「1年で10%」の目標を、9か月で37%:ロンドンの「トライブ・ロンドン・カナリー・ワーフ」が、1食あたりで測った食品ロス
ロンドンのビジネス街カナリー・ワーフにあるホテル「トライブ・ロンドン・カナリー・ワーフ」は、厨房に食品ロスを測るカメラ付きの機械を3台入れた。最初に立てた目標は、「1年で、1食あたりの食品ロスを10%減らす」こと。結果は、9か月で37%だった。この事例で目を引くのは、成績を「総量」ではなく「1食あたり」で測っている点だ。この記事では、1食あたりで測る意味と、事例に並ぶ「食数」「CO2」「木の本数」という換算の数字を読む。
事例の記事に書かれていること
機械を提供したオランダの会社オービスクは、2026年1月に事例の記事を出した。
機械を入れる前と後
- 以前は、食品ロスを勘で管理していた
- 上位の仕様の機械「オービ」を3台入れ、捨てた物の写真と、毎日の分析を見られるようにした
- 見えてきたのは、朝食ビュッフェの作りすぎ、働く人の食堂であまり食べられていない料理、たくさん並べすぎて残る料理だった
打った手
- 朝食ビュッフェは、小さな量をこまめに作るようにした
- 客の前に立つ人と厨房の人を研修し直し、避けられる食品ロスを見分けられるようにした
- 働く人の食堂の献立を、実際に食べられている量に合わせて変えた
- 並べる量を減らし、見た目の質は保った
- 先に仕入れた物から使う(先入れ先出し)を徹底し、余った果物、野菜、パンを別の料理に生かした
- 毎週の結果を、チームをまたいで共有した
9か月の結果
- 1食あたりの食品ロスの平均を、37%減らした
- 11,050食を捨てずにすんだ
- CO2で15,707キログラムを避けた。木700本が1年に吸収する量にあたる
- 2万5,047ポンドを節約した
次の段階として、新しい献立の効果を追うこと、繁忙期の傾向を見ること、宿泊客の数に合わせて仕込みを合わせること、働く人の食堂での啓発を増やすことを挙げている。
「1食あたり」で測る意味
ホテルでは、提供した食事の人数分を「カバー」と数えることが多い。トライブの目標と結果は、このカバーあたり、つまり1食あたりの食品ロスで示されている。
総量で測ると、客が多い月は捨てる量も増え、客が少ない月は減る。努力の効果と、客の数の増減が、区別できなくなる。1食あたりで測れば、客の数が変わっても、作り方や並べ方の改善を比べやすい。
一方で、1食あたりの数字だけでは、全体でどれだけ減ったかはわからない。トライブの事例も、1食あたりの減り方(37%)と、捨てずにすんだ食数(11,050食)を、別々に示している。
37%は、目標のおよそ4倍
目標は「1年で10%」。結果は「9か月で37%」。期間が短いのに、減り方は目標のおよそ4倍だった。
ただし、事例の記事は、比べた基準の期間がいつか、37%がどの月の数字の平均かまでは書いていない。目標を大きく上回ったときほど、基準の取り方を記録しておくと、次の目標を立てやすい。
「11,050食」は、重さからの換算
事例の記事は、捨てずにすんだ食べ物の重さを書いていない。示されているのは、食数とCO2と金額だ。
同じ会社の別の事例では、重さと食数が両方出ている。シンガポールのラッフルズ・ホテルの事例では、1,097キログラムが2,437食にあたるとしている。割ると、1食あたり約0.45キログラムだ。会社の2024年の報告も、190万キログラムを超える食べ物を、440万食にあたるとしている。こちらは割ると約0.43キログラムで、数字が丸められているぶん、やや小さく出る(InnBuddyによる計算)。
もしトライブの11,050食にも、ラッフルズと同じ1食約0.45キログラムを当てはめると、約5トンの食べ物になる。これはInnBuddyによる仮の計算で、事例の記事が示した重さではない。
「木700本」を割ってみる
CO2の15,707キログラムを、木の700本で割ると、1本が1年に吸収するCO2は約22.4キログラムになる(InnBuddyによる計算)。事例の記事は、どんな木を想定したのかを書いていない。
日本の林野庁は、適切に手入れされた36〜40年生のスギの人工林1ヘクタールが、1年に約8.8トンのCO2を吸収すると推定している。1ヘクタールに1,000本の木があると仮定すると、スギ1本あたり約8.8キログラムだ。
この値で同じ15,707キログラムを割ると、スギ約1,785本になる(InnBuddyによる計算)。木の種類や年齢、育つ場所で、木の本数のたとえは2倍以上変わる。
消費者庁の2025年8月の調査の報告書も、2023年度の国民1人あたりの食品ロスによる温室効果ガス(年84キログラム)を、スギの木で表している。林野庁の1本8.8キログラムを使い、「スギの木を約10本植える必要がある」としている。たとえに木を使うときは、このように、どの木の、どの値かを添えると、読む人が確かめられる。
日本の宿に置き換えると
InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)として、朝食を出す宿が、1食あたりの食品ロスを120グラムから10%減らし、108グラムにしたとする。
- 客の少ない月:1日50食×30日×120グラム(改善前)=180キログラム
- 客の多い月:1日110食×30日×108グラム(改善後)=約356キログラム
改善したあとの月のほうが、総量では約2倍になる。総量だけを見ると、「増えた」と読めてしまう。
同じ客の多い月に、改善しないまま120グラムだったら、396キログラムだった。改善の効果は、396−356で約40キログラムだ。1食あたりの数字があってはじめて、この差を取り出せる。
宿で目標を立てるときは、「1食あたり何グラム」と「その月に何食出したか」を、必ず両方記録しておきたい。朝食、夕食、働く人の食事を分けて記録すると、トライブのように、どこで作りすぎているかも見えやすい。
割る数を、先に決める
トライブの事例は、目標を「1食あたり」で立て、毎週の結果を全員で見ることで、短い期間に大きく減らした。食数やCO2や木の本数は、その結果を伝えるための換算だ。自分の宿で始めるときは、まず「何で割るか」を決め、次に「何に換算するか」と、その前提を書き添えたい。
持ち帰れる知識
- 1食あたりで測ると、客の数の増減と、改善の効果を分けられる
- 総量の数字と1食あたりの数字は、別々に記録する
- オービスクの事例では、1食はおよそ0.45キログラムとして換算されている
- 木の本数のたとえは、木の種類と年齢で2倍以上変わる
宿で考えられること
- 食品ロスの目標を「1食あたり何グラム」で立てる
- 毎日、出した食数も記録する
- 朝食、夕食、働く人の食事を分けて測る
- 結果を毎週、チームで共有する
事業・予約への接続
「1食あたりの食品ロスを何%減らした」と示せる宿は、客の数に左右されない改善の成果を説明できる。朝食に力を入れる宿では、作りすぎを減らしながら質を保つ工夫そのものが、案内の材料になる。
Sources / 参考情報
- Orbisk(英文) - 事例:トライブ・ロンドン・カナリー・ワーフが技術で食品ロスを37%減らした方法(2026年1月23日)
裏付け: 以前は勘で管理、上位の仕様のオービ3台、写真と毎日の分析、朝食ビュッフェの作りすぎ・働く人の食堂の食べられない料理・並べすぎ、小さな量をこまめに・研修・食堂の献立の変更・並べる量の削減・先入れ先出しと余った果物や野菜やパンの活用・毎週の結果の共有、目標は1年で1食あたり10%減、9か月で1食あたり平均37%減・11,050食・15,707キログラムのCO2(木700本の1年分)・2万5,047ポンド、次の段階 - TRIBE Hotels(英文) - ロンドン・カナリー・ワーフ(公式サイト)
裏付け: ロンドンのビジネス街カナリー・ワーフ、館内のレストラン - Orbisk(英文) - 事例:ラッフルズ・シンガポールが食品ロスを29%減らした方法
裏付け: 1,097キログラムの食べ物が2,437食にあたる - Orbisk(英文) - 2024年の報告:オービスクは190万キログラムを超える食品ロスを防いだ(2025年1月14日)
裏付け: 190万キログラムを超える食べ物、440万食にあたる - 林野庁 - 森林はどのぐらいの量の二酸化炭素を吸収しているの?
裏付け: 適切に手入れされた36〜40年生のスギ人工林1ヘクタールが1年に約8.8トンのCO2を吸収、1ヘクタールに1,000本と仮定するとスギ1本あたり約8.8キログラム - 消費者庁 - 令和7年度 食品ロスによる経済損失及び温室効果ガス排出量に関する調査業務 調査報告書(PDF)(2025年8月)
裏付け: 国民1人あたりの年84キログラムを吸収するにはスギの木を約10本植える必要がある(スギ1本8.8キログラム、林野庁のページを引用)