GOAL 6 · TARGET 6.4 水・衛生・循環 5分 / 3223文字 係数を読む型 #411

「0.81」と「0.90」:東ジャカルタの5つ星ホテルの雨水の研究を、屋根の雨が何割届くかで読む

インドネシアの東ジャカルタにある、191室の5つ星ホテル。その屋根に降る雨を集めて使うと、水をどれだけ減らせるかを調べた研究がある。結果の「年11.01%」は、屋根の面積と雨の量に、ひとつの係数を掛けて出した数字だ。その係数が「0.81」。屋根に降った雨のうち、何割を集められるとみるかを表す。この記事では、この係数がどこから来たのか、日本の排水の計算ではどんな値が使われるのか、そして係数の選び方で見積もりがどれだけ動くのかを読む。

研究のあらまし

論文は、インドネシアのペリタ・ハラパン大学とインドネシア大学の研究者らが、2025年に国際的な環境科学の学術誌に発表した。調べた対象は、東ジャカルタの5つ星ホテルで、客室は191室。ホテルの水は、すべて公共の水道に頼っている。

  • 屋根と壁の排水から雨水をとり、独立した検査機関で水質を調べた
  • 屋根の面積1,898平方メートル、係数0.81、インドネシア気象気候地球物理庁(BMKG)の2011年・2013年・2018年の雨の量で、月ごとに集められる雨水を計算した
  • ホテルの水の使用量は、客室の稼働率62%のときの、経営側から示された数字を使った
  • 結果、雨水で年に11.01%の水を節約できると見積もった

なお、同じ論文は、#234でも取り上げた。#234は月ごとの差と1立方メートルあたりの費用を中心に読んだ。この記事では、計算の入り口にある係数と、需要の側の数字を見る。

式は「雨の量×係数×屋根の面積」

論文が使った式は、Q=I×C×Aだ。Iは月の雨の量(ミリメートル)、Cが係数、Aは雨を集める面積(平方メートル)。論文によると、これは1889年にクイチリングが示した「合理式」で、20ヘクタールより小さい区域の、雨のピークの流れを求めるのに、水文学や土木の技術者がよく使うものだという。

この式に、論文の数字を入れてみる(InnBuddyによる計算)。

  • 屋根1,898平方メートル×0.81=約1,537
  • つまり、雨が1ミリメートル降るごとに、約1.54立方メートルの雨水を集められる計算になる
  • 雨のいちばん多い2月(261.77ミリメートル)は、論文の表で402.63立方メートル
  • いちばん少ない8月(11.43ミリメートル)は、17.59立方メートル

論文の表の月ごとの値と、この掛け算の結果は、ほぼ一致する(差は1立方メートル未満)。

0.81は、どこから来たか

論文は、0.81の出典として、2004年に米国の水資源の学会誌に載った、家庭の屋根の雨水をためるタンクの大きさを最適化する研究を挙げている。ホテルの屋根を実際に測った値ではなく、別の研究から借りた値だ。

係数が1より小さいのは、屋根に降った雨がすべて集まるわけではないからだ。屋根の材料や形、蒸発、とい(雨どい)からのあふれ、降り始めの汚れた雨を捨てる分などで、集められる量は減る。論文の本文は、どの理由をどれだけ見込んだかまでは書いていない。

また、壁の排水からも水を採って水質を調べているが、量の計算に使った面積は屋根の1,898平方メートルだけだ。

日本の排水の計算では「0.90」

日本でも、同じ形の式が、雨水の排水の計算に使われている。

  • 国土交通省の資料は、日本下水道協会の「下水道施設計画・設計指針と解説」から、工種別の基礎流出係数として、屋根0.85〜0.95、道路0.80〜0.90、芝や樹木の多い公園0.05〜0.25などの値を示している
  • 東京都下水道局の事前協議のマニュアル(2022年8月)は、雨水の量を計算するための参考として、屋根の流出係数を0.85〜0.95、標準値を0.90としている
  • 三重県鈴鹿市の開発の基準は、開発区域から流れ出る量の計算について、「計画上の安全性を考慮して0.90を標準値とすること」と書いている

排水の計算は、管や池があふれないようにするためのものだ。流れ出る量を少なく見積もると、大雨のときに困る。だから、安全側として大きめの係数を使う。

一方、雨水を集めて使う計算では、向きが逆になる。集められる量を多く見積もると、タンクや処理の設備を、実際には使われない分まで用意することになる。同じ屋根でも、何のための計算かで、選ぶ係数の意味が変わる。

係数を0.90にすると

もし東ジャカルタのホテルの計算に、東京都の標準値0.90を使っていたら、どうなるか(InnBuddyによる計算)。

  • 論文の3か年の月の雨を合計すると、1年で約1,429ミリメートル
  • 0.81のとき、1年に集められる雨水は約2,197立方メートル
  • 0.90のとき、約2,442立方メートル。約11%多くなる

係数を0.81から0.90に変えるだけで、年に約245立方メートルの差が出る。どちらが正しいというより、その屋根で実際にどれだけ集まるかを、測ってみなければわからない部分だ。

需要の側の数字

雨水で何%まかなえるかは、使う水の量にも左右される。論文の表によると、ホテルの水の使用量は月に約1,420〜1,950立方メートル、1年で約2万417立方メートルだ。

これを365日と、稼働率62%の客室数(約118室)で割ると、売れた1室1日あたり約0.47立方メートルになる(InnBuddyによる計算)。ただし、この量には、レストランや洗濯、従業員の分も含まれているはずで、客室だけで使った量ではない。

使用量がいちばん多いのは7月(約1,950立方メートル)で、雨水はその月、約27立方メートルしか集まらない。稼働率が変われば、分母になる使用量も変わる。11.01%は、「稼働率62%の年」という条件つきの数字だ。

タンクの費用の割合

論文は、まとめの部分で、ほかの研究を引いて、タンクがシステム全体の費用の最大70%を占めることがあるため、大きさを慎重に決める必要があると書いている。

一方、この論文自身の見積もりでは、6立方メートルのタンクは3,750万ルピアで、投資と設置の費用1億527万1,810ルピアの約36%だった(InnBuddyによる計算)。残りは、砂と炭のろ過、膜(RO)の装置とポンプなど、水をきれいにする設備だ。大腸菌群が基準に合わなかったこの雨水では、ためる費用より、きれいにする費用のほうが大きい。

日本の宿に置き換えると

InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)として、屋根300平方メートル、年の雨の量1,600ミリメートルの宿が、雨水をトイレの洗浄に使う場合を考える。

  • 係数0.81なら、年に約389立方メートル。0.90なら約432立方メートル。差は約43立方メートル
  • 1立方メートル600円(水道と下水道の合計)で計算すると、0.81で年約23.3万円、0.90で年約25.9万円

ただし、東京都下水道局のマニュアルは、雨水をトイレなどに使った場合も、下水道料金の対象になると書いている。仮に600円のうち水道の分を300円とすると、雨水で浮くのは水道の分だけで、0.81なら年約11.7万円になる。係数の差より、料金のどこまでが浮くかの差のほうが大きい。

国の官庁施設の基準(雨水利用・排水再利用設備計画基準)は、雨水を集める場所を原則として屋根面とし、設計では雨水を集める量、雑用水の使用量、タンクの容量、処理の流れ、下水道などへの流出の抑制、水道の水の足し方などを検討するよう求めている。見積もりの段階で、係数と料金の前提を書き出しておくと、あとで比べやすい。

係数は、前提を一つにまとめた数字

0.81という一つの数字には、屋根の材料、雨どい、捨てる初めの雨、蒸発といった、いくつもの前提がまとめて入っている。論文の11.01%を読むときも、自分の宿で雨水を見積もるときも、まずこの係数がどこから来たのか、何のための値なのかを確かめたい。

持ち帰れる知識

  • 雨水の量の式は、雨の量×係数×屋根の面積
  • 論文の0.81は、家庭の屋根の雨水の研究から借りた値
  • 日本の排水の計算では、屋根の係数は0.85〜0.95、東京都の標準値は0.90
  • 排水の計算と、雨水を使う計算では、係数を選ぶ向きが逆になる
  • 東京都では、トイレなどに使った雨水も下水道料金の対象になる

宿で考えられること

  • 雨水の見積もりに使う係数と、その出典を書き出す
  • 排水の計算の係数を、そのまま雨水を使う計算に流用しない
  • 料金のうち、どこまでが浮くのかを、水道局に確かめる
  • 需要の量が、稼働率でどう変わるかも並べて見る

事業・予約への接続

雨水を使う宿は、「どれだけ集め、どれだけ使っているか」を、前提と一緒に示せると、数字の信頼が増す。設備の会社や設計者と話すときも、係数と料金の前提をそろえておくと、見積もりを比べやすい。

Sources / 参考情報

  • International Journal of Environmental Sciences(英文) - 雨水利用の最適化 事例研究:インドネシアの5つ星ホテル(PDF)(2025年、第11巻9s号)
    裏付け: 191室、公共の水道に全面的に依存、屋根と壁の排水から採水し独立の検査機関で検査、Q=I×C×A、クイチリング(1889年)の合理式で20ヘクタール未満の小さな区域のピーク流量に使われる、屋根1,898平方メートル・係数0.81(文献21)、BMKGの2011年・2013年・2018年の雨量、稼働率62%と経営側の使用量、月ごとの雨量・雨水量・使用量・節約率(2月261.77ミリ・402.63立方メートル、8月11.43ミリ・17.59立方メートル、7月の使用量1,949.58立方メートル・雨水27.48立方メートル)、平均183.20立方メートル・使用量1,701.445立方メートル・11.01%、タンク3,750万ルピア・合計1億527万1,810ルピア、タンクが費用の最大70%とする他の研究の引用、文献21は家庭の屋根の雨水タンクの最適容量の研究(2004年)
  • International Journal of Environmental Sciences(英文) - 論文の掲載ページ
    裏付け: 論文の題名、著者、掲載号
  • 国土交通省 - 参考資料(雨水の流出抑制・浸透の試算例など)(PDF)
    裏付け: 下水道施設計画・設計指針と解説(前編2001年版、日本下水道協会)による工種別基礎流出係数の標準値、屋根0.85〜0.95、道路0.80〜0.90、その他の不透面0.75〜0.85、芝・樹木の多い公園0.05〜0.25
  • 東京都下水道局 - 大量排水協議 排水に関する事前協議書作成マニュアル(申請者用)(PDF)(2022年8月)
    裏付け: 雨水量算定の参考資料で屋根の流出係数0.85〜0.95・標準値0.90、雨水をトイレなどに利用した場合も下水道料金の対象
  • 鈴鹿市 - 排水施設に関する基準(PDF)
    裏付け: 開発区域からの計画流出量は合理式で算定、流出係数は計画上の安全性を考慮して0.90を標準値とする
  • 国土交通省 - 雨水利用・排水再利用設備計画基準(平成28年版)(PDF)(2016年3月30日)
    裏付け: 雨水の集水場所は原則として屋根面、実施設計で雨水集水量・雑用水使用水量・雨水貯留槽容量・処理フロー・下水道等への流出抑制対策・上水補給方法などを検討

関連する記事