GOAL 12 · TARGET 12.3 廃棄物・循環経済 5分 / 2980文字 分母で読む型 #418

「62%」は、何の62%か:UAEのヒルトン13軒の朝食で、4か月の「1万7,000食」と1年の「40万食」を分けて読む

ヒルトンは2023年12月、アラブ首長国連邦(UAE)の13軒のホテルの朝食で、食品ロスを62%減らしたと発表した。調理の段階のロスは76%超、客の食べ残しは55%減った。この62%は、出どころによって「食品ロス全体」とも「食べ残し」とも書かれている。成果の食事の数も、4か月の実績らしい数字と、1年に換算した数字が並ぶ。この記事では、62%の分母と、2つの食事の数を分けて読む。

発表に書かれていること

ヒルトンは2023年12月7日、「グリーン・ブレックファスト」の試行の結果を発表した。UAEの国の食品ロスの取り組み「ネーマ」と、食品ロスを測る機械の会社ウィノーとの共同の試行だ。

期間と方法

  • 2023年8月、参加する13軒に、調理の段階のロスと食べ残しを測る仕組みを入れて始めた
  • 基準となるデータを記録し、11月まで更新した
  • ウィノーが、AIを使った計量の道具を用意し、毎週、厨房のチームに助言の時間を設けた
  • ネーマが考えた「ナッジ」(行動をそっと後押しする工夫)を、食事の場所に置いた

結果

  • 4か月で、調理の段階のロスと食べ残しを合わせて62%減った
  • 調理の段階のロスは76%超、食べ残しは55%減った
  • 1年に換算すると、40万食超を出せる量にあたり、CO2換算で約726トンを避ける
  • 多く捨てられていたのは、パンとペストリー、白い卵、ポリッジ、コンジー(中華がゆ)、サンバル(南インドの汁物)、シャクシュカ、ベイクドビーンズ

参加したのは、ドバイ、アブダビ、ラス・アル・ハイマにある13軒で、ブランドはウォルドーフ・アストリア、コンラッド、ヒルトン、ハンプトン、ダブルツリー、キャノピーなどにわたる。

ウィノーの記事と事例の資料が加えていること

ウィノーは2023年12月9日の記事で、13軒が年に180万食の朝食を出していると書いている。試行がねらった壁として、意識の不足、食べ物を残すことが当たり前になっている空気、ロスを減らしても得をしない仕組みの3つを挙げている。

打った手は、厨房のチームとの定期的な振り返り、日ごとと週ごとのロスの報告、ビュッフェの配置の見直し、皿を小さくすること、伝え方の工夫、従業員の研修だ。食べ残しで最も多かったパンとペストリーは、1個の大きさを小さくし、種類も消費の傾向に合わせて減らした。ほかに、まとめて作らず少しずつ作る、余った料理を回す、ペストリーを持ち帰ってもらう、といった手も挙げている。

ウィノーの事例の資料は、成果を「埋め立てから救った1万7,000食」「CO2で30トン」と書いている。果物は1回分を小さくし、補充の回数を増やした。

62%の中身を、重みで分ける

調理の段階が76%、食べ残しが55%減って、全体が62%減ったとする。基準の期間のロスのうち、調理の段階が占めていた割合をpとすると、次の式が成り立つ(InnBuddyによる計算)。

  • 0.76×p+0.55×(1−p)=0.62
  • p=0.07÷0.21=約3分の1

つまり、基準の期間には、ロスの約3分の1が厨房で、約3分の2が客の皿で生まれていたことになる。調理の段階の「76%超」を76%として計算しているため、目安にとどまる。それでも、ロスの多くは客の皿の上にあり、全体の62%のうち、食べ残しを減らした分が大きな部分を占めることがわかる。

同じ62%が、違う言葉で書かれている

この62%は、出どころによって、指すものの書き方が違う。

| 出どころ | 62%の書き方 |
| --- | --- |
| ヒルトンの発表(2023年12月) | 調理の段階と食べ残しを合わせた食品ロス |
| ウィノーの記事(2023年12月) | 食品ロス全体 |
| 国連環境計画の記事(2026年3月) | 食べ残し(客が手をつけたあとのロス) |

ヒルトンの発表では、食べ残しの削減は55%だ。国連環境計画の記事は、62%を食べ残しの数字として紹介している。引用が重なるうちに、分母が入れ替わったように見える。数字を引くときは、もとの発表まで戻って、どの段階のロスかを確かめたい。

試行の期間にも、書き方の違いがある。2023年9月28日の開始の発表は「3か月」にわたってデータを追うとしていたが、結果の発表は「4か月」としている。

4か月の数字と、1年の数字

食事の数とCO2は、次の2組がある。

| 出どころ | 食事の数 | CO2 | 期間の書き方 |
| --- | --- | --- | --- |
| ウィノーの事例の資料 | 1万7,000食 | 30トン | 書かれていない |
| ヒルトンの発表 | 40万食超 | 約726トン | 1年に換算 |

2つの比は、食事の数で約24倍、CO2で約24倍だ。4か月を1年に延ばすだけなら3倍になるはずで、24倍にはならない。1年の数字は、試行の期間の実績を延ばしたものではなく、別の前提で計算したものとみられるが、どちらの資料も計算の方法を書いていない。

一方で、1食あたりのCO2は、30トン÷1万7,000食で約1.8キログラム、726トン÷40万食でも約1.8キログラムと、ほぼ同じだ(InnBuddyによる計算)。同じ係数を使った2つの数字と読める。

40万食は、13軒が年に出す朝食180万食の約22%にあたる。ただし、ここでの「食」は、捨てずにすんだ食べ物の量を食事の数に置き換えたもので、出した朝食の数とは別の物差しだ。

日本の宿に置き換えると

ロスの3分の2が客の皿で生まれるなら、厨房の工夫だけでは届かない。客の取り方に働きかけるナッジについて、特別区長会調査研究機構の2022年3月の報告書は、次のような例を紹介している。

  • デンマークのナッジの団体が2013年に紹介した実験。コペンハーゲンの経営者の会議のビュッフェで、通常の27センチの皿と、24センチの小さい皿を別々のテーブルに置いた。3センチ小さい皿で、食品廃棄物が26%減った(報告書による紹介の孫引き)
  • ビュッフェで客が大皿から取るときに「何度でも取りに来てOK」と伝えると、取り過ぎを避けられる(民間の研究機関の2018年のコラムの紹介)

皿の直径が27センチから24センチになると、面積は(24÷27)の2乗で約79%になり、約2割小さくなる(InnBuddyによる計算)。ヒルトンの試行も、皿を小さくすることと、パンやペストリーを小さくすることを組み合わせていた。

InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)

朝食ビュッフェで、1日に12キログラムの食品ロスが出る宿を考える。ヒルトンの基準の期間と同じく、厨房が4キログラム、客の食べ残しが8キログラムとする。

  • 厨房のロスを50%減らすと、2キログラム減る
  • 食べ残しを25%減らすと、2キログラム減る
  • 合わせて4キログラム減り、全体では約33%の削減になる

同じ2キログラムでも、厨房では半分を減らす必要があり、食べ残しでは4分の1で済む。どこのロスが多いかを先に測っておくと、どちらに手間をかけるかを決めやすい。

割合を引くときは、分母も一緒に

ヒルトンの62%は、厨房と客の皿の両方を合わせた数字で、そのうち客の皿の食べ残しは55%減った。宿で成果を伝えるときも、どの段階のロスの、どの期間の数字かを、割合と一緒に書いておきたい。

持ち帰れる知識

  • 全体の削減率は、段階ごとの削減率を、ロスの重みで平均したものになる
  • 同じ62%でも、引用が重なると、指す段階が入れ替わることがある
  • 1年に換算した数字と、試行の期間の実績は、分けて読む
  • 皿の直径を少し小さくするだけで、面積は大きく変わる

宿で考えられること

  • 朝食のロスを、厨房と食べ残しに分けて測る
  • パンやペストリーの大きさと種類を見直す
  • 「何度でも取りに来てください」と、取る場所で伝える
  • 成果を伝えるときは、段階と期間を割合に添える

事業・予約への接続

朝食の工夫は、客が毎日目にする取り組みで、宿の姿勢を伝えやすい。小さい皿やおかわりの案内は、食べたい量を選べる配慮として、案内の文に書ける。

Sources / 参考情報

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