年156トンは、州の37万トンのどこにいるのか:ボストンの「レノックス・ホテル」の生ごみの堆肥化を、マサチューセッツ州の10年の数字に置いてみる
米国ボストンのレノックス・ホテルは、2014年5月から、3つのレストランの生ごみを農場に送って堆肥にしている。この取り組みは、これまでにも取り上げてきた。今回は、ホテルの中の工夫ではなく、外側に目を向ける。同じ2014年、マサチューセッツ州は、多くの生ごみを出す事業者に、生ごみを捨てることを禁じた。1軒のホテルの数字を、州全体の10年の数字の中に置くと、何が見えるのか。
レノックス・ホテルの数字をおさらいする
州の環境保護局の資金で動く支援の窓口「リサイクリングワークス」の2019年の事例から、要点を確かめる。
- 1900年に開業したホテルで、1980年代からリサイクルを続けている
- 2014年5月に、調理の生ごみと、皿に残った食べ残しを分け始めた
- 生ごみは、ロッキー・ヒル・ファームという農場で堆肥になる
- 4年で、1年の量が91トンから156トンに増えた。いまは週に6,000ポンドを堆肥に回している
- 2018年からは、余った食べ物をボストン・レスキュー・ミッションに寄付している。多い月で80食分になる
週6,000ポンドに52週をかけると31万2,000ポンドになる。米国のトン(1トン=2,000ポンド)で156トンだ。2つの数字は同じものを指している。なお、同じ事例は「始めてから20%増えた」とも書いている。91トンから156トンへの伸びは約7割なので、2つは合わない。何と何を比べた20%なのかは、事例に書かれていない。
州は「捨ててはいけない」と決めた
州の環境保護局の2024年9月の発表によると、州は2014年に、週に1トンを超える生ごみを出す事業者に、生ごみを埋め立てずに、堆肥などに回すよう求めた。2022年には線を週半トンに下げ、対象の事業者が大きく増えた。回した生ごみは、寄付や家畜のえさ、堆肥などに使われる。
レノックス・ホテルの週6,000ポンドは、米国のトンで週3トンになる。今の線の半トンの6倍だ。
州全体の10年の数字
環境保護局は、2030年までの廃棄物の計画の中間評価をまとめている。生ごみについては、次のように書かれている。
- 2030年の目標は、年78万トンの生ごみを、捨てずに済ませること
- 2024年に捨てずに済んだのは37万トン。目標まで、まだ41万トン足りない
- 調べると、今も年に約93万トンの食べ物がごみとして捨てられている
- 生ごみを分けている事業所は、2018年の2,310から、2024年には4,150に増えた
- 2022年に線を半トンに下げたことで、対象の事業者はおよそ2倍になった
計算してみると、レノックス・ホテルの年156トンは、州の37万トンのおよそ2,400分の1になる。1軒の数字としては大きいが、州の数字の中ではごく一部だ。分けている事業所は6年で約1.8倍に増えた。それでも、ごみの中に残る93万トンは、捨てずに済んだ37万トンの約2.5倍ある。
州は「知らせる」「確かめる」を続けている
中間評価は、守らせるための取り組みも書いている。
- 167を超える会社、1,025を超える事業所に、正式な問い合わせの手紙を送った
- 返事のあった83社のうち、51社は線を超えていた。そのうち9社は、手紙を受け取ったあとで生ごみを集める仕組みを作った。今は51社すべてに仕組みがある
- 22社は線より少なかったが、そのうち5社は仕組みを作っている途中だった
- 生ごみの減量による経済の効果は、およそ1,700人の雇用、1億4,300万ドルの賃金、1億9,400万ドルの価値、全体で3億9,000万ドルの経済活動と見積もられている
2024年9月の発表によると、州は2014年から、4万5,000台を超えるごみの積み荷を調べ、140件を超える取り締まりの措置をとった。テキサス大学とカリフォルニア大学サンディエゴ校の研究者が『サイエンス』誌に出した報告は、この取り締まりを、州がうまくいった理由に挙げている。報告は、禁止のあと、処分するごみ1トンあたりの温室効果ガスが25.7%減ったと計算した。
メタンの数字は、前提を確かめて使う
同じ発表で、州の環境保護局長は、埋め立てる生ごみ1,000トンごとに、約34トンのメタンが出るという見積もりを示した。仮にレノックス・ホテルの年156トンがすべて埋め立てられていたとすると、この目安では約5.3トンのメタンになる。
一方で、発表は、州の禁止によって毎年38万トンを超える生ごみが回され、3,300トンを超えるメタンを防いでいるとも書いている。1,000トンあたりにすると約9トンで、局長の目安の34トンよりかなり小さい。回された生ごみが、もともとすべて埋め立てられていたとは限らないことなどが考えられるが、発表はこの差を説明していない。また、37万トン(中間評価、2024年)と38万トン(2024年9月の発表)も、出どころと時点が違う。数字を使うときは、何を前提にした数字かを一緒に書いておきたい。
日本の宿に置き換えると
日本にも、大きな建物のごみを、自治体が毎年確かめる仕組みがある。東京の区の多くは、条例で、事業用の大きな建物の所有者に、次のことを求めている。
- 廃棄物管理責任者を選び、区に届け出る
- 「事業用大規模建築物における再利用計画書」を年度ごとに作り、毎年5月31日までに出す
文京区では、対象は延べ床面積3,000平方メートル以上の建物で、区で出るごみの約6割が事業系のごみだと説明している。新宿区では、事業用の床面積1,000平方メートル以上の建物が対象になる。3,000平方メートル以上の建物は、計画書のほかに、廃棄物の発生量と再利用量の内訳書や、ごみの処理とリサイクルの流れの図も出す。どの広さから対象になるかは、区によって違う。
InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)で考える。30室で朝食を出す宿が、1日に15キログラムの生ごみを出すとする。
- 週に105キログラム、1年で約5.5トン(15キログラム × 365日 = 5,475キログラム)
- マサチューセッツ州の半トン(約454キログラム)の約23%。レノックス・ホテルの週6,000ポンド(約2,722キログラム)の約26分の1
- 2週間、毎日はかって210キログラムなら、1日15キログラム、1年で約5.5トンと見込める
生ごみを燃やすごみに混ぜたままでは、この数字は残らない。分けてはかることが、計画書の内訳を書くための第一歩になる。なお、ごみを燃やすか埋めるかは地域によって違うので、米国のメタンの数字を、そのまま日本の宿に当てはめることはできない。
1軒の努力と、州の仕組み
レノックス・ホテルは、決まりより先に生ごみを分け始め、4年で量を増やした。州は、線を下げ、手紙を送り、積み荷を調べて、分ける事業所を増やしてきた。それでも州の目標には届いていない。1軒の数字は、州の数字の中ではごく一部だ。だからこそ、1軒1軒がはかって報告する仕組みが、全体を動かしている。
持ち帰れる知識
- 1軒の年156トンは、州の37万トンのおよそ2,400分の1
- 分けている事業所は、2018年の2,310から2024年の4,150へ
- 問い合わせの手紙を受け取って、仕組みを作った会社もあった
- メタンの数字は、埋め立てを前提にしているかどうかを確かめて使う
宿で考えられること
- 生ごみを燃やすごみと分けて、2週間はかる
- はかった数字を、区に出す計画書の内訳に使う
- 余った食べ物を寄付できるか、引き取り先を調べる
- 自分の建物が、区の計画書の対象になるかを確かめる
事業・予約への接続
生ごみの量をはかり、行き先を説明できる宿は、宴会や団体の主催者に、ごみの扱いを数字で伝えられる。「何を、どれだけ、どこに回したか」を書いておくと、問い合わせにもすぐ答えられる。
Sources / 参考情報
- リサイクリングワークス(英文) - 食品の寄付と堆肥化の事例:レノックス・ホテル(2019年)
裏付け: 1900年開業、1980年代からリサイクル、2014年5月に開始、ロッキー・ヒル・ファームで堆肥化、4年で年91トンから156トン、週6,000ポンド、20%増、2018年からボストン・レスキュー・ミッションに寄付、月に最大80食分 - マサチューセッツ州環境保護局(英文) - 固形廃棄物の基本計画 2025年の取り組みと政策の評価(2026年、日付の記載なし。2026年1月の報告書の提出に触れている)
裏付け: 2030年の目標78万トン、2024年に37万トン、41万トン不足、年約93万トンがごみに、分ける事業所2,310から4,150、半トンへの引き下げで対象がおよそ2倍、問い合わせの手紙(167社超・1,025か所超・83社が回答・51社が線を超え9社が手紙のあと開始・22社が線未満で5社が準備中・10社が一部回答)、経済の効果(約1,700人・1億4,300万ドル・1億9,400万ドル・3億9,000万ドル) - マサチューセッツ州環境保護局(英文) - 新しい研究が、マサチューセッツ州を食品廃棄の削減の全米の先頭に位置づける(2024年9月12日)
裏付け: 2014年に週1トン超、2022年に週半トン、『サイエンス』誌の報告、処分1トンあたりの温室効果ガスが25.7%減、毎年38万トン超を回し3,300トン超のメタンを回避、局長の目安(1,000トンあたり約34トン)、2014年から4万5,000台超の積み荷を検査・140件超の措置 - 文京区 - 事業用大規模建築物(延床面積3,000平方メートル以上)の所有者の方へ(2026年3月24日更新)
裏付け: 区のごみの約6割が事業系、3,000平方メートル以上が対象、条例第19条第2項で廃棄物管理責任者の選任・届出、第19条第3項で再利用計画書を年度ごとに作成し毎年5月31日までに提出 - 新宿区 - 事業用大規模建築物所有者等の義務・役割(2026年7月17日更新)
裏付け: 事業用の床面積1,000平方メートル以上が対象、所有者の義務(減量、管理責任者の選任・届出、再利用計画書)、3,000平方メートル以上は廃棄物発生量・再利用等内訳書とごみ処理・リサイクルフロー図も提出