GOAL 7 · TARGET 7.3 エネルギー・脱炭素 4分 / 2391文字 ものさしを比べる型 #409

「1室あたり」で比べると、何が混ざるのか:18軒のホテル会社の「47%の差」を、日本のホテル業ベンチマークの7つの要素で読む

ホテルどうしでエネルギーを比べるとき、いちばん手軽なものさしは「1室あたり」だ。米国の設備管理ソフトの会社オックスメイントが2026年3月に載せた事例でも、18軒のホテルを「使われた客室1室あたりのエネルギー費」で比べ、最良と最悪の差が47%あったとしている。けれども、ホテルには、客室のほかにレストランや宴会場がある。日本の省エネの制度は、ホテルどうしを比べるために、7つの要素を使う式をつくった。2つのものさしを並べて読む。

事例の数字

事例は、製品を売る会社自身が書いたもので、ホテル会社の名前は出てこない。書かれている数字は次のとおりだ。

  • 18軒、客室は合わせて4,200室。中級からやや高級まで
  • 年のエネルギー費は420万ドル。13か月後に30%減り、294万ドルに。差は126万ドル
  • 使われた客室1室あたりのエネルギー費の差は、最良と最悪で47%。13か月後に8%未満に
  • 同じ仕様の空調を使う3軒で、エネルギー費に年最大18万ドルの差
  • 導入費は43万ドルで、回収は4.1か月

420万ドルを4,200室で割ると、1室あたり年約1,000ドルになる(InnBuddyによる計算)。

事例は、どのホテルも機器は同じで、差は運用によるものだったと書く。そして、ダッシュボードで「使われた客室1室あたりのエネルギー費」を毎日、18軒で比べたという。

「1室あたり」に混ざるもの

ただし、「使われた客室1室あたりの費用」には、客室以外の要素も混ざる。

  • 料金:費用で比べるので、地域ごとの電気やガスの単価の違いが入る
  • レストランと宴会場:客室が同じ数でも、飲食の規模が大きいほど、1室あたりの数字は上がる
  • 稼働:使われた客室で割るので、稼働が低いと、空室の空調や共用部の分が重くなる

18軒は「中級からやや高級まで」と幅がある。事例は、47%の差のうち、どれだけが運用で、どれだけが飲食の規模などの違いかは分けていない。

日本のホテル協会が示した数字

日本では、2016年11月、日本ホテル協会が国の会議に、ホテルのエネルギーの使い方の特徴をまとめた資料を出した。

  • 1平方メートルあたりのエネルギーは、全部門で平均2.7ギガジュール
  • 宿泊・共用の部門は2.0、飲食・宴会の部門は8.3(厨房などの裏方を含む)
  • 稼働率が上がるほど、エネルギーの使用量は大きくなる
  • 調べたホテルの客室は20〜1,479室、宴会場は0〜1万5,603平方メートルと幅がある

飲食・宴会の部門は、面積あたりで宿泊・共用の約4倍のエネルギーを使う。1室あたりで比べると、宴会場の大きいホテルほど不利になりやすい。

7つの要素で「同じ条件のホテル」をつくる

そこで、国のホテル業のベンチマーク(同じ業種で省エネの状況を比べる指標)は、ホテルの実際のエネルギー使用量を、「同じ規模、サービス、稼働状況のホテルの平均的なエネルギー使用量」で割る。平均的な使用量は、次の7つの要素から計算する。

  • 規模:宿泊・共用部門の面積×2.238、食堂・宴会場の面積×6.060、屋内駐車場の面積×0.831
  • サービス:収容人数×−48.241、従業員数×32.745
  • 稼働:年間の宿泊客数×0.152、年間の飲食・宴会利用客数×0.030

結果はギガジュールで出る。協会の資料によると、式は、稼働率の変動で評価が有利・不利にならないように稼働の要素を重視し、事業者が集めやすいデータに限って作られた。統計の当てはまりを表す決定係数は0.893だった。

目指すべき水準は0.723以下で、2012〜2015年度の値を上から並べて15%にあたる水準として決められた。対象は、年のエネルギー使用量が原油換算1,500キロリットル以上の事業者で、一定の広さの客室と、3食を出せる食堂があるホテルだ。

実績は、まだ水準から遠い

資源エネルギー庁の公表によると、ホテル業の実績は次のとおりだ。

  • 2022年度実績(2023年度の報告):平均1.062(前年0.883)、達成は209者のうち40者(19.1%)
  • 2024年度実績(2025年度の報告):加重平均1.123(前年1.139)、達成は223者のうち51者(22.9%)

2025年度の報告では、ホテル業の加重平均は前年より改善した。それでも、水準の0.723とは開きがある。

日本の宿に置き換えると

InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)で、客室が同じ60室の2つの宿を比べる。どちらも年のエネルギー使用量は1万ギガジュールとする。

  • 宿A:宿泊・共用3,000平方メートル、食堂・宴会場300平方メートル、収容120人、従業員30人、宿泊客年3万人、飲食客年2万人
  • 宿B:宿泊・共用3,000平方メートル、食堂・宴会場800平方メートル、収容120人、従業員50人、宿泊客年3万人、飲食客年6万人

1室あたりでは、どちらも年約167ギガジュールで同じだ。ところが、7つの要素の式で平均的な使用量を出すと、宿Aは約8,885ギガジュール、宿Bは約1万3,770ギガジュールになる。指標の値は、宿Aが約1.125、宿Bが約0.726だ。宴会場の大きい宿Bは、同じ使用量でも、条件に比べて省エネが進んでいると読める。

制度の対象になる宿は限られる。それでも、自分の宿の面積、人数、客数を書き出して、この式に当てはめてみると、1室あたりの数字だけでは見えない比べ方ができる。

ものさしを選んでから、差を読む

18軒の事例の「47%」も、30%の削減も、1室あたりという1つのものさしで測った数字だ。チェーンや複数の宿を比べるときは、まず何で割ったかを確かめたい。差を運用の問題と決める前に、飲食の規模や稼働の違いを取り除いたものさしで見直す余地がある。

持ち帰れる知識

  • 「使われた客室1室あたりの費用」には、料金、飲食の規模、稼働の違いが混ざる
  • 飲食・宴会の部門は、面積あたりで宿泊・共用の約4倍のエネルギーを使う(日本ホテル協会の資料)
  • 国のホテル業ベンチマークは、7つの要素で「同じ条件のホテル」の平均と比べる
  • 目指すべき水準は0.723以下。2024年度実績の加重平均は1.123

宿で考えられること

  • エネルギーを、客室と飲食・宴会に分けてつかむ
  • 面積、収容人数、従業員数、宿泊客数、飲食客数を毎年記録する
  • 複数の宿を比べるときは、何で割った数字かを先にそろえる
  • 空室の空調の設定を見直す

事業・予約への接続

宴会や婚礼の多い宿ほど、1室あたりの数字は大きく見える。条件をそろえた指標で説明できれば、省エネの取り組みを、取引先や主催者に正しく伝えられる。

Sources / 参考情報

  • OxMaint(英文) - ホテルの省エネ事例:IoTと保全で30%削減(2026年3月28日)
    裏付け: 18軒・4,200室・中級からやや高級、420万ドル、30%・294万ドル・126万ドル、使われた客室1室あたりのエネルギー費の差47%から8%未満、同じ仕様の3軒で年最大18万ドル、機器は同じで差は運用、1室あたりの費用を毎日比較、導入費43万ドル・回収4.1か月
  • 日本ホテル協会(経済産業省 工場等判断基準WG 資料4-2) - ホテル業界における省エネベンチマークの策定について(2016年11月)
    裏付け: 全部門2.7・宿泊共用2.0・飲食宴会8.3ギガジュール/平方メートル、稼働率が上がるほど使用量は大きい、客室20〜1,479室・宴会場0〜1万5,603平方メートル、稼働要因を重視・集めやすいデータ、決定係数0.893、2012〜2015年の上位15%で0.723
  • 資源エネルギー庁 - ホテル業のベンチマーク制度 制度の概要(2021年4月)
    裏付け: 同じ規模・サービス・稼働状況のホテルの平均的な使用量で割る、7つの要素と係数、0.723以下、1,500キロリットル以上、客室の広さと3食の食堂の条件
  • 資源エネルギー庁 - ベンチマーク指標の実績について(令和5年度定期報告分)
    裏付け: ホテル業 平均1.062(前年0.883)、標準偏差0.526、達成40/209(19.1%)、ホテル業は前年より悪化
  • 資源エネルギー庁 - ベンチマーク指標の実績について(令和7年度定期報告分)(2026年6月3日)
    裏付け: ホテル業 加重平均1.123(前年1.139)、標準偏差0.586、達成51/223(22.9%)、ホテル業は改善、水準は上位1〜2割の事業者が満たす水準

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