる知識
- バルセロナの条例は2025年6月27日に最終承認、7月18日に公報に掲載。施行は掲載の翌日から1年後
- 市の見込みは、年約13万6,000立方メートルの飲み水の節約、住宅で33%の節約
- 5.2立方メートル × 213日(7か月)= 約1,108立方メートルで、595立方メートルの約1.9倍
- 595立方メートルは、客1人1日36リットルなら1日平均約45人分
宿で考えられること
- トイレ、庭、清掃に使う水を、1年の量で数えてみる
- 建て替えや大きな改修のときに、シャワーの排水とトイレの給水の配管の通り道を決めておく
- 使い直した水を使うなら、トイレに案内を置き、色づくことがあると伝える
- 設備を入れたら、保守と水質の検査の記録を帳面に残す
事業・予約への接続
グレーウォーターの使い直しは、客から見えにくい取り組みだ。トイレの案内板のように、どこで、どの水を使い直しているかを短く伝えると、客は宿の水の使い方を理解しやすい。数字を出すときは、使い直した量なのか、節約の見込みなのかを分けて書くと信頼につながる。
Sources / 参考情報
- Ajuntament de Barcelona(英文) - グレーウォーターについての最初の条例が承認された(2025年6月27日)
裏付け: 本会議の承認、住宅16戸以上の新築・建物を建て替える大きな建て直し、住宅以外はトイレのタンクや散水の水が年595立方メートル以上、病院・保育所などの除外、新築住宅などの70%・ホテルの100%・スポーツ施設の90%近く、年13万6,000立方メートル - Ajuntament de Barcelona 報道室(カタルーニャ語) - バルセロナのグレーウォーターの条例の当初の承認(2025年2月18日)
裏付け: 委員会での当初の承認と会派の賛否、住宅で33%・年最大185ユーロ、4人家庭で1日約200リットル、1人1日約35リットルのトイレの水、570人・155の提案・85%を取り入れ、グラシア地区と22@、公報掲載の1年後に施行 - Cateb(カタルーニャ語) - バルセロナが新築と建て直しでグレーウォーターを使い直す市の条例を承認(2025年7月29日)
裏付け: 承認2025年6月27日、BOPB掲載2025年7月18日、掲載の翌日から1年で施行、点滴かんがい・水をまいての清掃、保守の帳面、設計、配管の分離、罰則3段階、再生水を使える建物は不要、UNE-EN 16941-2:2021、王令1085/2024 - Desalination(英文) - ホテルでの、トイレに使う水の再利用の経験(スペイン・マヨルカ島)(2004年4月15日)
裏付け: 要旨:ろ過・沈殿・次亜塩素酸、1日平均5.2立方メートル、水の使用全体の23%、塩素75ミリグラム/リットル、ためる時間48時間未満、トイレのタンクで1ミリグラム/リットル超、大腸菌群は陰性 - Water Research Commission(英文) - 南アフリカの高密度の都市の建物で、トイレに使った水を再利用する:試験研究(2009年)
裏付け: 3.1.1節:パルマ・ビーチ・ホテル、81室、マヨルカ島の論文の紹介、仕組みが動くのは観光の季節に合わせて年平均7か月 - WSEAS Transactions on Environment and Development(英文) - ホテルの建物での、水の再利用による節水計画(2015年)
裏付け: 5.2節:スペインの3つ星ホテルで客1人1日145リットル、うち36リットルをトイレに、1日5.2立方メートル(マヨルカ島の論文の引用) - Interreg North Sea ANCHOR(英文) - グレーウォーターの使い直しが未来である理由(2024年12月16日)
裏付け: イビス・ゲント・ダンプールトは281室・週末600人・年1万350立方メートル超、同時のシャワーとバッファータンク、1棟あたり年1,500立方メートル、回収7〜8年、次の段階は住宅の塔で建物全体の水を使い直して余りを売る、トイレの案内板と少しの色づき