GOAL 7 · TARGET 7.3 エネルギー・脱炭素 4分 / 2531文字 空室を温めない型 #434

空いている部屋を温め続けない:フランスの「ブリット・ホテル・モルレー」が、工事なし・2日の設置で暖房の電気を30%減らした

フランスのブルターニュ地方にある「ブリット・ホテル・モルレー」は、客室の暖房を電気でまかなうホテルだ。エネルギー会社ヴォルタリス社の2026年2月17日の記事によると、ホテルは全49室にネットにつながるサーモスタットを入れ、暖房を1か所でまとめて調整できるようにした。2025年4月から2026年1月までに、暖房に使う電気は30%減り、冬の期間に12メガワット時の電気を節約した。設置は2日で終わり、工事はなく、費用はヴォルタリス社が全額を負担したという。

どんなホテルか

記事によると、ホテルには、仕事の客と観光の客が1年を通して泊まり、季節によって客が大きく増える時期がある。同じ規模の多くのホテルと同じように、客室の暖房は電気に頼っている。

客室の数は、資料によって少し違う。ヴォルタリス社の記事とブルターニュ地方の観光案内は49室、ホテルの公式サイトは48室と書いている。観光案内によると、ホテルの所在地はモルレーの近くのサン=マルタン=デ=シャンだ。

何が問題だったか

記事によると、電気の値段が上がると、暖房の費用も上がった。冬には、1か月の電気代が2,500ユーロに達することもあった。記事は、その原因として次の4つを挙げている。

  • 空いている客室でも、暖房がつきっぱなしだった
  • 古い、1台ずつ独立した暖房機器だった
  • 使い方がよく見えず、1か所で調整する仕組みがなかった
  • 離れた場所から温度を変えられなかった

ホテルには、はっきりした優先順位があった。客の快適さを保つこと、現場のスタッフが扱いやすいことだ。費用のかかる改修や、営業を止める工事は選べなかった。

何をしたか

記事によると、ヴォルタリス社は次のことをした。

  • 全49室に、ネットにつながるサーモスタットを取り付けた
  • 暖房機(ラジエーター)を、1か所でまとめて賢く調整できるようにした
  • 設置は2日で終わり、工事はなかった
  • ホテルの営業にも、客にも、支障は出なかった

ホテルの設備投資はなく、費用はヴォルタリス社が全額を負担した。

スタッフの使い方

記事によると、スタッフは、分かりやすい画面で暖房を管理できるようになった。できるようになったことは次のとおりだ。

  • 離れた場所から温度を調整する
  • 客の到着と出発に合わせて、先回りして温度を変える
  • 部屋ごとに暖房を調整する
  • 空いている場所を、むだに温めない

記事は、スタッフの手間を増やさずに効率が上がり、客の快適さは変わらなかった、と書いている。

結果

記事によると、2025年4月から2026年1月までの結果は次のとおりだ。

  • 暖房に使う電気を30%削減
  • 冬の期間に12メガワット時の電気を節約
  • 快適さを保ちながら、エネルギーの費用を下げた
  • 電気の使用にともなうCO2の排出を減らした

支配人のフロリアン・ペルソン氏は「ヴォルタリスを強く勧めます。設置は無料で、使い方は簡単で、結果は目に見えます。データを時間をかけて分析すれば、エネルギーの節約は否定できません」と述べている。

なお、2,500ユーロは、取り組みの前に冬の1か月の電気代が達することもあった金額で、節約した金額ではない。記事は、節約した金額そのものは書いていない。

なぜ無料なのか

ヴォルタリス社のウェブサイトによると、同社は建物を自社の「デマンドレスポンス(需要応答)」の仕組みにつなぎ、暖房や冷房の電気の使い方を自動で最適にする。参加は、設置から運用、保守まですべて無料で、その理由について同社は、電気の送配電を担う事業者が、電気の網を安定させることへの対価を同社に払うからだと説明している。

記事の題も、この仕組みを「スマートなデマンドレスポンス」と呼んでいる。宿にとっては暖房の節約だが、電気の網にとっては、使う量を調整できる力になっている。

日本の宿に置き換えると

日本でも、電気の使い方を、電気の需給に合わせて調整する考え方が法律に入った。資源エネルギー庁の2023年12月19日の記事によると、省エネ法が改正され、2023年4月から施行されている。法律の名前も「エネルギーの使用の合理化及び非化石エネルギーへの転換等に関する法律」に変わった。

記事によると、改正のポイントの1つが「電気の需要の最適化」だ。電気の供給量に応じて、使う側が使う量をコントロールし、需給のバランスを整える取り組みを「ディマンド・リスポンス(DR)」と呼ぶ。再生可能エネルギーが余るときなどに使う量を増やすのが「上げDR」、需給がひっ迫したときに使う量を抑えるのが「下げDR」だ。産業部門などの大規模な需要者は、DRの実績を報告する。

記事は、今後、家庭や中小企業も含めてどのような取り組みが必要かを議論していく、とも書いている。小さな宿にとって、DRの報告はまだ身近ではないかもしれない。それでも、空室の暖房を止めることは、DRと同じ「使う量を時間と場所で調整する」考え方の第一歩になる。

InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)

20室の宿で、冬の客室の電気暖房に1か月6,000キロワット時を使っているとする。稼働率は70%で、空室は30%だ。空室も客室と同じように温め続けていて、暖房の電気の30%が空室に使われていると考える。

空室の暖房を、凍結や結露を防ぐ程度の低い温度に下げ、空室で使う電気を3分の1にできたとする。

  • 空室に使っていた電気:6,000キロワット時×30%=1,800キロワット時
  • 減る電気:1,800キロワット時×3分の2=1,200キロワット時
  • 電気代を1キロワット時30円とすると:1,200×30円=3万6,000円

1か月に1,200キロワット時、3万6,000円の節約になる計算だ。冬が4か月なら、4,800キロワット時、14万4,000円になる。客の到着の前に温め始める時間を決めておけば、快適さを保ちやすい。

空室から始める

ブリット・ホテル・モルレーは、空いている客室を温め続けるという見えにくいむだを、サーモスタットと1か所での管理で減らした。日本の宿でも、空室の暖房の設定と、到着前に温め始める時間を決めるところから始められる。

持ち帰れる知識

  • 空いている客室の暖房は、見えにくいむだになりやすい
  • 1か所で部屋ごとに調整できると、到着の前だけ温められる
  • デマンドレスポンスは、電気の需給に合わせて使う量を調整する仕組み
  • 日本の改正省エネ法には、「電気の需要の最適化」が加わった

宿で考えられること

  • 空室の暖房の設定温度を決める
  • 客の到着の何時間前に温め始めるかを決める
  • 客室の暖房をまとめて管理できる機器を調べる
  • 電力会社のDRの取り組みや節電の仕組みを調べる

事業・予約への接続

到着の時間に合わせて部屋を温めておくことは、客の快適さと節約を両立させる。チェックインの時間を事前に聞くことが、暖房の準備にもつながる。

Sources / 参考情報

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