GOAL 7 · TARGET 7.3 エネルギー・脱炭素 5分 / 2806文字 とめる時間で選ぶ型 #404

一晩の充電か、1時間の充電か:カナダ・ケベック州の「オテル・ユニヴェルセル」が家庭用の充電器を急速充電器に替えた理由と、ヒルトンの「2,000軒に最大2万台」

ホテルにEVの充電器を置くとき、最初に決めることは何だろうか。台数でも、値段でもない。カナダの充電の会社「FLO」が紹介するホテルの例を読むと、答えは「誰が、何時間、車をとめるのか」だとわかる。

この記事では、家庭用の充電器から急速充電器に替えたケベック州のホテルと、一晩の充電の網を広げるヒルトンの計画を並べる。そのうえで、日本の補助金の決まりが、宿の充電器に何を求めているかを読む。

家庭用の充電器で起きたこと

FLOの事例紹介によると、ケベック州リヴィエール=デュ=ルーにある「オテル・ユニヴェルセル」は、はじめに家庭用の充電器を選んだ。

  • 家庭用の充電器は力が小さく、一度に充電できるのは1台。満充電には一晩かかった
  • チェックインのあと観光や商談に出たい客は、翌朝まで満充電の車を受け取れなかった
  • 通りがかりの客一人ひとりに、1台ずつ充電器が要る計算になる

FLOの別の記事は、同じホテルについて、待ち時間が長いという苦情と、充電が終わっても充電の場所に車をとめ続ける人がいるという苦情が続いたと書いている。家庭用の充電器は、泊まる客の一晩の充電には向いていたが、すべての使い方には合わなかったという。

8台の急速充電器に替えた

ホテルは、家庭用の充電器をFLOの急速充電器8台に替えた。FLOによると、ほとんどのEVを1時間ほどで充電できる。

ホテルは大きな幹線道路のすぐそばにある。泊まる客だけでなく、通勤の人や通りがかりの人も充電に立ち寄れる。充電のたびに料金を取れるので、新しい収入にもなる。充電器があることで、EVの運転者が使うアプリの地図にホテルが載り、見つけてもらいやすくなった。

ホテルの副社長は、「急速充電器は、充電の時間を何時間から何分へと縮め、いつもの客にも、地域の人にも、通りがかりの旅行者にも便利さを届けられる」と話している。

FLOの事例紹介は、ケベック州の観光の研究をもとに、州のホテル業の42%がすでに充電の設備を入れているとも書いている。

ヒルトンは「一晩の充電」を広げる

一方、米国のヒルトンは、2023年9月7日に、テスラとの合意を発表した。

  • 2024年の初めから、米国、カナダ、メキシコの2,000軒に、テスラのどのEVにも使える壁付けの充電器を最大2万台置く予定
  • 選ばれたホテルには、それぞれ6台以上を置く
  • ヒルトンのサイトでは、2023年に「EVの充電」で探す検索の伸びが最も大きく、予約につながる検索の順位は4位から2位に上がった

ヒルトンの発表は、この網を「一晩の充電」の網と呼んでいる。テスラの担当者は、EVが1〜2時間以上とまる場所ならどこにでも、安く便利な交流(AC)の充電を置くことが大事だと話している。

なお、FLOの記事には、ヒルトンが2万台を「置いた」と読める書き方がある。ヒルトンの発表は「最大2万台を置く予定」で、計画の数字だ。

2つの選び方を並べる

2つの例は、反対のことをしているように見えるが、考え方は同じだ。

  • ヒルトン:泊まる客は一晩とまる。力の小さい充電器を多く置き、1台ずつゆっくり充電する
  • オテル・ユニヴェルセル:幹線道路の客は1時間ほどしかとまらない。力の大きい充電器で、多くの車を順に充電する

簡単な掛け算で考えると、6キロワットの充電器で10時間なら60キロワット時、50キロワットの急速充電器で1時間なら50キロワット時になる。同じくらいの電気を、長い時間で入れるか、短い時間で入れるかのちがいだ。

FLOの記事は、充電器を選ぶ前に考えることとして、場所(町なかか、幹線道路の近くか)、客の平均の滞在時間、駐車場の広さ、建物の電気の容量を挙げる。決まりとして、誰が使えるか、無料か有料か、つなぎっぱなしの上限時間、ガソリン車が充電の場所をふさいだときの対応を決めておくよう勧めている。

ロサンゼルスの「ミレニアム・ビルトモア」の充電器の「15%」「27%」という数字は、別の記事で出どころを確かめた。この記事では扱わない。

日本の宿に置き換えると

日本では、一般社団法人次世代自動車振興センターが、充電器の設置の国の補助金を受け付けている。2026年5月の申請の手引き(令和7年度補正)では、宿泊施設は「目的地充電」の区分に入る。目的地充電とは、移動先での滞在中に、駐車している間に行う充電のことだ。

宿泊施設が申請するには、次のような条件がある(一部)。

  • 公道に面した入口から、誰もが自由に出入りできる場所に置く
  • 使う人を限らず、ほかのサービスの利用や買い物を条件にしない
  • 充電の場所を示す案内板を、入口の車道の上下線から見えるように置く
  • 場所、出力、使える時間、休止の状況を、誰でもインターネットで確かめられるようにする
  • 充電の料金を取る
  • 24時間使えるかどうかを申告する

普通充電器の口数にも上限がある。駐車場が200区画以下なら4口までだ。ただし、すでにある充電器の1口あたりの使用が、直近3か月の平均で月60時間以上なら、上限を超えて申請できる。月60時間は、1日に直すと約2時間だ。

経済産業省の説明資料によると、国は2030年までに充電口を30万口にする目標を掲げ、令和7年度補正予算の365億円で設置を後押しする。そのうち、目的地充電の普通充電器には70億円を見込む。6キロワット以上のケーブル付きの普通充電器なら、機器は2分の1(上限35万円)、工事は全額(上限135万円)が補助の目安だ。申請のときには設置場所の稼働の見込みを出し、設置後は稼働率の実績の報告を求める予定だという。

つまり、補助金を使って置く宿の充電器は、泊まる客だけのものではなく、オテル・ユニヴェルセルのように、まちの充電の場所にもなる。

InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)で考える。20室で駐車場15台の宿が、6キロワットの普通充電器を2口置くとする。EVの客が1日に平均2組、それぞれ夜に5時間ずつ充電する。

  • 1口あたりの使用:2組 × 5時間 ÷ 2口 = 1日5時間、月に約150時間。上限を超えて口数を増やせる目安の月60時間を、大きく超える
  • 1日の充電量:6キロワット × 5時間 × 2組 = 60キロワット時

一方、EVの客が週に1組なら、1口あたり月に10時間ほどにとどまる。置く前に、地域のEVの客がどのくらいいるか、夜に何時間とめるかを見込んでおくと、口数と出力を選びやすい。

とめる時間から決める

ヒルトンは一晩、オテル・ユニヴェルセルは1時間。どちらも、客が車をとめる時間に合わせて充電器を選んだ。

日本の補助金の決まりは、宿の充電器を、誰でも使えて、料金を取り、ネットで見つけられる場所にすることを求めている。泊まる客の一晩と、通りがかりの人の短い時間。宿の駐車場が、どちらの時間に使われるのかを考えることが、最初の一歩になる。

持ち帰れる知識

  • 一晩とまる客には小さな力の充電器を多く、短くとまる客には大きな力の充電器を
  • 家庭用の充電器では、待ち時間とつなぎっぱなしの苦情が続いた
  • ヒルトンのサイトでは、EVの充電の検索が予約につながる順位で2位に上がった(2023年)
  • 日本の目的地充電の補助では、誰でも使えること、料金を取ること、ネットに載せることが条件

宿で考えられること

  • EVの客が何時間とめるかを、まず見込む
  • 誰が使えるか、料金、上限の時間を決めて掲示する
  • ガソリン車が充電の場所をふさいだときの対応を決める
  • 建物の電気の容量を、置く前に電気の工事の会社と確かめる

事業・予約への接続

充電器があることは、予約のサイトやEVのアプリの地図に載ることで、はじめて客に届く。出力、口数、料金、使える時間を自社サイトに書いておくと、EVの客が安心して予約できる。

Sources / 参考情報

  • FLO(英文) - 宿泊業での急速充電(2024年)
    裏付け: オテル・ユニヴェルセル、家庭用の充電器は1台ずつ一晩、翌朝まで待つ、急速充電器でほとんどのEVを1時間、幹線道路からの有料の客、副社長の発言と急速充電器8台、ケベック州のホテル業の42%(ケベック大学モントリオール校の観光の研究による)
  • FLO(英文) - EVの充電がホテル業を元気にする(2024年)
    裏付け: 幹線道路のそば、通勤・通りがかりの人、アプリで見つけやすい、充電ごとの料金、待ち時間とつなぎっぱなしの苦情、選ぶ前に考えること、決めておく決まり、ヒルトンが2万台を「置いた」という書き方
  • Hilton(英文) - ヒルトンが2,000軒に最大2万台のテスラの壁付けの充電器を置く(2023年9月7日)
    裏付け: 2024年の初めから・米国・カナダ・メキシコの2,000軒に最大2万台の予定、1軒6台以上、一晩の充電、テスラの担当者の発言(1〜2時間以上とまる場所にAC)、2023年にEVの充電の検索が予約につながる順位で4位から2位
  • 次世代自動車振興センター - 令和7年度補正 充電・充てん設備等導入促進補助金 申請の手引き 充電設備(2026年5月)
    裏付け: 109〜111ページ:商業施設及び宿泊施設等(目的地充電)、目的地充電の定義、補助率、公道に面し誰でも出入り・利用者を限らない・案内板・ネットでの掲載・料金の徴収・24時間の申告、普通充電の口数の上限(200区画以下は4口)、直近3か月の平均で月60時間以上なら超過可
  • 経済産業省 - 充電設備導入補助金の令和7年度補正予算の執行について
    裏付け: 2030年までに30万口、510億円のうち365億円、普通(目的地)70億円、6キロワット以上のケーブル付き普通充電器は機器1/2・上限35万円、工事1/1・目的地充電を含む区分は上限135万円、稼働見込みの提出と稼働率の実績の報告

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