「19ギガワット時」は、会社の電気の何割か:英国の「トラベロッジ」の照明と暖房の節約を、法律で公開する年次報告の「2億2,309万キロワット時」に並べる
英国の格安ホテルのチェーン「トラベロッジ」は、照明をLEDに替え、空いている客室の暖房を抑える仕組みを入れてきた。エネルギーの会社「SMS」の事例紹介には、20.2ギガワット時、19ギガワット時といった大きな数字が並ぶ。
ただ、大きな数字だけでは、会社全体のどのくらいなのかがわからない。英国では、大きな会社は1年に使ったエネルギーの量を年次報告に載せる決まりがある。この記事では、トラベロッジの会社の年次報告から全体の量を取り出し、節約の数字を並べてみる。
SMSが示す2つの節約
SMSの事例紹介によると、トラベロッジは英国、アイルランド、スペインで600軒近くのホテルを運営している。
- 照明:2017年11月に一部のホテルでLEDを試し、2018年3月に本格的に始め、2020年7月までに388か所で替え終えた。導入からの節約は20.2ギガワット時、二酸化炭素に換算して4,283トン。エネルギーと保守の費用を、差し引きで年300万ポンド以上減らした
- 暖房など:2019年から、建物のエネルギーを見て動かす仕組み(BEMS)を入れ始めた。2022年末には260軒に入り、客室の暖房の電気を40%ほど減らし、共用の設備の電気も同じくらい減らした。すべてのホテルに広げれば、1年に19ギガワット時を超える節約になると見込む
20.2ギガワット時は導入からの累計、19ギガワット時は広げ終えたときの1年の見込みだ。年300万ポンドには、保守の費用も入っている。
法律で公開される、全体の量
英国政府の手引きによると、2019年4月1日からの決まり「SECR(エネルギーと炭素の報告の簡素化)」で、上場していない大きな会社も、1年のエネルギーの使用量と温室効果ガスの排出を開示することになった。
トラベロッジの事業を担う会社「Thame and London Limited」の2023年12月期の年次報告には、英国のエネルギーの使用量が載っている。
- 電気:1億3,322万6,777キロワット時(前年比1.3%増)
- ガス:7,690万9,641キロワット時(6.0%増)
- 会社の車の燃料:639万7,803キロワット時
- 社員の車での出張の燃料:302万6,961キロワット時
- そのほか(LPGと太陽光):353万3,417キロワット時
- 合計:2億2,309万4,599キロワット時(3.6%増)
同じ報告によると、2023年末のホテルは598軒、客室は4万6,046室。客室の稼働率は83.8%だった。
1室あたり16.7キロワット時
年次報告は、販売した1室あたりのエネルギーも出している。2023年も2022年も、16.7キロワット時で変わらない。
一方、法律で求められる排出の合計は、4万1,270トンから4万4,685トンに増えた。販売した1,000室あたりでは3.2トンから3.4トンだ。報告は、主な理由を、英国の電気の排出係数が7.1%上がったためと説明する。2023年は、発電にガスを多く使った年だった。2023年が前の年より少し寒かったことにも触れている。
使った量が同じでも、電気をつくる側の事情で排出は増える。エネルギーの量と排出の量を、分けて見る必要がある。
翌年の持続可能性の報告書(2024年)では、合計が2億1,771万1,875キロワット時(2.4%減)、販売した1室あたりは16.0キロワット時(4.1%減)になった。ガスは7.0%減り、電気はほぼ同じだった。目標は、販売した1室あたりのエネルギーを毎年2%減らすことだ。
節約を、全体に並べる
ここで、SMSの数字を年次報告の数字と並べる。
- 19ギガワット時 ÷ 2023年の合計223.1ギガワット時 = 約8.5%
- 19ギガワット時 ÷ 2023年の電気133.2ギガワット時 = 約14%
19ギガワット時は見込みで、どの年を基準にした節約なのかは事例紹介に書かれていない。それでも、会社全体の電気の1割強という大きさは見えてくる。
LEDの数字でも割り算をしてみる。4,283トン ÷ 20.2ギガワット時 = 1キロワット時あたり約0.21キログラム。年次報告の2023年の電気の排出(2万7,887トン)を電気の量で割っても、約0.21キログラムになる。SMSの換算と、会社の報告の換算は、おおむね同じ水準だ。
冷媒の82.9%
年次報告には、法律で求められる分とは別に、自分から出した数字もある。そのひとつが、冷房や冷蔵の機械から漏れる冷媒(フロン類)による排出だ。
- 2022年:1,112トン
- 2023年:2,034トン(82.9%増)
報告は、冷媒の保守の時期が年によって違うためと説明している。エネルギーを減らしても、保守の時期ひとつで、ある年の排出が大きく動くことがある。
なお、2024年の持続可能性の報告書では、2023年の自社以外での排出(スコープ3)が7万5,782トンと書かれ、年次報告の7万3,750トンと違う。数字は、後から見直されることがある。
日本の宿に置き換えると
日本では、省エネ・非化石転換法が、1年に原油に換算して1,500キロリットル以上のエネルギーを使う事業者に、毎年の報告を求めている。目標は、エネルギーの使い方の効率を示す数字(エネルギー消費原単位)を、年平均で1%以上よくすることだ。
ホテルの業界には、同じ規模、サービス、稼働のホテルの平均と比べる「ベンチマーク」もある。資源エネルギー庁が2026年6月3日に公表した、2024年度の実績のまとめでは、次のとおりだった。
- 指標:自分のホテルのエネルギーの使用量 ÷ 同じ規模、サービス、稼働のホテルの平均的な使用量
- 目指すべき水準:0.723以下(業種ごとに上位1〜2割の事業者が満たす水準)
- 報告した事業者の平均(使用量で重みづけ):1.123(前の年は1.139)
- 水準を満たした事業者:223社のうち51社(22.9%)
InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)で考える。20室、稼働率70%の宿は、1年に 20 × 365 × 0.7 = 5,110室を販売する。トラベロッジの2023年と同じ、1室あたり16.7キロワット時を使うとする。電気の単価は1キロワット時30円とする。
- 1年のエネルギー:5,110 × 16.7 = 約8万5,300キロワット時。すべて電気なら約256万円
- 年1%減らすと:約853キロワット時、約2万6,000円
- 客室の暖房がエネルギーの15%を占めるとして、トラベロッジの例のように40%減らせれば:全体の6%、約5,100キロワット時、約15万円
金額は小さく見えても、毎年1%ずつ重ねるには、どこで何キロワット時を使っているかを先に知る必要がある。
割り算の分母を持つ
トラベロッジの19ギガワット時は、それだけ見ると大きな数字だ。会社全体の2億2,309万キロワット時と並べると、電気の1割強にあたる手がかりになる。
節約の数字を見たら、全体の量と、1室あたりの量を一緒に探す。分母があれば、自分の宿の数字とも比べられる。
持ち帰れる知識
- 19ギガワット時は、2023年の合計の約8.5%、電気の約14%
- 1室あたりのエネルギーが同じでも、電気の排出係数が上がれば排出は増える
- 冷媒の排出は、保守の時期で年ごとに大きく動く
- 日本のホテル業のベンチマークは0.723以下。2024年度は223社のうち51社が満たした
宿で考えられること
- 電気、ガス、燃料の1年の量を、まず合計する
- 合計を販売した室数で割り、1室あたりの数字を毎年記録する
- エネルギーの量と排出の量を分けて見る
- 冷房や冷蔵の機械の保守の記録を、排出の記録と一緒に残す
事業・予約への接続
1室あたりのエネルギーは、客にも伝わりやすい物差しだ。前の年と比べて何%減ったかを、理由と一緒に短く示すと、取り組みが続いていることが伝わる。
Sources / 参考情報
- SMS(英文) - トラベロッジの事例
裏付け: 600軒近く、LEDは2017年11月に試験・2018年3月に本格・2020年7月に388か所、導入から20.2ギガワット時・4,283トン、エネルギーと保守の費用で年300万ポンド超、BEMSは2019年から・2022年末260軒・客室の暖房の電気を40%・共用の設備も同程度、全体に広げれば年19ギガワット時超 - Thame and London Limited(英文) - 2023年12月期の年次報告(2024年)
裏付け: 598軒・4万6,046室、稼働率83.8%、SECRによる報告、電気1億3,322万6,777・ガス7,690万9,641・合計2億2,309万4,599キロワット時、排出4万4,685トン(前年4万1,270トン)、1,000室あたり3.4トン、電気の係数7.1%上昇、1室あたり16.7キロワット時、冷媒1,112→2,034トン(82.9%)、スコープ2は2万7,887トン、スコープ3は7万3,750トン - Travelodge(英文) - 持続可能性の報告書(2024年)(2025年)
裏付け: 51ページ:合計2億1,771万1,875キロワット時(2.4%減)、1室あたり16.0キロワット時(4.1%減)、ガス7.0%減、電気はほぼ同じ、毎年2%減らす目標、2023年のスコープ3は7万5,782トン - GOV.UK(英文) - 環境の報告の手引き:エネルギーと炭素の報告の簡素化(SECR)の決まりを含む(2019年3月29日更新)
裏付け: 2019年4月1日からの変更、上場していない大きな会社と大きなLLPも1年のエネルギーの使用と温室効果ガスの排出を開示 - 資源エネルギー庁 - 省エネ・非化石転換法に基づくベンチマーク指標の実績について(令和7年度定期報告(令和6年度実績)分)(2026年6月3日)
裏付け: 1,500キロリットル以上の特定事業者等、エネルギー消費原単位の年平均1%以上の低減、目指すべき水準は上位1〜2割が満たす水準、ホテル業の指標・0.723以下・加重平均1.123(前年1.139)・標準偏差0.586・51/223(22.9%)