29%、33.34%、平均31.2%:英国の「バーナム・ビーチズ・ホテル」の省エネを、何年目の、何と比べた数字かで読む
英国バッキンガムシャーの「バーナム・ビーチズ・ホテル」は、省エネの会社スマーテック・エナジーと10年の契約を結び、初期の投資なしで設備を入れ替えた。会社の事例紹介によると、ガスと電気を合わせた削減は、1年目が29%、2年目が33.34%で、2年の平均は31.2%だった。省エネの数字は、何と比べたかで意味が変わる。この記事では、3つの数字がそれぞれ何を指すのか、そして「何もしなかった場合」とどう比べているのかを読む。
事例紹介に書かれていること
スマーテック・エナジーの事例紹介(2023年10月6日付)には、次のように書かれている。
契約の形
- ホテルは、コーラス・ホテルズ・グループの一員
- 10年の「エネルギー効率化サービス」の2年目にある
- 3つの契約の選択肢のうち、ホテルは「設備投資ゼロ、削減分を分け合う」方式を選んだ。客の投資は要らず、客はふつう削減分の30%を受け取る
- 10年の間、設備の保守と保証、毎年の削減の証明は、スマーテック・エナジーが担う
入れた設備と進め方
- 最初に現地を調べ、エネルギーの計測の仕組みを入れて、設備ごとの使い方を1分ごとのデータで把握した
- データをもとに、設定、設定温度、運転の時間、制御の見直しを報告書にまとめた
- LED照明、モーターの最適化、スマート冷蔵の装置、効率の高いボイラー(効率97%の機種)、断熱ジャケット、ガスの節約装置などを入れた
- 画面で使用量を見て、異常を知らせる仕組みで管理を続ける
結果
- 1年目:ガスと電気を合わせて29%の削減
- 2年目:同じく33.34%の削減
- 2年の平均:31.2%
- 契約の期間全体で、1,560トンの二酸化炭素の削減を見込む
3つの数字は、それぞれ別のものを指す
29%と33.34%は、それぞれ1年分の実績だ。31.2%は、その2つの平均で、2つの値を足して2で割ると31.17%になる(InnBuddyによる計算)。1,560トンは、10年の契約の期間全体についての見込みで、すでに減った量ではない。10年で割ると、1年あたり平均156トンの見込みになる(同)。
同じ会社のウェブサイトには、別の数字もある。顧客の事例の一覧では、このホテルについて「エネルギーの削減30%、二酸化炭素の削減428トン、初期費用0ポンド」と表示している。この30%と428トンが、どの期間の数字なのかは、一覧には書かれていない。事例紹介の数字と並べて読むときは、期間と、実績か見込みかを確かめておきたい。
「何もしなかった場合」と比べる
事例紹介によると、削減の量は、国際的な計測・検証の手順「IPMVP」に沿って計測し、検証している。1年目の計測の期間は、2021年6月1日から2022年5月31日までで、ガスと電気の両方が対象だ。
この手順では、使った量をそのまま前の年と比べるのではない。事例紹介は、補正に使った2つの要素を挙げている。
- 気温:15.5℃を基準にした暖房の度日(その月の寒さを数字にしたもの)
- 宿泊者の数:その月に泊まった人の数
寒い年や、泊まる人が多い年は、何もしなくてもエネルギーを多く使う。そこで、設備を替えなかった場合に使ったはずの量を、気温と宿泊者の数で補正して「調整した基準」とし、実際に請求書に出た量と比べる。事例紹介のグラフも、上の線が「低炭素の設備に替えなかった場合」の調整した基準、下の線が請求書の実際の使用量として描かれている。
投資ゼロの裏側
設備投資ゼロの方式では、ホテルは設備の代金を最初に払わない。その代わりに、減った光熱費を会社と分け合う。事例紹介は、この方式では客がふつう削減分の30%を受け取ると書いている。会社の別のページは、この仕組みを、15%から33%の削減を契約で保証し、IPMVPに沿って検証し、入れた設備に10年の保証をつけるものと説明している。
削減分を分け合う以上、「どれだけ減ったか」の数字は、そのままお金の分け方になる。補正の方法を前もって決め、毎年同じ方法で計測する理由がここにある。
日本の宿に置き換えると
日本では、同じような仕組みを「ESCO(エスコ)事業」と呼ぶ。省エネルギーセンターの用語集は、ESCOの契約に2つの形があると説明している。
- ギャランティード・セイビング:改修の資金を客が用意し、設備は客のものになる
- シェアード・セイビング:改修の資金をESCOの事業者が用意し、設備は事業者のものになる。用語集は、ESCOの契約のほとんどがこの形だとしている
どちらの形でも、決めた利益が出なければ、事業者がその額を保証する。契約の期間が終わった後の利益は、すべて客のものになる。シェアード・セイビングについて、用語集は、期間が終わった後に設備を誰のものにするか、契約のときにはっきり決めておくほうがよいとしている。
ESCO・エネルギーマネジメント推進協議会は、運転が始まると、事業者が計測と検証を行って省エネの効果を客に報告し、客は保証された効果と報告された効果を比べてから、サービスの料金を確定すると説明している。バーナム・ビーチズ・ホテルの契約と同じく、計測と検証が、契約の中心にある。
InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)
ある宿の基準の年に、電気とガスを合わせて40万キロワット時分のエネルギーを使ったとする。今年は、宿泊者が増え、冬も寒かったため、補正すると「何もしなかった場合」は44万キロワット時分になる。実際の使用量は31万キロワット時分だった。
- 補正なしで前の年と比べると、削減は22.5%
- 補正した基準と比べると、削減は約29.5%
- 削減した13万キロワット時分を、1キロワット時分あたり25円とすると、325万円
- 宿が削減分の30%を受け取る契約なら、宿の取り分は年に97万5,000円
同じ使用量でも、比べる相手によって、削減の割合は7ポイントずれる。削減分を分け合う契約では、このずれが、そのまま支払いの差になる。契約の前に、補正に使う要素と計測の方法を決めておくことが大切だ。
数字を読むときの3つの問い
バーナム・ビーチズ・ホテルの数字は、何年目のものか、実績か見込みか、何と比べたかで、意味が変わる。29%と33.34%は1年ずつの実績、31.2%はその平均、1,560トンは10年の見込みだ。省エネの提案を受けるときも、この3つを確かめると、数字を正しく比べられる。
持ち帰れる知識
- 1年分の実績、平均、契約の期間全体の見込みは、別々の数字として読む
- 省エネの削減は、気温や宿泊者の数で補正した「何もしなかった場合」と比べる
- 削減分を分け合う契約では、削減の数字がそのままお金の分け方になる
- 日本のESCO事業にも、資金を誰が出すかで2つの契約の形がある
宿で考えられること
- 省エネの提案を受けたら、比べる相手(基準)と補正の方法を確かめる
- 月ごとの使用量と宿泊者の数を、並べて記録しておく
- 契約が終わった後に、設備が誰のものになるかを確かめる
- 見込みの数字と、実績の数字を分けて伝える
事業・予約への接続
省エネの成果を紹介するとき、何年目の実績か、何と比べたかを添えると、数字が信頼されやすい。投資なしで設備を替えた経緯は、取引先や地域への説明にも使える。
Sources / 参考情報
- SMARTech energy(英文) - バーナム・ビーチズ・ホテルで33.34%の省エネ(2023年10月6日)
裏付け: バッキンガムシャー、コーラス・ホテルズ・グループの一員、10年のEEaaSの2年目、3つの選択肢のうち設備投資ゼロ・削減分を分け合う方式、客はふつう削減分の30%、保守と保証と毎年の証明、1分ごとのデータ、設定・設定温度・運転時間・制御、LED・モーター・スマート冷蔵・効率97%のボイラー・断熱ジャケット・ガスの節約装置、IPMVP、1年目29%(2021年6月1日〜2022年5月31日)、HDD15.5と宿泊者の数、degreedays.net、2年目33.34%、調整した基準と請求書の実際の使用量のグラフ、2年の平均31.2%、契約期間で1,560トンの見込み - SMARTech energy(英文) - 顧客の事例
裏付け: バーナム・ビーチズ・ホテル エネルギーの削減30%・二酸化炭素の削減428トン・初期費用0ポンド(期間の記載なし) - SMARTech energy(英文) - 2026年の削減保証の募集
裏付け: 15%から33%の削減を保証、初期投資ゼロ、IPMVPに沿った検証、入れた設備に10年の保証 - 省エネルギーセンター - 用語集「し」:シェアード・セイビング
裏付け: 資金を事業者が用意し設備は事業者の所有、所定の利潤が得られなければ事業者が保証、契約期間後の利潤はすべて客、期間後の設備の所有を契約時に決めておくほうがよい、ESCOの契約のほとんどがこの形 - 省エネルギーセンター - 用語集「き」:ギャランティード・セイビング
裏付け: 資金を客が用意し設備は客の所有、所定の利潤が得られなければ事業者が保証、契約期間後の利潤はすべて客 - ESCO・エネルギーマネジメント推進協議会 - ESCO事業のススメ
裏付け: パフォーマンス契約、運転・管理の段階で事業者が計測・検証し効果を報告、客は保証された効果と報告された効果を比べてサービス料を確定